株式移転で帳簿に何を計上するのか、迷う経営者は少なくありません。実は仕訳が動くのは新設した親会社の側だけで、傘下に入る既存会社では原則として発生しません。単独と共同で取得原価の基準が変わる点、適格要件を外したときの課税、そして第三者への会社売却とどちらが自社に合うのかまで、中小企業の実務目線で整理しました。
株式移転の仕訳はどこで発生するのか
帳簿処理の質問から入る経営者は、ほとんどいません。多くは「うちも持株会社にした方がいいのか」という迷いが先にあって、税理士から会計処理の話を聞いた段階でつまずきます。順序を逆にして、仕訳が動く場所の切り分けから始めます。
株式移転とは会社法上どの手続か
株式移転は、1社または2社以上の株式会社が、発行済株式の全部を新たに設立する株式会社に取得させる組織再編です。新設された側を株式移転設立完全親会社、株式を移した側を株式移転完全子会社と呼びます。
根拠となる条文は会社法第2条第32号と第772条以下に置かれ、株式移転計画の作成と、子会社となる会社の株主総会での特別決議が求められます。

単独株式移転と共同株式移転の違い
子会社となる会社が1社か2社以上か。この違いだけで、会計上の分類も取得原価の基準も変わります。下表で整理しました。
| 比較項目 | 単独株式移転 | 共同株式移転 |
|---|---|---|
| 完全子会社の数 | 1社 | 2社以上 |
| 主な目的 | 持株会社体制への移行、グループ内の資本再編 | 経営統合、共同持株会社の設立 |
| 会計上の分類 | 共通支配下の取引に準じた処理 | いずれか1社による支配取得を伴う企業結合 |
| 子会社株式の取得原価 | 子会社の適正な帳簿価額による株主資本の額 | 取得企業は簿価、被取得企業は時価 |
| のれんの発生 | 個別の帳簿では生じない | 個別では生じず、連結決算で表に出る |
仕訳が発生する会社と発生しない会社
3者のうち、帳簿が動くのは1者だけ。ここを取り違えると、子会社側で不要な処理をしてしまいます。
完全子会社となる既存会社
仕訳は生じません。株主名簿の名義が親会社に置き換わるだけで、会社が保有する資産も負債も動かないためです。事業も従業員も、そのまま残ります。
新設される完全親会社
ここだけが処理の対象。子会社株式を借方に計上し、貸方には株式発行によって増える払込資本を立てます。設立と同時に投資有価証券を抱える会社が生まれる、と考えると分かりやすいはずです。
既存会社の株主
個人株主であれば帳簿処理そのものがありません。法人株主の場合は、保有していた子会社株式の帳簿価額を親会社株式へ付け替えるだけの処理にとどまります。
| 当事者 | 個別の帳簿での仕訳 | 理由 |
|---|---|---|
| 新設する完全親会社 | あり | 子会社株式を取得し、払込資本が増加するため |
| 完全子会社となる既存会社 | なし | 株主が入れ替わるだけで、会社財産が移動しないため |
| 既存会社の株主 | 原則なし | 投資が親会社株式に置き換わり、継続しているとみるため |
同じ「株式」という言葉が付いていても、株式譲渡による会社売却とは仕組みがまったく違います。株式移転は会社をグループ内で組み替える手続、株式譲渡はオーナーが対価を受け取って外部へ引き継ぐ手続。目的地が別なので、比べる前提を揃えておく必要があります。
会計処理を決める2つの判定
取得原価をいくらにするか。この一点が、資本金の額にも、その後の税負担にも波及します。判定は2段階で進めます。
共通支配下の取引か、支配取得を伴う企業結合か
株式移転の前後で同じ株主が支配し続けているなら、共通支配下の取引に準じた処理。単独株式移転はほぼこちらに入ります。一方、資本関係のない2社が統合する共同株式移転では、いずれか1社が他方を支配下に置いたとみて処理します。
取得企業と被取得企業の判定
共同株式移転では、新設した親会社は取得企業になりません。傘下に入る既存会社の中から、どちらが取得企業かを選びます。現金の授受がないため、判定材料を複数並べて総合的に見ることになります。
判定に用いる主な視点
- 新設親会社に対する持株比率が大きいのはどちらか
- 最も多くの議決権を持つ株主がどちらの出身か
- 取締役の選解任について、実質的な人事権を握るのはどちらか
- 新設親会社の取締役の構成比率が高いのはどちらか
- 統合比率の決定にあたり、プレミアムを支払った側はどちらか
- 売上高・純資産・当期純利益の規模が大きいのはどちらか
判定を誤ったときの影響
取得企業と被取得企業が入れ替われば、簿価で計上する会社と時価で計上する会社が逆転します。株主資本変動額そのものが変わり、登記する資本金の額も変わってしまう。後戻りできない論点なので、計画書を固める前に会計士と詰めておきたいところ。
子会社株式の取得原価の基準
取得企業の株式は、株式移転日の前日における適正な帳簿価額による株主資本の額で計上します。被取得企業の株式は、取得企業が対価として交付したとみなされる株式の時価。つまり、取得企業の株価に、被取得企業の株主へ割り当てられた株式数を掛けた金額になります。
この考え方は、M&A会計と仕訳の全体像で扱う企業結合の原則と共通しています。手法が違っても、支配を獲得した側から見る、という軸は変わりません。
資本金と資本剰余金への配分
株主資本変動額をどう振り分けるかは、株式移転計画の定めに委ねられています。会社計算規則第52条第2項により、資本金・資本準備金・その他資本剰余金の範囲で自由に決められ、利益剰余金はゼロとされます。
通常の増資と違い、2分の1以上を資本金に組み入れる縛りもありません。支援現場では、資本金を1億円以下に収める配分を先に検討します。1億円を超えると中小法人向けの軽減税率や交際費の損金算入枠を失うためで、ここを見落としたまま登記まで進んでしまう例が実際にあります。
株式移転の仕訳例
数字を入れた方が早いので、単独と共同の2パターンを並べます。金額は説明のための設定値です。
単独株式移転の仕訳例
持株会社体制への移行で使われる、最も基本的な形から。
前提となる数値
- X社の株主資本の帳簿価額 3億円(資本金3,000万円、利益剰余金2億7,000万円)
- 新設するH社がX社の発行済株式の全部を取得
- H社の資本金を3,000万円、残額をその他資本剰余金と定めた
新設親会社の仕訳
子会社株式の取得原価は、X社の適正な帳簿価額による株主資本の額である3億円。株主資本変動額も同額です。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 子会社株式(X社) | 3億円 | 資本金 | 3,000万円 |
| その他資本剰余金 | 2億7,000万円 |
X社にあった利益剰余金2億7,000万円が、H社では資本剰余金に姿を変えている点に注目してください。個別の帳簿の上では、利益の蓄積がいったん消えたように見えます。
共同株式移転の仕訳例
2社の経営統合で共同持株会社を作るケース。取得原価の基準が会社ごとに分かれます。

前提となる数値
- A社(取得企業)の株主資本の帳簿価額6億円、発行済株式100万株、株式移転日の前日の株価800円
- B社(被取得企業)の株主資本の帳簿価額3億円、発行済株式50万株
- 統合比率は1対1。新設H社はA社株主へ100万株、B社株主へ50万株を交付
取得原価の計算
A社株式は簿価そのままで6億円。B社株式は、A社が50万株を新規に発行してB社株主へ渡したとみなし、800円×50万株=4億円と算定します。株主資本変動額は合計10億円。
新設親会社の仕訳
資本金5,000万円、資本準備金5,000万円、残りをその他資本剰余金と定めた場合の処理が下表です。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 子会社株式(A社) | 6億円 | 資本金 | 5,000万円 |
| 子会社株式(B社) | 4億円 | 資本準備金 | 5,000万円 |
| その他資本剰余金 | 9億円 |
被取得企業の株式を時価で計上する分、株主資本変動額は膨らみます。配分を意識せずに資本金へ厚く振ると、思わぬ税負担を背負い込むことになりかねません。
連結決算での消去仕訳
個別の帳簿だけでは、グループの実態が見えないまま。親会社が保有する子会社株式と、子会社側の株主資本を相殺消去する処理が別途必要になります。
単独株式移転の場合
共通支配下の取引に準ずるため、子会社の資産と負債は移転直前の帳簿価額のまま。個別ではゼロになった利益剰余金が、連結上は引き継がれて表示されます。のれんは生じません。
共同株式移転の場合
取得企業の資産と負債は簿価、被取得企業は時価で評価し直します。被取得企業の時価純資産と取得原価との差額が、連結上ののれん。この処理は会社分割の税制適格要件を伴う再編や、会社分割の会計仕訳とも考え方が重なります。
連結決算を組まない中小企業であれば、ここまでの処理は不要。ただしM&Aで生じるのれんの考え方を知らないまま統合比率を決めると、後から「高く評価されすぎた」という不満が残ります。
株式移転の税務と適格要件
会計と税務は別の物差しで動きます。帳簿が動かない子会社側にも、税務では課税が及ぶ場面がある、というのがこの手法の分かりにくさ。
適格と非適格で何が変わるか
組織再編税制の適格要件を満たせば、子会社の資産は帳簿価額のまま引き継がれ、含み益への課税は先送りされます。要件を外すと、一定の資産を時価評価し、評価益に法人税が課される。会計上の仕訳が動かないのに、税務申告だけが動く形になります。
適格要件の3つの類型
要件は、株式移転を行う会社同士の資本関係で3つに分かれます。下表のとおり、関係が薄いほどハードルが上がる構造です。
| 会社間の関係 | 満たすべき主な要件 |
|---|---|
| 完全支配関係 | 新設親会社の株式以外の資産を交付しない 株式移転後も完全支配関係が続く見込みがある |
| 支配関係(議決権50%超) | 新設親会社の株式以外の資産を交付しない 株式移転後も支配関係が続く見込みがある 従業者のおおむね80%以上が引き続き従事する見込み 主要な事業が引き続き営まれる見込み |
| 共同事業 | 新設親会社の株式以外の資産を交付しない 子会社となる各社の事業に関連性がある 売上高や従業者数などの規模がおおむね5倍以内、または双方の特定役員が引き続き就任する 従業者のおおむね80%以上が引き続き従事する見込み 主要な事業が引き続き営まれる見込み 支配株主へ交付された親会社株式が継続保有される見込み 株式移転後も完全支配関係が続く見込みがある |
株式移転は対価が株式に限られる設計が通常なので、金銭等不交付要件は自然に満たされます。実務で論点になるのは、むしろ継続保有と従業者引継の見込みをどう説明するか。
株主に生じる課税
親会社株式だけを受け取った株主については、旧株式の譲渡がなかったものとみなされ、譲渡所得課税は生じません。国税庁タックスアンサーNo.1527に整理されているとおりで、1株未満の端数に対する金銭が交付された部分だけが課税対象になります。
反対株主の買取請求に応じて金銭を受け取った場合は別。この部分は通常の譲渡として扱われ、株式譲渡にかかる税金と同じ計算に乗ります。
非適格になったときの負担
子会社が保有する土地や有価証券に含み益があると、時価評価によって課税所得が一気に立ち上がります。現金の入りがないのに納税だけ発生する、という最も避けたい形。事前の税務要件チェックを省略できない理由がここにあります。
会社売却を考えるオーナーが株式移転をどう位置づけるか
相談の入口が「持株会社化」でも、話を聞くと本当の課題は後継者不在だった。そういうケースが相当あります。手法の選択は、目的を言葉にしてからで遅くありません。

第三者へのM&Aで株式移転が使われにくい理由
対価が新設親会社の株式である以上、オーナーの手元に現金は入りません。譲渡した実感も残らず、個人保証も外れない。第三者との資本提携で用いるなら、株式を対価にできる株式交付や、既存会社を親会社にする株式交換による会社売却の方が選ばれます。
上場企業同士の統合であれば、株式交換を使った譲受や共同株式移転が現実的な選択肢になります。中小企業では株式に流動性がないため、事情がまったく異なる。段階的に資本を入れる資本業務提携から入る方が、現場の感覚には合います。
持株会社化と第三者承継の比較
どちらが自社に合うのか。下表の観点で並べると、判断材料がはっきりします。
| 比較項目 | 株式移転による持株会社化 | 株式譲渡による第三者承継 |
|---|---|---|
| オーナーが受け取る対価 | 新設親会社の株式(現金化されない) | 現金 |
| 後継者の確保 | 親族や社内に後継者がいることが前提 | 譲受企業の経営基盤と人材を引き継げる |
| 個人保証の扱い | 原則としてそのまま残る | クロージング時の解除を交渉できる |
| 相続への備え | 株式が手元に残り、評価対策が別途必要 | 財産が現金化され、分割しやすくなる |
| 実行までの期間 | 3ヶ月から6ヶ月程度 | 6ヶ月から1年程度 |
後継者がいる会社なら持株会社化は有効な打ち手。持株会社を使った事業承継対策で、株価上昇の抑制やグループ統制の設計を整理しています。後継者が見つかっていないなら、順序が違うということ。
支援現場で確認している項目
持株会社化の相談を受けたとき、当社が計画書の作成前に必ず潰す論点を挙げます。どれか1つでも曖昧なら、いったん立ち止まる合図。
- 新設親会社に配当以外の収入源があるか。管理コストを賄えないまま赤字法人を作ってしまう例が目立つ
- 借入金と個人保証を親子どちらに置くか、金融機関と事前に合意できているか
- 少数株主が残っていないか。子会社となる会社では株主総会の特別決議が必要になる
- 株主が50人未満か。適格株式移転では、この人数で親会社の株式取得価額の算定方法が変わる
- 将来、子会社株式を第三者へ売る可能性があるか。法人株主になると税率と手取りの計算式が変わる
- 資本金の額を1億円以下に収める配分で登記できるか
少数株主が残っている場合は、先に自己株式の消却で整理してから再編に入る方が、結果として早く着地します。
現場で見た2つのケース
後継者未定のまま持株会社化を検討した設備工事業
年商8億円、従業員30名。顧問税理士から株価対策として持株会社化を提案されて相談に来られました。ただ、後継者は決まっていない。株式移転では株主構成が実質的に変わらないため、承継問題は1ミリも解けません。企業価値評価をお示ししたうえで、第三者への譲渡に方針を切り替えられました。
兄弟で分けていた2社の統合を検討した製造業
年商合計15億円。共同株式移転で経営統合する案を検討したところ、被取得企業側の株式を時価で計上する結果、株主資本変動額が想定を大きく上回りました。そのまま資本金へ配分すると1億円を超え、中小法人の特例が使えなくなる見込み。資本金を抑えてその他資本剰余金へ厚く配分する設計に変更しています。
いずれの場面でも、判断の起点になるのは自社の値段です。企業価値評価の考え方を先に押さえておくと、手法の議論が空回りしません。事業承継を目的としたM&Aとの比較も、同じ土俵に乗せられます。
株式移転の仕訳に関するFAQ
株式移転の会計処理について、経営者から届くことの多い質問をまとめました。
原則として生じません。株主名簿の名義が親会社に替わるだけで、会社が持つ資産も負債も動かないためです。ただし非適格と判定されると、税務上は一定の資産を時価評価して申告する必要が出てきます。帳簿は動かないのに申告だけ動く、という形になります。
株主資本変動額の範囲内であれば、資本金・資本準備金・その他資本剰余金へ自由に割り振れます。現場ではまず、資本金1億円を超えないラインで設計できるかを確認します。超えると中小法人向けの軽減税率や交際費の損金算入枠を失うためです。
新設親会社の個別の帳簿には出てきません。子会社株式として一括で計上されるからです。のれんが表に出るのは連結決算を組むときで、被取得企業の時価純資産と取得原価との差額が連結上ののれんになります。連結を作らない会社であれば、この論点は生じません。
対価が新設親会社の株式なので、そのままでは現金は入りません。現金化が目的なら株式譲渡が基本です。持株会社を挟んでから第三者へ売る設計もありますが、法人株主になると税率と手取りの計算が変わります。順序と課税関係は、先に確認しておきたいところ。
株式移転の仕訳と会社売却の選択肢のまとめ
株式移転の仕訳が動くのは新設した親会社だけで、傘下に入る既存会社では原則として発生しません。単独か共同かで取得原価の基準が変わり、適格要件を外せば課税が生じます。持株会社化が自社に合うのか、それとも会社を現金化する道が合うのか。判断がつかないまま手続だけ進んでしまう状況は、避けたいところです。
みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社です。中小企業の会社売却と事業承継に絞って支援してきた経験から、組織再編と株式譲渡のどちらが手取りと承継の両面で有利になるかを、数字で比較してお示しします。出口の設計でお悩みでしたら、当社にご相談ください。
完全成功報酬のM&A仲介会社なら、みつきコンサルティングへ >
著者

- 事業法人第一部長/M&A担当ディレクター
-
みずほ銀行にて大手企業から中小企業まで様々なファイナンスを支援。みつきコンサルティングでは、各種メーカーやアパレル企業等の事業計画立案・実行支援に従事。現在は、IT・テクノロジー・人材業界を中心に経営課題を解決。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修者 神門 剛 代表取締役 / 公認会計士・税理士
最近書いた記事
2026年8月27日従業員持株会と事業承継|M&Aでの株式買取と設立の実務を解説
2026年8月25日零細企業のM&Aとは|会社売却の相場・進め方と中小企業との違い
2026年8月24日事業承継計画の作り方|記入例・手順とM&Aで承継する選択肢
2026年8月20日株式移転の仕訳|新設持株会社と完全子会社の会計処理・税務を解説







や税務処理を解説-320x320.jpg)


