商法と会社法の違いを中心に改正点を解説付き対照表で紹介します。新旧対照表や主な規定と役割、用語解説、M&Aの法的手続きまで、理解を深める豊富な情報を提供いたします。
商法と会社法の違いとは?
商法と会社法の違いを考える上では、合わせて民法との関係についても理解しておきましょう。

民法と商法の関係
民法は一般法として、個人間の法律関係を広範囲に規定しています。これに対し商法は、商取引に特化した特別法として機能し、両者が重複する部分では商法が優先されます。
例えば、売買契約に関しては民法と商法の両方に規定がありますが、商人間の取引では商法の規定が適用されます。商法の売買契約では、定期売買の履行遅滞による解除や買主の目的物検査義務など、商取引特有のルールが存在します。
商法と会社法の関係
商法は会社法の一般法に当たり、会社も商人として商法の適用を受けます。しかし、会社法が商法の特別法として制定されているため、商法と会社法の規定が重複する場合には、会社法が優先適用されます。
かつて商法は会社に関する詳細な規定を含んでいましたが、2005年の会社法の制定により、その部分が独立しました。また、保険法、破産法、手形法なども個別法として分離され、現在の商法は比較的簡潔な法律になっています。
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新旧対照表による改正事項一覧
この表は、2006年5月1日に施行された新会社法に基づく商法および会社法の主な改正点をまとめたものです。新会社法の施行により、会社設立や運営に関する規定が大幅に緩和・柔軟化され、企業活動の自由度が高まりました。
項目 | 旧商法 | 新会社法 |
---|---|---|
設立できる会社 | 株式会社、有限会社、合名会社、合資会社 | 株式会社、合名会社、合資会社、合同会社(日本版LLC) |
最低資本金規制 | 株式会社:1,000万円以上有限会社:300万円以上 | 制限なし(1円以上) |
発起設立の払込金保管証明 | 必要 | 銀行等の残高証明で代替可能 |
会社の機関設計 | 株式会社:株主総会+取締役会+監査役有限会社:社員総会+取締役(+監査役) | 株式譲渡制限会社では、取締役会の設置が任意。株主総会+取締役(最低1人)も可 |
取締役の人数・任期 | 株式会社:3人以上、任期2年有限会社:1人以上、任期なし | 取締役:3人以上、任期2年が原則。株式譲渡制限会社は1人以上で、任期は最長10年まで延長可 |
監査役の人数・任期 | 株式会社:1人以上、任期4年有限会社:設置は任意、任期なし | 監査役:1人以上、任期4年が原則。株式譲渡制限会社は設置任意、任期は最長10年まで延長可 |
会計参与 | 規定なし | 新設。すべての株式会社に設置可能 |
株主総会の招集通知の発送 | 会日の2週間前 | 取締役会非設置会社:会日の1週間前(定款で短縮可能) |
株主総会の招集通知の手段 | 書面または電磁的方法 | 取締役会非設置会社:書面等以外の方法も可能 |
株主総会の招集通知の形式 | 会議の目的事項を記載。定時株主総会には計算書類等を添付 | 取締役会非設置会社:会議の目的事項の記載不要、計算書類等の添付も不要 |
株主総会で決定できる事項 | 株式会社:法令や定款で定められた事項有限会社:すべての事項 | 取締役会非設置会社:すべての事項が決定可能 |
類似商号の禁止 | 同一市区町村内で類似商号・同一営業内容の会社は登記不可 | 同一住所で同一商号の場合のみ登記不可 |
株式の譲渡制限 | 一部の株式の譲渡制限は不可 | 一部の株式に譲渡制限を付すことが可能 |
株式譲渡制限会社による第三者割当 | 有利発行の場合、2回の株主総会特別決議が必要 | 有利発行でも1回の特別決議で可能 |
株券の発行 | 原則として発行 | 原則として不発行 |
会計監査人 | 大会社は設置必要 | 大会社は設置必須。大会社以外は任意(監査役会設置会社は必須。株式譲渡制限会社の場合は会計監査に限定) |
利益配分 | 剰余金の配当として株主総会の決議により随時実施可能 | 役員報酬・職務遂行の対価として規定 |
計算書類 | 貸借対照表、損益計算書、利益処分案または損失処理案、営業報告書 | 貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書(新設)、個別注記表(新設) |
決算公告 | 株式会社:必要有限会社:不要 | 原則としてすべての株式会社が必要。特例有限会社は不要。定款への公告方法の記載は任意。 |
共同代表登記 | 可能 | 廃止(不可) |
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商法・会社法の主な規定と用語
商法と会社法は、企業経営において重要な法規制を規定する法律であり、ビジネス活動を行うための基本的なルールを定めています。商法は、商取引における権利関係や契約形態を規定し、会社法は、会社の設立・運営・解散などに関わる法制度を規定しています。
商法
商法は主に、商取引に関する契約の規定や商行為に関するルールを定めた法律であり、国内外の取引の安定や円滑化を図る目的があります。具体的に対象となる取引には、売買、交換、貸借、請負、預金などが含まれます。
商法の範囲と商法上の取引
商法は、商売を生業とするプロの間で適用される法律です。 民法が想定する個別的な取引とは異なり、反復・継続して日々大量に行われるような、定型的な取引を対象としています。 中でも商法は、会社や個人事業主などの形態にかかわらず、商売を行うもの全般に対して適用されますが、会社法は会社のみに適用されます。また、商法は、商取引に関する権利・義務や契約形態を規定し、商取引上の不公平な行為の防止や相互間の信頼を促進する法律です。
商法の用語とその意味
商法においては、様々な用語や概念が用いられています。ここでは、商法に関する主要な用語とその意味について説明します。
- 法人:商業活動を行う法人。株式会社や有限会社など
- 商業登記:商取引における信用のため、企業の事項を公示する制度
- 商行為:商事法人が営業の目的で行う法律行為
- 負債:商事法人が商行為によって生じる負債
- 代理商:法人に代わって商行為を行う権限を持った者
- 商標権:商品やサービスに関する特定の表示を独占的に使用する権利
以上のような用語や概念が商法において使用され、商取引のルールや契約形態を理解する上で重要となります。
商法で用いられる主な概念と定義
商法で用いられる主な概念と定義には、以下のようなものがあります。
- 売買:財産権の移転を目的とした契約
- 交換:財産権の互いの移転を目的とした契約
- 貸借:物の使用や収益に関する権利の一時的な移転を目的とした契約
- 請負:所定の業務を完成させることを約束する契約
- 預り:物の保管を約束する契約
- 委託:他人に代理権を与えて商行為を行わせる契約
これらの概念や定義は、商法上の取引や契約を理解し、適切に実践するために重要であり、また法人が営業活動を適正に行う上で欠かせないものです。
会社法
一方、会社法は企業の組織形態を規定するほか、役員や株主、取締役会などの組織運営に関する法的ルール、上場企業や非上場企業の株主に対する情報開示や取締役の選任・解任、株式の譲渡・取得などに関する権利と義務が定められています。
商法・会社法は企業活動を円滑かつ適正に行うための規定であり、経営者や株主、取引相手などの権利保護を図る重要な役割を担っています。
会社法の範囲と組織運営に関する規定
会社法は、企業組織の設立、運営、解散に関する法制度を規定しており、具体的には、以下のような規定が含まれています。
- 会社設立に関する手続き
- 役員の選任・解任に関する規定
- 株主総会や取締役会の開催・運営に関するルール
- 株式の譲渡や取得に関する権利と義務
- 会社解散や清算手続きに関する規定
これらの規定により、企業組織の運営が透明性を持ち、適正な手続きに則って運営されるようになっています。
会社法に関する用語とその意味
会社法には企業経営や法律上の権利・義務に関わる多くの専門用語があります。以下に、その一部を解説します。
- 株式会社: 企業の一形態であり、会社の資本を株式によって保有・取引することを特徴とする
- 取締役: 会社の経営を行い、法的責任を負う役員
- 役員報酬: 取締役や監査役に支払われる報酬
- 株主総会: 株主が意思決定を行う最高意思決定機関
- 社債: 企業が資金調達のため発行する借入証券
- 資本提携: 企業同士が株式の取得や出資を通じて経営協力関係を築くこと
- 財務諸表: 企業の経営成績や財務状況を示す報告書
- 有限責任: 株主が保有する株式の額以上の責任を負わず、会社の負債に対して限定的な責任を負うこと
これらの言葉や他にも多くの用語が会社法によって規定されており、それらの意味を理解することで、適切な経営判断が可能となります。
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M&Aにおける商法・会社法の意義と法的手続
商法及び会社法は、企業の経営とM&A(合併・買収)において非常に重要な役割を果たしています。その理由の一つとして、企業が合併・買収を行う際に適切な手続きを行い、株主や取引先の利益を保護するために法令が定められているからです。具体的には、会社が合併する際には株主総会の承認が必要であり、買収においても株式譲渡に関する契約等が必要となります。
これらの法的手続が適切に行われない場合、M&Aが無効となる恐れがあります。また、法令に違反した場合、経営者や役員に対する罰則が科せられることもあります。
会社法の改正に伴い、M&Aの手続きや一部制限が緩和されたこともありますが、根本的な法令の目的は変わっておらず、適切な法的手続きを行うことが企業の信頼性を高めるために重要となります。
参考:現行商法の紹介
2006年の会社法施行後に様変わりした現行の商法について、その概要を紹介します。
商法は以下の3編から構成されています。
- 海商:船舶や海上運送、海上保険などの規定
- 総則:商人や商号、商業登記、商業帳簿、商業使用人などに関する基本的な規定
- 商行為:売買や仲立営業、運送取扱営業など、商取引に関する規定
商法の構成と主な内容
商法は、商取引に関するルールを定める法律で、民法の特別法、会社法の一般法として位置付けられています。商法は「総則」「商行為」「海商」の3編で構成され、商人や商行為の基本ルールを定めています。現在では会社法などの独立によりコンパクトな法律となっていますが、商取引に携わる事業者にとって重要な法律です。
第1編 総則
「総則」では、商法の基本的な枠組みを定めています。
- 商人の定義:自己の名で商行為を業とする者(法人・個人事業主を含む)
- 商業登記:商号や所在地などの重要事項を公にするための手続
- 商号の使用:不正目的で他の商人と誤認される商号の使用禁止
- 商業帳簿:商人が作成・保存すべき会計帳簿と貸借対照表
- 商業使用人と代理商:支配人・使用人の権限、代理商の義務
第2編 商行為
「商行為」では、商取引のルールが定められています。
- 売買:商人間の売買契約に関する特則(目的物の検査義務など)
- 交互計算:複数の取引の債権・債務を相殺する制度
- 匿名組合:出資者が営業者に出資し、利益を分配する仕組み
- 仲立営業:商取引の媒介を業とする者に関する規定
- 問屋営業:他人のために物品の売買を行う者(例:証券仲介業)
- 運送取扱営業:荷主と運送業者の仲介を行う業者の規定
- 運送営業:運送業の権利・義務に関する規定
- 寄託:商人が営業の一環として行う寄託契約に関する特則
特に「売買」では、商人間の迅速な取引を確保するため、目的物の検査義務や供託制度などの特別なルールが設けられています。
商法と会社法の違いのまとめ
商法と会社法の違いは、商法が一般的な企業活動に関して規定しているのに対して、会社法は株式会社に特化した規定を行っている点です。また、会社法は、商法の改正を受けて、企業活動を円滑に進めるための制度や手続きが整備されています。これらへの理解を深めることは事業の発展や成長に欠かせない知識ですので、必要に応じて専門家と相談しながら適切な対応を行っていくことが重要となります。
みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社として15年以上の業歴があり、中小企業M&Aに特化した経験実績が豊富なM&Aアドバイザーが多数在籍しております。みつき税理士法人と連携することにより、税務面や法律面のサポートもワンストップで対応可能ですので、M&Aをご検討の際は、成功するM&A仲介で実績のある、みつきコンサルティングに是非ご相談ください。
著者

- 事業法人第三部長
-
宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。
監修:みつき税理士法人
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