会社の休業(休眠)とは?廃業との違い・メリットとデメリット

休業とは、会社を残しながら、事業活動を停止することをいいます。「休眠」と言われることもあります。似たような用語に「廃業」があり、本記事では、休業(休眠)と廃業の違いやそれぞれのメリット・デメリットをします。

休業(休眠)とは

会社の「休業」とは、法人格は残したまま、現行の経営活動すべてを一時的に停止させることを意味します。この場合、法人登記記録は登記簿上に残ったままで、事業活動の再開時には手続が円滑に進められます。また、後で詳しく述べる状況下で「廃業」を検討する際に、「休業」がより適切な選択肢となる可能性があります。

休業が適切な選択肢となるケース

  • 経営者が高齢化や病気などで事業継続が難しい場合
  • 事業再生のための時間を確保したい場合
  • 廃業に向けて準備期間を設けたい場合

休業として扱われる条件は以下の通りです。

休業となる条件

  • 最後の登記から12年以上が経過している(株式会社の場合)
  • 税務署で休業手続が完了している

株式会社の場合、最後の登記から12年間何も手続を行わないと、自動的に休業扱いとなります。一方、有限会社や合同会社では、法律上任期が定められていないため、最終登記から12年が経過しても休業(休眠会社)となることはありません。なお、12年を待たなくても、自ら税務署へ届け出を行い手続を行うことで、休業が認められます。

休業(休眠)と廃業の違い

経営者が会社の事業や営業活動を停止させる際に、休業と廃業が選択肢となります。しかし、両者には大きな違いがあるため、それぞれの特徴を理解して適切な選択を行うことが重要です。

休業と廃業の主な違いは以下の通りです。

  • 休業: 一時的に事業や営業活動を停止させるものの、会社自体は存続
  • 廃業: 会社の事業や営業活動を完全に取りやめ、会社を消滅

新型コロナウイルスの影響で休業や廃業を検討する経営者も増えており、厚生労働省の『「休廃業・解散企業」件数の推移』によれば、様々な企業が休廃業・解散に迫られている状況です。

事業再開を視野に入れた場合、休業が選択肢として考えられます。休業では会社が存続するため、再スタート時に新たな登記費用が不要となります。これにより、事業再開時の費用の負担軽減が期待できます。

一方で、新たな事業に取り組みたい場合は、廃業を選択肢として考えられます。廃業を選択すると会社が消滅するため、新しい会社の立ち上げ時には新たに登記費用が発生しますが、これによってクリーンな状態で新事業へのチャレンジすることが可能となります。

経営者自身は個人事業主や株式会社の代表として、廃業や休業の選択を行う際には、事業の将来を考慮し、税務や法人登記の手続に関する知識も踏まえた上で、専門家への相談を検討することが望ましいです。

休業(休眠)のメリット・デメリット

業績が低迷している場合や後継者が未決定で、一時的に時間を確保したいと考える際には、会社の休業という選択肢が有益であることがあります。ここでは、休業を選択するメリットとデメリットについて詳しく説明します。

メリット

休業(休眠)するメリットを紹介します。

いつでも事業を再開できる柔軟性

休業によって事業活動を一時的に停止した場合でも、登記簿上は会社として存続しているため、事業再開の際にはいつでもすぐに取り組むことができます。再開に際しては、自治体や税務署、年金事務所へ再開の意思を伝える書類を提出し、確定申告を行うだけで済むため、手続も容易です。

許認可の再取得が不要

もし廃業を選択した場合、新たな事業を開始する際には許認可を再度取得する必要がありますが、休業を選択した場合は休業前に取得していた許認可が継続されるため、そうした手間が不要になります。このように、休業を選択することで事業再開に向けて手続がスムーズに進みます。

費用負担が少なくて済む

廃業の場合、以下の3つの登記が必要です。

  1. 解散登記
  2. 清算人選任登記
  3. 決算結了登記

これらの登記を法務局で行う際には、それぞれ約4万円程度の費用が発生します。また、官報に公告掲載するためにも約3万~4万円の準備が必要です。

一方で、休業を選択する場合は、書類提出の手続のみで済むため、廃業時にかかる費用は発生しません。また、休業中には所得がないため、法人税や法人事業税、消費税を支払う必要がないという点もメリットとして挙げられます。さらに、都道府県民税や市区町村税の均等割(法人住民税の均等割)についても、一部免除されることがありますが、これは自治体によって異なります。

デメリット

会社の休業には、メリットだけでなくデメリットも存在します。

税務申告は毎年続く

企業が休業状態にあっても、納税の義務が残っています。

休業中の企業は所得が発生しないため、法人税の負担は生じませんが、法人住民税の均等割は所得に関係なく納税が求められます。都道府県税事務所・市区町村役場に異動届出書を提出することにより、この均等割の支払いが免除される場合がありますが、自治体により取扱いが異なりますので、個別に確認が必要です。また、固定資産を保有している法人には、固定資産税の納税義務は残ります。

役員変更登記の義務が続く

休業中も会社は存続していることから、役員地位の継続が求められます。特に、株式会社においては役員の任期が最長で10年までと定められており、休業中も役員変更登記が必要となることがあります。なお、任期満了後2週間以内に手続が行われない場合は、会社法により過料が課せられることもあるため注意が必要です。

12年以上の休業で「みなし解散」となる

株式会社においては、最終登記から12年以上経過すると、事業活動がないものとして「みなし解散」とされることがあります。これは、企業が存続しているものの、実質的には解散状態となってしまう恐れがあることを意味します。こうなった場合、再度企業活動を再開させようとする際には手間がかかる手続が必要となります。

通常は、株式会社が10年に一度の役員変更登記を行うことが求められているため、12年以上の放置はあまり考えられません。また、法務局は定期的に休眠会社の整理作業を行っており、対象企業には官報公告が行われた旨の通知が届くことがあります。通知を受け取った場合、2ヶ月以内に登記申請を行うか、「廃業していない」旨の届け出を行わないと解散とみなされます。ただし、みなし解散後に会社を継続することを希望する場合、解散後3年以内であれば、株主総会などの特別決議を通じて継続が可能です。

休業の手続・方法

会社休業に関連する手続について、詳細に解説しています。

事業の停止とその検討

休業に向けて最初に行う手続は、事業の停止となります。「事業の停止」とは、「収入も支出もない状態」を意味しています。ただし、電話応対や郵便物のやり取りがある場合には、事業の停止とみなされないことがあるため注意が必要です。

休業届の作成と提出について

会社を休業させる際には、休業のタイミングで必要な書類を作成・提出することが重要です。具体的には、以下の手続が必要となります。

税務署への異動届出書の作成・提出

休業中であることを届け出るため、所定の異動届出書を提出します。異動届出書の用紙は税務署に備え付けのもの、または国税庁のホームページからダウンロードできます。異動届出書の「異動事項等」欄に「休業」、異動年月日の欄に「休業した日付」を記載して提出します。

都道府県税事務所・市区町村役場への異動届出書の作成・提出

自治体ごとに様式が異なるため、提出前に確認が必要です。

休業届の受理とその後の対応

休業届が提出され、受理されると、会社の運営がストップし、登記簿上に存在しているだけの状態になります。この際、企業運営が不要になっても、役員変更登記の手続を忘れないようにしましょう。最終登記から12年以上手続を行わない場合、解散したとみなされることがあり、解散登記が行われるリスクがありますので注意が必要です

提出先提出書類
税務署異動届出書(休業する旨を記載)、給与支払事務所の開設・移転・廃止届出書(廃止の欄の休業のところに✓を入れる)
都道府県税務署異動届出書(休業する旨を記載)
市区町村役場異動届出書(休業する旨を記載)
労働基準監督署労働保険確定保険料申告書
ハローワーク雇用保険適用事業所廃止届、資格喪失届
年金事務所健康保険・厚生年金保険適用事業所全喪届、資格喪失届
休業関係の届出の提出先・提出書類

休業にかかる費用

会社を休眠状態にする場合、各機関への書類作成や提出を自分で行う場合は、通常は手続にかかる費用は発生しません。しかし、一部の手続を専門家へ相談する場合、費用が発生することがあります。以下にその詳細を述べます。

  • 必要書類の作成や各機関への提出を自身で行う場合、費用は発生しません。
  • 休業届の作成や提出、役員変更登記などを専門家に相談する際、依頼費が発生します。
  • 自治体への手続や税務署、都道府県税事務所、市区町村役場への異動届出書の提出が必要ですが、これらの手続自体には手数料はかかりません。
  • 専門家に依頼する場合、報酬額が発生します。依頼する際は、専門的なアドバイスを受けられることを考慮し、内容を精査しましょう。
  • 休業手続後は、会社が休業状態であっても存続する限り、法人税や法人住民税の課税対象となる点も注意が必要です。
  • 会社の都合で休業する場合にも、従業員に対して休業手当を支払う必要があります。休業手当は平均賃金の60%と定められており、給料の一部とみなされるので課税対象になります。ただし、「使用者の責に帰すべき事由」によらない休業(自然災害などを原因とする休業など)の場合は、休業手当を支給する必要はありません。

休業(休眠)のまとめ

事業の停止を考慮する際、二つの選択肢「廃業」と「休業」が存在します。この記事では、手続や費用面で負担が軽減される「休業」に焦点を当てて解説いたします。 書類の提出のみで休業手続が完了し、事業再開を望む場合、容易に再開できる点が休業のメリットとなります。ただし、企業が存続している限り、税務申告や役員変更登記などの手続は避けられません。これらの点を充分に考慮した上で、「休業」と「廃業」のどちらが自社に適しているか慎重に判断することが重要です。専門家への相談も有益であり、適切な選択ができるようにサポートを受けることをお勧めします。

みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社として15年以上の業歴があり、中小企業M&Aに特化した経験実績が豊富なM&Aアドバイザーが多数在籍しております。みつき税理士法人と連携することにより、税務面や法律面のサポートもワンストップで対応可能ですので、M&Aをご検討の際は、成功するM&A仲介で実績のある、みつきコンサルティングに是非ご相談ください。 

著者

田原聖治
田原聖治事業法人第一部長
みずほ銀行にて大手企業から中小企業まで様々なファイナンスを支援。みつきコンサルティングでは、各種メーカーやアパレル企業等の事業計画立案・実行支援に従事。現在は、IT・テクノロジー・人材業界を中心に経営課題を解決。
監修:みつき税理士法人

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