物流会社の事業承継・M&A|物流業界の事業売却の傾向・事例も紹介

物流業界には2024年問題の真っただ中にあります。アメリカ発のAmazon社が日本でも浸透したことも手伝い、国内の物流業界は変革の真っ只中にあります。それに伴い、M&Aによる合従連衡が必至の情勢です。 

インターネットで朝注文したとして早ければ翌日、遅くとも2-3日で品物が届くようになりました。またネットスーパーをはじめ食料品も自宅に届けられるようになり、数日間自宅を出なくても暮らせるという昔は信じられない生活スタイルが現実になっています。一方で良いことばかりではなく、慢性的なドライバー不足などに象徴されるように、当然ながら物流事業者には大きな負担がかかります。そんななかテクノロジー導入への転換点を含め、物流業界にはM&Aの波が押し寄せています。

物流業と運送業の違い

物流会社と運送会社の役割は、似ているようで、少し異なります。

物流会社とは

物流会社は、車両、航空機、船舶、列車を使用しつつ、荷物の管理や運ぶこと全般の業務にあたります。そのため、自社が提案した物流体制によって荷主の業務効率を改善し利益につなげることが重視されます。物流会社では、入出庫(荷役)や保管、検品、梱包・包装、出荷、配送などさまざまな業務に総合的に対応しています。

運送会社とは

運送会社は、主にトラックで荷物を輸送することに特化しています。そのため、荷物を効率的に、安全に配送することが重視されます。なお、運送の一部である「配送」は、小売店や消費者にダイレクトに荷物を運ぶ業務です。

「運送」は「物流」の重要な一部であると言えます。

2016年度~2020年度:国内貨物輸送量の推移(トンキロベース)
2016年度~2020年度:国内貨物輸送量の推移(トンキロベース)

出典:我が国の物流を取り巻く現状と取組状況(経済産業省)

物流業のM&Aの傾向 

物流業界におけるM&Aは、競争力を高め業界全体の発展につながる重要な手法となっています。物流会社の経営統合は、貨物輸送・物流サービスの効率化やサービス品質の向上が期待できます。加えて、経営リソースの最適化や人材開発、新たな事業展開にも繋がります。物流業界におけるM&Aの狙いとしては、サービスライン拡大や顧客ニーズの多様化への対応力向上、コスト削減、業務効率化、企業価値の向上など、多岐にわたります。

スケールメリットを期待できる 

最大の特徴はスケールメリットへの期待です。集積地となる工場の大型化や自動化によって、行程作業の効率化が期待できます。目視で宛先を判別している作業時間と、AIやロボットを使って区分けする会社では配送効率が何倍も変わるうえ、誤配などのリスクを削減することもできます。 

譲渡側のメリット

このような間接コストで悩んでいた物流会社は、M&Aのうえ大規模会社に参画することにより経営改善をすることもできます。荷主に対するブランディングも向上するため、売上の向上も期待できるでしょう。 

譲受側のメリット

このようなM&Aは、買い手となる大型企業にもメリットがあります。それは現場に精通していることです。物流業界歴が浅く、ノウハウを持たない人材を育てるには一定の時間とコストがかかります。M&Aで参画して貰うと、いわばノウハウを持った支店の1つが増える意味合いもあり、売上効率が上がります。 

また専門知識と技術のある人間に自社のサービスを客観的に見て貰うことにより、改善点や更なるサービス向上を実現することができるでしょう。 

AIやロボットへ更なる投資も可能に 

物流事業者がM&Aで狙うのは同業のみとは限りません。物流×Techの開発系企業を傘下に納めることにより、より性能の高い自動化を推進することができます。 

譲受側のメリット

企業にとっては汎用的なサービスを導入するよりも、自社にカスタマイズしたサービスの方が利用ニーズは高いです。またサービス稼働中の保守面の対応や追加サービスを開発する際に、開発会社も自社グループに加えておくと大きなメリットがあります。 

更に自社以外のサービス提供を制限することにより、同等の高品質なサービスが他社にも提供され競合化を防ぐという意味合いもあります。導入に対し同業他社への提供を禁止する契約を締結することもできますが、グループ会社として置いた方が確実性は高いといえるでしょう。 

譲渡側のメリット

開発会社にとってもメリットがあります。開発してから営業に相応のコストをかけるより、導入な確実な取引先を確保することができます。前述した通り該当商品の競合への販売が規制されるとしても、他の商品を販売展開するにあたっての後ろ盾が期待できます。また大企業のグループ会社でいることにより、優秀な開発人員の確保なども期待できるでしょう。 

M&Aが完了すると、そのM&Aによってどれくらいの効果創出が可能なのか、PMI(Post Merger Integration)測定が開始されます。物流業界同士によるPMIは削減コストや配送の効率化を測定することで計測できます。 

物流業界のM&A事例 

実際に物流業界で締結された近年のM&A事例を見ていきましょう 

アクセンチュアによるトランコムITSの株式取得(2022年3月) 

コンサルティング会社として著名なアクセンチュアによるM&A事例です。トランコムITS社は物流システム構築などのITサービスを提供しています。また外部へのサプライチェーンの変革支援事業を展開しており、アクセンチュアと同領域といえます。販売サービスの拡充と祖業の強化という複数の目的を持つM&Aといえるでしょう。 

SBSホールディングスによる古河物流(古河電機工業子会社)の子会社化(2021年4月) 

物流業界でM&Aを積極的に展開しているSBSホールディングスによるM&A事例です。古河物流は電子部品や自動車などの精密機械における輸送ノウハウに実績があるため。SBSの対応領域を拡大する狙いがあると見られます。 

ビックカメラによるエスケーサービスの子会社化(2018年7月) 

荷主による物流会社のM&A事例です。ビックカメラは2018年、大型家電の配送や設置に強みを持つエスケーサービスを子会社化しました。家電量販は店舗に来店する顧客だけではなく、ECなどを通して自宅に配送するサービスを拡充しており、その一環と考えられます。 

物流業界のM&Aのまとめ 

2024年問題は前後数年間の視座で見れば物流業界のリソース不足を顕在化させ、利用者である我々もデメリットを被る可能性が高い問題です。ただ長期的に見れば、この業界が長年蓄積してきた長時間労働の構造的問題を改善する可能性が高いです。またAI・自動化の導入や、そこまでの規模ではなくても業務コストの見直しなどが恒常的に行われる要因になるかもしれません。その1つの動きとして、物流業界におけるM&Aの活発化が与える効果に期待していきたいものです。 

著者

西尾崇
西尾崇事業法人第三部長
宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。
監修:みつき税理士法人

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