事業「継承」と「承継」は違う?事業「譲渡」との違い・使い分け

事業「承継」とは、経営者の地位・精神・事業・仕事などを引き継ぐことです。他方で事業「継承」とは、経営者や会社の財産・権利・義務などを引き継ぐことです。本稿では、事業承継と事業継承、事業譲渡の違いについて詳しく解説します。

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事業を継承・承継する意味

事業を継承または承継するとは、会社の経営権や資産を後継者へ引き継ぐことです。自身が創業社長の場合はもちろんのこと、2代目として会社を発展させた場合においても、会社は自分の分身といえるほど大事な存在です。そのため、次の世代にバトンを渡す事業継承は、経営者の最後の大仕事ともいわれます。

事業「承継」とは

事業「承継」は、先代の精神・事業を引き継ぐことを指し、やや抽象的で形のないものを引き継ぐイメージです。会社の経営権や資産だけでなく、企業理念や事業に対する想い、解決すべき問題といった抽象的な要素も引き継ぐ事業の引継は事業「承継」といわれます。

事業「継承」とは

他方で、事業「継承」は、先代の権利・財産など具体的なものを引き継ぐことを指し、形のあるものを引き継ぐイメージです。例えば、資産の「継承」、伝統や文化の「継承」、王位「継承」などです。

事業継承と事業承継の違い

承継と継承の使い分け

実のところ、両者に明確な区分はなく、いずれの用語を使っても誤りではありません。例えば、2025年10月13日に盛況のうちに閉幕した万博では「大阪・関西万博宣言」で、その理念が「継承」されることが願われています。

事業承継と事業継承の違い_大阪万博の理念を継承

事業の引継について、平成の途中までは「事業承継」と「事業継承」のいずれの用語も使われていましたが、官民で「事業承継」に統一するムードになり、いまでは「事業承継」が一般化しています。「事業承継計画」や比較的新しい幾つかの法律名、例えば「経営承継円滑化法」や「労働契約承継法」、「事業承継税制」等からも、事業引継については「承継」を用いていることが分かります。

事業譲渡とは

事業譲渡とは、会社が営む事業の全部または一部を他社に譲渡するM&A手法です。一定の目的のために組織化され、有機的一体として機能する財産(資産、負債、契約、従業員、ノウハウ等)を個別に移転します。株式譲渡と異なり、譲渡対象の事業を選択でき、会社の法人格は維持されます。

事業承継・事業継承・事業譲渡の違い

事業継承と事業承継、事業譲渡は、言葉が似ており、混同されがちですが、それらが意味するニュアンスは微妙に異なります。以下、事業承継・事業継承・事業譲渡の違いを表にまとめました。

項目事業承継事業継承事業譲渡
定義会社の経営権や資産を後継者へ引き継ぐこと先代の権利・財産など具体的なものを引き継ぐこと会社が営む事業の全部または一部を他社に譲渡するM&A手法
引き継ぐもの経営権、経営資源(経営理念、企業文化、ノウハウ)、物的資産(株式、事業用資産)など抽象的・精神的要素も含む財産、権利、義務など具体的で形のあるもの特定事業に関する資産、負債、契約、従業員、ノウハウ等を個別に選択して移転
ニュアンス先代の精神・事業・経営理念など形のないものを受け継ぐ意味合いが強い形あるもの・具体的なものを受け継ぐ意味合いが強い事業単位での売買取引
類型・相手先親族内承継、社内承継(従業員)、第三者承継(M&A)親族内承継、社内承継(従業員)、第三者承継(M&A)第三者への譲渡(M&A)が多い
法人格維持される維持される維持される
現在の使用状況官民で統一され、一般的に使用される用語。法律名(経営承継円滑化法、事業承継税制等)でも採用平成の途中までは使われていたが、現在はあまり使用されないM&A手法の一つとして広く使用される
目的会社の経営を次世代へ円滑に引き継ぎ、企業の存続・発展を図る財産・権利の移転特定事業の売却・譲渡、事業の選択と集中
株式の移転後継者へ株式を譲渡・贈与・相続後継者へ株式を譲渡・贈与・相続株式は移転せず、事業用資産等を個別に譲渡
適用場面経営者の高齢化、後継者不足への対応経営者の高齢化、後継者不足への対応不採算事業の切り離し、事業の選択と集中

補足説明:

  • 事業承継と事業継承の違い: 両者に明確な区分はなく、いずれの用語を使っても誤りではありませんが、現在は「事業承継」が一般化しています。「承継」は精神的・抽象的要素を含む引継ぎ、「継承」は具体的・物理的要素の引継ぎというニュアンスの違いがあります。
  • 事業承継と事業譲渡の違い: 事業承継は「誰に引き継ぐか」(親族、従業員、第三者)に焦点があり、会社全体の経営権の移転を意味します。一方、事業譲渡は「どの事業を譲渡するか」に焦点があり、会社の一部事業を切り出して譲渡するM&A手法です。事業承継の一手法として第三者承継(M&A)を選択する場合、株式譲渡や事業譲渡などの具体的手法が用いられます。
  • 実務上の位置づけ: 「事業承継」は経営者交代全般を指す広義の概念であり、その実現手段として株式譲渡、事業譲渡、合併などの具体的M&A手法が選択されます。

(以下では、一般的な「事業承継」ではなく、「事業継承」を用いて説明しています。)

事業継承の基礎知識

事業継承の概要を解説します。

事業継承で次世代に引き継ぐもの

中小企業庁『事業承継ガイドライン』によると、事業承継とは「事業」そのものを「承継」する取組とある、とされます。そして、後継者に継承する要素として、ヒト(経営)・資産・知的資産(目に見えにくい経営資源・強み)の三つが挙げられています。ヒトの要素に関しては、現経営者や後継者候補の目線だけでなく、他の取締役や従業員、取引先の目線でも検討する必要があり多くの人から意見をもらう事が望ましいと言えます。

他方で、事業継承を「人的継承」(経営)と「物的継承」(資産)の2つに分ける見方も伝統的に存在します。人的継承とは、経営者に代わって経営を担うことや経営理念・信用等の知的資産を継承することです。物的継承とは、主に自社株や事業用資産の承継を指します。

事業継承の類型

事業継承には、以下の3つの手法が存在します。

  1. 親族内承継
  2. 役員・従業員への社内承継
  3. 第三者への承継(M&A)

それぞれにメリット・デメリットがあるため、慎重な検討が必要です。

事業継承の流れ

事業継承の流れは、多様であり、決まった進め方があるわけではありません。1つ1つのアクションが複雑に絡み合う複線型であるともいえます。

一例としては、中小企業庁『事業承継ガイドライン』で紹介されている5つのステップがあります。

事業承継に向けたステップ

事事継承の流れを下表にまとめました。経営者が早期に事業継承の準備を始め、段階的に進めることで、円滑な事業の引継ぎが可能となります。

ステップ実施内容
1 事業継承に向けた準備の必要性の認識経営者が早期に事業継承に向けた準備の必要性を認識し考えをまとめます。大まかな継承時期、選択肢などを認識するステップです。継承時期に関しては、自身の健康年齢を鑑みた上で、早いくらいの時期が望ましいと言えます。
2 経営状況・経営課題の「見える化」自社の経営状況や経営課題等を把握します。自社の事だけでなく、業界動向や市場性なども考慮し、会社の展望を考えます。事業継承が必要な会社は業界的にも業歴が長いケースが多く、市場が成熟しており成長産業ではないケースも多いものです。それらも含め、検討をすべきでしょう。
3 事業継承に向けた経営改善(磨き上げ)上記を踏まえた経営改善を行います。
4 事業継承計画の策定・マッチングその上で、継承先が親族や従業員の場合には、事業継承計画を策定します。親族や従業員の継承の場合、現経営者目線だけではなく、後継継承候補やその家族にも意思を確認し、時間をかけて継承意思を固める必要があります。継承先が第三者の場合には、引継ぎ先を選定するためのマッチングを実施します。
5 事業継承・M&Aの実行継承先が親族や従業員の場合には、事業継承計画に基づき、経営や資産を引き継ぎます。継承先が第三者の場合には、合意に至ればM&Aを実施します。

事業継承と事業承継の違いのまとめ

事業継承は、経営者にとって避けては通れない大仕事です。それにもかかわらず、自身が元気だからと後回しにされがちです。継承先(後継者)側の事情もあるテーマですから、自身が想定するスケジュールより数年早く検討を始め、準備に着手することが大切です。

みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社として15年以上の業歴があり、中小企業M&Aに特化した経験実績が豊富なM&Aアドバイザーが多数在籍しています。  みつき税理士法人と連携することにより、税務面や法律面のサポートもワンストップで対応可能ですので、M&Aをご検討の際は、成功するM&A仲介で実績のある、みつきコンサルティングにご相談ください。

著者

野口 慎矢
野口 慎矢事業法人第四部長/M&A担当ディレクター
国内証券会社(現SMBC日興証券)にてクライアントの資産運用を支援。みつきコンサルティングでは、消費財・小売業界の企業に対してアドバイザリーを提供。事業承継案件のみならず、Tech系スタートアップへの支援も行う。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修:みつき税理士法人

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