人材派遣会社のM&A|業界再編・譲渡メリットや注意点・売却相場を解説

近年、人材派遣業界でもM&Aの実施が増えています。この記事では、人材派遣業界の現状やM&Aのメリット、売却相場などを解説します。人材派遣会社の売却を検討している人は参考にしてください。

人材派遣会社とは

人材派遣会社とは、技能を持った人材を企業に派遣する会社のことです。派遣社員は、派遣先企業の指揮命令に従って業務を行います。しかし、派遣先企業との雇用関係は結びません。雇用関係は、人材派遣会社と派遣社員の間で結ばれています。

人材派遣業界の現状

人材派遣業界の市場規模は、回復傾向にあります。リーマンショックの影響によって、市場は2013年に5兆1,042億円まで落ち込みました。しかし、2012年に行われた「日雇い派遣の原則禁止」や「グループ企業内派遣規制」など規制強化の影響によって、2020年には8兆6,209億円まで回復しています。

派遣労働者に対するキャリアアップ支援の義務化や、派遣労働者の同一労働同一賃金の適用など、法改正によって市場が大きく変化している点が追い風となっています。

参考:データ | 一般社団法人日本人材派遣協会

今後の展望

多くの企業では、人材不足が問題になっています。特に、建設業界や運送業界、医療業界において人手不足の傾向が顕著で、人材派遣業のニーズが増しています。また、AIの台頭によって、人にしかできない仕事や専門的な仕事が求められる傾向も強まっています。このような現状は、人材派遣業界にとって明るい展望であるといえるでしょう。

人材派遣業界でのM&Aの動き

ここでは、人材派遣業界でのM&Aの動きについて解説します。

M&Aにより業界再編が進む

リーマンショックの影響もあり、人材派遣業界においてもM&Aが活発化している傾向にあります。事業拡大を目指すM&Aだけではなく、専門分野に強い人材の獲得や後継者問題の解決を目的としたM&Aも多くなっています。結果として、中小規模の人材派遣会社に対するM&Aが増えており、人材派遣業界の業界再編が進んでいます。

異業種の会社に対するM&Aも活発に

人材派遣業界でのM&Aの動きとして、同業である人材派遣業を営む会社だけではなく、異業種の会社に対するM&Aも活発化しています。この傾向は、経営多角化を目指す大手人材派遣会社でより顕著です。また、異業種による人材派遣会社のM&A事例もあります。これらの点からも、人材派遣業界と他業界がさまざまな点から連携を強めている事実がうかがえるでしょう。

M&Aによる譲渡側のメリット

ここでは、M&Aによる譲渡側のメリットについて解説します。

大手派遣会社の傘下に入れる

M&Aによって大手派遣会社の傘下に入れる点は、M&Aによる譲受側のメリットです。傘下に入れば、大手が持つノウハウや知名度を活用できるようになるでしょう。さらに、安定した経営が実現され、さらなる事業成長も見込めます。

後継者問題を解消できる

他業種と同じく、人材派遣業界も後継者問題を抱えています。後継者がいない企業においては、従業員の雇用を守るための手段として、事業承継は有効な選択肢の1つです。M&Aを活用して人材派遣業に進出する企業も多く、後継者問題を解決したい人材派遣会社にとってプラス材料になっています。

M&Aによる譲受側のメリット

ここでは、M&Aによる譲受側のメリットについて解説します。

一度に多くの人材を獲得できる

M&Aによって、抱える派遣社員の数を一度に増やせる点は譲受側のメリットです。譲渡側が抱えていた派遣社員をそのまま雇用し、社員数を増やすことによって、派遣先とのマッチング数が上昇します。ひいては、さらなる売上拡大が見込まれるでしょう。人手不足問題となっている人材派遣業界においては、大きなアドバンテージといえます。

事業規模拡大が図れる

M&Aによって事業規模拡大が実現される点も、譲受側のメリットです。新たな取引先の獲得によって市場シェアの拡大が見込まれるだけでなく、知名度が向上することで、広告費や採用費を削減できる可能性も生まれます。

人材派遣会社がM&Aを実施する際の注意点

ここでは、人材派遣会社がM&Aを実施する際の注意点について解説します。

譲渡側の注意点

事業譲渡の場合は、競業避止義務を負う点に注意しましょう。競業避止義務とは、民法で定められている同一市町村および隣接市町村の区域内で、譲渡した日から20年間にわたって同一事業を営んではいけない義務のことです。

ただし、競業避止義務はあくまでも原則であるため、実務上は1~5年程度となることがほとんどです。譲受側との交渉次第で、期間短縮や対象エリアを狭くすることも可能ある点はあらかじめ押さえておきましょう。

譲受側の注意点

譲受側の注意点は、事業譲渡・合併・会社分割の場合、労働者派遣事業や有料職業紹介事業の許可など事業に必要な許可は引き継げない点です。事業譲渡・合併・会社分割により新たに人材派遣業を始める場合には、M&Aとあわせて許可を取得する必要があります。株式譲渡の場合は、新たに許可を取得する必要はありません。

また、譲渡側がさまざまな問題を抱えていないかを調査する、デューデリジェンス(買収監査・企業調査)を実施する必要もある点にも注意しましょう。

高値で人材派遣会社を売却するポイント

ここでは、高値で人材派遣会社を売却するポイントについて解説します。

専門性をアピールする

自社の専門性をアピールすることは、人材派遣会社を高値で売却する重要なポイントです。人材派遣業界では、専門職を派遣できる会社のニーズが増しています。そのため、IT系や医療系に特化している人材を抱えていれば、譲受側探しもスムーズに進めていけるでしょう。また、高いスキルを身につけさせられる教育体制が整っていれば、その点も強みとなります。

譲受側の需要を満たす

高値で人材派遣会社を売却するためには、いかに譲受側の需要を満たすかも重要です。優秀な派遣社員や経営側のキーマンを抱えていれば、それだけ会社の価値が上がるでしょう。顧客数やビジネスモデル、ブランド力などに強みを持っていれば、その点も譲受側のメリットとなります。

また、許認可の有効年数が長い、連絡可能な登録者が多い、といったプラス要素があれば、強気な譲渡価格の設定も可能でしょう。

人材派遣会社のM&Aの相場

人材派遣会社のM&Aの相場は、株式譲渡の場合と事業譲渡の場合によって異なります。株式譲渡の場合は、「時価純資産額+(営業利益+役員報酬)×2~5年分」が相場です。一方、事業譲渡の場合は、「事業資産+事業利益×2~5年分」が相場となります。

譲渡価格の算出手順

売却価格は、デューデリジェンス(買収監査・企業調査)実施後に、譲渡側と譲受側の交渉によって決まります。デューデリジェンス(買収監査・企業調査)の結果によって、交渉内容が左右されるため、互いにデューデリジェンス(買収監査・企業調査)の準備は万全に行っておきましょう。

具体的な価格算出方法としては、インカムアプローチやコストアプローチ、マーケットアプローチなどが挙げられます。先述したように、人材派遣会社の場合には、許認可の有効年数の長短や、連絡可能な登録者の多寡によっても価格が変動します。

  • インカムアプローチ:企業が将来にわたって生み出すであろう収益を現在の価値に換算する方法
  • コストアプローチ:企業が保有する資産の価値をもとに企業価値を評価する方法
  • マーケットアプローチ:同業他社や同様のビジネスを行っている企業の株価など、市場価値を参考に企業価値を評価する方法

人材派遣会社のM&Aの事例

ここでは、人材派遣会社のM&A事例を紹介します。

コプロ・ホールディングス×バリューアークコンサルティング

2021年9月、コプロ・ホールディングは、バリューアークコンサルティングの全株式を取得して完全子会社化しました。コプロ・ホールディングは、新規顧客の拡大やフリーランスITエンジニアの登録数増大を期待してM&Aを実施しています。このM&Aにおける取得価額は公開されていません。

フルキャストホールディングス×ミニメイド・サービス

2018年8月、フルキャストホールディングスは、ミニメイド・サービスの全株式を取得して完全子会社化しました。フルキャストホールディングスが得意とする人材派遣業と、ミニメイド・サービスが営む家事代行サービスとの相関性が高い点からM&Aが実施されています。このM&Aにおける取得価額は公開されていません。

人材派遣業界M&Aのまとめ

人材派遣業界では、同業種・他業種問わず、М&Aが活発化しています。人材派遣会社を売却する際には、交渉を有利に進めるポイントやをM&Aの相場を十分に押さえておきましょう。

M&Aに関するご相談は、みつきコンサルティングにお任せください。みつきコンサルティングは税理士法人グループであることから、M&A(第三者への承継)ありきの提案ではなく、事業所内承継、親族内承継など、複数の選択肢のメリット・デメリットを比較して選択可能です。

M&Aに関して悩みや不明な点をお持ちの人は、お気軽にご相談ください。

著者

西尾崇
西尾崇事業法人第三部長
宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。
監修:みつき税理士法人