法務デューデリジェンスにおける契約書レビューは、譲受後の事業継続とリスク回避のために非常に重要です。この記事では、法務DD契約書レビューの目的、重要契約のチェックポイント、そしてリスクへの対応策まで、売主や譲受企業のM&A担当者が知っておくべき内容を詳しく解説いたします。
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法務DD契約書レビューとは
デューデリジェンス(DD)は、M&A取引において譲受企業が譲渡企業の価値やリスクを詳細に評価するための調査です。その中でも法務デューデリジェンスは、譲渡企業が抱える法的なリスクを特定し、その程度を評価するために行われます。契約書レビューは、この法務DDの中核をなすプロセスの一つであり、譲渡企業の契約内容を精査し、将来のトラブルを未然に防ぐ上で不可欠な手続です。
法務DD契約書レビューの目的
契約書レビューの主な目的は、以下に挙げる3つの視点から、法的なリスクを把握し、取引の条件を最適化することです。
- M&A実行後も、譲渡企業の事業に必要かつ重要な契約が存続するかを確認します。
- M&A実行後に譲受企業が計画する事業を妨げる契約が存在しないか確認します。
- 譲渡企業が不当な、または隠れた債務・義務・リスクを負う契約、あるいは法令や社内規則に違反する内容の契約がないか確認します。
これらの目的を達成することで、買収価格や契約条件を適切に交渉・調整し、将来的な紛争の発生を予防することが可能になります。
法務DDにおける契約書レビューの重要性
契約書レビューは、M&A取引の成功に大きく影響を与える重要なプロセスです。もし契約内容に不備やリスクが見過ごされた場合、取引後に予期せぬ損害が発生する可能性があります。例えば、チェンジオブコントロール(COC)条項によって主要な取引先との契約が解除されたり、譲受企業にとって不利な契約条件が残存したりすることで、事業運営に大きな支障が生じるおそれがあるため、詳細な審査が求められます。
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契約書レビューの対象範囲と重要度の判定基準
法務デューデリジェンスにおいて、対象企業が締結している膨大な数の契約書すべてを詳細に確認することは現実的ではありません。そのため、譲受企業は限られた時間と予算の中で、レビューの対象とする契約書の範囲を特定し、優先順位をつけて効率的に進める必要があります。
対象範囲の特定
法務DD契約書レビューの対象は、譲渡企業の事業活動に密接に関わる契約が中心となります。具体的には、取引規模の大きい仕入先や販売先との契約、あるいは取引規模が大きくなくとも代替が困難な部材の仕入先や業務委託先との契約など、譲受後の事業に与える影響度が特に高い契約が優先的に選ばれます。
重要度の判定基準
譲受企業の事業継続に不可欠な契約や、M&A後の事業計画に大きな影響を与える可能性のある契約は、特に重要度が高いと判断されます。具体的には、以下の要素を考慮し、重要契約チェックポイントを設けます。
- 事業の継続性への影響度: 当該契約が事業運営に不可欠であるか。
- M&A後のシナジーへの影響: 譲受企業が計画する事業展開を妨げる可能性がないか。
- 潜在的なリスクの大きさ: 契約違反、債務不履行、契約解除のリスク、損害賠償額など。
- 契約の相手方との関係性: 契約の相手方が売主や譲受企業との信頼関係を重視しているか。
これらの基準に基づき、譲渡企業の契約類型別の主要チェックポイントを絞り込み、効果的な契約審査を進めます。
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契約類型別の主要チェックポイント
M&Aにおける法務デューデリジェンスでは、さまざまな契約類型についてチェックポイントを設けてレビューを行います。各契約が譲渡企業の事業に与える影響を考慮し、リスクを特定することが重要です。
取引基本契約・販売契約
取引基本契約や販売契約は、譲渡企業の売上や仕入に直結するため、非常に重要です。具体的には、以下の点を詳細に確認します。
- 契約期間と更新条件: 事業継続に十分な期間が残っているか、また、自動更新や更新手続の有無を確認します。一方的な中途解約条項がないかも重要です。
- 価格、支払条件: 価格設定が適切か、支払期限や支払方法が明確に定められているかを確認します。
- 排他的取引、最低購入/販売数量: 特定の取引先にのみ販売する独占販売代理店契約がないか、最低購入数量の義務とその未達時のペナルティがないかを確認します。これらの条件は譲受企業の事業拡大戦略に影響を与える可能性があります。
- 保証・補償条項: 品質保証や瑕疵担保責任、損害賠償に関する条項が譲渡企業にとって過度に不利でないかを確認します。
業務委託契約・ライセンス契約
業務委託契約やライセンス契約は、譲渡企業の技術やサービスの根幹に関わることが多いため、特に注意が必要です。
- 知的財産権の帰属: ライセンスの対象となる特許権や商標権などの知的財産権の帰属、利用範囲、許諾条件が明確であるかを確認します。譲受企業がM&A後に自由に技術を活用できるかどうかに影響します。
- 再委託・サブライセンスの可否: 業務の再委託やライセンスのサブライセンスが可能であるか、その条件を確認します。
- 秘密保持義務: 契約に秘密保持に関する適切な条項が盛り込まれているか、競業避止義務が譲受企業の事業計画を妨げないかを確認します。
不動産契約
不動産に関する契約は、工場の稼働や事業所の所在地など、事業運営の基盤となるため、慎重な確認が必要です。
- 賃貸借契約の期間と更新: 賃貸借契約の残存期間が事業継続に十分か、更新が確実であるかを確認します。
- 用途制限: 契約に事業所の用途に関する制限がないかを確認します。
- 修繕義務: 賃貸物件の場合、修繕義務の範囲や費用負担が明確であるかを確認します。
M&A関連契約
M&A取引の実行を前提とした契約書も、細部にわたる確認が必要です。
- 株式譲渡契約・事業譲渡契約: 譲渡対象・対価・支払条件は明確か、競業避止・損害賠償等の重要条項は適切に記載されているかなどを確認します。
- 表明保証: 譲受企業が安心して事業を承継できるよう、売主による表明保証の範囲や期間、責任追及の方法などを確認します。
▷関連:法務デューデリジェンスとは?M&Aで確認すべき法的リスクと進め方
個別の重要契約条項の検証
一般に、法務デューデリジェンスで重点的にチェックすることが多い重要な契約条項は、以下のようなものです。
チェンジオブコントロール(COC)条項の有無と影響分析、対応策
チェンジオブコントロール(COC)条項は、法務DD契約書レビューにおける特に重要なチェックポイントの一つです。この条項は、譲渡企業の株主構成や支配権が変更された場合に、契約の相手方に契約解除権が発生するという内容を定めています。
COC条項の定義と影響
COCは「Change of Control」の略語で、M&Aによって譲渡企業の支配権が移転した場合に、相手方が契約を解除できる権利を持つ条項です。ライセンス契約や代理店契約など、当事者間の信頼関係に基づいて締結される継続的な取引契約によく見られます。
譲渡企業の事業にとって極めて重要な契約にCOC条項が含まれている場合、M&Aの実行によって当該契約が解除されると、事業継続に深刻な支障が生じる可能性があります。例えば、あるメーカーの総代理店としての売上が譲渡企業の売上の大部分を占める場合や、特定の特許権で独占的にライセンスを受けており、その技術が収益の源泉となっている場合などが該当します。
対応策
COC条項が発見された場合の主な対応策は、当該契約の相手方からM&A実行後も契約を継続することについての事前同意を得ることです。最終的な株式譲渡契約などにおいて、この同意の取得を取引実行の前提条件とすることは多いです。
しかし、COC条項を含む契約の数が非常に多い場合、個別に同意を得ることは手間がかかる上、相手方から契約条件の変更を求められる可能性もあります。そのため、承諾の取得を前提条件とする契約は、事業継続に特に重要なものに限定することが一般的です。
契約解除条項、競業避止義務、保証・補償条項、紛争解決条項等のレビュー
譲渡企業が締結している各契約に含まれる特定の条項が、譲受後の事業運営に大きな影響を与えることがあります。これらの条項を慎重にレビューすることで、潜在なリスクを評価し、適切な対応策を講じることができます。
契約解除条項の確認
契約解除条項は、将来の事業継続可能性を評価するために重要です。M&A後の事業環境の変化によって契約が一方的に解除されるリスクがないかを確認します。特に、売主や役職員との属人的な関係を前提に締結されている契約については、M&Aを契機として中途解約や更新拒絶が行われる可能性があるため、その有無を確認することが重要です。
競業避止義務の確認
競業避止義務は、譲受企業がM&A後に計画している新規事業や事業拡大の障壁となる可能性があります。譲渡企業が締結している契約に、譲受企業の事業範囲や地理的範囲を制限する競業避止条項が含まれていないかを確認します。特に、その条項が譲渡企業だけでなく、譲受企業やそのグループ会社にまで及ぶ場合、譲受企業側の事業活動が制限されるおそれがあるため、注意が必要です。
保証・補償条項の確認
保証・補償条項は、M&A実行後に発生する可能性のある損害賠償責任の範囲を明確にする上で重要です。契約書に、過大な保証義務や不合理な免責条項、損害賠償の上限設定の欠如など、譲受企業にとって不利な内容が含まれていないかを確認します。表明保証に違反した場合の賠償責任の範囲も、ここで確認するべき重要なポイントです。
紛争解決条項の確認
紛争解決条項は、万が一契約締結後にトラブルが発生した場合の対応を定めます。管轄裁判所や仲裁機関がどこになるのかを明確に確認します。譲受企業にとって不利な場所での紛争解決を強いられることがないよう、自社に有利な紛争解決地が指定されているかを確認することが重要です。
契約違反、債務不履行、期限切れ等のリスク特定と評価、表明保証への影響
法務デューデリジェンスにおける契約書レビューでは、譲渡企業の契約違反や債務不履行の状況を特定し、それがM&A取引に与える影響を評価することが重要です。
契約違反・債務不履行のリスク特定
譲渡企業が締結している契約において、過去に契約違反や債務不履行が発生していないか、また、将来的に発生する可能性があるかを確認します。具体的には、契約に定められた義務の履行状況、支払いの遅延、品質問題、納品遅延などが過去に発生していないか、現在進行中の問題がないかを詳細に調査します。
もし、契約違反や債務不履行の事実が認められる場合、それが事業に与える影響度を評価します。例えば、重要な取引先との契約が解除される可能性や、多額の損害賠償が発生する可能性がないかなどを検討します。
期限切れ契約のリスク評価
期限切れの契約が存在しないか、また、重要な契約がM&A実行前に期限切れとなる可能性がないかを確認します。事業継続に不可欠な契約が期限切れとなる場合、譲受後の事業運営に支障が生じるおそれがあるため、契約の更新状況や更新手続の有無を把握することが重要です。
表明保証への影響
契約違反や債務不履行、期限切れ契約などのリスクが特定された場合、これらはM&A契約における表明保証に大きな影響を与えます。売主が表明保証を行ったにもかかわらず、実際にはリスクが存在した場合、売主は譲受企業に対して損害賠償責任を負う可能性があります。
したがって、法務DD契約書レビューで特定されたリスクは、M&A契約の表明保証条項の内容を調整する根拠となり、譲受企業はこれによりリスクを軽減できます。譲受企業は、売主が適切に情報開示を行い、表明保証の内容が事実と合致していることを確認することで、M&A取引の安全性を高めることができます。
▷関連:表明保証とは?M&Aにおける条項のポイント、違反による効果を解説
法務DD契約書レビューの実施体制
法務デューデリジェンスにおける契約書レビューは、専門的な知識と経験が必要とされるため、通常は弁護士などの専門家に依頼して実施することが一般的です。専門家が関与することで、網羅的かつ的確なリスク評価が可能になります。
専門家の活用
弁護士は、法的観点から契約内容を深く分析し、潜在的なリスクや問題点を特定することができます。譲渡企業が負う義務の確認、債務不履行事由の評価、契約解除条項の検討など、多岐にわたるチェックポイントについて専門的な知見を提供します。
AIによる契約書レビューの活用
近年では、AIを活用した契約書レビューサービスも登場しており、一部の企業で導入が進んでいます。AIツールは、大量の契約書を短時間で処理し、コスト削減と効率化に貢献する可能性があります。
AIのメリット
AIによる契約書レビューは、以下のようなメリットがあります。
- コスト削減: 専門家への依頼費用を削減できます。
- 時間短縮: レビューにかかる時間を大幅に短縮し、M&A取引のスピード感を高めます。
- 均一な品質: 人間によるレビューに比べ、均一な品質でチェックが可能です。
AIのデメリット
一方で、AIには以下のようなデメリットも存在します。
- 対応範囲の限界: 前例の少ない特殊な契約や複雑な取引の実態、当事者間の慣習など、文脈を理解する判断は困難です。
- 個別判断の限界: 契約書に記載されていない潜在的なリスクや、人間関係に起因するリスクは特定できません。
そのため、AIは契約書レビューの効率化に有効ですが、最終的な判断や複雑な問題の解決には、依然として弁護士などの専門家の知見が不可欠です。AIと専門家を組み合わせることで、より網羅的かつ質の高い法務DD契約書レビューが可能となります。
税理士法人グループによる財務デューデリジェンス
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よくある質問|法務DD契約書レビューに関する疑問(FAQ)
法務デューデリジェンスにおける契約書レビューについて、中小企業のオーナー経営者や譲受企業のM&A担当者からよく寄せられる疑問とその回答をまとめました。
Q:M&Aで特に注意すべき契約書は?
M&Aで特に注意すべきは、譲渡企業の事業継続に不可欠な契約です。例えば、売上高の大部分を占める主要な販売契約、製品製造に必要な部材の仕入契約、重要な知的財産権に関するライセンス契約、そして事業所の賃貸借契約などが挙げられます。これらの契約にチェンジオブコントロール(COC)条項が含まれていないか、あるいは譲受後に事業を妨げるような競業避止義務がないかなどを特に確認する必要があります。
Q:契約書のどこを見ればリスクがわかるの?
契約書のリスクは、主に「契約上の義務」「債務不履行事由」「契約解除条項」「チェンジオブコントロール(COC)条項」「不利な条件」の項目に注目することで特定できます。特に、譲受企業にとって過大な義務や、一方的な中途解約条項、M&A実行後に契約が解除される可能性のあるCOC条項、そして競業避止義務など譲受後の事業計画を妨げる条項はリスクとなります。損害賠償の上限が設定されていない場合や、管轄裁判所が遠方である場合もリスクとなり得ます。
Q:チェンジオブコントロール条項とは何?どう影響するの?
チェンジオブコントロール(COC)条項とは、譲渡企業の株主構成や支配権が変更された場合に、契約の相手方に契約解除権が発生する条項のことです。M&Aを実行すると、この条項が発動し、譲渡企業にとって重要な契約が解除される可能性があります。例えば、主要な仕入先や販売先との契約が解除されると、譲受後の事業継続に大きな支障が生じ、譲受企業が計画していたシナジー効果が得られなくなるおそれがあります。
Q:対象会社が不利な契約を結んでいたらどうすればいい?
不利な契約条件が発見された場合、売主はM&A実行前に、契約の相手方と交渉し、条件の変更やリスクの排除を試みることが考えられます。特にCOC条項がある場合は、相手方からM&A後も契約を継続する同意を得ることが重要です。交渉が難しい場合は、M&A取引の条件(買収価格など)にそのリスクを反映させることも対応策の一つです。また、M&A契約において、将来リスクが顕在化した際の売主による補償条項を盛り込むことも検討できます。
法務DD契約書レビューのまとめ
法務デューデリジェンスにおける契約書レビューは、M&A取引の成功に不可欠なプロセスです。契約内容を詳細に確認し、潜在的なリスクを特定することで、譲受後の事業継続を確保し、予期せぬトラブルを回避できます。専門家やAIツールの活用を通じて、効率的かつ質の高い契約審査を実施することが重要です。
みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A専門会社として15年以上の業歴があり、中小企業の財務デューデリジェンスに特化した経験実績が豊富な公認会計士・税理士が在籍しています。みつき税理士法人と連携することにより、税務DDを含めた財務調査をワンストップで対応可能ですので、財務DDをご検討の際は、お気軽にお問い合わせください。
著者

- 国内大手証券会社にて顧客のお金や人生に関わる財産運用を助言。相続・事業承継専門の会計事務所を経て、当社では法人顧客の税務対策・申告、M&Aに係る財務・税務のアドバイザリーに従事。税理士
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