商法と会社法の違い|M&A・会社売却で使う規定と手続を解説

商法と会社法の違いは、商取引全般を扱うか会社という組織を扱うかにあります。会社法は商法の特別法として2005年に独立しました。会社売却を考えるオーナー経営者にとって、株式譲渡や事業譲渡で実際に効いてくるのは会社法の規定です。両者の関係、新旧対照表、M&A実務で押さえる条文と確認項目を整理しました。

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商法と会社法の違いを最初に整理する

商法と会社法、どちらも会社に関わる法律です。ただ、株式譲渡による会社売却のご相談で「両方読むべきですか」と尋ねられたときの答えは、ほぼ「会社法だけで足ります」。違いを分ける軸は、誰に、何に対して適用されるかという一点にあります。

適用対象と目的が違う

守備範囲がそもそも別物。商法は商人と商取引全般を、会社法は会社という組織そのものを扱います。M&Aで関わる法律の全体像を先に眺めておくと、両者の位置づけがつかみやすくなります。下表で主な違いを対比しました。

比較項目商法会社法
主な適用対象商人(個人事業主を含む)と商取引全般株式会社・合同会社などの会社組織
ルールの目的取引を安全かつ迅速に成立させる会社の設立・組織運営・資金調達の枠組みを定める
主な登場人物商人、譲渡人、譲受人株主、取締役、債権者
法律の構成総則・商行為・海商の3編設立・株式・機関・計算・組織再編など
成立の時期1899年制定2005年に商法から独立
M&Aでの出番事業譲渡の商号続用など限定的株式譲渡・組織再編の中心的な根拠

会社法は商法の特別法という関係にある

両者が重なる場面では、より具体的なルールが優先されます。会社に関する論点なら会社法、定めがなければ商法、それでも足りなければ民法へ。この順番さえ頭に入れておけば、条文探しで迷う場面は減るはずです。

民法・商法・会社法の三層構造

民法・商法・会社法の関係を示す図。民法(一般法)の中に商法(民法に対しては特別法、会社法に対しては一般法)があり、さらにその中に会社法(特別法)がある包含関係を表しています。

民法が一般法、商法がその特別法、会社法はさらに商法の特別法という入れ子。個人同士の売買なら民法、商人同士の取引なら商法、株式や機関設計の話になれば会社法が前に出ます。

2005年に会社法が商法から独立した経緯

会社の規定は、かつて商法第2編に収められていました。企業活動の国際化や情報化に対応するため2005年に会社法として切り出され、保険法や手形法も個別の法律へ。残された商法は3編にまで絞られています。条文はe-Gov法令検索の商法で確認できます。

新旧対照表で見る会社法制定時の主な変更点

中小企業のM&A実務を支えているルールは、2005年前後の見直しでかなり形が決まりました。下表は旧商法時代と現行制度を、譲渡オーナーの関心が集まりやすい項目に絞って並べたものです。

項目旧商法(2005年以前)現行の会社法
設立できる会社株式会社、有限会社、合名会社、合資会社株式会社、合名会社、合資会社、合同会社
最低資本金株式会社1,000万円/有限会社300万円規制なし(1円から設立可)
機関設計株式会社は株主総会+取締役会+監査役株式譲渡制限会社は株主総会+取締役1人でも可
取締役の任期原則2年株式譲渡制限会社は最長10年まで伸長可
監査役株式会社は1人以上を設置株式譲渡制限会社は設置が任意
株式の譲渡制限一部の株式だけに付すことは不可一部の株式にも譲渡制限を設定可
株券原則として発行原則として不発行
有利発行の第三者割当株主総会の特別決議が2回必要特別決議1回で実行可
計算書類貸借対照表、損益計算書、利益処分案、営業報告書貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、個別注記表
決算公告株式会社のみ必要原則すべての株式会社が必要(特例有限会社は不要)

中小企業の会社売却に効いている改正点

表の中でも、買収監査の現場で毎回のように話題に上がる項目が2つあります。役員任期の伸長と、特例有限会社の扱いです。

役員の任期伸長と改選登記の失念

株式譲渡制限会社は取締役の任期を10年まで延ばせます。手間は減る一方、10年ごとの改選を忘れて登記が空白のままという会社は珍しくありません。株式譲渡に伴う登記の要否とあわせ、早めに履歴を洗っておきたいところ。

特例有限会社として残った会社

会社法の施行で有限会社は新設できなくなりましたが、既存の会社は特例有限会社として存続しています。決算公告が不要、株式に法定の譲渡制限が付いているなど独自の扱いがあり、有限会社の株式譲渡では手続の組み立てが少し変わります。

商法と会社法が定める主な規定と用語

条文を通読する必要はありません。ただ、契約書や議事録に並ぶ言葉の出どころを知っていると、専門家の説明が急に腹落ちします。

商法が扱う範囲と用語

商法が想定しているのは、反復・継続して大量に行われる定型的な取引。個人経営の飲食店や商店も商人に含まれます。会社かどうかを問わず商売を営む者全般が対象という点が、会社法との分かれ目です。

商法の3編構成

  • 総則(商人の定義、商業登記、商号、商業帳簿、商業使用人と代理商)
  • 商行為(商人間の売買の特則、交互計算、匿名組合、仲立営業、運送営業など)
  • 海商(船舶、海上運送、海上保険に関する規定)

商法でよく出る用語

  • 商人(自己の名をもって商行為をすることを業とする者)
  • 商行為(営業として反復・継続して行う法律行為)
  • 商業登記(商号や本店所在地などを公示する制度)
  • 代理商(特定の商人のために継続して取引の代理や媒介を行う者)
  • 匿名組合(出資者が営業者に出資し、利益の分配を受ける仕組み)

会社法が扱う範囲と用語

会社法は、会社の設立から解散までを一続きで定めた法律。全体像はe-Gov法令検索の会社法で参照できます。M&Aに関わる会社法の規定は株式譲渡と事業譲渡の両方にまたがります。

会社法が定める主な事項

  • 会社の設立と定款の作成
  • 株式の発行、譲渡、自己株式の取得
  • 株主総会・取締役会・監査役といった機関の設計と運営
  • 計算書類の作成と決算公告
  • 組織再編(合併、会社分割、株式交換、株式移転、株式交付)
  • 解散と清算の手続

会社法でよく出る用語

  • 譲渡制限株式(譲渡に会社の承認を要する株式)
  • 特別決議(議決権の過半数を持つ株主が出席し、その3分の2以上の賛成で成立する決議)
  • 株式買取請求権(組織再編などに反対する株主が公正な価格での買取を求める権利)
  • 株主名簿(株主と持株数を記録し、権利行使の基準となる帳簿)
  • 有限責任(出資した額を限度に責任を負う仕組み)

会社売却で実際に使う条文はほぼ会社法

ここからが本題です。中小企業のM&Aで条文を引く場面は、その大半が会社法。商法が直接効いてくるのは、後ろで触れる限られた場面だけと考えて差し支えありません。

株式譲渡で根拠になる規定

中小企業の会社売却は、およそ9割が株式譲渡です。会社法の株式に関する規定が、そのまま手続の設計図になります。

譲渡制限株式と譲渡承認

非上場のオーナー企業は、定款で株式に譲渡制限を付けているのが通例。株主が株式を手放すには会社の承認が要り、承認機関は取締役会または株主総会です。譲渡制限株式の仕組みを押さえずに進めると、承認決議の抜けが後から発覚します。

株主総会と取締役会の決議

誰の決議が必要かは、取締役会を置いているかどうかで変わります。非設置会社であれば株主総会。議事録の記載が甘いと登記や買収監査で差し戻されるため、M&Aでの株主の権利の範囲も整理しておきたいところ。

株主名簿の名義書換と契約

株式の移転を会社に対抗するには、株主名簿の名義書換が要ります。実務では株式譲渡契約書の記載事項で請求手続まで定め、最終契約書で押さえる条項と整合させます。

事業譲渡で根拠になる規定

事業の一部だけを切り出すなら、会社法の事業譲渡の規定が働きます。重要な一部の譲渡に当たれば株主総会の特別決議が要り、反対株主には株式買取請求権も生じます。事業譲渡の手続と流れから確認しておきましょう。

許認可と契約の移転

会社ごと動く株式譲渡と違い、事業譲渡は資産や契約を1つずつ移す取引。許認可の承継可否を早い段階で調べ、事業譲渡契約書に移転対象を細かく書き込みます。

どちらのスキームを選ぶか

手取り、税負担、手続の重さ。3つの軸で結論が変わります。株式譲渡と事業譲渡の違いを並べたうえで、譲受企業の意向も踏まえて決める案件がほとんどです。

組織再編で根拠になる規定

会社分割や合併といった手法は、会社法の組織再編の章にまとめられています。債権者保護手続や効力発生日の設計まで、条文が細かく決めているのが特徴。

会社分割と合併

採算部門だけを切り出したいときに使うのが会社分割による事業の切り出し。グループ内の再編で選ばれるのが吸収合併の手続です。いずれも税制適格の判定が並走します。

株式交換と株式移転

対価に株式を使い、対象会社を完全子会社にする手法。上場企業が譲受企業となる案件で登場します。株式交換による会社売却では、個人株主の課税がいつ発生するかが焦点になりやすいです。

商法が顔を出す数少ない場面

とはいえ商法が無関係というわけでもありません。事業譲渡のまわりで、思わぬ形で登場します。

商号続用と債務の承継

譲受企業が譲渡人の商号を引き続き使う場合、商法の規定により譲渡人の債務についても弁済責任を負うことがあります。屋号をそのまま残したい案件では、免責の登記や通知の要否を先に詰めておくのが実務の作法。

商人間の売買と表明保証

商人同士の売買には、目的物の検査と通知の義務など商法の特則があります。M&Aの契約実務では表明保証条項で手当てするのが通常ですが、原則の姿を知っておくと交渉の落としどころが見えてきます。

支援現場で使う法務チェックリスト

条文の知識より、手を動かす順番のほうが役に立ちます。会社売却の進め方に沿って、当社の支援現場が初回面談から買収監査までに確認している項目を並べました。

会社売却の前に確認する8項目

どれも定款と登記簿、株主名簿を突き合わせれば分かる内容ばかり。着手が早いほど、後半の交渉に余裕が生まれます。

株式と定款まわりで確認する項目

  1. 定款に株式の譲渡制限があるか、承認機関は取締役会か株主総会か
  2. 株主名簿が現況と一致しているか、名義株や所在不明株主がいないか
  3. 株券発行会社のままになっていないか、定款変更が要るか
  4. 過去の増資や自己株式取得について、決議書類が保管されているか

手続と契約まわりで確認する項目

  1. 取締役・監査役の任期と、直近の改選登記が済んでいるか
  2. 特例有限会社の場合、株式会社への移行を先に行うかどうか
  3. 事業譲渡を選ぶなら、重要な一部に当たり特別決議が要るか
  4. 許認可や主要契約に、支配権の異動を理由とする解除条項がないか

商法・会社法の論点でつまずいた事例

手続の入口で止まった案件を、業種と規模だけ残して紹介します。どちらも珍しい話ではありません。

承認機関を取り違えた金属加工業(年商12億円)

数年前に取締役会を廃止していたにもかかわらず、株式の譲渡承認を取締役の決定で済ませようとしていた会社。定款を読み直すと承認機関は株主総会でした。臨時株主総会を招集し直し、クロージングは2週間ほど後ろ倒しに。

商号続用が論点になった食品卸売業(従業員35名)

事業譲渡で、譲受企業が同じ屋号を使い続ける前提の案件でした。譲渡会社に残る買掛金の扱いをめぐり、商法の商号続用責任が交渉のテーブルへ。免責の通知を出し、契約書に承継対象外の債務を列挙して決着しました。

商法と会社法の違いに関するFAQ

会社売却のご相談で実際に多い質問を4つ挙げます。

Q:商法と会社法はどちらが優先されますか?

会社に関する論点では会社法が優先します。会社法に定めがなければ商法、商法にもなければ商慣習、それでも足りなければ民法という順番。現場では会社法の該当条文を探し、見当たらないときに初めて商法を開くという進め方をしています。

Q:売り手が会社売却で読むべきなのは会社法だけですか?

株式譲渡なら、ほぼ会社法で足ります。事業譲渡を選ぶ場合は商号続用や競業避止といった商法の規定も関わるため、契約書の作成段階で弁護士に確認する形が安全です。全文を読む必要はなく、該当条文だけで十分。

Q:合同会社でも会社法は同じように適用されますか?

適用されます。ただ株式会社と違い、持分の譲渡には原則として社員全員の同意が要るため、手続の組み立てが変わります。合同会社の売却方法を確認したうえで、事業譲渡との比較を検討する案件が多いです。

Q:商法は古い法律ですが今も使いますか

使います。2018年の改正で運送や海商の規定が現代語化され、内容も整理されました。日常の商取引や事業譲渡の一部では、今も現役のルールとして働いています。

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商法と会社法の違いと会社売却のまとめ

商法は商取引全般、会社法は会社という組織を対象とし、重なる部分では会社法が優先します。中小企業の会社売却で実際に引く条文は、その大半が会社法。条文の細部より、定款と登記と株主名簿が現況と合っているかを先に確かめるほうが、譲渡オーナーの不安は早く軽くなります。

みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社として、中小企業のM&Aを数多く支援してきました。法務と税務の論点をワンストップで整理できる体制が強みです。会社売却をお考えでしたら、初期のご相談から当社にお任せください。

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著者

西尾 崇
西尾 崇事業法人第三部長/M&A担当ディレクター
宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修者 神門 剛 代表取締役 / 公認会計士・税理士

みつきコンサルティングは、中小企業の会社売却・事業承継に特化した譲渡企業様に完全成功報酬制のM&A仲介会社です。売り手と買い手企業の最適なマッチングを、経験豊富なM&Aコンサルタントが初期相談から成約まで一貫してフルサポートします。

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