建設業法で規定された工事業29種に「設備工事」や「内装仕上工事」があります。 「設備工事」や「内装仕上工事」は建設業の一部ですが、工事過程の中で重要な役割を果たしています。 つまり建設業の中で非常に需要のある業務なので将来性も十分あります。
設備工事業と内装工事業は全く異なる業界ですが、本記事では、合わせて業界の概要や問題点、M&A動向などを解説します。
設備工事・内装工事の業界とは
建設業全体は大きな問題点を抱えています。 それが職人不足や過重労働問題です。 いくら建設業が社会的需要のある業界であっても、生産性向上や賃金上昇につながる施策を打たなければ、業界が抱える課題は解決せず人手不足も解消しないでしょう。
設備工事・内装工事業界も後継者難から事業承継問題を抱えており、後継者が見つからなければ廃業のリスクがあります。 そしてその問題を解決する方策のひとつがM&Aです。
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業界定義
設備工事業とは、住宅や店舗、ビル・マンション等の建築物で利用される各種設備を導入するための工事全般をいいます。 主に建物の電気やガス、通信や防災といった設備を作る仕事です。 代表的な設備工事には、電気工事、管工事、電気通信工事、機械器具設置工事等あります。 設備工事は建築部門の中でも生活する上で必要な設備全般に関わる工事ですが、全てを一事業者が行うのではなく、各々の分野の専門職が独立して行うのが一般的です。
内装仕上工事業とは、木材、石膏ボード、壁紙、床材、タイル、ふすま、畳などの各種材料を使って建物の内装仕上げを行う工事全般をいいます。 個人住宅から商業用店舗、ビル・マンション等の建物の内装関係は全てカバーしている工事種類です。 建設工事の中では最も一般的な工事種類であり、建物の新築、改築、修繕、リフォームまで全てに関わっています。 特にリフォームなどは内装仕上工事そのものといってもよい工事です。
業界特性
建築物を完成させる過程で関係する工事が設備工事や内装仕上工事ですが、工事は民間工事と公共工事がその収益基盤になっています。 また設備工事業者や内装仕上工事業者に関しては、様々なパターンで仕事を受注しています。
ひとつは一括請負という方式で、大手業者が工事一式を受注して、その一部を下請けとして設備工事業者や内装仕上工事業者に再発注するパターンです。あるいは別途工事として、建設業者と別に、設備工事業者や内装仕上工事業者が独立してその工事だけを発注者から請け負うパターンがあります。
建設業界の課題
設備工事・内装工事業界を含む建設業界が抱えている課題は多いです。 大雑把に課題を取り上げても以下のような項目があります。
- 労働時間が長い割に適切な賃金水準が確保できていない
- 仕事量に安定感なく過不足が激しい
- 3K(きつい、汚い、危険)の代表職種として見なされてる
- 若年労働者の流入が少なく女性の活躍する場も少ない
- 大手業者除き週休2日制の確保が困難
- 中小建設業中心に社会保険への加入も遅れている
過酷な労働環境や賃金水準の低さが、まさに中小企業中心に建設業界が抱える課題といっても過言ではないでしょう。 これがまた業界を通じて若年就業者数の流入を妨げている要因ともいえます。
建設業界の現状はまさに人手不足の状態にあります。 以下の図はその人手不足の状況を示したものです。 図では、建設業就業者の総数が年々減っている中、並行的に建設工事で重要な役割を果たしている技術者や技能者の数も減り続けているのが分かります。
また別の図では業界内部で就業者の高齢化が一段と進行する一方、若年就業者が業界になかなか入ってこない実態が見て取れます。(図1参照)
これらの事態がこのまま進むとどうなるか、将来は明らかです。
建設業界の担い手が少なくなっていけば、高齢の技術者や技能者が身につけている貴重な技術、技能が若手就業者に伝わらず、やがて業界全体が大きな業績不振に見舞われてしまうことになるでしょう。 それはひいては老朽化した建物や社会インフラの整備もできなくなり、大きな事故につながる恐れさえあります。
ただ国も黙ってこの事態を放置しているわけではありません。 これらの課題を受けて、国では働き方改革の推進、工事の適正化、現場の処遇改善、建設現場の生産性向上などに対策を講じて、具体的に建設業界の課題解決に取り組んでいます。
具体的な対策に関しては、以下の国土交通省のサイトが参考になります。(図2参照)
参照:国土交通省/働き方改革の推進/生産性の向上への取組み等
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設備工事・内装工事会社の外部環境
外部環境を概観します。
市場規模
次に設備工事・内装工事業の市場規模に大きく影響する「新設住宅着工戸数」や「住宅リフォーム市場の動向」、「建設投資額の推移」などを参照図から見ていきましょう。
下記の2つの図から分かることは以下の通りです。
- 新設住宅着工戸数については、2006年に総戸数で130万戸弱のピークを付けたのち下がり続け、2021年現在ではおよそ90万戸前後で推移しています。
- 新設住宅市場が下がり続ける中でも住宅リフォーム市場は堅調に推移、市場規模としては約6.2兆円を底に2023年度も約6.5兆円を確保の見込みです(図3及び4参照)
出典:国土交通省/住宅着工統計
次に建設業界の市場規模及び推移について、以下の図をもとに解説します。
国土交通省発表の建設業界の市場規模を測る建設投資額を見ると、ピーク時の1992年度には約84兆円でしたが2011年度には約42兆円まで落ち込んでいます。 しかしその後は増加に転じて、2021年度には約58.4兆円(公共部門 22.8兆円/民間部門35.6兆円)となる見通しです。(2021年11月調べ)
また建設投資の中身は、約4割が政府建設投資と公共工事で残りの6割が民間建設投資です。 さらに公共工事は土木部門が大半を占め民間工事は建築部門が多くを占めています。(図5参照)
競合業態
上記の図で見て頂いたように、建設投資額は2012年度辺りから再び右肩上がりの状況で、近年では特に民間建設投資部門が堅調に増加基調です。
また新設住宅着工戸数については出生数の低下もあり将来的な増加は期待薄ですが、それを下支える形で住宅リフォーム市場は堅調なので、当面設備・内装工事への需要は多いでしょう。 しかし設備・内装工事業含む建設業界の競合状態は依然として厳しいままです。
物価面においては、日本全体の物価だけでなく建築業界でも建設資材は高騰しており、加えて受注競争も激化していることから、建設コストは大幅上昇して利益を圧迫しています。 さらに建設業界には様々なタイプの工事業者が約47万先(2022年度末)あり、都市部や地方に関係なく、その多くが売上高で数千万円から数十億円までの中堅・中小建築業者です。
株式市場に上場しているような大規模建設事業者はごく一部に過ぎません。 限られたパイ(利益)をめぐって中小業者間で日々過当な競争が繰り広げられているのが実態です。
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設備工事・内装工事業界のM&A動向
厳しい競合状態にある建設業界ですが、本章では業界の特性にも触れつつ、中小企業M&A動向について解説します。
建築業界の固有の事情として、経営者がM&Aに関心を持つ背景に業界全体の高齢化があります。 これについては他の業界でも同様な傾向は見られますが、建設業界においては特にその傾向が顕著です。 またこれは建設業界で働く労働者だけの問題だけでなく、経営者層でも同様に高齢化が進んでいます。
一方会社の後継者問題に関して述べると、帝国データバンクが2022年に実施した後継者不在率調査で、不在率が全国・全業種では平均57.2%、これを建設業界に絞ると63.4%(職別工事業で67.1%、設備工事業で63.7%)という高さです。
参照:帝国データバンク/全国企業後継者不在率動向調査(2022)
これはまさに建設業界において、後継者不在を理由に会社を売却したいと考えている経営者が多くいることとつながっており、M&Aをその解決策のひとつとして考えている背景でもあります。
M&Aのメリット
では建設業界でM&Aが成立したら売り手買い手にどのようなメリットがあるでしょうか。 以下簡単にご紹介します。
売り手のメリット
- 後継者問題が解決し事業承継が行えるようになる
- 従業員の雇用が守られ取引先との関係も継続できる
- 保有株式の譲渡により、創業者利潤を確保できる
- 買い手の経営資源を利用することで運営コストも下げることができる
- 経営をより安定させることができる
- 不採算部門の譲渡を行うことで、自社の経営資源を採算部門に集中することができ、安定した経営ができる(※)
(※)M&Aで事業譲渡の手法を使うと、売り手の持つ建設業許可を引き継げないケースがあるので注意が必要です。専門家にご相談ください。
買い手のメリット
- 技術や資格を持った人材を一挙に確保できるため、人材不足の解消につながるとともに成長のスピードアップが図れる
- 設備工事や内装仕上工事等、建築業では関連した隣接業種が豊富なため、M&Aでシナジーが生まれやすい
- 事業で使う資材や機材の共同利用でスケールメリットが得られコストの低減につながる
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中小企業のM&A 事例
設備工事業界、内装工事会社それぞれの中小企業M&A事例を紹介します。
設備工事会社の譲渡事例
最初に空調設備工事会社を売却した事例です。
ユアテックと空調企業のM&A
買い手の(株)ユアテックは宮城県仙台市に本社を置く東北電力グループの総合設備会社です。売り手の空調企業(株)は宮城県仙台市に本社を置き、東北全域・東京エリアで空調・給排水設備の総合サービスを提供している設備工事業者です。
2020年7月、ユアテックは株式譲渡により空調企業の全株式を取得して買収しました。 M&Aの目的は、主に施工体制の強化・営業面での相乗効果を狙ったものです。
四電工と有元温調のM&A
買い手の(株)四電工は本社を香川県高松市に置き、建築設備工事、電力供給設備工事、等の各種設備工事を行う建設業者です。 売り手の有元温調(株)は兵庫県神戸市に本社を置き、関西圏を中心に空調・菅工事事業を展開している空調設備工事業者です。
2018年2月、四電工は株式譲渡により有元温調の株式を100%取得して子会社化しました。 M&Aの目的は、関西圏での空調・菅工事事業の強化やシナジーの獲得を狙ったものです。
内装工事会社の譲渡事例
次に内装工事会社を売却した事例です。
エー・ディー・デザインビルドと澄川工務店のM&A
買い手の(株)エー・ディー・デザインビルドは東京都千代田区にある建築工事業を手がける(株)エー・ディー・ワークスの子会社で建設工事を営んでいます。 売り手の(株)澄川工務店は東京都稲城市で内装工事を手がける建設業者です。
2019年6月、エー・ディー・デザインビルドは株式譲渡で澄川工務店の全株式を取得してM&Aを成立させ後に吸収合併しました。 M&A実施の目的は、エー・ディー・デザインビルドの手がける建設部門の事業規模をさらに拡大させることです。
東宝ファシリティーズとシコーのM&A
買い手の東宝ファシリティーズ(株)は東京都千代田区に本社を置き、総合マネジメント事業、賃貸物件管理代行・施設運営代行事業を手掛けるビル管理業者です。 売り手の(株)シコーは東京度世田谷区で商業施設の内装工事監理業務を強みとする内装工事業者です。
2021年11月、東宝ファシリティーズは株式譲渡によりM&Aを実施してシコーの全株式を取得しました。 M&Aの目的は東宝グループの建設関連事業の業容拡大を図るためです。
設備工事・内装工事業界のM&Aのまとめ
設備工事・内装工事業界のM&Aと事例について、建設業全般の動向も絡め詳しく解説しました。
建設業は社会に不可欠な業界にもかかわらず、生産性の向上があまり進んでいません。 加えて職人不足や経営者の高齢化も大きな問題です。
そのため、建設業の諸課題を解決する施策のひとつとしてM&Aは今後も増加が見込まれます。
著者
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宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。
監修:みつき税理士法人
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