対価に現金ではなく譲受企業の株式を受け取るのが株式交換です。手元資金は増えないものの、グループ入り後の成長を株主として取り込めます。仕組みの図解、簡易型と略式型の使い分け、課税が繰り延べられる条件と見落としやすい落とし穴、そして株式譲渡との選び分けまで、中小企業オーナーが迷いやすい論点を解説しました。
株式交換による会社売却とは
「対価が現金ではないM&Aがあると聞いたが、それは自分にとって得なのか」。会社売却の相談で、株式交換の話が出ると必ずこの疑問にぶつかります。仕組み自体は難しくありません。判断が難しいのは、受け取るものが札束ではなく他社の株券だという一点です。
譲受企業の株式を対価に受け取る仕組み
株式交換とは、対象会社の発行済株式のすべてを譲受企業が取得し、その対価として譲渡オーナーが譲受企業の株式を受け取る組織再編行為です。取引が終わると、対象会社は譲受企業の完全子会社になります。

手元に現金が残るかどうかが分岐点
一般的な会社売却である中小企業の株式譲渡では、クロージング日に譲渡代金が着金します。株式交換では着金がありません。代わりに譲受企業の株主名簿に名前が載る。ここが最大の違いです。
資本提携のなかで最も踏み込んだ形
他社と組む方法は、業務提携から少数出資まで濃淡があります。株式交換は自社株を100%渡し、なおかつ相手の株主にもなる形。資本業務提携の延長線上にある選択肢のなかで、最も深い関係に踏み込む手法といえます。
対象会社は法人としてそのまま残る
合併と混同されがちですが、株式交換では対象会社は消滅しません。商号も許認可も契約も、法人格が残る以上そのまま引き継がれます。変わるのは株主だけ。従業員から見れば、勤務先の看板は昨日と同じままです。
株式交換と似たM&A手法との違い
名称が似ている手法が並ぶため、経営者が混乱しやすい領域でもあります。実務で候補に挙がる4つを、対象会社側の視点で整理します。
株式交付との違い
株式交換は100%の取得を前提とします。これに対し株式交付は、過半数超という部分的な取得でも自社株を対価にできる制度。譲受企業が持分を段階的に増やしたい場合には、こちらが使われます。
株式移転との違い
新会社を設立し、そこに株式を集める手法が株式移転です。持株会社を新たに作る場面で登場します。既存の会社が親会社になる株式交換とは、器を新設するかどうかで分かれます。
三角株式交換という変形
譲受企業に親会社がある場合、対価としてその親会社株式を交付する形も可能です。上場している親会社の株式を受け取れるため、現金化のしやすさという意味では譲渡オーナーに有利に働くことも。考え方は三角合併と共通します。
株式譲渡との手続面の違い
株式譲渡は株主一人ひとりとの個別合意で成立します。株主が散らばっていると、全員から印鑑をもらう作業が難所になる。株式交換なら株主総会の特別決議で足りるため、個別同意が取れない株主がいても前に進められます。
下表に、譲渡オーナーの立場から見た主要な違いをまとめました。
| 比較項目 | 株式交換 | 株式譲渡 | 株式交付 |
|---|---|---|---|
| 受け取る対価 | 譲受企業の株式が中心 | 現金 | 譲受企業の株式が中心 |
| 取得割合 | 100%(完全子会社化) | 自由に設定可能 | 50%超で可 |
| 手元資金 | 増えない | クロージング時に着金 | 増えない |
| 株主の同意 | 特別決議で足りる | 株主ごとの個別合意が要る | 応じる株主のみ |
| 個人株主の課税 | 条件を満たせば繰延 | 譲渡益に約20%課税 | 条件を満たせば繰延 |
| 中小M&Aでの頻度 | 少ない | 約9割を占める | 限定的 |
譲渡オーナーから見た株式交換のメリット
現金が入らない手法に、なぜ応じる経営者がいるのか。そこには金額の多寡だけでは測れない理由があります。
譲受企業の成長を株主として取り込める
売却時点の企業価値で現金化を確定させるのが株式譲渡。株式交換は、その後の伸びしろを取りに行く選択です。譲受企業が上場企業で株価が右肩上がりなら、受け取った株式の価値は時間とともに膨らみます。
少数株主が反対しても実行できる
議決権の3分の2以上の賛成があれば成立します。先代の頃に配った株が親族や元役員に残っている会社では、この点が効きます。全員説得という重い作業を回避できるためです。
独立性を保ちやすく従業員が動揺しにくい
子会社として存続するため、社名も就業規則も当面は変わりません。M&Aと聞いて身構えた社員が、日常業務が変わらないと分かって落ち着いていく。そうした光景は現場でよく見ます。
資金力に制約のある譲受企業とも組める
買収資金を借入で用意する必要がないため、譲受企業の選択肢が広がります。現金対価では手が届かなかった相手先でも、株式対価なら成立の芽が出てくる。譲渡オーナーにとっては、相手探しの間口が広がることを意味します。
株式交換で譲渡オーナーが背負うリスク
メリットの裏返しとして、株式譲渡には存在しない種類のリスクを引き受けることになります。ここを軽く見た結果、後から後悔するケースが少なくありません。
株価下落で受け取る価値が目減りする
10億円の評価で合意したはずが、譲受企業の株価が半値になれば実質的な受取額も半分になります。自社の努力とは無関係な要因で資産が減る。この不確実性を許容できるかが、最初の関門です。
非上場株を受け取ると現金化の道が細い
譲受企業が非上場の場合、受け取った株式には市場がありません。売りたくても買い手を自分で探すことになり、価格交渉も一からです。株式交換が上場企業への譲渡で使われやすいのは、この裏返しでもあります。
売却制限で好きなときに売れない
対価株式に一定期間の譲渡制限を付す契約は珍しくありません。制限が解ける頃に株価が下がっていた、という展開もあり得ます。制限期間の長さは、交渉段階で必ず確認しておきたい条件です。
対価株式を受け取る前の確認リスト
当社が譲渡オーナーの相談を受ける際、株式交換の話が出たら次の項目を一つずつ潰していきます。ここが埋まらないうちに基本合意へ進むのは避けたいところです。
- 譲受企業の株式は上場株か、非上場株か
- 交換比率は固定か、株価に連動して動くか
- 対価株式に譲渡制限は付くか、期間は何年か
- 制限解除後、市場で売却できる出来高があるか
- 譲受企業の直近3期の業績と有利子負債の水準
- 受け取った株式を将来売却したときの税負担の試算
- 相続が発生した場合、その株式を家族が処分できるか
最後の項目は見落とされがちです。70代のオーナーが非上場の対価株式を持ったまま亡くなると、遺族は評価も換金も難しい資産を抱えることになります。
株式交換の手続の流れ
会社法第767条以下に沿って進めます。手続そのものは定型的ですが、備置期間や登記期限に法定の縛りがあるため、逆算した日程管理が要ります。条文はe-Gov法令検索の会社法で確認できます。
下表は、契約締結から事後開示までの流れを時系列で整理したものです。
| 手続ステップ | 実務上の内容と譲渡オーナーの留意点 |
|---|---|
| 1 株式交換契約の締結 | 交換比率、効力発生日、対価の種類と数を定めて契約します。対価株式の譲渡制限や表明保証の範囲も、この段階で固めます。 |
| 2 事前開示書類の備置 | 契約内容や比率の相当性を記載した書面を本店に備え置きます。株主が閲覧して判断するための資料であり、記載の不備は後の紛争の火種になります。 |
| 3 株主総会の特別決議 | 議決権の過半数を持つ株主が出席し、その3分の2以上の賛成で承認します。招集通知の期間確保を忘れると日程が崩れます。 |
| 4 反対株主への対応 | 決議に反対した株主には株式買取請求権があります。買取価格で折り合わなければ、裁判所への価格決定申立てに進むこともあります。 |
| 5 効力発生と変更登記 | 効力発生日に譲受企業が発行済株式の100%を取得します。資本金の変動などがある場合、2週間以内の変更登記が要ります。 |
| 6 事後開示書類の備置 | 効力発生日から6か月間、本店に備え置きます。手続が終わったつもりで失念しやすい工程です。 |
株主総会を省略できる2つの類型
規模や支配関係によっては、総会決議を飛ばせる制度が用意されています。日程短縮の効果は大きく、実務では積極的に検討します。
簡易株式交換
対価総額が譲受企業の純資産額の5分の1以内であれば、譲受企業側の株主総会を省略できます。対象会社側は特別決議が必要なままです。譲受企業が大手であるほど、この要件は満たしやすくなります。
略式株式交換
譲受企業がすでに対象会社の議決権の90%以上を保有している場合、対象会社側の総会を省略できます。段階的に出資を受けてきた会社が、最後に完全子会社化する場面で使われる形です。
反対株主が出たときの実務
総会決議で押し切れるとはいえ、反対株主の買取請求までは封じられません。株式交換を進める前にスクイーズアウトで少数株主を整理しておくほうが、結果的に安く早く済むこともあります。
株式交換で個人株主にかかる税金
「株をもらっただけなのに税金がかかるのか」。ここが最も誤解の多い論点です。結論から言えば、対価の中身次第で扱いが180度変わります。
譲受企業の株式だけを受け取れば課税は繰り延べ
居住者が旧株を譲渡し、譲受企業(またはその完全支配関係にある法人)の株式のみの交付を受けた場合、その譲渡はなかったものとみなされます。所得税法第57条の4の特例で、国税庁のタックスアンサーNo.1526に整理されています。
端数を除けば確定申告も不要
この特例が適用される場合、原則として確定申告そのものが要りません。ただし1株未満の端数を金銭で受け取ったときは、その部分だけ株式の譲渡があったものとして課税関係が生じます。少額でも申告漏れになりやすい箇所です。
現金が混ざると繰延が崩れる
特例の対象となるのは、株式以外の資産が交付されなかった株式交換に限られます。剰余金の配当や反対株主の買取対価は例外扱いですが、それ以外で現金を足すと、対価全体について譲渡益課税が走る構造です。
「一部だけ現金でもらいたい」という要望は現場でよく出ます。気持ちは分かるものの、その一言で税負担が数千万円単位で動くことがある。設計段階で税理士を巻き込むべき理由がここにあります。
法人税法の適格要件とは判定軸が違う
ここが教科書では分かりにくいところ。法人税法上の適格・非適格は、対象会社が保有する一定資産の時価評価課税に関わる論点です。譲渡オーナー個人の課税繰延は、所得税法の要件で別途判定します。二つを混同したまま「適格だから安心」と考えるのは危険です。
繰り延べた税金は売却時に精算する
受け取った株式の取得価額は、旧株の取得価額を引き継ぎます。つまり課税が消えたわけではなく、将来その株式を売ったときに、繰り延べた分もまとめて課税される仕組み。税率や制度の詳細は株式譲渡にかかる税金の考え方が土台になります。
中小企業の会社売却で株式交換を選ぶ判断軸
手法の優劣に一般解はありません。オーナーが売却で何を実現したいのか、そこから逆算するほかない領域です。
株式交換が向くケースと向かないケース
下表は、当社が相談を受ける際に最初に確認する適合性の目安です。
| オーナーの状況 | 株式交換との相性 | 理由 |
|---|---|---|
| すぐに引退資金が要る | 向かない | 手元資金が増えず、現金化まで時間がかかる |
| 個人保証の解除を急ぐ | 要検討 | 解除交渉は可能だが、返済原資の説明が別途要る |
| 売却後も経営に関わりたい | 向く | 譲受企業の株主として利害を共有できる |
| 譲受企業が上場企業 | 向く | 対価株式に市場価格があり換金しやすい |
| 譲受企業が非上場 | 慎重に | 換金手段が限られ、相続時の負担も残る |
| 相続対策を急いでいる | 向かない | 評価が難しい資産に組み替わる可能性がある |
交換比率の決まり方を先に確認する
受け取る株数を決めるのが交換比率です。双方の株価をどう算定するかで結果が大きく動くため、算定の前提と株式交換比率の算定方法は早い段階で押さえておきたい論点。非上場である自社側の評価は、企業価値評価の手法選択そのものが交渉材料になります。
簿外債務は株式交換でもそのまま承継される
株式を丸ごと渡す以上、未払残業代も係争案件も譲受企業に移ります。デューデリジェンスで発覚すれば比率の引き下げに直結する。先に自社で洗い出しておくほうが、交渉の主導権を握れます。
支援現場で見る相談パターン
典型的な二つの型を挙げます。どちらも実際によくいただくご相談です。
上場企業グループ入りで成長を取りに行く型
年商20億円前後、60代前半のオーナー。後継者はいないが、事業には伸びしろがある。全額現金で降りるより、上場企業の株主となって数年後にまとめて売るほうが手取りは大きくなる可能性がある。上場企業への会社売却を検討する場面では、この発想が現実味を帯びます。
現金化のタイミングを見誤る型
対価株式の譲渡制限が3年、その間に業界環境が変わって株価が3割下落。制限が解けた時点で売却しても、当初想定の手取りには届かない。株式交換を選ぶなら、この下振れを許容できる資産背景があるかが分かれ目になります。
一部現金という現実解の作り方
全額を株式で受け取るのが不安なら、譲渡オーナーの持株の一部を先に株式譲渡し、残りを株式交換にあてる設計も検討できます。将来の業績に応じて追加対価を受け取るアーンアウトを組み合わせる例も。ただし現金部分の扱いで課税繰延が崩れるため、税務設計は同時進行で進めます。
株式交換によるM&Aの事例
実際の取引を見ると、どんな会社がこの手法にたどり着くのかが見えてきます。
当社が支援した株式交換の事例
譲渡企業は寺社向け授与品の製造業(売上約150億円)、譲受企業は商業印刷(売上約800億円)。先代から承継して20年、職人の高齢化と後継者不在が重なっていました。コロナ禍での株価調整を経て株式交換を実行し、上場グループの一員として伝統技術と新しい販路の融合に踏み出しています。
株式交換で上場企業にグループ参画し伝統と革新の融合へ

譲渡企業:寺社物品品製造(売上約150億円)
譲受企業:商業印刷(売上約800億円)
スキーム:株式交換
先代の父から承継した20年の神社寺院の授与品製造会社が、職人の高齢化と後継者不足を背景に、コロナ禍での株価調整を経て株式交換で上場工芸品グループに参画し伝統技術と革新融合を実現。
オーナーがどんな迷いを経て決断したかは、譲渡オーナーの体験談で語られています。業種も規模も異なる当社の成約実績もあわせてご覧ください。
上場企業による株式交換の事例
公表事例からも、株式交換が使われる場面の傾向がつかめます(いずれも当社は非関与)。
三菱地所とロイヤルパークホテル
三菱地所が非上場のロイヤルパークホテルを株式交換で完全子会社化しました。契約締結は2021年5月26日、効力発生日は2021年8月1日です。
エア・ウォーターと日本海水
産業用ガス大手のエア・ウォーターが日本海水を完全子会社化した事例。2021年2月10日に契約を締結し、同年3月26日に効力が発生しています。
静岡ガスと中遠ガス
技術とノウハウの共有による効率的な事業展開を狙い、静岡ガスが中遠ガスを完全子会社化しました。締結は2019年2月6日、効力発生は2019年5月1日。
KeyHolderとallfuz
番組制作を手がけるKeyHolderが、広告・キャスティング事業のallfuzを簡易株式交換で子会社化しています。2019年2月13日に契約、同年4月1日に効力発生。譲受側から見た狙いや設計思想は、株式交換で買収する側の事情を知ると理解が進みます。
株式交換による会社売却に関するFAQ
相談の場で繰り返し出る質問を、実務の答え方でまとめます。
法律上は可能です。ただし件数は多くありません。受け取る株式に市場価格がなく、売りたいときに売れない資産になるためです。現場では、買い手が非上場なら現金対価の株式譲渡を軸に検討し直すことをお勧めしています。
契約で採用した方式次第です。固定比率方式なら合意時の比率が動かないため、株価変動は受取価値にそのまま跳ね返ります。変動比率方式なら一定範囲で調整されます。どちらかは交渉初期に確認してください。
買い手の株式だけを受け取り課税繰延の要件を満たすなら、原則として申告は不要です。ただし1株未満の端数を金銭で受け取った場合、その部分は申告対象になります。金額が小さくても見落とさないようにしてください。
残るケースが多い手法です。買い手の株主にもなるため、利害を共有した状態で経営を続けやすい構造といえます。ただし任期や権限の範囲は契約と株主間の取り決め次第なので、条件面は書面で詰めておきます。
株式交換による会社売却のまとめ
株式交換は、現金ではなく譲受企業の株式を受け取り、その後の成長を株主として取り込む手法です。課税は繰り延べられる一方、株価下落と現金化の制約という別種のリスクを引き受けます。手元資金が要るのか、時間をかけて価値を伸ばしたいのか。その答えが決まらないうちは、迷って当然の論点です。
みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社として中小企業の会社売却を数多く支援してきました。公認会計士・税理士が同じテーブルで、スキーム選択と税務設計を同時に検討します。株式交換の提案を受けて判断に迷われている段階でも、お気軽にご相談ください。
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著者

- 事業法人第三部長/M&A担当ディレクター
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宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修者 神門 剛 代表取締役 / 公認会計士・税理士
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