後継者が決まらない、継いでくれる家族もいない。そんなとき自社株をどう動かすかで、会社の将来は変わります。第三者への会社売却と親族承継、それぞれの進め方や評価額の出し方、課税の仕組みまで、中小企業の現場感覚でやさしく整理しました。
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非上場株式の譲渡とは|M&Aと親族承継で異なる位置づけ
非上場株式は、証券取引所に上場していない会社の株式で、俗に「自社株」とも呼ばれます。市場価格が存在しないため、いくらで動かすのか、誰に渡すのかで論点が大きく変わるのが特徴です。
非上場株式を動かす2つの道
株を動かす場面は、大きく2つに分かれます。1つは親族や役員に引き継ぐ承継。もう1つが、第三者へ会社ごと譲る会社売却です。後者のM&Aは、後継者が見つからない中小企業にとって現実的な出口になりました。事業承継の全体像は事業承継の進め方で、家族へ渡す道筋は親族内承継の手順で整理しています。
ほとんどの非上場株式には譲渡制限がある
日本の中小企業は、定款で株式の譲渡制限を設けているのが大半です。勝手に株を第三者へ売られ、見知らぬ人が株主に加わる事態を防ぐ仕組み。だからこそ譲渡には、会社の承認という関門が必ず付いてきます。
市場価格がないから株価をつくる必要がある
上場株なら板を見れば値段がわかります。非上場株はそうはいきません。誰かが何らかの方法で価値を計算し、株価を組み立てる作業が要る世界です。この一手間こそ、譲渡の難しさであり、専門家が関わる理由でもあります。
会社売却(M&A)で非上場株式を譲渡する流れ
第三者へ株式を譲るM&Aは、準備から決済まで半年から1年ほどかけて進むのが通例です。下表で全体の流れをつかんでから、要所を見ていきましょう。
| 段階 | 主な作業 | ねらい | |
|---|---|---|---|
| 1 | 事前準備 | 株主名簿の確認、分散株の集約、譲渡制限の点検 | 売れる状態に整える |
| 2 | 専門家の選定 | M&A仲介・税理士・会計士・弁護士への相談 | 体制を組む |
| 3 | マッチング・交渉 | 譲受企業の探索、秘密保持契約、基本合意 | 相手と条件を固める |
| 4 | デューデリジェンス | 譲受企業による財務・法務・税務の調査 | リスクを洗い出す |
| 5 | 最終契約・クロージング | 株式譲渡契約の締結、名簿書換、代金決済 | 取引を完了する |
事前準備では株主の散らばりを片づける
意外と多い落とし穴が、株が親戚や元役員に少しずつ散っているケースです。少数株主が残ったままだと、譲受企業は100%取得をためらいます。誰がどれだけ持っているのか、名簿で実態を押さえておきましょう。
専門家を選び、相手を探す
会社売却は相手探しが山場になります。中小企業のM&Aでは、仲介会社が候補企業のネットワークを使ってマッチングを担うのが一般的。守秘義務を交わしたうえで情報を開示し、条件のすり合わせへ進みます。
デューデリジェンスと最終契約
譲受企業は、対象会社の中身を細かく調べます。これがM&Aのデューデリジェンスです。簿外債務や係争が見つかれば、価格や条件が動くこともあります。調査を通過したら、株式譲渡契約書の作り方に沿って契約をまとめ、名簿を書き換えて決済へ。ここまで来れば、ゴールは目前です。
非上場株式の株価を算定する3つのアプローチ
市場価格がない以上、株価は計算してつくります。M&Aの世界では、評価の物差しが大きく3系統あります。会社の状況に応じて使い分け、ときに組み合わせるのが実務です。考え方の土台は企業価値評価の基本で詳しく触れています。
コストアプローチ(純資産をもとにする)
会社が持つ資産から負債を引いた純資産を軸に値段を出す考え方です。小規模・中規模の会社で広く使われています。資産を時価に引き直して評価する手法が時価純資産法による株価算定で、簿価との差が手取りを左右します。
インカムアプローチ(将来の稼ぐ力をもとにする)
これから生み出すキャッシュフローを予測し、現在価値に割り引いて評価する考え方です。代表格がDCF法による株価の決め方。成長余地のある会社では、純資産だけでは見えない価値を拾えます。
マーケットアプローチ(似た会社と比べる)
同業の上場企業や、過去の似たM&A事例の指標に照らして値段を導く方法です。上場類似会社の株価収益率などを当てはめるのが代表例。市場の相場観を取り込めるのが強み。比較対象が乏しい業種だと精度が落ちる、という弱点も抱えています。
税務上の株価とM&Aの時価はずれることがある
ここは現場で見る論点です。親族へ渡すときに使う相続税評価額と、第三者へ売るときのM&A時価は、別物として動きます。前者は税法のルールで機械的に決まり、後者は譲受企業の期待値で上下するもの。同じ株でも値段が違って当然なのです。
親族へ非上場株式を譲渡する手続と留意点
会社売却ほど大がかりではありませんが、親族への譲渡にも踏むべき段取りがあります。承認をとり、契約を交わし、名簿を書き換える。この基本形は外せません。家族間で渡すか売るかの比較は親族間で渡すか売るかにまとめています。
承認請求から株主名簿の書換まで
譲渡制限株式は、会社の承認を経て初めて移せます。下表に、親族へ渡す場合の手続を時系列で示しました。
| 順序 | 手続 | 押さえどころ |
|---|---|---|
| 1 | 譲渡承認の請求 | 譲渡する株式の種類・数と、相手方を書面で示す |
| 2 | 株主総会または取締役会の承認 | 取締役会設置会社は取締役会で決議する |
| 3 | 決定内容の通知 | 請求日から2週間以内。通知を怠ると承認したものとみなされる |
| 4 | 譲渡契約の締結 | 株式数・譲渡額・支払方法などを契約書に明記する |
| 5 | 株主名簿の書換 | 書換と代金決済が済めば移転が完了する |
親族間は株価が低くなりやすい
家族へ渡すときは、税務上の評価額をベースに値づけするのが通例です。第三者へ売るときのような譲受企業の上乗せが乗らないため、株価は控えめにとどまります。創業者が手にする利益も、その分だけ小さくなる点は知っておきたいところ。
みなし譲渡所得課税やみなし贈与に注意
安く渡せば税金も軽い、とは限りません。時価より著しく低い価額でやり取りすると、差額をめぐって思わぬ課税が起きることがあります。譲受側が法人なら、時価の2分の1未満の譲渡でみなし譲渡課税の対象に。無償で渡す場合の落とし穴は無償の株式譲渡と贈与税で具体的に解説しました。
非上場株式の譲渡にかかる税金
譲渡で利益が出れば、課税が待っています。誰が、どんな形で渡すかによって税の種類が変わるのが厄介なところ。代表的なパターンを順に押さえましょう。
個人株主が譲渡する場合は20.315%
個人が非上場株式を譲って利益が出ると、譲渡所得として申告分離課税の対象になります。税率は20.315%で、内訳は所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%。給与など他の所得とは合算されません(No.1463 株式等を譲渡したときの課税)。
譲渡益の出し方と申告のイメージ
課税されるのは売値そのものではなく、利益部分です。譲渡益は、譲渡価額から取得費と譲渡費用を差し引いて求めます。たとえば3,000万円で譲り、取得費と費用が500万円なら、2,500万円が課税対象。これに20.315%を掛けた約508万円が税額の目安です。確定申告の書き方に迷ったら譲渡所得の確定申告と書き方が役に立ちます。
法人株主が譲渡する場合
株主が法人なら、譲渡益に法人税等がかかります。
譲渡益=譲渡価額−(取得原価+譲渡費用)
法人税は他の所得と通算されるため、最終的な負担は会社全体の損益で変わってきます。単年の利益だけで判断しないことが肝心。決算全体を見て試算するのが安全です。
贈与や相続で承継する場合
株を売るのではなく贈与・相続で渡すなら、贈与税や相続税の世界に入ります。生前に渡せば贈与税、死後に引き継げば相続税。税務上の株価を下回る価額で親族へ譲った場合も、贈与とみなされかねません。売る・贈る・相続の違いは株式贈与と譲渡の違いで比較しています。
贈与税・相続税の基礎控除
贈与税には年110万円の基礎控除があり、相続税の基礎控除は次の式で求めます。
相続税の基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
計算の詳細は、国税庁のNo.4408 贈与税の計算と税率とNo.4152 相続税の計算で確認できます。
事業承継税制を使うなら期限に注意
後継者へ自社株を渡す税負担を抑える仕組みが、事業承継税制です。特例措置を使えば、贈与税・相続税の納税が猶予されます。ただし入口の期限が迫っています。特例承継計画の提出は2027年9月30日まで、贈与・相続は2027年12月31日までです(法人版事業承継税制(特例措置))。
承継税制と会社売却のどちらが有利かは事業承継税制とM&Aの比較で検討しています。
親族承継か会社売却か|判断の分かれ目
非上場株式の譲渡を考え始めた経営者が、最後に迷うのがこの分岐です。家族に継がせるのか、第三者へ売るのか。よくある相談として、後継者を息子と決めていたのに本人が乗り気でなかった、という展開があります。同族での承継については同族会社の株式譲渡と税金も合わせて読むと整理が進みます。
判断を分ける5つのチェック項目
当社の支援現場では、下表の観点で頭を整理してもらうことが多いです。当てはまる数が多い側に、答えが寄っていきます。
| 確認したいこと | 親族承継が向く | 会社売却が向く |
|---|---|---|
| 後継者の意思 | 継ぐ覚悟のある家族がいる | 継ぎ手がいない、いても継がない |
| 創業者利益 | 手取りより承継を優先する | 引退資金をしっかり確保したい |
| 個人保証 | 家族が保証を引き継げる | 保証から早く解放されたい |
| 従業員の将来 | 家族が雇用を守れる | 大手の傘下で安定させたい |
| 成長の余地 | 現体制で伸ばせる | 資本提携で加速したい |
現場で見た切替の一例
年商9億円ほどの地方の部品加工会社で、当初は長男への承継を予定していました。ところが本人が別業界でのキャリアを望み、承継の話は止まります。社長が選んだのは、同業大手への会社売却でした。結果として、従業員の雇用は守られ、社長は個人保証からも外れた格好です。後継者不在を会社売却で解いた典型例といえます。
非上場株式の譲渡(売り手)に関するFAQ
相談の場でよく出る質問をまとめました。
利益が出た個人の譲渡なら、原則として申告が要ります。給与所得者でも、株式の譲渡益は分離課税で別途申告するのが基本です。損失だけで利益がない年は、繰越などを使わない限り申告義務は生じません。迷ったら取得費の資料をそろえて税理士に確認するのが安全です。
上場株の特定口座のような源泉徴収の仕組みは、非上場株にはありません。買い手が個人なら源泉徴収は発生しないのが原則です。一方、譲受側が法人で個人へ支払う場合は、源泉徴収が必要になるケースがあります。支払う側の立場で確認しておきましょう。
税務上の評価額を基準に決めるのが通例です。相続税評価のルールに沿って算定し、著しく低い価額を避けます。低すぎると、みなし贈与として課税されるおそれがあるためです。評価方式の選び方は会社規模で変わるので、事前の試算をおすすめします。
買い手の関心は、これから稼げるかどうかに集まります。そのため将来収益を見るインカムアプローチが重視されがちです。ただ中小企業では純資産を土台に置く案件も多く、最終的には複数手法を突き合わせて落とし所を探ります。
中小企業のM&Aは、相談から成約まで半年から1年が一つの目安です。相手探しや条件交渉が長引けば、さらに延びることもあります。準備が整っているほど話は早く進むので、株主や決算資料の整理は早めに着手しておくと安心です。
非上場株式の譲渡とM&Aのまとめ
非上場株式の譲渡は、親族へ引き継ぐ道と第三者へ売る道で、株価のつくり方も税金も変わります。市場価格がないぶん、評価と手続を丁寧に詰めることが手取りと安心につながります。何から手をつけるべきか、迷うのは自然なことです。
みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社として、株価算定から税務、手続までをワンストップで支えます。中小企業の会社売却・事業承継の実績が豊富で、初めての検討でも現場目線で並走します。譲渡の方向性に悩んだら、お早めにご相談ください。
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著者

- 事業法人第三部長/M&A担当ディレクター
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宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修者 神門 剛 代表取締役 / 公認会計士・税理士
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