後継者問題に悩む中小企業経営者は多いです。本記事では、銀行系投資会社による事業承継支援の実態と可能性を探ります。経営者の想いを尊重した新しい事業承継の形をご紹介します。
事業承継問題の現状と課題
日本の中小企業における事業承継問題は、年々深刻化しています。経営者の高齢化が進む一方で、後継者不足が顕著となり、多くの優良な企業が存続の危機に直面しています。中小企業庁の調査によると、中小企業の約6割が後継者未定であり、その多くが廃業を検討せざるを得ない状況にあります。
この問題の背景には、以下のような要因があります。
- 少子高齢化による後継者候補の減少
- 事業の将来性に対する不安
- 経営者の高齢化による事業承継の先送り
- 親族内承継の難しさ
これらの要因が複雑に絡み合い、多くの中小企業経営者が事業承継の道筋を見出せずにいるのが現状です。
従来の事業承継手法
一般に事業承継は、主に以下のいずれかの選択肢になります。
- 親族内承継
- 社内承継(従業員承継)
- 第三者承継(M&A)
しかし、これらの手法にはそれぞれ課題があります。親族内承継では、適切な後継者がいない場合や、相続税の問題が障壁となることがあります。社内承継では、後継者候補となる役員・従業員の経営能力や資金力の不足が懸念されます。M&Aについては、適切な買い手を見つけることの難しさや、従業員の雇用継続への不安があります。
このような状況下で、新たな事業承継の選択肢として注目されているのが、銀行系投資会社による支援です。
銀行法改正と事業承継支援
2019年10月、銀行法施行規則が改正され、銀行の投資専門子会社が事業承継支援を目的として事業会社の株式を最長5年にわたり100%保有できるようになりました。この改正は、中小企業の事業承継問題に対する新たなアプローチを可能にしました。
改正の主なポイントは以下の通りです。
- 銀行の投資専門子会社による事業会社株式の100%保有が可能に
- 保有期間の上限を5年に設定(その後の改正により、株式の保有期間が5年から10年に延長されている)
- 事業承継支援を目的とすることが条件
この改正により、銀行系投資会社が中小企業の事業承継支援に本格的に参入する道が開かれました。従来の金融支援にとどまらず、経営支援や人材育成など、より包括的な支援が可能となったのです。
改正の意義と期待される効果
この法改正の意義は、以下の点にあります。
- 中小企業の事業承継問題に対する新たな解決策の提供
- 銀行の持つ金融ノウハウと経営支援機能の融合
- 地域経済の維持発展への貢献
特に、地方の中小企業にとっては、地域金融機関系の投資会社による支援が受けやすくなるため、地域に根ざした事業の継続に寄与することが期待されています。
銀行系投資会社による事業承継支援の特徴
銀行系投資会社による事業承継支援は、従来の手法とは異なるアプローチで中小企業の存続と発展を支援します。その特徴は以下の通りです。
豊富な金融ノウハウの活用
銀行グループの一員として、豊富な金融ノウハウと幅広いネットワークを持つ銀行系投資会社は、資金調達や財務戦略の面で強力なサポートを提供できます。これにより、事業承継に伴う資金面の課題を解決し、円滑な承継を実現することが可能となります。
従業員の雇用維持への配慮
多くの中小企業経営者にとって、従業員の雇用維持は大きな関心事です。銀行系投資会社は、従業員の雇用を維持しながら事業を継続することを重視し、急激な人員削減や事業再編を避ける傾向があります。これにより、経営者は安心して事業承継を進めることができます。
銀行系投資会社を活用するメリット
中小企業経営者が銀行系投資会社を活用することで得られるメリットは多岐にわたります。以下、主なメリットについて詳しく見ていきましょう。
経営の専門家による支援
銀行系投資会社には、経営や財務の専門家が多数在籍しています。これらの専門家が、経営課題の分析から解決策の提案、実行支援まで一貫してサポートします。経営者は、これまで一人で抱え込んでいた課題を、専門家と共に解決していくことができます。
具体的には以下のような支援が期待できます:
- 経営戦略の立案と実行支援
- 財務体質の改善
- 業務効率化の提案
- 新規事業開発のサポート
これらの支援により、企業の競争力強化と持続的成長を実現することが可能となります。
資金調達の円滑化
銀行系投資会社は、親会社である銀行のネットワークを活用し、必要に応じて資金調達を支援します。これにより、事業拡大や設備投資、財務体質の改善など、企業の成長に必要な資金を確保しやすくなります。
また、銀行系投資会社自身が出資することで、企業の信用力向上にもつながり、取引先や金融機関からの信頼獲得にも寄与します。
次世代経営者の育成
多くの中小企業では、次世代経営者の育成が課題となっています。銀行系投資会社は、経営のノウハウや最新の経営手法を提供し、次世代経営者の育成をサポートします。
具体的には以下のような支援が行われます。
- 経営塾の開催
- 他社の経営者との交流機会の提供
- 専門家によるメンタリング
- 実践的な経営参画機会の創出
これらの取り組みにより、次世代経営者の育成を加速し、円滑な事業承継を実現することができます。
M&Aや事業再編のサポート
事業承継の過程で、M&Aや事業再編が必要となるケースもあります。銀行系投資会社は、そのような場合にも豊富な経験とネットワークを活かし、最適な解決策を提案します。
例えば、以下のようなサポートが期待できます。
- 買収先や売却先の紹介
- デューデリジェンスの支援
- 交渉のサポート
- PMI(買収後の統合)支援
これらの支援により、企業価値を最大化しながら、円滑な事業承継を実現することが可能となります。
銀行系投資会社活用の注意点
銀行系投資会社の活用には多くのメリットがありますが、同時に注意すべき点もあります。以下、主な注意点について解説します。
経営権の一時的な譲渡
銀行系投資会社を活用する場合、一定期間(通常5年程度)、経営権の一部または全部を譲渡することになります。これは、企業の価値向上と次世代への円滑な承継を実現するために必要なプロセスですが、長年自社を経営してきた経営者にとっては大きな決断となります。
経営権の譲渡に際しては、以下の点を十分に検討する必要があります。
- 譲渡する経営権の範囲
- 経営への関与の度合い
- 意思決定プロセスの変更
- 従業員や取引先への影響
これらの点について、銀行系投資会社と十分に協議し、互いの役割と責任を明確にしておくことが重要です。
企業文化や理念の維持
銀行系投資会社が経営に関与することで、これまで培ってきた企業文化や理念が変化する可能性があります。特に、短期的な業績改善を重視するあまり、長年大切にしてきた価値観が軽視されるケースもあります。
このようなリスクを回避するためには、以下の点に注意が必要です。
- 企業理念や価値観の明文化
- 銀行系投資会社との価値観の共有
- 従業員とのコミュニケーション強化
- 定期的な企業文化の確認と評価
これらの取り組みにより、企業の独自性を維持しながら、新しい価値観を取り入れていくことが可能となります。
出口戦略の明確化
銀行系投資会社による支援は、通常5年程度の期間限定です。そのため、支援期間終了後の出口戦略を事前に明確にしておく必要があります。
考えられる出口戦略としては、以下のようなものがあります。
- 経営者やその親族による株式買戻し
- 従業員持株会への売却
- 第三者への売却(M&A)
- 上場
これらの選択肢について、支援期間中に十分な検討と準備を行うことが重要です。また、出口戦略の実行に必要な資金計画も併せて立てておく必要があります。
情報管理とコンプライアンス
銀行系投資会社との連携には、自社の機密情報を共有することが必要となります。そのため、情報管理とコンプライアンスの徹底が求められます。
特に注意が必要な点は以下の通りです。
- 秘密保持契約の締結
- 情報共有の範囲と方法の明確化
- インサイダー取引の防止
- 利益相反の管理
これらの点について、銀行系投資会社と十分に協議し、適切な管理体制を構築することが重要です。
以下では、改正銀行法に基づく銀行系投資会社として実績を積み上げているSBI新生銀行グループの投資会社を紹介します。
新生事業承継の紹介
新生事業承継株式会社は、SBI新生銀行グループの投資専門子会社として、中小企業の事業承継問題に取り組んでいます。
新生事業承継による支援の特徴
同社の事業承継支援には以下のような特徴があります。
銀行系ならではの豊富な資金力
新生事業承継は、SBI新生銀行グループの一員として潤沢な資金力を持っています。これにより、ファンドのように資金を集めてから投資するのではなく、必要な時に迅速に資金提供が可能です。
長期的視点での経営支援
銀行法施行規則の改正により、新生事業承継は最長5年間にわたって事業会社の株式を100%保有することができます。この期間を活用し、短期的な利益追求ではなく、企業の中長期的な価値向上を目指した支援を行います。
実務に基づいた事業性評価
新生事業承継は、実際の事業承継の実務経験を重視し、トライ&エラーを通じて実践的なノウハウを蓄積しています。この実務経験に基づいた事業性評価が、適切な支援につながっています。
経営者の想いを尊重した承継プラン
新生事業承継は、長年企業を経営してきた経営者の想いを大切にしています。単なる財務的な支援だけでなく、経営者の人生や従業員の幸せも考慮した承継プランを提案しています。
事業承継支援の具体的なアプローチ
新生事業承継は、以下のようなアプローチで事業承継支援を行っています。
新生事業承継による株式買取
新生事業承継が株主となり、資金提供や経営支援などを機動的に行うことで、事業の円滑な承継を支援しています。
従業員への配慮
新生事業承継は、事業承継の過程で従業員の処遇にも配慮しています。場合によっては従業員への金一封の支給なども提案しています。
柔軟な出口戦略
支援期間終了後の出口戦略についても柔軟に対応します。新スポンサーや共同投資家への株式持分譲渡、自社株買い、上場など、対象企業の状況に応じて最適な方法を選択します。
投資事例
新生事業承継では、事業承継支援を目的とした複数の投資実績があります。ご関心のある方は、新生事業承継のホームページでご確認ください。
▷関連:新生事業承継のホームページ
銀行系投資会社のまとめ
銀行系投資会社による事業承継支援は、2019年の銀行法改正を機に、中小企業の後継者問題に対する新たな解決策として注目されています。長期的視点での経営支援や経営者の想いを尊重した承継プランなどが特徴ですが、経営権の将来の再譲渡や企業文化の変化には注意が必要です。適切に対処すれば、この支援方法は中小企業の円滑な事業承継と持続的成長を実現する新たな選択肢となり、地域経済の維持発展にも貢献すると期待されています。
様々な事業承継の選択肢を比較検討されたい経営者は、みつきコンサティングにご相談ください。税理士法人グループとして、複合的な視点からの検討・提案が可能です。
著者
-
人材支援会社にて、海外人材の採用・紹介事業のチームを率いて新規開拓・人材開発に従事。みつきコンサルティングでは、強みを生かし人材会社・日本語学校等の案件を中心に工事業・広告・IT業など多種に渡る案件支援を行う。
監修:みつき税理士法人
最近書いた記事
- 2024年11月13日事業承継での転廃業支援|SBI新生銀行グループが支援するM&A型廃業とは
- 2024年11月13日銀行系投資会社とは?事業承継の新たな選択肢!特徴や注意点を解説
- 2024年11月10日M&Aに利用できる減税措置「経営資源集約化税制」の内容・適用要件
- 2024年11月3日個人事業主の廃業届の提出時期|書き方・手続・注意点・休業とM&A