株式譲渡契約書とは、株式譲渡のための最終的な条件や内容が記載された契約書です。株式の譲渡側と譲受側が当事者となり作成します。この記事では、株式譲渡でのM&Aや事業承継を検討している経営者に向けて、株式譲渡契約書の記載項目や注意点などを解説します。
株式譲渡契約書(SPA)とは
株式譲渡契約書は、譲渡価格や対価の支払方法など譲渡側と譲受側で最終的に合意した条件が記載されており、自社株を譲渡する際に作成します。譲渡後の認識の違いによるトラブルを防いだり、万一ドラブルが生じた際の責任の所在を明らかにする効果があります。
いわゆる社内承継や第三者承継(M&A)における自社株の承継は、株式譲渡が一般的です。そのため、作成する機会も多い契約書になります。いわゆる親族内承継においても、生前に後継者に自社株を承継させようとすれば、贈与か株式譲渡のいずれかになるため、それなりに作成する機会があります。
参考までに、英語では「Stock Purchase Agreement」となるため、SPAと略されます。M&Aの場合は、譲渡側と譲受側の協議・交渉の最終局面で交わされる契約になるため、「最終契約書」(Definitive Agreement、略してDA)と呼ばれることもあります。
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株券は原則不発行である
株券は、原則不発行なのが特徴です。証券会社などの金融機関によって、2009年(平成21年)から電子的に管理されており、株式上場企業はすべて株券不発行となりました。上場企業以外の企業でも原則不発行であり、発行する場合には定款に記載する必要があります。
株式の「譲渡」と「売買」の違い
株式の「譲渡」と「売買」では、いくつかの違いがあります。株式の「譲渡」とは、株式を譲ることを指します。一方、株式の「売買」とは、株式の譲渡に伴い金銭を受け取ることです。株式売買は、株式譲渡に含まれますが、対価がない株式譲渡の場合は、株式贈与にあたります。
事業承継・M&Aの手法として株式譲渡が選ばれる背景
事業承継・M&Aの手法として株式譲渡が選ばれる背景には、譲渡対象物としては株式のみの売買契約にあたることから、事業譲渡や贈与、合併、会社分割などに比べてシンプルであることが挙げられます。株式譲渡契約を用いて、譲渡側の株式を譲受側が取得し、会社全体の事業承継を行うといった流れが一般的です。
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株式譲渡契約書の作成の流れ
株式譲渡契約書を作成する場合は、多くのステップが必要です。ここでは、株式譲渡契約書の作成に関するおおまかな流れについて解説します。
1.株式譲渡の代金を検討する
まずは、株式譲渡の代金について検討しましょう。具体的な金額は、譲渡側・譲受側の両者が合意したうえで、契約書を作成します。
また、上場企業の場合、株価が日々変動するため、価格変動への対応についても明確にする必要があります。非上場企業の場合は、企業価値を評価して算出しましょう。
株式譲渡の際の金額・価格算定方法は、次のとおりです。
時価による算定方法 | 貸借対照表上の純資産を時価ベースに直して価格算定 |
純資産価額による算定方法 | 貸借対照表上の純資産を企業価値評価することで算定 |
類似業種比準による算定方法 | 同一業種・同一規模の標準的な企業と比較して算定 |
配当還元による算定方法 | 株式の配当を基準に評価額を算定 |
DCF法による算定方法 | 利益(フリーキャッシュフロー)を計算し、将来の不確定性やリスクを「割引率」として考慮したうえで専用の計算式から企業価値を算定 |
2.会社法に基づいて手続きを進める
次に、会社法に基づいて手続きを進めていきます。株式の譲渡は、原則として自由ですが、株式に譲渡制限がある場合、手続きが異なります。株式譲渡制限がない場合は、株主の書き換え申請が必要です。
一方、株式譲渡制限がある場合は、株式の譲渡について、取締役会か株主総会の承認が必要になります。中小企業のほとんどは、株式に譲渡制限を設けているため注意が必要です。
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株式譲渡契約書の主な記載事項
ここでは、株式譲渡契約書に記載される主な項目について解説します。
株式譲渡の基本的事項
まずは、株式譲渡の基本的な事項についてです。株式譲渡の主な内容、どのような株式を何株、または何割を譲渡するかを明記します。この項目は、主に譲渡の対象となる株式を明確にすることが目的です。
株式譲渡の代金に関する支払い方法
譲渡する株式について決定したあとは、譲渡の代金や支払い方法について明記します。株式譲渡に対する代金の具体的な金額や支払い期日、振込先口座(現金払いの場合は不要)など、トラブル発生を防ぐためにも詳細に記載しておくことが重要です。株式が無償譲渡の場合は、項目自体が不要となります。
株主名簿の名義書換
株式譲渡の手続きは、譲受側が対象の会社の株主名簿に記載されることで完了します。株主名簿の名義書換は、譲渡側と譲受側が共同で請求する必要があります。株主名簿の名義書換に関する項目は、請求の協力が得られない事態の備えとして重要です。
株式譲渡に関する表明保証
株式譲渡に関する表明保証についての項目は、株式譲渡契約書のなかでも重要となっています。譲渡側が譲受側に対して、ある特定の事項が正確・真実であると保証するために必要です。
主な表明保証の例は、次のとおりです。
- 対象企業の株式の内容・状態について
- 対象企業の財務状態について
- 対象企業が保有する不動産に関する事項について
また、表明保証を制定する場合、譲渡側と譲受側で注意点に違いがあります。譲渡側は、損害賠償や契約解除などのリスクに注意が必要です。一方、譲受側の注意点は、経済的損失のリスク回避のため、デューデリジェンス(買収監査・企業調査)を徹底することが挙げられます。
契約解除
契約解除の項目は、株式譲渡契約そのものについて、契約解除を認めるに相当する理由や条件について明記します。株式譲渡契約の締結後、譲渡実行日までに重大な債務不履行や事情変更などが生じるケースもあり、トラブル発生に備えて契約解除に関する条件を定めておきます。
主な契約解除条件の例は、次のとおりです。
- 実行前提条件の不充足
- 契約違反
- 表明保証違反
- 対象会社に関する重大な事情変更
- 天変地異などの不可抗力
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株式譲渡契約書に関する注意点
株式譲渡契約書の作成や取扱いには、いくつか注意点があります。ここでは、株式譲渡契約書に関する注意点について解説します。
非上場企業・個人間の株式譲渡でも契約書の作成は必須
非上場企業は、自由に売買できない「譲渡制限株式」の場合が多い点に注意しましょう。トラブルを未然に防ぐためにも、内容に不備がないよう、慎重に契約書を作成する必要があります。
個人間の株式譲渡の場合は、株式譲渡契約書の作成に法的な義務はありませんが、後々のトラブル回避のためにも、株式譲渡契約書の作成が必須です。契約書を交わさない株式譲渡を行う場合、トラブルのリスクが大きくなります。
株式譲渡契約書は一定期間の保管が必要
株式譲渡契約書は、一定期間の保管が必要です。法人の場合は、最低7年間の保管が必要であり、欠損金が発生する場合は、10年間の保管が必要になります。個人同士で交わした場合の株式譲渡契約書は、5年間の保管となっています。(確定申告で使用した場合)
株式譲渡契約書への印紙は原則不要
株式譲渡契約では、基本的に収入印紙は不要です。しかし、株式譲渡の代金がすでに支払われており、「受取書」も兼ねている場合は、収入印紙が必要になります。
印紙税額は、以下のとおりです。
記載された受取金額 | 印紙税額 |
---|---|
5万円未満 | 非課税 |
5万円以上100万円以下 | 200円 |
100万円を超え200万円以下 | 400円 |
200万円を超え300万円以下 | 600円 |
300万円を超え500万円以下 | 1千円 |
500万円を超え1千万千以下 | 2千円 |
1千万円を超え2千万円以下 | 4千円 |
2千万円を超え3千万円以下 | 6千円 |
3千万円を超え5千万円以下 | 1万円 |
5千万円を超え1億円以下 | 2万円 |
1億円を超え2億円以下 | 4万円 |
2億円を超え3億円以下 | 6万円 |
3億円を超え5億円以下 | 10万円 |
5億円を超え10億円以下 | 15万円 |
10億円を超えるもの | 20万円 |
受取金額の記載のないもの | 200円 |
参考:No.7141 印紙税額の一覧表(その2)第5号文書から第20号文書まで|国税庁
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株式譲渡契約書(SPA)のまとめ
株式譲渡契約書とは、譲渡側と譲受側で合意した契約内容を記した重要な書類です。後々のトラブルや思わぬ事態に見舞われることを回避するためにも、適切な株式譲渡契約書の作成が重要になります。
手間をかけずに、不備のない株式譲渡契約書を作成したいなら、専門家に依頼するのがおすすめです。株式譲渡契約書の作成をはじめとして、M&Aや事業承継に関するお悩みは、「みつきコンサルティング」にお任せください。「みつきコンサルティング」には、経営コンサルティング経験者も多く在籍しており、対象企業の詳細な事業分析を実施したうえで、シナジー創出を見込める候補先を紹介しています。さらに、税理士法人グループであることからM&A(第三者への承継)ありきの提案ではなく、事業所内承継、親族内承継など複数の選択肢のメリット・デメリットを比較した提案も可能です。
▷関連:M&Aにおける最終契約書(DA)とは|概要や注意点を分かり易く解説
著者
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宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。
監修:みつき税理士法人
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