アパレル業界のM&A|売却相場やメリット・デメリット、事例を解説

アパレル業界は、流行や消費者のニーズに応えるため、変化にも柔軟に対応しなければなりません。競争力を高めるために、M&Aを検討する企業も増えています。この記事では、アパレル業界のM&Aの動向について、特徴や費用の目安、メリットやデメリットを解説します。

アパレル業界とは

アパレル業界でM&Aを実施するためにも、まずはアパレル業界についての概観を見ておきましょう。ここでは、定義や特徴について解説します。

アパレルとは

アパレル業界とは、一般的に、アパレル(衣服や服飾品)の企画や生産、卸売に携わる産業を指します。近年では、アパレル業界のビジネスモデルが多様化し、小売業者や販売員もアパレル産業従事者と捉えられるようになりました。「アパレル」が意味する範囲は、以前よりも広がっているといえるでしょう。

アパレル業界の川上・川中・川下とは

アパレル業界の特徴として、服を製造し販売するまでの流れが存在することが挙げられます。それぞれのプロセスを、アパレル業界では川の流れになぞらえて「川上・川中・川下」と呼びます。各言葉の意味は、以下の通りです。

川上糸や生地などの原材料を製造する業者
川中服や小物を企画・生産するメーカー
川下卸売や小売を行う販売店

一口に「アパレル業界」といっても、川上か川中か川下かによって業務内容は大きく異なります。M&Aを実施する際は、アパレル業界全体の調査ではなく、自分たちが関わる企業の業務内容について調査しましょう。

アパレル業界の動向

アパレル業界でM&Aを実施する場合、業界の最新の動向やトレンドを把握することが重要です。ここでは、M&Aを目指すうえで押さえておきたいアパレル業界の動向について解説します。

ゆるやかに業績回復

新型コロナウイルスの感染拡大前から、アパレル業界の経営不振は続いていましたが、コロナによってさらに大きな打撃を受けました。コロナ後はゆるやかに業績が回復しつつありますが、まだコロナ発生前ほどの回復は見せていません。M&Aなどの取り組みを通じて、業界全体の業績を高めることは急務といえるでしょう。

参考:帝国データバンク

ECサイト対応は必須

近年ではECサイトによる売上増加を狙う動きも増えており、多くのアパレルブランドが、AmazonやZOZOといった、大手ECサイトへのモール出店を検討しています。オンラインサービスが普及しつつある今、実店舗を持っている場合でも、ECサイトとの連携は非常に重要だといえるでしょう。

D2C勢力の拡大

D2C(Direct to Consumer)の業態も増えてきています。D2Cとは、アパレル業界においては、オリジナルブランド商品を、自社ECサイトで販売するビジネスモデルのことをいいます。InstagramなどのSNSを利用して口コミで集客を実現しており、小規模企業でも大きな売り上げを上げられることが特徴です。従来のアパレル業界の業態とは大きく異なるため、注目を集めています。

M&Aで扱われやすいアパレル分野は?

M&Aで扱われやすいアパレル分野の企業には、以下のようなものがあります。

セレクトショップ複数のブランドやカテゴリーから選りすぐった商品を販売する店舗
アパレル企画・小売自社で服を企画・生産し直接販売する店舗
縫製・工場服や小物を縫製する工場
ファッション小物帽子やベルト、マフラーなどの小物
靴・鞄靴や鞄などの革製品
和装関連着物や浴衣などの和服
テキスタイル関連生地や染色などのテキスタイル

どのようなM&A戦略を取るかは、企業の特性によっても異なることに十分注意しましょう。

アパレル業界でのM&Aのメリット

アパレル業界でM&Aを実施する場合、譲渡企業と譲受企業の双方には、どのようなメリットが生まれるのでしょうか。詳しく解説します。

コスト(費用)の削減

M&Aを実施することで、以下のようなコスト(費用)の削減が期待できます。

  • 借入金や在庫などの負債を解消できる(譲渡側)
  • 従業員を採用するための費用など、企業を新規設立するために必要なコスト(費用)を削減できる(譲受側)
  • 新しいブランドを立ち上げるための労力や時間も節約できる(譲受側)

経営資源を有効活用し、事業再生や撤退をスムーズに実施できる魅力があります。

事業の拡大

事業の拡大が見込まれることも大きなメリットです。譲渡企業がもともと持っていた商品のブランド価値や技術を取り入れながら、商品の付加価値をさらに高められるでしょう。企業の競争力が高まることで、市場ニーズに応えられる価値の高い企業を作り上げられます。

アパレル業界でのM&Aのデメリット

アパレル業界でM&Aを実施する場合、メリットだけでなくデメリットも考慮する必要があります。ここでは、アパレル業界でM&Aを実施するデメリットについて、譲渡企業と譲受企業、両方の視点から解説します。

ブランド力が失われるリスク

M&Aを実施することで、譲渡側企業がもともと持っていた、ブランドコンセプトやデザインが失われるかもしれません。譲受側の方針やイメージに合わせなければならない場合、譲渡企業の持っていた、もともとのブランド力を失ってしまうこともあります。

アパレル業界において、ブランドのイメージは消費者の購買意欲に大きく関係します。ブランド力を維持・向上させることができるかどうかは、M&Aを実施する前によく検討しましょう。

顧客の信頼を損なうリスク

譲受側企業の評判や品質に影響を受けて、顧客からの信頼や満足度が低下するリスクについても、押さえておかなければなりません。譲渡側企業のブランドがもともと持っていた、顧客との関係やニーズ(需要)を把握できないと、顧客離れや売上減少につながる場合もあります。

自社の顧客層や市場ニーズに合わせた商品やサービスを、M&A後も提供できるかどうかは、取引を実施するための重要な判断基準といえるでしょう。

アパレル業界の売却価格の相場

アパレル業界でM&Aを実施する場合の譲渡価格の目安は、1店舗当たり250万円程度からです。ただし、この金額はあくまで目安であり、実際の譲渡費用は企業のブランド力や売上高などによっても大きく異なります。

たとえば、古着屋やD2Cブランドなどは個人が運営していることも多く、100万円台で譲渡希望が出ているケースも少なくありません。一方、有名なセレクトショップやアパレル企画・小売店などは、数千万円から数億円で譲渡されることもあります。

また、譲渡スキームによっても金額は大きく変化します。譲渡や譲受を希望する企業の正確な価値を知りたい場合は、専門家にアドバイスをもらうとよいでしょう。

アパレル業界のM&A事例5選

アパレル業界では、さまざまな理由や目的でM&Aが実施されています。ここでは、近年実施されたアパレル業界のM&A事例を5つ紹介します。

【買収】ベインキャピタル(米投資ファンド)とマッシュホールディングス

ジェラートピケ(GELATO PIQUE)、スナイデル(SNIDEL)などのブランドで知られるマッシュホールディングスが、2022年11月に米投資ファンドのベインキャピタルに買収された事例です。海外事業の成長を加速させる狙いで実施されました。

【資本業務提携の締結】豊島株式会社とSpiber株式会社

繊維を扱う企業である豊島株式会社と、先進技術を用いた繊維技術のスタートアップ企業であるSpiber株式会社が、2020年に資本業務提携を締結した事例です。両社がこれまで個別に取り組んできた繊維の開発について、共同で取り組むために実施されました。

【買収・子会社化】RIZAPグループ株式会社と株式会社ジーンズメイト

RIZAPグループ株式会社が、2017年に株式会社ジーンズメイトを子会社化した事例です。ジーンズメイトの経営改善や、ブランドの刷新や商品力強化などがねらいで買収しました。2021年には経営統合しており、現在ジーンズメイトはRIZAPグループ株式会社の完全子会社となっています。

【買収・子会社化】株式会社ニッセンと株式会社マロンスタイル

株式会社ニッセンは、株式会社マロンスタイルを買収し連結子会社にしました。株式会社ニッセンは、カタログ通販やインターネット通販を手掛ける企業であり、株式会社マロンスタイルは、女性用アパレル通販サイトを運営しています。経営再建を目的に、通販事業の早期黒字化やビジネスモデルの再構築を進めるねらいがあります。

【子会社化】株式会社ヤギと有限会社アタッチメント

繊維専門商社の株式会社ヤギが、紳士・婦人服のデザインや製造・販売を手掛ける、有限会社アタッチメントを子会社化した事例です。ブランド力や開発力の強化のほか、経営資源や生産、販売ルートの共有によるシナジー(相乗効果)をねらうため、M&Aが実施されています。

アパレル業界M&Aのまとめ

アパレル業界のM&Aについて、動向や売却相場、メリットやデメリット、事例などを解説しました。変化の激しい業界であるアパレル業界で生き残っていくためには、M&Aのように、競争力を高める戦略が必要不可欠といえるでしょう。しかし、M&Aを成功させるには、業界知識や企業の選定、譲渡スキームの選定方法など、専門的な知識やノウハウが必要です。コンサルタントや専門家に相談しながら、後悔のないM&Aを実施しましょう。

経営コンサルティング会社のみつきコンサルティングでは、アパレル業界のM&Aについてご相談を受け付けています。経営コンサルティング経験者も多く在籍しており、対象企業の詳細な事業分析を実施したうえで、シナジー(相乗効果)創出を見込める候補先を紹介します。さらに、事業計画書の作成や事業再生、海外子会社の売却や相続対策などもワンストップで対応可能です。アパレル業界におけるM&Aに興味があるなら、ぜひみつきコンサルティングにご相談ください。

著者

西尾崇
西尾崇事業法人第三部長
宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。
監修:みつき税理士法人

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