ビジネスデューデリジェンスの目的と進め方|成功ポイントも解説

ビジネスデューデリジェンスとは、M&Aを実施する際に、譲受企業が対象企業の経営実態を調査することです。この調査は、M&Aの成功や失敗を決定づける重要な要因となります。本記事では、ビジネスデューデリジェンスに関する概要や目的、実施手順、そして成功させるためのポイントなどを解説していきます。

ビジネスデューデリジェンスとは

ビジネスデューデリジェンスとは、M&Aを実施する際に対象企業の経営実態を調査し、その結果を企業価値の算定に反映することを目的としています。譲受しようとする企業のビジネスモデルを整理し、外部環境と内部環境から競争力を分析して、中長期的な競争優位性や収益の源泉を分析し、事業計画の蓋然性を検討していきます。財務・税務デューデリジェンスと併せて実施することで、過去の業績から将来の収益力を予測し、精度の高い事業計画を策定することが目的です。

ビジネスデューデリジェンスでは、対象企業の競争優位性、強みや弱みなどを分析し、将来性を把握しつつ、自社とのシナジー効果なども検討します。また、市場分析など外部環境による事業への影響も検討項目となります。

財務・税務デューデリジェンスが過去の業績に基づいて実態を把握することが目的であるのに対し、ビジネスデューデリジェンスは、将来の収益性を評価し、事業計画の妥当性を検討することが目的といえます。

ビジネスデューデリジェンスは、英語では”Business Due Diligence”となります。Due Diligenceは「当然の、正当な努力」という意味で、M&Aの意思決定の際に問題点を把握するための調査がデューデリジェンスと呼ばれるようになりました。そして、”Business”と組み合わせることで、事業関連の調査がビジネスデューデリジェンスとなりました。

ビジネスデューデリジェンスの目的

ビジネスデューデリジェンスを行う主な目的は以下の3点です。目的を理解し、効果的なビジネスデューデリジェンスを実施しましょう。

収益を見込めるかどうか判断する

ビジネスデューデリジェンスは、対象企業をグループ化することによって将来的に収益がどの程度見込めるのか、どの程度の成長率が期待できるのかを判断するために実施されます。客観的な根拠をもとに経営判断ができ、事業計画の検討や修正が行えます。

リスクを顕在化させる

対象企業において、長年にわたり業界慣習から行われているコンプライアンス上相応しくない、問題視されつつある商慣習などがあるかもしれません。そこで、買収を検討している企業のリスクを顕在化するため、ビジネスデューデリジェンスが実施されます。これにより、M&A後にトラブルが発生し、経営悪化に繋がるかどうかを判断することができます。また、ビジネスデューデリジェンスを実施することで、M&Aの成功に向けた重要な判断材料が得られます。分析の質を高めるためにも、適切な専門知識や分析力を持った人材を活用しましょう。また、事業計画に根拠を持って取り組むことで、M&Aの成功確率をより高めることができます。

事業シナジーの明確化

ビジネスデューデリジェンスを通して、企業同士の相性をさらに明確に分析することができます。事業シナジーが明確になることで、M&Aの対象として適切な相手かどうかをより効果的に判断できるわけです。

ビジネスデューデリジェンスの観点

ビジネスデューデリジェンスを行う際の主な観点を紹介します。

市場と競合(主に収益面)

コマーシャル・デューデリジェンスとも呼ばれ、対象企業が置かれている市場環境や競争環境、顧客の動向を調査し、ビジネス上の強みや弱みを把握します。また、中長期的な競争優位性や買収後に期待できるシナジー効果や実効性なども分析します。

具体的な分析内容としては、以下のような点が挙げられます。

  • 市場環境:対象企業が属する業界の市場推移や動向、成長要因などを分析し、それらが対象企業に及ぼす影響を検討。
  • 競争環境:競合他社の状況や市場シェアの動向、ビジネスモデル、新規参入の状況などを調査し、対象企業の市場におけるポジショニングを検討。
  • 顧客動向:顧客が対象企業の商品やサービスを選択する動機を把握し、顧客ニーズにどの程度合致しているか検討。

業務プロセス・組織・取引(主に費用面)

オペレーショナル・デューデリジェンスとも呼ばれ、企業価値評価や交渉に影響を与えるリスクや、グループ化した後の統合作業の際に発生するコスト、またはコスト削減が妨げられる要因を洗い出すことで、将来のコスト計画の妥当性を分析します。

主な分析内容は以下の通りです。

  • 業務の全体像:対象企業の商流、バリューチェーンなどの業務全体像を把握し、経営資源の配分の妥当性や業績管理指標(KPI)の設定の適切性、KPIの管理状況および改善状況などを検討。
  • 人員体制・設備投資:対象企業の人員体制や生産能力、設備投資の妥当性などを検討。

ビジネスデューデリジェンスの進め方

具体的にどのような流れでデューデリジェンスが進められるのか、M&Aの基本合意契約締結後に行われるデューデリジェンスについて、一連の流れを説明していきます。

調査チームの組織・調査の準備

譲受企業は、デューデリジェンスの種類に応じて、業務の担当者と専門家(弁護士・公認会計士・税理士・経営コンサルタントなど)で調査チームを組成します。調査チームが組成されたら、実施するデューデリジェンスの種類や重点的に調査する項目、予算、スケジュールなどを事前に決定します。その後、M&Aの概要や既に入手している対象企業の基本情報、実施するデューデリジェンス、調査スケジュールなどを専門家チームと共有します。さらに、調査ごとに必要な書類をリストアップし、対象企業に提出を依頼するなどして、調査の準備を進めていきます。

資料の分析と聞き取り調査の実施

まず、入手した資料を他の関連資料と照らし合わせて、情報の正確性を確認することが重要です。この過程で、さらに追加の資料が必要と判断されることがあります。対象企業が用意しにくい資料があれば、既存の資料から情報を収集していくことも必要です。資料だけでは十分な情報が得られない場合は、専門家が対象企業のオーナーに直接インタビューを実施します。通常、現地調査と一緒に行われることが多く、対象企業のオフィスで実施されることが一般的です。M&Aの事実を秘密にするため、土日など社員がいないタイミングで調査が行われることもよくあります。対象企業での実施が難しい場合には、近隣のレンタルオフィスなどで実施することもありますが、最近ではバーチャルデータルームに資料を格納し、各専門家が閲覧できる状態にしておいた上で、インタビューについてもWeb面談で実施するケースも増えつつあります。

調査結果の検討

デューデリジェンスの報告書は、専門家から提出されます。報告書の内容を基に、譲受企業の経営陣はM&Aに関する協議を行います。

M&Aを実行することのリスクが大きいと判断される場合には、M&Aの中止も視野に検討が行われます。リスクが許容範囲であり、M&Aを中止するほどではない場合には、そのリスクを企業価値算定に反映し、条件交渉が行われることもあります。一方で、譲渡企業側は、調査結果で明らかになった問題点に対して解決策を提案することを求められることがあります。M&Aの続行や中止がかかっているため、真剣に対応する必要があります。

ビジネスデューデリジェンスの実務フロー

M&Aによる買収を行う企業がビジネスデューデリジェンスを専門家に依頼する流れについては、以下の4つのステップを踏む形で実施されます。

外部環境・内部環境の分析

対象企業の外部環境(市場や競合他社、顧客など)と内部環境(サービスや商品など)をそれぞれ分析します。これにより、競合と比較した際の対象企業の競争優勢性などを分析することができます。

シナジー効果の抽出

M&Aによるシナジー効果(対象企業と自社の強みが組み合わさった際に創出される相乗効果)が期待できる項目を抽出します。また、グループ化によって生じるマイナスの効果(ディスシナジー効果)についても同様に抽出を行います。

各項目の定量化・実現可能性の検証

シナジー効果とディスシナジー効果の抽出が終わった段階で、各項目を定量化し、実現する可能性を検証します。また、実現可能性を高めるための施策もこの過程で明らかにしておきます。

事業計画の修正または立案

シナジー効果とディスシナジー効果の分析が完了し、各項目の実現可能性が明らかになったら、必要に応じて事業計画を修正し、企業価値算定に反映させます。

これらのステップを踏むことで、ビジネスデューデリジェンスの実務が効果的に行われ、譲受企業はM&Aの成功可能性を向上させることができます。

ビジネスデューデリジェンスを成功させるポイント

ビジネスデューデリジェンスを成功させるために重要となる3つのポイントをご紹介します。

M&Aの規模や買収額に適した実施方法

ビジネスデューデリジェンスをどの程度詳細に実施するかは、M&Aの規模や買収予算に応じて検討することが重要です。ビジネスデューデリジェンスにかかる費用は決して安くはありません。グループ化によるメリットが早期に見込めない場合、デューデリジェンスに多額の費用を投じると、買収自体が短期的には事業運営の重荷になりかねません。逆に、大規模な買収のケースでは、ビジネスデューデリジェンスを十分に詳細に実施し、M&Aによるリスクを最小限に抑えるべきです。

調査項目の優先順位設定

ビジネスデューデリジェンスでは、調査するべき項目が非常に多岐にわたるため、すべてを調査することは不可能です。そのため、買収の目的や対象企業の特徴、規模感などを基に、優先順位を設定し、優先度の高い項目から調査を進めることが重要です。優先順位が曖昧なまま進めると、必要以上に広範囲を調査し、費用や時間を浪費するリスクがあります。また、本来調査すべき項目を見落とすこともあります。

ビジネスデューデリジェンスのまとめ

ビジネスデューデリジェンスは、対象企業の事業やその将来性を調査することを目的とします。調査範囲は幅広く多岐にわたるため、適切に実施するためには専門家の支援が必要です。適正な企業価値の算定のみならず、統合後の連携作業を効率的に進めるためにも非常に重要なものといえます。

みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社として15年以上の業歴があり、中小企業M&Aに特化した経験実績が豊富なM&Aアドバイザーが多数在籍しております。 

みつき税理士法人と連携することにより、税務面や法律面のサポートもワンストップで対応可能ですので、M&Aをご検討の際は、成功するM&A仲介で実績のある、みつきコンサルティングに是非ご相談ください。 

著者

伊丹 宏久
伊丹 宏久事業法人第二部長
ヘルスケア分野に関わる経営支援会社を経て、みつきコンサルティングでは事業計画の策定、モニタリング支援事業に従事。運営するファンドでは、投資先の経営戦略の策定、組織改革等をハンズオンにて担当。東南アジアなど海外での業務経験から、クロスボーダー案件に関しても知見を有する。
監修:みつき税理士法人