M&Aを担える人材は社内に置くべきか、外部に任せるべきか。会社売却を考えるオーナーの視点で、M&A人材に求められるスキル、確保が難しい理由、仲介会社やFAなど専門家の選び方までを整理しました。中小企業庁が公表した資料も踏まえ、依頼先の見極め方を具体的に解説します。

M&A人材とは誰を指すのか
「M&A人材」という言葉は、使う人によって指すものがずれます。社内でM&Aの実務を回す担当者を指す場合もあれば、人材そのものを目的とした譲受を指す場合もあり、検索する側の関心も分かれています。まずはこの2つを切り分けておきたいところ。
M&Aプロセスを担う専門人材
1つ目は、案件の発掘から相手探し、企業価値の試算、条件交渉、契約、統合作業までを担う人材です。仲介会社やFAに所属する専門家に加え、事業会社の経営企画部門で譲受を担当する社員も含まれます。会計や法務の知識だけでなく、経営者と腹を割って話せる対人能力が問われる仕事。
人材確保のためのM&Aという別の意味
2つ目は、採用難を背景に、技術者や有資格者ごと会社を引き受ける動きを指す使い方です。建設や運送、介護のように人が集まりにくい業種では、求人広告を出し続けるより会社を引き受けたほうが早いという判断も珍しくありません。人手不足をM&Aで補う考え方は、譲受企業が譲渡オーナーに提示する動機としてもよく出てきます。
譲渡を考えるオーナーにとっての論点
会社を譲る側から見ると、自社にM&A人材がいるかどうかは、外部の誰にどこまで任せるかという問題に直結します。中小企業のオーナーが実務を自力でこなす例はまれで、実際にはM&A仲介の仕組みを理解したうえで依頼先を選ぶ流れが一般的です。担当者の経歴に傾向があるのかは、M&A仲介会社への転職ルートを追うと見えてきます。
M&A人材の確保が難しい理由
需要はあるのに供給が追いつきません。背景を分解すると、経験機会の少なさ、採用競争の激化、そして案件数の壁という3つの事情が浮かび上がります。
実務経験を積める機会そのものが少ない
M&Aは1件あたりの期間が半年から1年に及ぶ一方、1人が同時に持てる案件数は限られます。教科書で手法を覚えても、決算書の裏側を読み、交渉の落としどころを探る感覚は現場でしか身につきません。経験者が薄いのは、業務の性質上ある程度避けられない話。
仲介会社・FA・事業会社で採用競争が起きている
中小企業庁の資料によると、2026年3月時点でM&A支援機関登録制度には約3,400者が登録し、うちM&A専門業者(仲介・FA)が約1,200者を占めています(中小企業庁「中小M&A市場の改革に向けた方向性について」)。支援機関が増えれば、限られた経験者の取り合いも激しくなります。加えて事業会社のM&A部門が内製化を進めており、採用の競合はさらに広がりました。
中小企業に専任を置くだけの案件数がない
年商10億円規模の会社が譲受を繰り返す例は多くありません。譲渡側にいたっては、経営者人生で一度きりの取引です。専任者1人分の人件費と、その人が年間に扱える案件数を並べてみると、採算が合わない会社がほとんど。
M&A人材に求められるスキル
「結局、何ができる人なら任せられるのか」。相談の場でよく出る問いです。求められる力を分解すると、専門知識、業界理解、対人力、統合を見通す視点という4つの軸に整理できます。
会計・税務・法務の基礎知識
決算書を読み、税負担の違いを説明し、契約書の勘所を押さえる。この3点が入口の条件になります。譲渡スキームの違いは手取り額を大きく左右するため、公認会計士の関与があるかどうかで初期提案の精度が変わります。
業界構造とシナジーを読む力
数字だけを見て相手を選ぶと、統合後に噛み合わない事態が起きます。取引慣行、許認可、人の採り方といった業界固有の事情を知る担当者は、候補先の絞り込みが速い。資格では測れない領域です。
経営者と向き合う折衝力
譲渡オーナーが気にしているのは価格だけではなく、社員の処遇や取引先への説明、自分の引き際の作り方まで含まれます。言いにくい条件を先に持ち出せるか、期待値を早めに調整できるか。この差が成約率にも交渉の後味にも表れます。
PMIまで見据えたマネジメント
契約書に押印した時点はゴールではありません。人事制度や評価の違いをどう揃えるかまで想像できる担当者は、条件交渉の段階から論点の置き方が違います。M&A後の経営統合を知らずに条件だけ詰めると、あとで現場が混乱しがち。
国が示す知識スキルマップという物差し
中小企業庁は2025年4月、中小M&Aに携わる専門人材が備えるべき使命、倫理・行動規範、知識スキルマップを公表しました(中小企業庁「中小M&A専門人材(個人)向け 使命、倫理・行動規範、知識スキルマップ」)。M&Aプロセスごとに必要な知識を体系化した資料で、依頼先の担当者を測る物差しとしても使えます。
譲渡オーナーが確認しやすい要素
下表は、スキルマップの考え方を踏まえ、譲渡オーナーが面談の場で確かめやすい要素に絞って整理したものです。
| 求められる力 | 面談での確認方法 |
|---|---|
| 会計・税務の知識 | 譲渡スキーム別の手取り試算を、根拠つきで説明できるか |
| 法務の知識 | 契約書の主要条項について、リスクの所在を口頭で説明できるか |
| 業界理解 | 自社の業界の取引慣行や許認可を、こちらが説明する前に語れるか |
| 折衝力 | 都合の悪い情報を、早い段階で自分から伝えてくるか |
| 倫理・行動規範 | 手数料と業務範囲を、依頼前に書面で示すか |
| PMIへの視点 | 成約後の体制や引継ぎ期間まで話題に出すか |
社内で抱えるか外部に任せるかの判断軸
採用しても使いこなせなければ意味がありません。自社で人材を抱える形が向く会社と、外部に任せたほうが早い会社は、はっきり分かれます。
内製化が現実的な会社
譲受を成長戦略に組み込み、年に複数件を検討し続ける会社であれば、経営企画に専任を置く意味があります。案件が途切れなければ経験も蓄積され、社内に知見が残る形。ただしこの形が成立するのは、一定の規模を持つ譲受側に限られます。
外部に任せたほうが早い会社
一方、譲渡を検討するオーナー企業にとって、取引そのものは一度きり。専任者を育てる時間もコストも回収できません。相談先の選択肢を並べて比べたい場合は、中小企業M&Aの相談先を整理した記事が参考になります。
社内配置と外部委託の比較
下表で、社内に人材を置く場合と外部の専門家に任せる場合の違いを整理しました。
| 判断項目 | 社内に人材を置く | 外部の専門家に任せる |
|---|---|---|
| 向いている立場 | 譲受を繰り返す事業会社 | 譲渡を検討するオーナー企業 |
| 立ち上がりの速さ | 採用と育成に年単位 | 相談から着手まで数週間 |
| 費用の出方 | 人件費として固定的に発生 | 成功報酬など案件ごとに発生 |
| 相手先の情報量 | 自社ネットワークの範囲 | 仲介会社が持つ候補先の情報 |
| 秘密保持の管理 | 社内に情報が残る | 契約で範囲を限定できる |
現場でよく見る判断の分かれ目
当社が関わった案件では、従業員60名ほどの金属加工業のオーナーが、経理部長にM&A実務を任せようとして途中で外部に切り替えました。理由は決算書の作り込みではなく、譲受候補との条件交渉で社内の人間が矢面に立つ構図に無理があった点。取引先や金融機関との関係が続く以上、交渉役は社外に置いたほうが動きやすくなります。
譲渡オーナーが知っておくM&A専門家の種類
外部に任せると決めたとして、相談先は1種類ではありません。それぞれ守備範囲が違うため、最初の1社を間違えると遠回りになります。下表で主な相談先の特徴を整理しました。
| 相談先 | 得意な領域 | 注意したい点 |
|---|---|---|
| 公認会計士・税理士 | 決算書の分析、税務、デューデリジェンス対応 | 相手探しのネットワークは限られる |
| 弁護士 | 契約条項の設計、法的リスクの整理 | 価格交渉や候補先の紹介は範囲外 |
| M&A仲介会社 | 候補先の探索から成約までの一貫支援 | 手数料体系と利益相反の説明を要確認 |
| FA | 依頼者の側に立った助言と交渉 | 中小規模では対応できる先が限られる |
| 金融機関 | 取引先ネットワークを使った紹介 | 融資取引との関係に配慮が要る |
| 事業承継・引継ぎ支援センター | 公的機関としての初期相談 | 進行は民間機関に引き継ぐ場合が多い |
初期段階で決算書の見方や税負担を詰めたいなら士業、契約段階の懸念が中心ならM&Aでの弁護士の関わり方を先に押さえておくと話が早い。相手探しから任せたい場合は、仲介会社かFAが窓口になります。
M&A仲介会社は3つの系統に分かれる
ひとくちに仲介会社といっても、成り立ちは同じではありません。株式を公開している上場会社系、独立系の非上場会社系、税理士法人や会計事務所を母体とする会計事務所系(士業系)に大別されます。系統によって得意な規模や提案の切り口が違うため、仲介会社の比較軸を持って面談に臨むと判断しやすくなります。
会計事務所系・士業系という選択肢
みつきコンサルティングは、みつき税理士法人を母体とする会計事務所系・士業系の代表的なM&A仲介会社です。公認会計士・税理士が関与するため、決算書の実態把握と、税負担を抑える譲渡スキームの設計を初期段階から詰められる点が強み。500件を超える支援実績と完全成功報酬制を組み合わせ、譲渡オーナーの手取りを起点に提案しています。
外部の専門家を選ぶ実務チェックポイント
聞くべきことを決めずに面談へ行くと、雰囲気で決めてしまいがちです。費用、担当者、支援範囲。この3点は必ず言葉にして確認しておきましょう。
手数料の内訳を先に確認する
着手金、月額報酬、中間金、成功報酬のどれが発生するかは、会社ごとに異なります。成功報酬の算出には取引金額に応じた料率を用いるレーマン方式の計算が広く使われ、着手金や中間金を取らない完全成功報酬の仕組みを採る会社もあります。水準感はM&A手数料の相場で確認できます。
レーマン方式の報酬料率
下表は、レーマン方式で一般的に用いられる報酬料率です。
| 報酬算出基準額 | 報酬料率 |
|---|---|
| 5億円以下の部分 | 5% |
| 5億円超10億円以下の部分 | 4% |
| 10億円超50億円以下の部分 | 3% |
| 50億円超100億円以下の部分 | 2% |
| 100億円超の部分 | 1% |
基準額を株式価値で見るか、負債を含めた移動総資産で見るかによって、同じ料率でも支払額は変わります。ここを曖昧にしたまま契約する会社が、意外と多い。
担当者の資格と経験年数を聞く
中小企業庁の中小M&Aガイドライン第3版は、仲介者やFAに対して、手数料の詳細説明に加え、担当者の保有資格や経験年数、成約実績の説明を求めています(中小企業庁「中小M&Aガイドライン」)。聞きにくい質問ではなく、聞かれる前提で整えられている情報です。ガイドライン第3版の要点を押さえておくと、面談での質問が具体的になります。
登録制度で最低限の足切りをする
M&A支援機関登録制度に登録があるかどうかは、事業承継・M&A補助金の対象になるかにも関わります。登録制度の確認方法を知っておくと、依頼先の絞り込みが一段速くなる。担当者側の見方については、資格と実績での見極め方も併せて確認しておきたいところです。
相談前に手元で確認しておく項目
当社が初回面談の前にお伝えしている確認項目を、そのまま挙げておきます。
- 直近3期の決算書と、今期の試算表がそろっているか
- 株主名簿の内容が実態と一致しているか
- 役員や親族への貸付金・借入金が整理されているか
- 個人名義の不動産を会社が使っていないか
- 借入に付いている個人保証の範囲を把握しているか
- 主要取引先との契約に、支配権の変更を制限する条項がないか
- 未払残業や社会保険の加入漏れがないか
- 譲渡後に自分がどこまで残る意向かを決めているか
このうち3つ以上が曖昧なままだと、候補先への打診が始まってから手戻りが出ます。金額の目安を先に知りたい場合は、企業価値評価の方法から確認するのも一案。
M&A人材と専門家選びに関するFAQ
相談の場で実際によく出る質問を集めました。
売り手側で自社に担当者を置く例は、ほとんどありません。実務は仲介会社やFAが引き受けるため、オーナーは意思決定と社内調整に集中できます。ただし決算書の整備や株主名簿の確認は社内での対応が要りますので、そこだけは早めに着手してください。
年に複数件を検討し続けるなら、採用する意味があります。年1件以下であれば、外部のFAや仲介会社を使い分けたほうが費用対効果は高い。判断は、譲受を継続的な戦略として位置づけるかどうか次第です。
金融機関や士業の経験があると入りやすい傾向はあります。ただし実際に見られるのは、経営者と信頼関係を築ける営業力。未経験からの転職で条件を整理していますので、そちらもご覧ください。
あります。有資格者や技能者を抱える業種で特に目立ちます。求人で採るより確実だと判断する譲受企業が増えており、売り手にとっては、設備や取引先だけでなく人を評価してもらえる場面。人材が定着している会社ほど、条件面で有利に働きます。
初回面談で、自社の業界特有の論点をどこまで自分から挙げられるかを見ます。もう1つは、都合の悪い情報を先に出してくるかどうか。良い話しかしない担当者は、後半で条件が動く可能性が高いと考えておいたほうが安全です。
M&A人材の確保と専門家活用のまとめ
M&A人材には、会計・税務・法務の知識に加え、業界理解と経営者との折衝力、統合まで見通す視点が求められます。中小企業が自社で抱えるのは現実的ではなく、外部の専門家に任せる判断が合理的。とはいえ誰に任せるかで結果が変わるだけに、迷って当然の場面です。
みつきコンサルティングは、みつき税理士法人グループのM&A仲介会社として、中小企業の会社売却と事業承継を数多く支援してきました。会計事務所系・士業系の代表的なM&A仲介会社として、税務まで踏まえた譲渡スキームをご提案します。会社売却の進め方をご検討中でしたら、当社にご相談ください。
完全成功報酬のM&A仲介会社なら、みつきコンサルティングへ >

著者

- 名古屋法人部長/M&A担当ディレクター
-
人材支援会社にて、海外人材の採用・紹介事業のチームを率いて新規開拓・人材開発に従事。みつきコンサルティングでは、強みを生かし人材会社・日本語学校等の案件を中心に工事業・広告・IT業など多種に渡る案件支援を行う。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修者 神門 剛 代表取締役 / 公認会計士・税理士
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