後継者がいない、いても継ぐ気がない。親族で株式を引き継ぐべきか、第三者への会社売却へ切り替えるべきか迷うオーナー経営者は少なくありません。相続・贈与・売買の手続と税金を整理しつつ、みなし贈与のリスクや株価算定の勘所、M&Aへ切り替える判断基準まで実務目線で解説します。
「うちの会社でも売却できるだろうか…」、「何から始めればいいんだろう…」。そのようなオーナー経営者の不安に、中小企業向けM&A仲介会社みつきコンサルティングは、20年間・500件以上の支援実績に基づき、お応えします。本格検討前の情報収集として、まずはお話をお聞かせください。
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親族間株式譲渡とM&A(第三者承継)はどう違うのか
同じ「株式を渡す」でも、渡す相手が身内か社外かで景色はまるで変わります。下表で全体像をつかんでください。
| 比較項目 | 親族間株式譲渡(親族内承継) | M&A(第三者承継) |
|---|---|---|
| 主な目的 | 子や親族へ円滑に経営を引き継ぐ | 後継者不在の解消、会社の存続、創業者利益の確保 |
| 後継者 | すでに決まっている(子・親族) | これから探す(マッチングで選定) |
| 譲渡対価 | 無償の贈与から適正価格の売買まで幅がある | 市場価値にもとづく適正価格 |
| 経営の移行 | 時間をかけて育成し段階的に渡す | 段階的または即時に経営権を完全移行 |
| 主な税金 | 相続税・贈与税・所得税(住民税) | 譲渡益に所得税・住民税が一律20.315% |
| 強み | 社内や取引先の混乱が小さい 経営権を一族に残せる | 後継者がいなくても存続できる まとまった現金が手元に残る |
| 弱み | 後継者の資質次第で経営が傾く 税負担が重くなりやすい | 希望条件の買い手が見つからない場合がある 風土変化への従業員の不安 |
後継者がいるかどうかで道は分かれる
分岐点はシンプルです。継ぐ人がいるなら親族内承継、いないなら第三者承継。ただし「いる」と思っていた後継者が実は迷っている、というケースは現場でよく見かけます。
譲渡対価をいくらで決めるか
身内なら安く渡せる、と考えがちです。ところが価格を低くしすぎると、後述するみなし贈与の課税が待っています。会社売却の手法と価格の決まり方を一度押さえておくと、身内に渡す場合の妥当な水準も見えてきます。
経営権が移るスピード
親族内承継は数年がかりで育てながら渡すのが通常です。一方のM&Aは、契約と決済で経営権が一気に動きます。時間軸がまったく違う点は、最初に意識しておきたいところ。
親族内承継には限界がある|後継者不在と株式分散
親族へ渡すのが理想と思っていても、現実には壁にぶつかります。代表的な二つの限界を見ていきます。
後継者がいても継がない・継げない
「息子に継がせる前提だったが、本人にその気がなかった」。こうした相談は珍しくありません。後継者が都市部で別の道を歩んでいる、経営の重圧を背負わせたくない。理由はさまざまです。後継者不足を第三者承継で解決する道も、早い段階から選択肢に入れておくと判断に余裕が生まれます。
株式が分散して経営権が揺らぐ
相続を重ねるうちに、株式が配偶者や複数の子へ散らばっていく。気づけば社長の持株比率が下がり、重要事項を単独で決められない。こうした状態は、承継後の経営を不安定にします。遺産分割による経営権分散の防ぎ方を踏まえ、早めに集約しておく発想が要ります。
第三者承継(M&A)へ切り替える判断基準
親族内承継にこだわり続けるべきか。支援現場では、次のいずれかに複数あてはまる場合、第三者承継の検討をおすすめしています。
| 確認項目 | あてはまる状況 |
|---|---|
| 後継者の意思 | 本人に継ぐ意思がない、または明確な返事を避けている |
| 後継者の適性 | 事業を任せられる経験・信用が現時点で不足している |
| 納税資金 | 相続税・贈与税を払う現金の当てがない |
| 株式の状態 | 株主が分散し、後継者が過半数を確保できない |
| 個人保証 | 後継者に経営者保証を引き継がせることに抵抗がある |
どれか1つでもあてはまるなら、無理に身内で完結させず、後継者不在を補う事業承継型M&Aへ視野を広げる時期かもしれません。
親族間で株式を承継する3つの方法
第三者承継を検討するにせよ、親族へ渡す手法の中身は知っておく必要があります。承継の方法は相続・贈与・譲渡(売買)の3つ。基本を一覧で整理します。
| 承継の方法 | 渡し方 | 主にかかる税金 |
|---|---|---|
| 相続 | 経営者の死亡により親族が株式を受け継ぐ | 相続税 |
| 贈与 | 生前に無償で親族へ株式を渡す | 贈与税 |
| 譲渡(売買) | 親族が対価を払って株式を買い取る | 所得税・住民税(譲渡側) |
まずは親族内承継の手順とメリットを俯瞰したうえで、各方法の長所と短所を確認しましょう。
相続のメリットと注意点
相続は手続が自動的に始まる点が利点です。遺言があればその内容で実行され、争いを防ぎやすい。基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人数)の範囲なら相続税もかかりません。
反面、遺言がなければ相続争いの火種になりやすく、形式不備の遺言は無効になることもあります。
贈与のメリットと注意点
贈与は経営者の意思を反映しやすく、計画的に進めれば税率を抑えられます。年間110万円の基礎控除を使う暦年贈与、累計2,500万円まで贈与税を繰り延べる相続時精算課税の二つが軸です。
ただし枠を超えれば贈与税が生じます。詳しい使い分けは株式贈与による事業承継の流れで確認できます。
譲渡(売買)のメリットと注意点
売買なら経営者の意向を反映しつつ、譲渡オーナーは譲渡益を老後資金などに充てられます。資金力のない相手の参入を防げる点も実務上の利点です。
一方で譲受側は買取資金が要り、価格が安すぎると贈与税の問題が浮上します。親族への非上場株式譲渡の注意点もあわせて押さえておくと安心です。
親族間株式譲渡の手続と必要書類
手続の流れは方法ごとに異なります。実務でつまずきやすい箇所を中心に解説します。
相続で承継する手順
遺言がなければ、法定相続人全員で遺産分割協議を行い、協議書を作ります。後継者を決めたうえで名義を動かしていきます。
後継者と分割方法を決める
株式のまま分けるか、現金化して分けるか、1人が引き取るか。会社の支配権を守るなら、後継者へ集約する形が望ましいでしょう。
株式の名義を変更する
非上場株式は発行会社へ相続の申請を行い、株式評価のうえ株主名簿を書き換えます。最後に相続税の申告と納付。譲渡制限株式を相続するときの取扱いも確認しておくと、承認手続の要否で迷いません。
贈与で承継する手順
贈与は口頭でも成立しますが、後の相続で根拠を問われる場面があります。書面に残しておくのが実務の常道です。
贈与契約書を作成する
贈与者と受贈者の氏名、贈与の意思、贈与日、対象株式、贈与方法を記載します。意思が明確に読み取れる内容にしておくことが肝心です。
名義変更をする
契約後、発行会社へ名義変更を依頼します。手数料や必要書類は会社や証券会社で異なるため、事前確認を忘れずに。
売買(単純譲渡)で承継する手順
中小企業の株式には譲渡制限が付いているのが通常です。身内への売買でも、会社の承認が起点になります。
譲渡承認を請求する
譲渡制限株式を移すには、譲渡先や株式の種類・数を記した株式譲渡承認請求書を会社へ提出し、承認を求めます。
承認決議と通知を行う
取締役会または株主総会で承認決議を行い、決議後2週間以内に請求者へ通知します。期限内に通知がなければ承認とみなされる点に注意。
譲渡契約と株主名簿の書換
承認後、価格や表明保証を盛り込んだ株式譲渡契約を締結し、株主名簿を書き換えます。書換の完了で株主としての権利が移り、手続は終わりです。
親族間株式譲渡にかかる税金とみなし贈与のリスク
承継で最後まで悩ましいのが税金です。方法ごとの課税を整理したうえで、見落とされがちな落とし穴に踏み込みます。
相続税
相続税は遺産総額に応じた累進課税です。課税遺産総額は、課税価格の合計から基礎控除を引いて求めます。
基礎控除額=3,000万円+(法定相続人数×600万円)
贈与税
暦年課税は、1年間の贈与額から基礎控除110万円を引いた額に税率を掛けて算出します。直系尊属から18歳以上の子・孫への贈与は、特例税率が使える点が特徴です。
相続時精算課税を選べば、累計2,500万円までの贈与税を繰り延べられます。2024年からは、この制度にも年110万円の基礎控除が加わりました。
譲渡所得にかかる税金
株式を売って利益が出れば、譲渡オーナーに所得税・住民税がかかります。税率は譲渡益に対し一律20.315%(所得税・復興特別所得税15.315%+住民税5%)です。
低額譲渡とみなし贈与の落とし穴
身内だから安く、と考えると痛い目に遭います。時価より著しく低い価格で渡せば、その差額に受贈側へ贈与税が課される。これがみなし贈与です。
たとえば地方の建設業(年商8億円・株主は社長と長男)で、長男へ額面どおりの株価で株式を移したところ、税務上の時価との差額にみなし贈与の指摘を受け、想定の数倍の税負担が生じた、という事例があります。同族会社の株式譲渡と課税の論点は、こうした失敗を避けるうえで欠かせません。
株価算定の実務判断
非上場株式は、財産評価基本通達による評価額(類似業種比準・純資産価額など)で動かすのが税務の世界です。ところがM&Aで買い手がつく価格は、実態純資産にのれんを乗せた水準になることが多い。
当社の支援経験では、税務上の評価額とM&Aの実勢価格が大きく乖離する場面が頻繁にあります。低い税務評価を根拠に身内で動かした後、第三者なら高く売れたと判明し、親族間で不満が残る。価格の物差しが二つある点は、譲渡前に必ず確認しておきたい論点です。非上場株式の評価方法と税務上の時価を理解しておくと、判断を誤りにくくなります。
税負担を抑える方法
税金は工夫しだいで軽くできます。代表的な二つの打ち手を紹介します。
事業承継税制を使う
事業承継税制は、一定要件のもとで自社株の贈与税・相続税の納税を猶予・免除する制度です。中小企業庁によると、特例措置を使うには令和9年(2027年)9月30日までに特例承継計画を都道府県へ提出し、令和9年(2027年)12月31日までに贈与・相続を実行する必要があります(出典:中小企業庁 法人版事業承継税制(特例措置))。
計画提出の期限は延びても、実行の期限は動いていません。要件と使い勝手は事業承継税制とM&Aの使い分けで具体的に確認できます。
暦年贈与と相続時精算課税を使う
年110万円の非課税枠を活かす暦年贈与は、相続財産を計画的に減らす王道です。ただし生前贈与加算の対象期間が、2024年から段階的に3年から7年へ延びた点には注意が要ります。


M&A(会社売却)を選んだ場合の手取りと進め方
親族内承継が難しいと判断したら、次はM&Aの実像を知る番です。手元に残る金額と進め方を見ていきます。
創業者利益と税金は一律20.315%
第三者への株式譲渡なら、譲渡益への課税は一律20.315%。相続税・贈与税のように累進で膨らむ心配がなく、譲渡オーナーはまとまった現金を手元に残せます。実際の手取りがいくらになるかは、会社売却で手元に残る金額の計算で試算しておくと安心です。
企業価値評価で適正株価を把握する
「うちの会社はいくらで売れるのか」。M&Aの出発点は、この問いへの答えを持つことです。企業価値評価で適正な株価を知る方法を踏まえれば、身内へ渡す場合との損得も冷静に比べられます。
譲受企業を探す進め方
後継者不在から会社の存続まで、目的を整理したうえで譲受企業を探します。従業員の雇用や取引先との関係を守れる相手を選ぶことが、満足度を左右します。事業承継の全体像は事業承継の選択肢と進め方で確認できます。
親族間株式譲渡とM&Aに関するFAQ
親族への株式承継とM&Aの境目で、相談現場に多い疑問をまとめました。
かかります。無償の贈与は贈与税の対象です。年110万円の基礎控除を超える部分に課税されるため、株価が高い会社では負担が大きくなりがちです。生前贈与や事業承継税制をどう組むか、早めに設計するのが現場の進め方です。
安易な低額売買は逆効果です。時価より著しく低いと、差額に買い手側へみなし贈与の課税が及びます。適正な株価をまず把握し、そのうえで価格を決めるのが安全です。税務上の評価額と実勢価格は別物という前提を忘れずに。
諦める前に第三者承継という道があります。M&Aなら後継者がいなくても会社を残せ、創業者利益も得られます。従業員の雇用や取引先との関係を守れる買い手を選べる点も、廃業との大きな違いです。
渡せますが、中小企業の親族内承継では株式譲渡が中心です。事業譲渡は資産・負債を個別に移すため手続が煩雑になりやすく、契約の引き直しも要ります。会社まるごとを引き継ぐなら、株式の承継が実務上は素直です。
親族間株式譲渡とM&Aの選択は早めの検討がカギ
親族への承継は相続・贈与・売買の3つがあり、最大の壁は納税資金とみなし贈与のリスクです。後継者不在や株式分散が重なるなら、第三者承継という選択肢も視野に入ります。会社と従業員の行く末を背負う重みは、誰より経営者本人がよく分かっているはずです。
みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社です。中小企業M&Aに精通したアドバイザーが、親族内承継と第三者承継の比較から税務設計まで一貫して支えます。承継の方向に迷う段階でも、まずはお気軽にご相談ください。
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著者

- 事業法人第三部長/M&A担当ディレクター
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宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修:みつき税理士法人
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