会社売却(M&A)は、後継者不在の解決や事業拡大など、多くの中小企業にとって有効な経営戦略として認知されてきました。株式譲渡や事業譲渡といった手法と、メリット・デメリット、価格算定方法、税金まで幅広く知ることで、会社存続や経営者の将来設計に役立つ選択肢が広がります。
会社売却とは
会社売却とは、自社株や事業を第三者に譲渡し、その対価を得ることを指します。一般にはM&A(合併・買収)の一形態とされ、会社の経営権を移転することによって、後継者不足や資金不足、経営の行き詰まりといった問題を解決したり、事業の飛躍を図ったりする手段として一般化してきました。
会社売却が増えている理由
近年、中小企業における会社売却が増加傾向にある背景には、主に次のような理由があります。
- 経営者の高齢化、後継者の不在
- 事業規模を拡大する上での経営リソースの不足
- 経営の多角化や選択と集中による事業再編
実際、中小企業のM&A件数は過去10年で大幅に増加し、2025年1月のレコフデータの発表によると、2024年は4,700件と過去最多となりました。売り手側である中小企業だけでなく、買い手も自社の技術獲得や販路拡大などを狙い、中小企業を積極的に買収する流れができてきたことも要因です。
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売主が重視すること
M&Aが増加するなか、会社の譲渡を真剣に検討する経営者も増えており、「会社を誰に託すか」「会社をより成長させられる相手はどんな企業か」といった観点で、会社売却を前向きに選択する例が数多く見受けられます。
2025年1月公表の帝国データバンク「M&Aに対する企業の意識調査」によると、会社売却に際して譲渡オーナーが重視することは以下のとおです。

このアンケート結果から、M&Aを検討する中企業の経営者が最も重視するのは、「従業員の処遇」(78.7%)と「金額の折り合い」(75.9%)であることがわかります。これは、譲渡後の従業員の環境や待遇維持への関心が極めて高い一方で、適正な評価を得たいという経済的な要望も強いことを示しています。また、「経営陣の意向」(55.4%)や「人事労務管理や賃金制度」(38.3%)も上位に挙がっており、経営方針や企業文化の継承に対する配慮も重要視されていることが読み取れます。
譲受企業が重視すること
同アンケートでは、会社売却に際して譲受企業が重視することも明らかにされています。

譲渡側と譲受側のアンケート結果を比較すると、両者の違いが明確です。譲渡側は「従業員の処遇」(78.7%)を最も重視し、「金額の折り合い」(75.9%)が続いています。一方、譲受側は「金額の折り合い」(79.7%)を最重視し、次いで「財務状況」(73.0%)や「事業の成長性」(65.7%)を重視しています。この差異は、譲渡側が企業文化や従業員への影響を優先し、譲受側が財務的健全性や成長性を重要視していることを示しています。
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会社売却のメリット・デメリット
会社売却は「会社を手放す」というイメージから、後ろ向きな選択だと捉えられがちですが、実際にはさまざまなメリットがあります。近年では、中小企業でも視野に入れられる有効な資本政策と認識されています。
会社を売却するメリット
ここでは代表的なメリットを4つ挙げますが、個別の状況によって、他にも多くのメリットがあります。
会社の存続が可能になる
親族や社内に後継者がいない場合、最悪のケースでは廃業や倒産も考えられます。しかし、会社売却により外部にバトンを渡せば、経営者自身が引退しても、従業員の雇用や取引先との関係はそのまま維持できる可能性が高まります。また、友好的な売却が実現すれば、会社のノウハウやブランドが引き継がれ、企業としての存続・発展が期待できます。
経営の安定とさらなる成長
中小企業の場合、経営者個人が資金や人材を十分に確保できず、事業成長に限界を感じることがあります。しかし、買い手企業の豊富な経営リソースを活用できれば、会社単独では難しかった事業拡大や新規事業への進出、採用力の強化などが実現しやすくなります。譲渡後にブランド力や経営基盤が強化されれば、競合他社との差別化も促進できるでしょう。
創業利潤の獲得と新たな挑戦
株式譲渡で会社を売却すると、対価はオーナー個人の所得になります。まとまった金額を得られれば、老後資金や新たな事業の立ち上げ資金に充てることも可能です。また「会社売却を成功させた創業者」として評価されることで、次のステージにおける事業展開や投資、あるいはアーリーリタイアを目指す選択肢も広がります。
連帯保証からの解放
中小企業では、経営者が銀行融資の際に個人保証を求められるケースが多いです。会社売却により新たなオーナーへ経営権が移転すれば、個人保証も買い手企業が肩代わりを交渉してくれる場合が一般的です。これによって経営者は、融資の重圧から解放されるメリットを得ることができます。さらにロックアップ期間終了後は経営から完全に手を引いて、自由な活動に専念できるようになるでしょう。
会社を売却するデメリット
会社売却には多くのメリットがある一方、デメリットや注意すべき点も存在します。一般的には、以下の点に気をつける必要があります。
売却後の一定期間は事業活動が制限される
会社売却後、一定期間は元オーナーや主要役員がその会社に在籍するよう求められるロックアップ(キーマン条項)が設定される場合があります。その期間は、半年~3年位が多い印象です。新体制への円滑な移行を確保するためですが、この期間中は新規事業に取り組む自由が制限されることもあります。さらに「競業避止義務」により、売却した事業と競合するビジネスを一定期間は展開できない可能性もあるため、将来の事業計画は慎重に検討しましょう。
思い通りの条件やタイミングで売却できないことがある
会社売却の交渉には時間と専門的知識が求められます。買い手候補が見つからなかったり、譲れない条件が多すぎたりすると、交渉が長期化してしまうリスクもあります。また、経営者が希望する売却時期と市場環境が合わず、想定していたほどの価格がつかない場合もあります。
秘密保持と情報漏えいリスク
会社売却の交渉過程では、財務状況や事業戦略など機密性の高い情報を買い手候補に開示する必要があります。もし情報が社外に漏れれば、従業員や取引先、金融機関の不安を煽り、取引条件が悪化するおそれがあります。そのため、秘密保持契約(NDA)を結ぶだけでなく、情報開示の範囲やタイミングに細心の注意を払うことが重要です。
会社売却後の経営方針や組織文化の変化
会社売却後は、一般的には買い手企業の経営手法や企業文化、意思決定の進め方に合わせていく必要があります。従業員は雇用維持が前提であっても、体制変更で役職や部署が変わったり、評価制度が一新されたりする可能性があります。また経営者自身が一定期間会社に残る場合、意思決定のスピード感が変化し、モチベーション面で戸惑うケースもあります。
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会社売却の方法
会社売却には、大きく「株式譲渡」と「事業譲渡」という2つの代表的な手法があります。それぞれに特徴があるので、売り手・買い手双方の状況や希望に応じて最適な方法を選ぶことが大切です。
株式譲渡
株式譲渡とは、譲渡オーナーが持つ自社株を買い手へ譲り渡すことで、経営権を移す方法です。手続が比較的シンプルであり、オーナーは株式譲渡による売却益をダイレクトに受け取れます。また、会社全体を丸ごと承継できるため、従業員の雇用や取引先との契約関係なども維持されやすいメリットがあります。
一方、買い手側は会社の簿外債務やリスクなども一括で引き継ぐことになるため、デューデリジェンスを丁寧に進める必要があります。
事業譲渡
事業譲渡とは、株式ではなく会社の事業そのものを売買する手法です。会社の一部の事業のみを切り出して譲渡することも可能であり、不採算部門や不要な負債を切り離せる柔軟性が魅力です。
ただし、特定の資産・契約・従業員との労働契約などを個別に移転手続するため、株式譲渡よりも煩雑になりがちです。さらに、法律上の競業避止義務が原則として適用されるため、売却後に同じ事業分野で起業・参入するのは制限される点に注意が必要です。
このほか、会社の一部または全部を分割して譲渡する「会社分割」、複数の会社を一体化する「合併」などもありますが、中小企業における会社売却では、株式譲渡か事業譲渡のいずれかが選ばれるケースが多いです。
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会社売却の相場
会社をいくらで売却できるかは、経営者にとって最大の関心事です。しかしながら「相場」がはっきり存在するわけではありません。
企業価値評価の方法
一般的には複数の評価手法を用い、買い手との交渉を経て決定されます。主な評価手法は次の3種類に大別できます。
コストアプローチ
現在の正味財産に着目し、貸借対照表に計上されている資産や負債を見直して実質的な純資産価値を算出する方法です。簿価純資産法や時価純資産法が代表例で、比較的シンプルかつ客観的に評価できますが、将来の収益性や成長性を十分に反映しにくいという面があります。
実務的には、いわゆる年買法(年倍法)と呼ばれる時価純資産に「のれん」価値を加える方法が多用されています。
マーケットアプローチ
似た業種や規模の会社が株式市場やM&A市場でどの程度の価格で取引されているかを参考にして評価する方法です。具体的には、類似会社のPER(株価収益率)やEBITDA倍率などを用いて、自社の収益や利益と照合することで会社の市場価値を推定します。相場観を得やすい一方、適切な類似企業の選定が難しい場合があります。
実務では、類似会社比較法(マルチプル法)がポピュラーです。
インカムアプローチ
将来生み出すであろうキャッシュフローに着目する方法です。代表例がDCF(ディスカウント・キャッシュ・フロー)法で、会社が生む将来の利益を割り引いて現在価値に換算し、企業価値を算出します。将来の成長性を反映できるため理論的ですが、事業計画の信頼度や割引率の設定など、恣意的に変動する要素が多い点には注意が必要です。
自社の売却相場を知りたい場合は…
実際には、買い手企業の戦略や相乗効果(シナジー)によって最終的な売却金額が大きく上下するケースも珍しくありません。会社売却前に大まかな価格を知りたい場合は、専門家やM&A仲介会社が提供する「簡易シミュレーション」を活用すると良いでしょう。
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会社売却のスケジュール
ここからは、会社売却に至るまでのおおまかな流れを見ていきます。中小企業の場合、M&A仲介会社のサポートを受けながら進めるのが一般的です。
イベント | 説明 |
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1.個別相談 | まずはM&A仲介会社などへ相談し、会社売却の目的や希望条件を明確化します。現状把握や企業評価、譲渡スケジュールの検討など、最初のステップとなる重要な段階です。 |
2.M&A仲介会社との契約 | 仲介会社を利用する場合は、契約を交わして正式にサポートを依頼します。契約形態や手数料体系は仲介会社ごとに異なるため、事前にしっかり確認することが大切です。 |
3.必要資料の提出 | 企業評価や企業概要書の作成に必要な決算書や契約関係書類、従業員情報などをまとめて仲介会社に提出します。3期分以上の決算書や許認可一覧、労務関係規程、資産状況など詳しいデータが必要です。 |
4.企業評価・企業概要書の作成 | 仲介会社がコストアプローチやインカムアプローチなどを使い、売却価格の目安となる評価を行います。同時に、会社の強み・弱みや財務内容等を整理した「企業概要書」を作成し、買い手候補へのアピールに備えます。 |
5.ノンネーム資料の作成 | 企業名を伏せた紹介資料(ノンネームシート)を用意し、買い手候補の反応を探ります。秘密保持契約(NDA)を結んでから、詳細な情報を提供する流れが一般的です。 |
6.売却先の選定 | 仲介会社のネットワークなどを通じて、複数の買い手候補を探します(マッチング)。候補企業との打診を続け、興味を示した企業があれば、トップ面談へ進む段階です。 |
7.トップ面談 | 譲渡企業と買い手候補の経営者同士が顔を合わせ、経営理念や事業ビジョンなどを話し合います。この場で互いの相性や企業文化の違いを見極めることが大切です。 |
8.条件調整 | 買い手候補からの意向表明書をもとに、最終的な売却先を絞り込みます。譲渡価額や従業員の処遇、ロックアップの有無など重要な条件面をすり合わせ、基本合意を目指します。 |
9.基本合意書の締結 | 価格やスケジュール、秘密保持など、概略レベルの契約条件を文書化します。独占交渉権を与えることも多く、ここからは1対1の交渉となるケースが一般的です。 |
10.デューデリジェンス | 買い手側が弁護士や会計士などの専門家と協力し、売り手企業の財務・法務・ビジネスなどを詳細に調査します(買収監査)。問題点が発覚した場合、再交渉や価格の調整が行われることもあります。 |
11.最終契約の締結とクロージング | 最終的な条件に合意したら、株式譲渡契約や事業譲渡契約などの本契約を結び、決済を完了します。クロージングの段階で譲渡対価が支払われ、経営権が正式に買い手へ移転します。 |
12.関係者への公表 | 売却成立後、従業員や取引先、金融機関などにM&Aの事実を伝えます。タイミングや発表のしかたを誤ると、混乱を招く場合があるため、仲介会社の助言を受けながら慎重に進めます。 |
13.PMI | 経営統合後の組織づくりやシステム連携、人事制度の見直しなどを行い、買い手企業とスムーズに一体化を図ります。このPMI(Post Merger Integration)が成功のカギを握るといわれ、準備不足のまま成約すると、統合後のトラブルを引き起こすリスクが高まるため要注意です。 |
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会社売却にかかる税金と費用
会社売却には、M&A仲介会社や専門家への手数料だけでなく、税金が関係します。どのような種類の税金が発生するかは、売却手法や株主の属性(個人・法人)によって異なります。
株式譲渡の税金
個人株主の場合、売却益(譲渡所得)に対して、税率20.315%(所得税+住民税)が課されます。法人株主の場合は法人税がかかり、実効税率は30~40%前後となるのが一般的です。
株式譲渡では消費税がかからず、譲渡益に対してのみ課税される点がメリットです。
事業譲渡の税金
事業譲渡では、法人税や消費税などが課されます。譲渡する資産や負債を個別に時価評価し、その譲渡益(差額)に法人税が課税されるほか、譲渡対象となる資産によっては消費税が発生します。
さらに、株式譲渡とは異なり譲渡側には「競業避止義務」が法的に定められているため、売却後に同業種へ参入しようとする場合、期間や地域の制約を受けることが一般的です。
その他の費用
会社売却にあたっては、仲介会社に支払う報酬や、デューデリジェンスでかかる調査費用、弁護士や税理士など専門家への報酬が発生します。仲介会社の報酬体系は「着手金+中間金+成功報酬」や「完全成功報酬制」などさまざまで、総額が大きく変動する場合があるため、依頼前に詳細を確認することが重要です。
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会社売却を成功させるポイント
最後に、会社売却を成功させるための主要なポイントを4つピックアップします。売却のメリットを最大化し、不測の事態を避けるには、以下を心がけましょう。
目的と条件を明確にする
売却の理由(後継者不在や成長戦略など)と優先順位(価格、雇用維持など)をはっきりさせておくことは極めて大切です。曖昧なまま交渉を進めると、せっかく候補が見つかっても後から条件の相違でトラブルが起きる可能性があります。
情報管理と秘密保持を徹底する
M&A交渉では、従業員や取引先に知られたくない情報もやり取りされます。秘密保持契約を結ぶだけでなく、資料の取り扱いやアクセス権をしっかり管理し、不要な噂や混乱を招かないよう注意が必要です。
適切な企業評価と事業計画の整備
自社の強みや将来のキャッシュフローを正しく把握しておくことで、相応の売却価格を主張できます。決算書の整合性はもちろん、事業計画が現実的であるかも問われるため、必要であれば専門家と相談しながら情報を整備しましょう。
税務等に強いM&A仲介会社に相談する
後継者問題や経営体制の強化、そして経営者の個人保証解除など、会社売却には多くのメリットがあります。しかし、売却後に「もっと早く動いていれば条件が良くなったのに」「もっと専門家に頼ればスムーズだったのに」と悔やむ例も少なくありません。
一方で、M&Aは契約・税務・法務の観点から複雑な手続を伴います。誤ったまま進めると、思わぬリスクに直面する可能性が高いです。そのため、税務等の専門性のたかいM&A仲介会社の協力を得て進めるのが一般的であり、実際にM&Aに強い税理法人や会計系コンサルティング会社も存在します。
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みつきコンサルティングの売却支援事例
会社売却は多種多様な背景や経営課題を解決する手段として活用されています。ここでは、当社(みつきコンサルティング)が過去に支援した会社売却の事例を見てみましょう。
事例:システムの受託開発会社
情報システム開発を手掛けるD社は、業界の激しい変化に直面し、単独での事業継続に限界を感じていました。そこで、より大きな企業グループの一員となることで新たな成長の機会を得るべく、会社売却を検討し始めました。
しかし、売却プロセスは想像以上に複雑で時間がかかるものでした。特に苦労したのは、自社の安定的な事業拡大を見込める、納得のできる買い手を見つけることでした。一度は過去の取引先企業との交渉が進みましたが、相手企業の経営方針変更により中止となってしまいました。また、D社には複数の法人株主がおり、意思決定に時間がかかりました。株式譲渡契約書の確認や修正に関して、各社で意思決定のフローや要望が異なり、調整に苦労しました。同じ条件の契約書でも、数週間で調整できた株主もいれば、2カ月近くを要した株主もいました。
最終的に買い手となったO社との交渉では、交渉期間が長期に及びましたが、粘り強く交渉を続けた結果、約2年10カ月という長い期間を経て、会社売却が実現しました。
事例:精密プラスチック部品の製造会社
プラスチック製品製造業を営むS社は、1970年代に創業し、医療器具や半導体製品関連などの精度が求められる製造に強みを持っていました。社長は60歳を過ぎた頃、経営に限界を感じ、会社売却を検討し始めました。当初は会社売却に対して良いイメージを持っていませんでしたが、インターネットで調べる中で仲介会社を見つけ、相談を始めました。
最終的に、同じ北信地域にある会社を譲渡先として選びました。譲受企業は異なる製造業を営んでいましたが、社長の若さと企業理念への強い想いに惹かれたそうです。S社の社長は「当社をお任せするのは、この会社しかない」と確信したと語っています。
売却後、譲受側の社長が頻繁にS社を訪れ、従業員との関係構築に努めました。取引先の反応も良好で、「令和の時代は会社売却は当たり前」という反応だったそうです。現在は、総務・経理業務から始まり、営業、技術部門と段階的に統合作業を進めています。
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事例:家電・家具の配送および設置工事会社
山形と秋田を拠点に家電・家具の配送事業を展開するT社は、後継者不在の課題を抱えていました。社長は70歳を節目に引退を考えており、第三者への事業承継を検討し始めました。会社売却の条件として、従業員の雇用継続を最優先に考えていました。
複数の候補先の中から、T社はS産業を選択しました。S産業は会社売却の実績が豊富で、T社との取引関係もあり、事業内容を十分に理解していました。これが従業員の不安を軽減する要因となりました。
売却後、T社の社長は会長として70歳頃まで会社に携わることになりました。これはS産業が従業員への配慮として提案したものでした。この事例の特徴は、買主と売主の間に既存の取引関係があったことです。これにより、互いの事業への理解が深く、スムーズな承継につながりました。また、従業員への配慮が随所に見られ、人材を重視する姿勢が印象的です。
よくある質問(FAQ)
会社売却には興味があるものの、不安や疑問を感じる経営者も少なくありません。ここでは、代表的な質問を紹介します。
Q:会社を売却したら役員・従業員はどうなりますか?
A:株式譲渡の場合は、役員や雇用契約もそのまま引き継がれるのが一般的です。事業譲渡でも、多くは労働条件を変えずに従業員を継続雇用するよう交渉が行われます。契約時に雇用維持の条件を明確にしておくことが重要です。
Q:社員から「会社を売却するんですか?」と聞かれた場合、どのように答えるのが適切ですか?
A:会社の成長戦略の一環として、常に様々な選択肢を検討していると答えるのが良いでしょう。M&A(会社売却)も、企業価値を向上させるための一つの手段であり、創業時から検討していることを伝え、隠し立てせずにオープンに話している姿勢を示します。ただし、秘密保持には配慮していることも伝えましょう。
Q:M&Aの話が社員に漏れることはありますか?
A:M&Aを進める上で、情報漏洩は起こり得るリスクです。情報管理を徹底していても、様々な経路で情報が伝わる可能性があります。したがって、社員から質問された際に備え、事前に回答を準備しておくことが重要です。
Q:会社売却を検討していることを社員に隠すべきですか?
A:お相手企業との交渉がある程度進み、会社売却の可能性が高まるまでは、伏せおくことが一般的にはベターです。どのような伝え方をしても従業員は不安になるもので、まして会社売却に至らない可能性もあるなか、余りに早く従業員に伝えると従業員の離散に繋がりかねません。
Q:会社売却は常に企業価値を向上させるものですか?
A:会社売却は、資本構成を変えることで企業価値を向上させる手段の一つです。例えば、新しい資本を導入することで、売上増加、大規模なプロジェクトへの挑戦、資本コストの削減などが期待できます。また、社員の活力向上にもつながる可能性があります。
Q:会社売却を進める際に、経営者が最も心掛けるべきことは何ですか?
A:会社売却は、会社、社員、顧客、そして社会全体にとってプラスになるべきです。M&Aを通じて、企業の未来がより良くなることを目指し、そのための手段として取り組む姿勢が重要です。
Q:社員が会社売却に抵抗を示す場合、どのように対応すべきですか?
A:企業価値向上の方策として会社売却を検討していることを伝え、選択肢の一つであることを理解してもらうことが重要です。M&Aの目的を明確にし、社員にとってのメリットを丁寧に説明することで、抵抗を減らすことができます。
Q:社外の人から「会社を売却するんですか?」と聞かれた場合はどう答えるべきですか?
A:相手企業の秘密情報もあるため、安易に認めるべきではありません。ただし、完全に嘘をつくのも避けるべきです。ケースバイケースですが、「様々な提案を受けて検討している」と事実を一部含ませることで、誤解を招かないようにすることが必要になる状況もあるでしょう。
Q:会社売却を成功させるためには、どのような心構えが必要ですか?
A:会社売却は、単なる取引ではなく、企業価値を向上させるための手段であるという認識を持つことが重要です。ステークホルダー全体の利益を考慮し、長期的な視点で取り組むことで、真に成功するM&Aを実現できます。
Q:赤字でも会社を売却できますか?
A:赤字企業でも、買い手が魅力的な技術や顧客基盤に価値を見いだせば売却は可能です。また地域に欠かせないサービスを提供している場合など、赤字であっても事業そのものに将来性があれば、前向きに検討されます。
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会社売却のまとめ
会社売却は後継者不在や経営拡大など多様な課題を解決し、譲渡オーナーには新たな人生を切り開く選択肢にもなります。売却後の雇用維持や経営方針の変更など考慮すべき点は多いですが、専門家のサポートと十分な準備があればスムーズに進められます。会社の将来と経営者自身のライフプランを見据え、最適なタイミングで検討することが大切です。
みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&Aに強いコンサルティング会社として、業歴も古く、税理士や公認会計士などの専門家やM&Aコンサルタントとしての経験も豊かなメンバーがご担当させていただく体制が整っております。会社売却は、みつきコンサルティングにご相談ください。
著者

- 事業法人第一部長
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みずほ銀行にて大手企業から中小企業まで様々なファイナンスを支援。みつきコンサルティングでは、各種メーカーやアパレル企業等の事業計画立案・実行支援に従事。現在は、IT・テクノロジー・人材業界を中心に経営課題を解決。
監修:みつき税理士法人
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