-本日は電気工事会社を営まれていますS社の売主様にお越しいただき、M&Aの経緯についてお話を伺います。まず、S社の歴史と、経営者としてのこれまでの経験についてお聞かせください。
S社は私の祖父が70年前に創業し、私で3代目になります。主に受変電設備や発電設備の工事を手がけてきました。私自身は30年以上この会社で働き、20年前に社長に就任しました。電気工事業界は職人が独立しやすい業界で競合が多く、いわゆるレッドオーシャン市場であります。社長就任以来、安定的な売上を確保する為に奔走する毎日でした。競合との差別化が難しい業界ではありますが、丁寧な仕事をすること、小回りの利いたサービスを提供することでお客様の信頼を一つ一つ積み上げることを大切にしてきました。
-なるほど、長年の経験をお持ちなのですね。業界の動向や将来展望についてはどのようにお考えですか?
成熟期である業界ですので、一分野だけのサービス提供ではシェアの拡大は難しいと思います。一つの分野だけでなく電気工事に付随する分野など多角的にサービスを提供できるような体制づくりが重要になってくるのではないでしょうか。建設会社や工務店の担当者も一括で仕事を任せられる方が、便利だと思いますので。
また、電気工事業界も人材不足は深刻な問題としてあります。金融やITなどの仕事に比べ、過酷な労働環境となる電気工事業界は特に人材が集まりません。業界全体の課題として、処遇や労働環境の改善等を行うことや電気工事従事者のイメージ向上など若い人にも魅力ある仕事であると認識してもらうことが必要ではないかと思います。
-では、M&Aを検討されたきっかけについて、より詳しくお聞かせください。
M&Aを検討したきっかけは後継者問題でした。私は65歳を過ぎて、本格的に事業承継について検討しなければと思っていました。社内に親族はおらず、親族内承継はできない状況でした。親族以外では取締役が2名いるのですが、人的リソースの不足から両者とも現場と兼務しなければならず、経営と現場を一緒に運営していくのは難しいと判断しました。また、先代社長の時代から引き継いだ借入金もまだ残っていたことも社内承継を断念した要因の一つです。親族内外の承継が難しいという結論に至りましたので、必然的にM&Aしかないと思うようになりました。
-みつきコンサルティングとの出会いはどのようなものでしたか?
みつきコンサルティングから郵送でお手紙が届き、その後お電話でアプローチを頂きました。私もM&Aを検討しようと思っていましたので、良い機会だと思いご面談の機会を頂きました。弊社の状況を詳しく聞いていただき、M&Aのメリットやデメリットを丁寧にご説明頂いたことで、M&A検討に踏み切る決心ができました。ガツガツと営業でではなく、第三者の目線で客観的にM&Aのご提案を頂けたことが良かったです。
-買い手企業を探す際に、何か条件はありましたか?
はい、主な条件として同県の同業者は避けたいとお伝えしました。先ほども申しました通り電気工事業界は競合が多く、すぐに噂が回る傾向にあります。弊社も業歴が長いことから業界内での認知度は高いほうだと思っておりましたので、情報漏洩の観点から同県同業種の買手企業はNGとしてさせて頂いておりました。
また、役員であった2名の役員継続も条件の一つでした。役員2名は当社のキーマンであり、役員に昇格させたのもここ2年ぐらいのことでした。M&Aが理由で役員退任となるとその後のモチベーション維持が難しくなるだろうと思ったからです。
-買い手企業として最終的にF社に決まりましたが、その経緯を教えていただけますか?
みつきコンサルティングから100社を超える買手候補先リストを頂き、その中の1社にF社がありました。F社は建機などのレンタルやリースが主業で、少し前に関西の電気工事会社を買収していたこともあり弊社にご興味をお持ち頂いたようです。既に子会社となった電気工事会社と弊社の得意分野が違ったことが、顧客に対するサービスの多角化に繋がるということでご興味をお持ち頂けたようです。
実は、F社の名前を聞いたとき、以前から弊社の現場でもF社から機材をレンタルしたことがあり、知っている会社でもありましたので勝手ながら私としては縁を感じておりました。
-F社との交渉はスムーズに進みましたか?
時間を掛けてゆっくりと交渉が進んで行きました。F社は、これまでのM&A経験から、時間を掛けてお互いを知りM&A後もお互いの齟齬がないようゆっくりと進めたいという意向でした。
正直、私としては年齢的なこともあり、もう少し早く進めたいと言う気持ちもありましたが、形式的な面談だけでなく会食をしながら仕事の話をしたり、時にはM&Aとは全く関係のないプライベートなお話もしながら、お互いの理解を深めていきました。最初は長く感じていましたが、お互いの人柄や企業文化・価値観などのすり合わせができたので、今思うと必要な時間だったなと思います
-デューデリジェンス(DD)はどのように行われたのでしょうか?
DDは主に財務・税務分野が中心で、F社からの依頼を受けた専門家(公認会計士等)の方から多くの徴求資料とご質問を頂きました。こんなに細かいことまで聞かれるのかと驚くこともありましたが、M&A後のトラブルを避けるため、重要なプロセスですから一緒に頑張りましょうと、みつきコンサルティングの担当者に励まされ最後までやりきることができました。
-価格交渉はどのように進みましたか?
DD後の価格提示はF社社長にご来社頂き直接ご説明頂きました。ご提示頂いた価額の根拠やその他、細かい条件についてもご説明頂き、納得の価額提示を頂けたと思います。これも時間を掛けてコミュニケーションを重ねてきたことが、スムーズに合意に至った理由かと思います。
-クロージングまでの流れを教えていただけますか?
最終契約書に定められたクロージングにおける前提条件を充足させる必要がありました。具体的には株券不発行手続きや自己株式の消却手続き、株式譲渡における当社の定款に定める手続きなどの対応を行いました。最終契約書締結からクロージング日までの期間が短かったため、スピーディーな対応が必要でしたが、司法書士などの専門家にお願いしましたので特に問題はありませんでした。
-M&A後のF社との協業について、どのようなシナジーを期待されていますか?
F社の本業である建機レンタルは、発電機など弊社の現場でも使用する機材の取り扱いもされていましたのでスピーディーな機材調達が可能となりました。また、グループ会社に同じ地域で仮設工事を主業とする電気工事会社があります。弊社は本設工事を主業としておりますので、お互いのクライントへ営業を掛けたり、F社のネットワークの活用で営業パイプラインを増やしたりできるのではないかと期待しております。また、大手グループに参画したことにより、採用力の強化で人材補充も少しずつ進めていければと考えております。
-M&Aを振り返って、どのような感想をお持ちですか?
長い道のりでしたが、みつきコンサルティングが根気強くサポートしてくれたおかげで、最後まで進めることができました。時間はかかりましたが、コミュニケーションを図る機会を多く持てたことで買手企業とも良好な関係を築くことができ、結果的には良かったと思います。M&Aを終えた今であれば、慎重に進めたことは正解だったと感じています。
-譲渡後の心境や新たな生活について、お聞かせください。
肩の荷が下りてホッとしたというのが正直なところです。後継者がいないことは数年前から認識しておりましたので、事業承継をどのように進めれば良いのかと悩んでいました。長年お世話になったお客様にご迷惑をかけたくない、一緒に切磋琢磨してきた従業員の雇用を守りたいという思いからM&Aを進めてきました。そのプレッシャーから解放された感覚です。
今後は、引継ぎ期間中は顧問として会社に関わっていますが、徐々に自分の時間が持てるようになるかと思います。時間的に余裕ができれば旅行や趣味のゴルフを楽しみたいと思います。
-最後に、同じような状況にある中小企業の経営者へのアドバイスがあればお願いします。
M&Aも事業承継対策の有効な一つの選択肢だと思います。私どものようにM&Aを選択しても長時間かかることもありますので、早めに検討を始めても早すぎることはないのでと思います。M&Aは、良いお相手に出会えるかが一番のポイントとなりますので、時間を掛けてお相手探しをするのも良いのではないでしょうか。
また、M&A仲介会社などのアドバイザーとの相性も重要かと思います。M&Aの検討プロセスは検討事項が多かくあります。円滑な意志疎通ができるアドバイザーに支援頂くことがM&Aをスムーズに進めるポイントになると思います。私どものM&A検討は長期間に渡りましたが、みつきコンサルティングの担当者がきっちり伴走し、支援して頂きました。時には衝突することもありましたが、M&Aを成功させるため、お互い本気で向き合い議論ができたことで私も納得が深まったり、気持ちの整理ができたと思います。長い間ご支援頂き、本当に感謝しております。
-貴重なお話をありがとうございました。本日のインタビューが、M&Aを検討している経営者の方々にとって参考になれば幸いです。