会社が廃業する際には、従業員の解雇処理を適切に行うことが極めて重要です。解雇は従業員の生活に大きな影響を及ぼすため、経営者はしっかりと対応しなければなりません。本記事では、廃業に伴う従業員への解雇通知のタイミングや退職金の支払い、年末調整、従業員への手当などについて詳しく解説いたします。
廃業すると社員はどうなる?
会社の廃業が従業員の生活に及ぼす影響は、収入源が失われるだけにとどまりません。扶養家族がいる場合は大きな影響があるため、具体的な影響について詳しく述べます。
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給与や賞与が支払われなくなる
会社が廃業することにより解雇されると、給料や賞与などの収入が途絶えます。従業員にとっては、日常生活を維持することが困難になる場合がありますので、速やかに新たな就職先を見つけることが求められます。
失業保険を受給できる
職を失った従業員は、失業保険を受給することが可能です。会社都合の退職の場合、待機期間を経ずに受給が開始されます。失業保険の額は、給与の約6~7割が上限となっており、受給日数も雇用保険の加入期間や年齢に応じて最短90日から最長330日まで変動します。
社会保険から国民健康保険・国民年金への切り替え
退職時には、自分自身と扶養家族の保険証を返却する必要があります。保険証がない状態で病院を受診すると、医療費が全額自己負担となります。次の就職先が決まるまでの間、国民健康保険・国民年金へ切り替えるためには、退職のタイミングで手続きを行うことが望ましいです。
配偶者が別の会社の社会保険に加入している場合、求職中に扶養家族として保険に加入することも検討できます。
従業員本人だけでなく家族も影響を受ける
解雇は、従業員だけでなく家族にも大きな影響を与えます。収入が途絶えるだけでなく、保険や年金の変更も伴います。通院中の家族がいる場合は、速やかに国民健康保険に切り替えることが必須です。また、将来の年金受給額の減額や保険料の負担が増える可能性があります。
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社員側での確認ポイント
従業員として、会社の廃業が決定された際には、特に以下の3点に注意して対処することが重要です。
- 退職条件やその他の情報を正確に入手する
- 賃金の未払いに対処できるよう準備をする
退職条件やその他の情報を正確に入手する
会社の廃業が決定されると、誰もが動揺し不安に感じるでしょう。特に、従業員の多くが初めての経験であるため、うわさ話が拡散し、正確な情報に基づかない判断や行動を取ってしまうことがあります。
従業員は、同僚とのうわさ話にとらわれず、上司や役員、経営層から直接情報を得ることが大切です。特に、次のような退職条件については明確な回答を求めるべきです。
- 解雇手当の支払い時期や方法
- 退職金の有無や支払い時期
- 新たな職場への紹介の有無
賃金の未払いに対処できるよう準備をする
経営者の引退に伴う廃業であれば、経営上の問題からの廃業ではないので、基本的に賃金の未払いは生じません。ただし、未払いの残業代などがある場合は、廃業手続きが混乱した状況になったとしても見逃されないよう注意が必要です。
一方、事業が停止し再開の見通しが立たず支払能力がない状態(事実上の倒産による廃業)であれば、賃金の未払いが発生する可能性が高まります。そうした状況下では、国の未払賃金立替制度を利用できるかどうか、労働基準監督署に相談してみてください。
未払賃金立替制度というのは、破産した企業の従業員に対する未払い賃金がある場合に、国が立替払いを行う制度のことです。ただし、この制度による支払いは、未払い額の80%までとなっており、全額の保証はされていません。
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廃業に伴う社員への対応
解雇予告は30日前までに通知する
企業が廃業すると、通常の営業や業務は行われなくなります。社員は会社都合による退職(解雇)を余儀なくされます。
解雇は、会社が従業員との雇用契約を一方的に解除することを指します。これは従業員に対して解雇を通知することで進行します。
解雇通知は口頭でも有効ですが、通常は書面での解雇通知書を作成し、従業員に提出されます。
解雇手続きを進める際は、少なくとも 30 日前に予告が必要です。30 日前に予告がなされない場合、解雇予告手当を会社が支払わなければならないことになります。
解雇予告手当の金額は、法律上、平均賃金の30日分以上であることが求められます(労働基準法20条)。
なお、会社清算する場合には、法人格は破産管財人による業務(会社財産の管理・換価)に必要な範囲で維持されますが、破産手続きが終わると消滅することになります。従業員の解雇タイミングはケースバイケースですが破産申し立て前に全ての従業員(正社員、パート、アルバイト、嘱託職員など)を解雇することが一般的です。
もし会社が給与や解雇予告手当を支払う資金がない場合、破産申し立て時に裁判所に提出する「債権者一覧表」に「労働債権」として、未払給与や解雇予告手当を記載することになります。
解雇予告手当は、破産手続きの中で優先的破産債権となり、一般の破産債権よりも優先的に弁済を受けられます。ただし、未払給与とは異なり、労働者健康安全機構による未払賃金立替払制度の対象外となります。
廃業に伴う年末調整
年末調整は、雇用者(企業)が 1 月 〜 12 月の 1 年間の給与にかかる税金額を算出し、源泉徴収との差額を精算する手続きです。
例えば、11 月に廃業し、12 月時点で従業員が勤務していない場合、企業は年末調整を行わなくてもよいですが、廃業するまでの期間について源泉徴収票を発行する義務があります。従業員はこの源泉徴収票を基に、新たな勤務先かご自身で確定申告を行う必要があります。
廃業に伴う手当支払
廃業による従業員への手当には、解雇予告手当と退職金が存在します。労働基準法で定められた解雇予告手当は、廃業する 30 日以上前に解雇を告げなかった場合、「平均賃金 ×(30 日 – 解雇予告から解雇までの日数)」という計算式で算出された金額を支払う制度です。
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廃業による会社のデメリット
これまで触れてきた通り、廃業が原因での解雇は、従業員にとって大きなダメージとなりますが、一方で解雇を行う企業側においても、様々なリスクが存在することを認識しておく必要があります。
企業内で蓄積されたノウハウや技術が流出する危険性がある
長年にわたる事業活動の中で獲得してきたノウハウや技術が、従業員の解雇によって競合企業へと流出するリスクがあります。
知的財産権の侵害や残業代未払い等で訴訟を起こされる可能性がある
解雇が決定すると、従業員との関係が従来と変わります。場合によっては、従業員から恨まれることで会社の重要情報が外部に漏れる恐れがあります。
例えば、高額なCADソフト等を使用していた場合、その情報が外部に漏れることもあります。また、残業代の未払いが常習的であるような状況下では、訴訟を提起されるリスクが増します。
こうした問題を未然に防ぐためには、企業として日常業務において法令順守を徹底させることが不可欠です。また、廃業時の対応が不誠実な場合、経営者が新たな事業を始める際に取引先や採用募集時に悪影響がでることは間違いありません。。
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廃業か譲渡か?
廃業や解散は悪いことではありませんが、手続きが複雑で時間がかかり、資産の処分にも費用がかかります。そのため、廃業や解散を決断する前に、M&Aの検討がおすすめです。M&Aを行うことで、事業の存続や従業員の雇用継続、それに加えて譲渡益の獲得もあり得ます。取引先や従業員にとってこれまでの環境が維持される方が望ましく、廃業よりM&Aによる事業承継の方が望ましいと言えるでしょう。
廃業や解散にはデメリットが存在し、資産の譲渡や手続きに時間と費用がかかるだけではなく、関係者への悪影響も避けられません。特に、従業員の解雇や取引先に対する契約の解除等が大きな影響を与えます。
これに対し、M&Aでは事業の継続や従業員の雇用継続が可能であり、取引先との関係も継続されることが期待されます。加えて、経営者にとってもメリットがあります。譲渡後、事業を起こさない場合でもその地域に住み続ける限り、自身の経営者としての引退は周りへの影響も考え、最善の方法を取ることが望ましいです。
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会社廃業の従業員のまとめ
廃業を選択した場合には、従業員を解雇する必要があります。解雇に伴う訴訟リスクも考慮し、十分な準備および対策を講じてから廃業を発表することが望ましいです。
例えば、残業代の未払いがある場合は、廃業を発表する前にそれらを支払っておくことでリスクを軽減できます。また、退職金とは別に、廃業に伴う建物や機械設備などの処分費用も必要となるため、事前に必要な費用を計算しておくことが重要です。訴訟のリスクや法的な観点だけではなく、道義的な観点でも最善な方法を選択すべきであり、リスクマネジメントや廃業に必要な費用の計算は専門家の力を借りることがおすすめです。これにより、リスクを事前に把握し対処することができるだけでなく、M&Aを含む廃業以外の選択肢も提示してもらえる可能性があります。
みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社として15年以上の業歴があり、中小企業M&Aに特化した経験実績が豊富なM&Aアドバイザーが多数在籍しております。 みつき税理士法人と連携することにより、税務面や法律面のサポートもワンストップで対応可能ですので、M&Aをご検討の際は、成功するM&A仲介で実績のある、みつきコンサルティングに是非ご相談ください。
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著者
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国内証券会社(現SMBC日興証券)にてクライアントの資産運用を支援。みつきコンサルティングでは、消費財・小売業界の企業に対してアドバイザリーを提供。事業承継案件のみならず、Tech系スタートアップへの支援も行う。
監修:みつき税理士法人
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