流通(卸売・小売)業界のM&A|事業承継の課題、売却動向・事例

本コラムでは、流通業界の業界情報や外部環境、M&A動向などを解説します。また、実際に行われた流通業界のM&A事例も併せて解説します。 

流通(卸売・小売)業界とは 

卸売業・小売業を含む流通業界は、どのような業界かを見ていきます。

流通業の定義 

流通業界とは、メーカーなどが製造した商品を仕入れ、保管、管理し、最終的に消費者に届ける業界です。また流通業界が直接的に消費者に商品を販売する場合や、製造メーカーと消費者の仲介を行う場合もあります。つまり、小売業、卸売業、運輸業、交通業などが流通業界に含まれます。 

業界特性   

流通業界は、以下に分類されます。 

  • 仕入 
  • 物流 
  • 販売 
  • 管理 
  • マーケティング 

企業によっては、上記の分類を複数またいでいることもあります。流通業界は、商品を製造メーカーから消費者まで届けるまでの工程の中で様々な役割を担うということです。言い換えれば流通業界の戦略は幅広く、市場に合わせての方針変更やM&Aに向いていると言えます。 

業界課題 

消費者の物欲が減少している 

流通業界は物を消費者まで届ける業種なので、消費者が物を求めていることが重要です。しかし、時代の変遷により、消費者は物よりも体験やデジタルコンテンツを求めるようになっています。 

物理的な物を求める消費者が減っていけば、流通業界の需要も減っていくということです。オンラインショッピングの需要が拡大しているので流通業界の需要が伸びているという意見もあり、それは一理あります。しかし、さらにオンラインショッピングからデジタルコンテンツや体験に消費者ニーズが移行しています。 

人手不足 

流通業界は全般的に人手が不足しています。特に運輸業は人手が不足していて、この原因にはオンラインショッピングの需要拡大が挙げられるでしょう。 

燃料の高騰化 

流通業界は移動が必要で、移動には燃料が必要です。しかし燃料の価格が高騰しているので、利益率が下がっています。今後燃料価格が下落する可能性はありますが、さらに高騰していく可能性もあります。 

流通(卸売・小売)企業の外部環境 

市場規模   

流通業界全体の統計はありませんが、小売業、物流などの統計データは存在します。現状の動向としては、新型コロナウイルスの影響により市場規模は拡大しています。巣ごもり生活により自宅で使える商品への需要が伸び、また商品を届けるための物流が必要になります。 

その結果、流通業界は伸びています。一方で、上でご説明した通り消費者のニーズは物から体験やデジタルコンテンツに移行している面もあります。新型コロナウイルスの影響で流通業界全体は盛り上がりましたが、今後の市場動向にはプラスの要因もあればマイナスの要因もあります。 

小売業界の販売額の推移
小売販売額の推移(2013~2021年)
物流17業種総市場規模推移・予測
物流17業種総市場規模推移・予測(2017~2023年度)

競合業態 

流通業界の範囲は幅広く、商品の製造から消費者に届くまでの過程を指します。つまり、幅広い業界が流通業界に該当するということです。そのため流通業界の競合はありませんが、流通業界内で各業界が競合になる場合はあります。 

具体的には、消費者が直接店舗に行かずにオンラインショッピング中心の生活になった場合、店舗の売り上げが下がり、オンラインショップと物流業者の売り上げが伸びます。この場合、店舗型の小売業の競合が、オンライン型の小売業と物流業になるということです。 

流通(卸売・小売)業界のM&A動向 

流通業界では、他の業界よりもM&Aは活発に行われています。全体の明確な統計データはありませんが、例としてM&A業者が出しているデータをご紹介します。 

物流業界のM&A件数の推移
物流業界のM&A
物流業界の成約実績:大手M&A仲介会社比較
物流業界の成約実績:大手M&A仲介会社比較

流通業界のM&A件数は右肩上がりに推移していて、それには以下のような理由があると考えられます。 

  • 少子高齢化による後継者不足 
  • 規模の経済による費用対効果の向上 
  • 事業成績低下による撤退 

流通業界は、事業規模が大きくなるほど1件当たりのコストは下げられる傾向があります。いわゆる規模の経済が働きます。そのため、どうしても大手企業の方が有利な傾向があるということです。 

中小企業ならではの小回りもありますが、コストが高くなるので、大手企業に買収される事例が多いです。また、後継者不足や事業成績の低下によって売却せざるを得なくなっている企業も多いでしょう。 

流通(卸売・小売)業界のM&A事例  

  1. ドンキホーテホールディングスによるユニーの買収 
  2. エイチ・ツー・オーリテイリングによるイズミヤの買収 
  3. ブリリアントトランスポートによるファイズホールディングスへの第三者割当増資 
  4. CREによるCREロジスティクスファンド投資法人への物流施設の売却 

ドンキホーテホールディングスによるユニーの買収 

2019年にドンキホーテホールディングスがユニーを買収しました。ドンキホーテホールディングスは食品、日用品、雑貨など様々な商品を取り扱っている企業です。売り手のユニーは食料品、日用品、衣料品などのアイテムを幅広く取り扱っている企業です。スーパーの運営も行っています。 

ドンキホーテホールディングスとユニーは2017年に業務提携契約を締結し、共同で店舗開発に取り組んでいました。結果的に大成功をおさめ、その後より企業価値を高めていくためにM&Aに踏み切ったという経緯があります。 

エイチ・ツー・オーリテイリングによるイズミヤの買収 

2014年にエイチ・ツー・オーリテイリングがイズミヤを買収し、完全子会社となりました。にエイチ・ツー・オーリテイリングは阪急百貨店と阪神百貨店を運営する会社、商業施設などを傘下に持つ持ち株会社です。 

エイチ・ツー・オーリテイリングは、市場シェアの確保やニーズ変化への対応を目的としてイズミヤを買収しました。 

リアントトランスポートによるファイズホールディングスへの第三者割当増資 

ブリリアントトランスポートは、2021年4月にファイズホールディングスを引受先とする第三者割当増資により、議決権の51%に相当する株式を売却しました。ブリリアントトランスポートは国内外の輸入貨物の運送サービスや通関手続きの代行サービスなどの事業を展開する物流会社です。 

ファイズホールディングスは、トラックによる輸配送や物流センターの運営など物流業務を包括的に行う企業です。ブリリアントトランスポートは、経営資源を確保して国際業務を発展させる目的で第三者増資割り当てに踏み切りました。ファイズホールディングスは物流事業を強化する狙いがありました。 

CREによるCREロジスティクスファンド投資法人への物流施設の売却 

2021年1月、CREはCREロジスティクスファンド投資法人に対して物流施設を売却しました。CREは物流不動産の基盤構築、物流プラットフォームの構築・拡大を主力事業とする会社です。 

CREロジスティクスファンド投資法人は投資家から集めた資金を物流不動産に投資する事業を運営しています。CREロジスティクスファンド投資法人は、ボートフォリオの分散、長期的に安定した分配金を創出することなどを目的に買収しました。 

流通(卸売・小売)業界のM&Aのまとめ 

流通業界はM&Aが今後活発化すると考えられます。理由としては、以下のようなものが挙げられます。 

  • 少子高齢化による後継者不足 
  • 規模の経済が働くため統合が進む 
  • 隣接する業界がシナジー効果を狙って買収する 

現状流通業界ではM&Aが活発化していて、今後はよりM&Aが進んでいくでしょう。流通業界は事業規模が大きいほど単価を下げやすい傾向があるため、他の業界よりもM&Aに対して大きな動機があります。他の業界同様、少子高齢化による後継者不足も進んでいます。

著者

西尾崇
西尾崇事業法人第三部長
宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。
監修:みつき税理士法人

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