カーブアウトとは、特定の事業部門や子会社を切り出して独立・売却する手法です。会社まるごとの譲渡には踏み切れないが、一部だけ手放して本業に集中したい。そんなオーナー経営者の選択肢として使えます。スピンオフとの違い、会社分割と事業譲渡の選び方、価格や税務の勘所、失敗しやすい落とし穴まで、中小企業の支援現場の視点で整理しました。
カーブアウトとは何か
「会社ごと譲るつもりはない。でも、この部門だけは誰かに任せたい」。そう考えるオーナーは想像以上に多いものです。その選択肢がカーブアウトになります。
特定の事業だけを切り出して独立させる手法
カーブアウトとは、企業が自社の特定の事業部門や子会社を切り出し、別会社として独立させたり、外部へ譲渡したりすることを指します。英語の「carve out(削り出す)」が語源。
会社全体を対象とする通常のM&Aの基本的な仕組みとは異なり、譲渡する範囲を自分で設計できる点が最大の特徴といえます。残す事業と手放す事業を線引きする作業そのものが、この手法の核心。
不採算部門の整理という古いイメージ
かつては赤字部門の切り離し、いわゆるリストラ手段という印象が強い言葉でした。今も「うちの事業が売れるはずがない」と思い込んでいる経営者にお会いします。
ただ実態は変わりました。本業と相乗効果の薄い事業を、その事業を伸ばせる相手に託す。前向きな再配置として使われる場面が増えています。M&Aスキームの全体像の中でも、応用的な位置づけになります。
国も後押しする事業の切り出し
政策面での整備も進んでいます。経済産業省は事業会社からの新事業創出を促す観点で、カーブアウトの実践方法をまとめたガイダンスを公表しました。
制度面では、スピンオフに関する税制や会社法上の手続負担軽減も整理されています。詳細は経済産業省「スピンオフ」の活用に向けた取組について、および同省のカーブアウト研究会の公表資料をご確認ください。
中小企業のオーナーにとっての意味
大企業の話に聞こえるかもしれません。実際には、年商5億円から50億円規模の会社でこそ効く場面があります。
創業事業と新規事業を両方抱えたまま高齢化が進み、どちらも中途半端になっている。片方を切り出して外部の資本と経営力を入れ、残る本業に自分の時間を戻す。選択と集中という判断を、実行レベルに落とす手段になります。
スピンオフ・スピンアウトとの違い
言葉が似ているため、面談の場で認識がずれることがよくあります。区別の軸は一つ。元の会社との資本関係がどうなるかです。
スピンオフは資本関係を維持する
スピンオフは、親会社が新会社の株式を持ったまま独立させる方法です。株主に新会社株を分配する形も含まれます。
資本のつながりが残るため、新会社は親会社の信用力や取引網を使い続けられます。グループ内での位置づけを明確にしつつ、独立採算を徹底したい場合に向く形態。
スピンアウトは資本関係を断つ
スピンアウトは、資本関係を完全に切り離して独立させる方法を指します。経営陣や従業員が会社を離れて創業するケースも、この類型で語られることが多いです。
自由度は最も高い一方、後ろ盾がなくなります。資金調達も信用構築も自力。独立させた側の責任は、そこで一度切れます。
カーブアウトは両方を含む上位概念
カーブアウトは「切り出す」という行為そのものを指す総称です。切り出した後に資本を残すか手放すかは、案件ごとに設計します。
下表に、3つの用語の関係を整理しました。面談前にここだけ押さえておけば、専門家との会話が噛み合いやすくなります。
| 比較項目 | カーブアウト | スピンオフ | スピンアウト |
|---|---|---|---|
| 親会社との資本関係 | 維持する場合と解消する場合の両方がある | 維持する | 解消する |
| 位置づけ | 事業を切り出す手法の総称 | カーブアウトの一形態 | カーブアウトの一形態 |
| 外部資本の受入 | 受け入れる前提の設計が多い | 案件による | 独立後に自力で調達 |
| 中小企業での典型例 | 子会社や一部門を第三者へ譲渡 | 持株会社化に伴う分社 | 役員が事業を買い取って独立 |
カーブアウトを実行する2つの手法
法的な器としては、会社分割と事業譲渡のどちらかを使うのが一般的です。選択を誤ると、許認可の空白や従業員の同意取得で足元をすくわれます。
会社分割は権利義務を包括的に移す
会社分割は、対象事業に関する権利義務をまとめて新会社や譲受企業へ移す方法です。契約や雇用が原則そのまま移るため、手続の見通しが立てやすい。
手続がまとまりやすい理由
取引先が多い、従業員数が多い。そうした事業では、契約を一本ずつ巻き直す負担が現実的でなくなります。会社分割の手続と税制適格要件を押さえたうえで設計すれば、包括承継の利点が効いてきます。
新設分割と吸収分割、さらに分社型と分割型の使い分けによって、対価の受け取り主体が会社になるか株主になるかが変わります。手取りに直結する論点。
見落としやすい落とし穴
包括承継である以上、把握していなかった債務まで移る可能性があります。未払残業代、係争中の案件、保証債務。切り出す前に自社で棚卸ししておくべきものです。
会計処理も独特で、分割による事業売却の仕訳は通常の株式譲渡と考え方が異なります。顧問税理士と早い段階ですり合わせておくと安全です。
事業譲渡は必要な資産だけを選んで移す
事業譲渡は、資産・負債・契約を一つずつ指定して移す方法です。譲受企業から見ると簿外債務を遮断しやすく、好まれる傾向があります。
選べることの価値
不動産だけ会社に残す、特定の取引先契約は移さない。そうした細かい設計ができます。事業譲渡の会社法上の手続を確認しながら、譲渡対象を確定させていきます。
手続負担は重くなる
従業員は一人ずつ同意を得て転籍させる必要があります。転籍時の退職金や給与の扱いを先に整理しておかないと、説明の場で答えに詰まります。
許認可も原則として取り直しです。建設業や運送業のように業法の壁がある事業では、許認可の承継可否を最初に確認してください。ここを後回しにした案件は、決まって終盤で揉めます。
どちらを選ぶかの判断軸
正解は一つではありません。ただ、判断の入口はほぼ共通しています。下表の観点で仕分けると、候補が絞れます。
| 判断の観点 | 会社分割が向く場合 | 事業譲渡が向く場合 |
|---|---|---|
| 従業員の人数 | 多い(個別同意が現実的でない) | 少ない(一人ずつ説明できる) |
| 取引先契約の数 | 多い、または名義変更が困難 | 限定的で巻き直しが可能 |
| 簿外リスクの有無 | 把握済みで整理できている | 不透明な部分が残る |
| 許認可 | 包括承継が認められる業種 | 新規取得の見通しが立つ |
| 対価の受取先 | 株主個人に渡す設計も可能 | 原則として会社が受け取る |
両者の違いをより広く比較したい場合は、事業譲渡と会社分割の税務比較もあわせてご覧ください。
譲渡オーナーから見たカーブアウトのメリット
切り出す側にとって何が得られるのか。会社全体を譲る場合と比べると、得られるものの性質が違います。
残る本業に経営資源を戻せる
人と金と、何より社長の時間。多角化した会社ほど、この3つが薄く広がっています。
一部門を手放すと、そこに割いていた管理コストと精神的な負荷が消えます。「決算書がすっきりして、銀行との会話が変わった」という声を伺うことがあります。
譲渡対価を次の一手に使える
会社に入った対価は、借入返済、設備投資、あるいは本業の人材採用に回せます。譲渡代金の会社内での処理を先に設計しておくと、資金の使い道が明確になります。
ただし対価は法人に入るのが原則。オーナー個人の手元に移すには別の設計が要ります。ここは事業譲渡にかかる税金の論点と直結する部分です。
切り出した事業が伸びる余地
親会社の予算枠と稟議に縛られていた事業が、独立して意思決定を取り戻す。人材の待遇を事業特性に合わせて設計し直せる点も大きい。
譲受企業の販路に乗ることで、単独では届かなかった顧客層に届くケースもあります。シナジーの見積もり方が、価格交渉の材料にもなります。
現場で見る「隠れた事業価値」の顕在化
支援現場でよく目にするのが、これです。全社の売上に埋もれていた事業を単独の損益に切り出すと、利益率が本業を上回っていた。そんな例は珍しくありません。
数字が独立して初めて、譲受企業側もその事業を評価できます。カーブアウトは、磨けば光る部門を市場の目に晒す作業でもあります。価格を押し上げる事業特性が何かを、切り出しの過程で自社が把握できる点も副次的な収穫です。
カーブアウトのデメリットとリスク
良い面ばかりではありません。準備不足のまま進めると、切り出した先で事業が回らなくなります。
スタンドアローン問題
最も警戒すべき論点です。経理、人事、総務、法務、基幹システム。これまで親会社が担っていた機能が、独立と同時に消えます。
想定外のコストが発生する
間接部門を新たに立ち上げる人件費、システムの再構築費用。事業計画に織り込んでいなかった、という相談を受けることがあります。
実務では、一定期間だけ親会社が業務を受託する移行サービス契約を結んで橋渡しする方法が使われます。期間と料金を事前に決めておくのが鉄則。
従業員の不安と離職
「明日から別の会社の社員になってほしい」。この一言の重さは、伝える側が思うより大きいものです。
給与体系や福利厚生が変わる場合、優秀な人ほど先に動きます。転籍を断られて必要人員が揃わず、案件そのものが崩れることも。社員への説明のタイミングは、条件が固まる前に決めておいてください。
許認可と契約の承継漏れ
会社分割なら自動で移ると思い込むのは危険です。業法によっては事前認可や新規取得が求められます。
取引契約に、株主構成の変更時に相手方の承諾を要する条項が入っていることもあります。見落とすと、新会社の営業初日に動けません。
残った会社の姿を描けていない
切り出した後、本体に何が残るか。案外これが曖昧なまま進む案件があります。
売上の柱を失った本体をどう立て直すのか。あるいは本体も将来的に譲渡するのか。譲渡後に残る会社の選択肢まで含めて、出口を描いておくべきです。
カーブアウトの進め方
全体像を押さえておくと、専門家に相談する際の質問が具体的になります。おおむね次の順序で進みます。
基本的なステップ
案件の規模により前後しますが、骨格は共通しています。
| 段階 | 主な作業内容 |
|---|---|
| 1. 切り出す範囲の確定 | 対象事業の資産・契約・人員を洗い出し、残すものと移すものを線引きする |
| 2. スキームの選択 | 会社分割か事業譲渡かを、税務・法務・許認可の観点から決める |
| 3. 単体決算書の作成 | 対象事業だけの損益計算書と貸借対照表を組み直す |
| 4. 譲受企業の探索と交渉 | 候補先へ打診し、条件と価格を詰める |
| 5. 調査対応と契約締結 | 買い手側の調査に対応し、最終契約を結んで実行する |
単体決算書の作成が最大の難所
手順の3番目。ここで止まる会社が本当に多いです。
部門別損益が存在しないという壁
中小企業では、部門ごとの損益を厳密に管理していないケースが大半を占めます。切り出す事業の売上は分かっても、そこにぶら下がる原価と経費が全社に混ざっている。
対象事業単独の決算書、いわゆるカーブアウト財務諸表を一から組む作業が必要になります。
共通費の配賦をどう決めるか
本社家賃、社長の役員報酬、共用している車両や設備。何を基準に按分するかで、切り出した事業の利益は大きく変わります。
恣意的な配賦は必ず見抜かれます。売上高基準か人員数基準か、根拠を持って説明できる形に整えてください。この数字の精度が低いと、財務調査での指摘が増え、交渉が長引きます。
価格の考え方と譲受企業探し
事業単位の譲渡では、のれん相当額の評価が価格を左右します。営業権の評価の仕組みを理解しておくと、提示額の妥当性を判断できます。
算定の考え方そのものは会社全体の譲渡と共通です。企業価値の算定方法と中小企業の譲渡価格の実態を先に押さえておくと、交渉の土俵に立てます。
相手探しでは、同業に限定しないことが効きます。譲渡先の探し方を広く取るほど、その事業を高く評価する相手に出会える確率が上がります。
中小企業のカーブアウト事例
当社が支援した案件から、規模と背景を匿名化して2件ご紹介します。どちらも会社全体ではなく、子会社を切り出した形です。
本業集中のため傘下の調剤薬局を譲渡
譲渡企業は調剤薬局(売上約2億円)、譲受企業は調剤薬局チェーン(売上約130億円)。スキームは子会社のカーブアウトです。
親会社が本業へ経営資源を集中させるための判断でした。82社へ打診し18社から応募を得たうえで、大手チェーンへ移管。地域医療の継続と従業員の雇用が守られました。
期待したシナジーが出ず出口戦略へ
譲渡企業は臨床研究支援(売上約2億円)、譲受企業は医療製薬支援(売上約100億円)。こちらも子会社のカーブアウトです。
過去のM&Aで取得した子会社が想定した相乗効果を生めず、出口戦略を決断した案件でした。譲受先を指名する形で医療ネットワーク大手へ移管し、従業員の就業環境と事業成長の両立につながっています。
他の業種・規模の成約事例は、オーナー経営者の体験談としてまとめています。
検討前に確認したいチェックリスト
相談をお受けする前に、社内で確認しておくと話が早く進む項目を挙げます。すべて揃っている必要はありません。
事業の切り分けに関する確認
切り出す範囲が曖昧なままだと、価格も手法も決まりません。
- 対象事業の売上・粗利を、直近3期分だけでも分けて把握できるか
- 対象事業に専属している従業員と、兼務している従業員を区別できるか
- 対象事業が使っている不動産・設備が、本業と共用になっていないか
- 対象事業の主要取引先と、契約書の名義を確認できるか
リスクに関する確認
後から出てくると価格が下がる項目です。先に把握しておくほど有利になります。
- 対象事業に関わる許認可の種類と、承継可否を確認したか
- 未払残業代や社会保険の未加入といった労務の論点がないか
- 個人保証や担保が、対象事業の資産に設定されていないか
- 切り出し後に本体へ残る事業で、資金繰りが回るか
この段階での自己点検は、売り手側の事前準備そのものです。ここに時間をかけた案件ほど、交渉が短く済みます。
みつきコンサルティングが仲介したカーブアウトの事例
みつきコンサルティングは、これまで500件を超えるごM&Aを支援してまいりました。公認会計士・税理士ら専門家チームが、完全成功報酬制で支援した成約事例から、カーブアウトを支援した事例をご紹介します。
より高いシナジーを求め出口戦略を指名提案で実現

譲渡企業:臨床研究支援(売上約2億円)
譲受企業:医療製薬支援(売上約100億円)
スキーム:子会社カーブアウト
外資系医療機器メーカーが本業集中のため傘下の調剤薬局をカーブアウト。82社打診・18社応募から大手薬局チェーンへ移管し、地域医療の継続と従業員の雇用を守った。
経営難からの選択と集中で大手薬局へ承継

譲渡企業:調剤薬局(売上約2億円)
譲受企業:調剤薬局(売上約130億円)
スキーム:子会社カーブアウト
M&Aで取得した臨床研究支援子会社が期待シナジーを生めず出口戦略を決断。買い手指名によるカーブアウトで医療ネットワーク大手へ移管し、従業員の環境向上と事業成長を実現。
上記は当社のM&A仲介実績のほんの一部です。様々な業界・規模の成約事例を下記のページでご紹介しておりますので、ぜひご覧ください。
カーブアウトに関するFAQ
検討中のオーナー経営者から実際にいただく質問を、4つ取り上げます。
可能です。ただし単なる赤字の切り離しとして持ち込むと、買い手はまず付きません。現場ではまず、その事業単体での再生シナリオと、相手側との相乗効果を数字で示せるかを確認します。技術や顧客基盤に価値があれば、赤字でも成立した例はあります。
強制はおすすめしません。会社分割なら法的には包括承継されますが、労働契約承継法に沿った通知と協議が必要です。事業譲渡では原則として個別同意が要ります。いずれにせよ、納得のないまま進めた案件は、譲渡後に人が抜けて価値を毀損します。
手取りで比べると、多くの場合は会社全体の株式譲渡が有利です。事業譲渡では対価が法人に入り、法人税を経てからでないと個人に届きません。ただし本業を続けたいなら比較の土俵が違います。まず何を残したいかを決めてください。
見つかります。売上数億円規模の事業でも、譲受企業の販路や許認可を補う位置にあれば評価されます。逆に、親会社の看板や与信に依存していた事業は苦戦しがち。独立して回るかどうかが分かれ目です。
まとめ|カーブアウトで会社の一部だけを託す判断
カーブアウトは、会社全体ではなく特定の事業だけを切り出して譲る手法です。会社分割と事業譲渡のどちらを使うかで、許認可や従業員の扱い、そして手取りが変わります。単体の決算書を作る手間は確かに重い。それでも、本業に集中し直したいオーナーにとって現実的な選択肢になります。
当社みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社です。中小企業のM&A支援を数多く手がけ、切り出す範囲の設計から単体決算書の作成、譲受企業の探索までを一貫してご支援しています。「この部門だけ手放したい」という段階でも、遠慮なくご相談ください。
完全成功報酬のM&A仲介会社なら、みつきコンサルティングへ >
著者

- 事業法人第二部長/M&A担当ディレクター
-
ヘルスケア分野に関わる経営支援会社を経て、みつきコンサルティングでは事業計画の策定、モニタリング支援事業に従事。運営するファンドでは、投資先の経営戦略の策定、組織改革等をハンズオンにて担当。東南アジアなど海外での業務経験から、クロスボーダー案件に関しても知見を有する。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修者 神門 剛 代表取締役 / 公認会計士・税理士
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