財務DDでの運転資本分析|M&A後の所要資金の予測・企業価値評価

M&Aにおける財務デューデリジェンスでは、運転資本分析が極めて重要です。この記事では、運転資本の定義からその詳細な分析方法、キャッシュフローへの影響、そして譲受後の追加資金需要の予測について解説し、M&Aを成功に導くための知見を提供します。

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財務DDにおける運転資本分析の重要性

M&A(合併・譲受)のプロセスにおいて、財務デューデリジェンス(DD)は譲受対象企業の財務状況を詳細に評価する手続です。この財務DDの中で、運転資本分析は重要な位置を占めています。運転資本は、企業の日常的な事業活動に必要な資金であり、その安定性と効率性は企業の健全性を測る上で欠かせない要素であるためです。

運転資本とは

運転資本とは、企業が事業活動に投下している資金のうち、短期間に回収・循環するものを指します。具体的には、売掛金、棚卸資産、現金預金などの流動資産から、買掛金や未払金などの流動負債を差し引いた額として定義されます。

運転資本分析の目的

財務デューデリジェンスにおける運転資本分析の目的は、主に以下の3点です。

M&Aの財務デューデリジェンスにおける運転資本分析

潜在的な財務リスクの把握

損益計算書だけでは分からない、売掛金や棚卸資産の滞留といった資金繰りの実態や隠れた問題点を明らかにします。これにより、譲受後の予期せぬトラブルを未然に防ぎます。

M&A後の安定した事業運営

事業を継続するために、実際にどれくらいの運転資金が必要かを見極めます。これにより、M&Aの直後に想定外の追加資金が必要になる事態を防ぎ、安定した資金繰りを確保します。

適正な企業価値の算定

運転資本の変動は、会社が将来生み出すフリーキャッシュフローに直接影響します。この将来FCFは企業価値を評価する際の重要な要素であるため、運転資本の分析は企業価値評価が適正かどうかを判断する上で不可欠です。

運転資本を構成する主要項目の分析

運転資本の分析では、主に売上債権、棚卸資産、仕入債務の3つの主要項目に注目します。これらの項目がどのように変動し、企業の資金繰りに影響を与えているかを詳細に分析することが、運転資本分析の肝となります。

売上債権回転期間の分析

売上債権(売掛金)は、商品やサービスを販売してから現金として回収されるまでの期間を示すものです。財務デューデリジェンスにおいて、売上債権の回収サイト(回収期間)を調査することで、資金繰りや取引の健全性を確認します。主な確認項目を下表に整理しました。

確認項目具体的な調査内容とリスク
回収の遅延や滞留回収サイトが長期化している場合、代金を回収できないリスクや資金繰りの悪化につながる可能性があります。売掛金年齢調べ表(エイジングリスト)を用いて、滞留状況を分析します​。
異常な取引条件の変更過去の推移と比較し、特定の取引先との間で回収期間が延びるなど、取引条件が変更されていないかを確認します。売上債権回転期間を算定して、回収期間が長い取引を客観的に導き出します。
関連当事者取引の有無関連当事者との間で通常の取引条件と異なる取引が行われていないかを確認します。これにより、実態よりも売上債権が多く計上されている可能性を排除します​。

売上債権回転期間の分析を通じて、対象企業の信用リスクやキャッシュフローの健全性を評価します。これは譲受後の事業継続性や資金繰りの安定性を見極める上で非常に重要です。

棚卸資産回転期間の分析

棚卸資産(在庫)は、企業が生産活動や販売活動のために保有する商品、製品、原材料などを指します。棚卸資産の過剰保有は、企業の資金を固定化させ、キャッシュフローを圧迫する要因となります。棚卸資産回転期間を分析する際の主な確認項目を下表に整理しました。

確認項目具体的な調査内容とリスク
過剰在庫や滞留在庫の有無長期間売れずに残っている在庫は、古くなって価値が下がり、評価損や廃棄によるコストが発生するリスクがあります。
季節変動や在庫戦略の影響アパレル業界のように季節性が強い事業では、季節変動を考慮した上で、その時期に見合った適切な在庫水準であるかを確認します。
収益性に対する影響棚卸資産の質が低下している場合、将来的な収益性にも悪影響を及ぼす可能性があります。
貸倒引当金の計上状況適切な引当金が計上されているかを確認し、過大または過少な引当金がないかを検証します。

棚卸資産の適切な管理は、運転資本の効率性を高め、キャッシュフローを改善するために重要です。これにより、譲受対象企業の事業の特徴を把握し、潜在的なリスクや改善余地を特定します。

仕入債務回転期間の分析

仕入債務(買掛金)は、企業が商品やサービスを仕入れてから代金を支払うまでの期間を示すものです。仕入債務の支払サイト(支払期間)を調査する際の確認事項を下表に整理しました。

確認項目具体的な調査内容とリスク
支払条件の妥当性過去の推移と比較し、特定の仕入先との間で不当に長い支払条件が設定されていないかを確認します。
資金繰りへの影響支払サイトが長期化している場合、一時的に資金繰りが改善されるように見えますが、仕入先との関係悪化や将来的な支払負担の増加につながるリスクがあります。
関連当事者取引の有無関連当事者との間で通常の取引条件と異なる取引が行われていないかを確認します。

仕入債務回転期間の分析は、企業の資金繰り管理能力やサプライヤーとの関係性を評価する上で重要です。

キャッシュコンバージョンサイクル分析

キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)は、企業が投下した現金が、事業活動を通じて再び現金として回収されるまでの期間を示す指標です。CCCを分析することで、運転資本の効率性や資金繰りの健全性を総合的に評価することが可能となります。

CCCの計算方法

CCCは、以下の計算式で算出されます。

CCC = 売上債権回転日数 + 棚卸資産回転日数 – 仕入債務回転日数

それぞれの回転日数は、以下の計算式で算出されます。

指標名計算式
売上債権回転日数売上債権残高 ÷ (年間売上高 ÷ 365日)
棚卸資産回転日数棚卸資産残高 ÷ (年間売上原価 ÷ 365日)
仕入債務回転日数仕入債務残高 ÷ (年間仕入高 または 年間売上原価 ÷ 365日)

CCCが短いほど、企業は効率的に現金を生成していると判断できます。

CCCの分析と業界標準との比較

CCCは、業界やビジネスモデルによって適正な水準が異なります。例えば、小売業のように現金を即座に回収し、在庫回転が速い業種ではCCCが短くなる傾向にあります。一方、製造業や建設業のように、大規模な在庫保有や長期間のプロジェクトを抱える業種では、CCCが長くなる傾向があります。

財務デューデリジェンスでは、対象企業のCCCを計算するだけでなく、同業他社や業界の平均値と比較することで、対象企業の運転資本の効率性が業界標準と比べてどうかを評価します。これにより、運転資本の効率改善余地を特定し、譲受後のシナジー効果の検討材料とすることができます。

推移分析と異常値の特定

運転資本は、季節変動や取引条件の変更など様々な要因で変動します。過去数年間の推移を詳しく分析することで、異常な動きや傾向を見極めることができます。主な分析ポイントを下表に整理しました。

分析ポイント具体的な確認内容と目的
季節変動の把握特定の季節に売上や在庫が大きく変動する事業の場合、その季節変動パターンを理解し、将来の見通しに反映させます。
取引条件変更の影響売上先や仕入先との間で、支払条件や回収条件の変更が過去に行われていないかを確認し、それが運転資本に与えた影響を評価します。
異常な増減の特定過去の推移において、不自然な運転資本の増加や減少が見られる場合、その原因を深掘りし、潜在的なリスクや課題を特定します。

これらの推移分析は、将来の運転資本の変動を予測する上で重要な情報となります。

買収後の運転資本管理と効率改善

M&Aの成功には、譲受後の運転資本管理が非常に重要です。デューデリジェンスの段階で特定された課題や改善余地に基づき、譲受後の運転資本を効率的に管理し、追加資金需要を最小限に抑えるための計画を立案します。

正常運転資本水準の算定

正常運転資本水準とは、特定の事業活動レベルを維持するために、企業が常に必要とする運転資本の最低限のレベルを指します。M&Aにおいてこの水準を算定することは、譲受後の追加資金需要を予測し、譲受価格に適切に反映させる上で不可欠です。算定にあたって考慮すべき要素を下表にまとめました。

考慮すべき要素具体的な算定方法と目的
過去の事業実績過去の売上高や売上原価の推移から、必要な運転資本額を推計します。
将来の事業計画将来の売上目標や事業拡大計画に基づいて、それに伴う運転資本の増加を見積もります。
業界慣行同業他社の運転資本水準や業界の慣行を参考に、適切な水準を設定します。この水準を下回ると資金繰りが厳しくなる可能性があり、過剰な運転資本は非効率性を招くため、適正な水準を把握することが重要です。

M&A後の所要運転資金額の予測

譲受後の所要運転資金額を予測するためには、デューデリジェンスで得られた情報と、譲受企業自身の経営戦略を組み合わせることが重要です。予測にあたって考慮すべき主な要素を下表に整理しました。

予測における考慮事項具体的な内容と反映方法
シナジー効果の考慮譲受により、仕入先の統合や生産体制の効率化などにより、運転資本の効率改善が見込まれる場合は、その効果を予測に反映させます。
経営方針の変更譲受企業が対象企業の事業に対して、例えば在庫戦略の見直しや売掛金の回収期間短縮など、新たな経営方針を適用する場合、それらが運転資本に与える影響を予測します。
予期しない変動への備え市場環境の変化や予期せぬトラブルに備え、一定のバッファを含んだ予測を行うことも重要です。これらの要素を総合的に考慮し、譲受後の運転資本シミュレーションを行うことで、追加資金需要の有無やその規模を具体的に把握します。

運転資本の効率改善余地の検討

運転資本分析を通じて、効率改善の余地を特定し、譲受後のPMI(統合プロセス)計画に組み込むことが重要です。主な改善策を下表に整理しました。

改善策具体的な取り組み内容
売掛金の回収促進回収サイトの短縮化、債権管理体制の強化などにより、キャッシュインを早めることを目指します。
棚卸資産の適正化過剰在庫の削減、在庫管理システムの導入、生産計画の最適化などにより、在庫水準を適正化します。
買掛金の支払条件交渉仕入先との関係を良好に保ちつつ、支払サイトの延長を交渉することで、資金の流出を遅らせることを検討します。
CCCの改善上記のような個別の改善策を組み合わせることで、CCC全体を短縮し、運転資本効率を高めることを目指します。

運転資本の効率化は、企業のキャッシュフローを改善し、収益性を向上させる重要な手段となります。

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よくある質問|財務デューデリジェンスと運転資本分析(FAQ)

M&Aにおける財務DDでは、運転資本分析に関して以下のQ&Aが見受けられます。

Q:対象会社の資金繰りは大丈夫ですか?

財務デューデリジェンスにおける運転資本分析は、譲受対象企業の資金繰りの安定性を評価する上で非常に重要です。売掛金や棚卸資産の回収・回転期間、買掛金の支払期間などを詳細に分析し、キャッシュフローの健全性を確認します。これにより、企業の現金生成能力や、将来的な資金ショートのリスクなどを評価することが可能です。過去の推移や業界標準との比較を通じて、客観的な視点から資金繰りの状況を判断します。

Q:運転資本で何に注目すればいいですか?

運転資本分析では、主に「売上債権(売掛金)」「棚卸資産(在庫)」「仕入債務(買掛金)」の3つの主要項目に注目します。それぞれの項目について、その残高の推移、回転期間(回収サイトや支払サイト)、そしてそれらの組み合わせから算出されるキャッシュコンバージョンサイクル(CCC)を詳しく見ます。これらの指標を分析することで、企業の資金効率や、キャッシュフローの安定性に影響を与える要因を特定することができます。

Q:譲受後に運転資金が追加で必要になりますか?

譲受対象企業の事業計画や運転資本の現状を分析し、譲受後に追加で運転資金が必要になるかどうかを予測します。特に、事業拡大を予定している場合や、現状の運転資本が不足している場合、または譲受後の取引条件変更により運転資本が増加する可能性がある場合などには、追加資金が必要となることがあります。デューデリジェンスでは、これらの潜在的な資金需要を事前に把握し、譲受価格や譲受後の資金計画に反映させることが重要です。

Q:在庫を持ちすぎていないか調べる方法はありますか?

在庫が過剰であるかどうかを調べるには、「棚卸資産回転期間」の分析が有効です。これは、棚卸資産がどれくらいの期間で売上に結びついているかを示す指標です。この期間が業界平均や過去の推移と比較して長い場合、過剰な在庫を抱えている可能性があります。
また、滞留在庫や陳腐化リスクのある在庫がないか、個別の品目レベルで確認することも重要です。棚卸資産の管理状況や評価方法も合わせて検証することで、正確な実態を把握できます。

Q:キャッシュコンバージョンサイクル(CCC)とは何ですか?

キャッシュコンバージョンサイクル(CCC)は、企業が投下した現金が、事業活動を通じて再び現金として回収されるまでの期間を示す指標です。具体的には、「売上債権回転日数」と「棚卸資産回転日数」を足し合わせ、「仕入債務回転日数」を引くことで算出されます。 CCCが短いほど、企業は効率的に資金を回転させており、キャッシュフローが良好であると判断できます。業界標準との比較を通じて、対象企業の運転資本管理の効率性を評価する際に利用されます。

財務DDとバリュエーションにおける運転資本分析

運転資本分析は、対象企業の資金繰りの安定性と将来の追加資金需要を予測するために重要です。売掛金や在庫、買掛金の回転期間を詳しく調べることで、企業の財務特性やリスク、改善機会を把握できます。この分析結果は、企業価値評価や買収価格の決定、買収後の運営計画に役立ちます。

みつきコンサルティングは、税理士法人グループとして15年以上の実績を持ち、財務調査に精通した公認会計士が在籍しています。税務を含めた専門的な調査をワンストップで提供します。財務デューデリジェンスをご検討の方は、お気軽にご相談ください。

著者

綿引 征典
綿引 征典
国内大手証券会社にて顧客のお金や人生に関わる財産運用を助言。相続・事業承継専門の会計事務所を経て、当社では法人顧客の税務対策・申告、M&Aに係る財務・税務のアドバイザリーに従事。税理士

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