事業承継とM&A(旧:事業承継・引継ぎ補助金)は、中小企業の未来を形作る重要な選択です。これらの局面において、国が提供する「事業承継・M&A補助金」は、企業の生産性向上や持続的な賃上げを後押しし、経済の活性化を図ることを目的としています。この補助金は、譲渡オーナーと譲受企業双方に多角的な支援を提供し、事業のスムーズな承継や統合をサポートする制度です。
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事業承継・M&A補助金の全体像
事業承継・M&A補助金(旧:事業承継・引継ぎ補助金)は、中小企業や小規模事業者が直面する多様な課題に対応できるよう、複数の支援枠を設けています。それぞれの枠には、異なる目的と要件があり、企業の状況や目指す方向性に応じて最適な支援を選べます。
主な支援枠は以下の4つです。
事業承継促進枠
この枠は、5年以内に親族内承継または従業員承継(社内承継)を計画している企業が対象です。事業の承継を円滑に進めるための設備投資費用などが補助対象となります。例えば、新たな後継者が事業を引き継ぎ、生産性向上のための機械を導入する際に活用できます。補助上限額は800万円から1,000万円で、一定の賃上げを実施する場合には上限が1,000万円に引き上げられます。補助率は1/2または2/3で、特に小規模事業者の場合は2/3となります。
専門家活用枠
この枠は、経営資源を譲り渡す譲渡オーナーまたは譲り受ける譲受企業が、M&Aを行う際に専門家を活用する費用を支援します。M&Aは専門的な知識が不可欠な手続であり、適切なアドバイスなしに進めるのは、羅針盤なしで大海原を航海するようなものです。この枠は、そのような専門家費用の負担を軽減し、より安全で確実なM&Aをサポートします。
詳しくは後述します。
PMI推進枠
M&Aが成立した後も、事業の統合(PMI: Post Merger Integration)は企業の成長に欠かせない要素です。この枠は、M&Aに伴い経営資源を譲り受ける中小企業などが、PMIの取り組みを行う際の費用を補助します。専門家費用や設備投資費用などが対象となり、統合効果の最大化を目指します。異なる文化を持つ企業が一つになることは、時には摩擦を生むこともありますが、この枠はスムーズな統合を後押しし、シナジー効果を最大限に引き出すための力強い味方となるでしょう。
廃業・再チャレンジ枠
事業承継やM&Aの検討、または実施に伴い、廃業を選択する場合や、新たな事業に再チャレンジする場合に発生する費用を支援する枠です。原状回復費や在庫処分費などが補助対象となり、事業の終了に伴う負担を軽減します。この枠は、事業承継促進枠、専門家活用枠、事業統合投資類型と併用申請が可能であり、経営の柔軟な選択肢を広げます。
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専門家活用枠の詳細
専門家活用枠は、M&Aを検討する多くの企業にとって特に重要な支援です。この枠には、「買い手支援類型」と「売り手支援類型」の2つの支援類型があります。
補助対象者とM&Aの範囲
この補助金の対象となるのは、日本国内に拠点や居住地を置き、日本国内で事業を営む者です。法人の場合は申請時点で設立登記が完了し、3期分の決算申告が終わっていること、個人事業主の場合は開業届を提出後5年が経過し、青色申告を行っていることが要件となります。また、暴力団などの反社会的勢力でないことも求められます。
中小企業M&Aにおける補助対象者
中小企業のM&Aで最も一般的な手法である株式譲渡においては、オーナー経営者個人が専門家費用を負担することが多いですが、その場合でも、その譲渡オーナー(支配株主、株主代表)は補助金の受給対象となります。譲渡企業(対象会社)が補助対象となる費用が負担している場合には、譲渡企業も補助を受けられます。株式譲渡に継いで一般的なM&A手法である事業譲渡においては、譲渡企業が補助金を受けることになります。
補助対象となるM&Aの種類
補助の対象となるM&Aは、実質的な事業再編や事業統合が行われるもので、株式譲渡、第三者割当増資、株式交換、合併、分割、事業譲渡などが該当します。単なる物品や不動産のみの売買、グループ内での事業再編、親族間での事業承継、事業実態のない会社のM&Aは対象外となります。事業の核となる経営資源が一体として引き継がれ、新たな価値創造に繋がるM&Aが求められているのです。例えば、店舗の引き継ぎでも、単に建物や設備だけを譲り渡すのではなく、従業員や顧客リスト、ノウハウといった無形資産も含めて一体的に承継される場合に、この補助金が活用できる可能性があります。
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対象となる経費と補助率・補助上限額
専門家活用枠で補助対象となる主な経費は、謝金、旅費、外注費、委託費、システム利用料、保険料などです。特に、M&A仲介会社やファイナンシャル・アドバイザー(FA)、弁護士、司法書士らに支払う費用は重要な対象経費です。ただし、これらの費用は「M&A支援機関登録制度」に登録されたFA・仲介業者による支援に限られますので、依頼先の選定には十分な注意が必要です。
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補助率
補助率は、買い手支援類型の場合、補助対象経費の1/3、1/2、または2/3以内となります。売り手支援類型では、1/2または2/3以内です。特に、譲渡オーナーが赤字であったり、物価高騰などの影響で営業利益率が低下している場合は、補助率が2/3に引き上げられるという特例があります。これは、厳しい状況にある企業を積極的に支援しようという国の強い意思の表れであり、大きな助けとなることでしょう。
補助の上限額
補助金の上限額は、買い手支援類型の場合、通常600万円ですが、デューデリジェンス(DD)費用を申請する場合は200万円が加算されます。さらに、「100億円企業要件」というものを満たす場合には、補助上限が2,000万円まで引き上がる可能性があります。売り手支援類型の場合も、補助上限は600万円で、DD費用加算があります。
補助の最低額
補助の最低額は50万円と定められており、補助対象経費に補助率を掛けた金額が50万円を下回る場合は申請が受理されません。また、補助事業期間内にM&Aが実現しなかった場合(クロージングしなかった場合)は、補助上限額が300万円以内に変更される可能性があります。これは、補助金の目的がM&Aの「実現」にあることを明確に示しています。
補助対象外となる経費の注意点
補助対象経費にはいくつかの注意点があります。例えば、商品の在庫などを売却して対価を得る場合の処分費は補助対象外です。また、ファイナンスリース取引の解約に伴う解約金や違約金のうち、リース資産の売買にかかる費用も補助対象外となります。これらの細かな規定を事前に把握しておくことは、後々のトラブルを避ける上で極めて重要です。まるで、旅の前に持ち物リストを細かく確認するのと同じように、補助金申請においても詳細なチェックが求められます。
デューデリジェンス(DD)費用の重要性
デューデリジェンスとは、譲受企業がM&Aの対象となる企業を詳細に調査・評価する手続です。財務、法務、事業、労務など多岐にわたる側面から行われ、潜在的なリスクや課題を洗い出すために不可欠なプロセスです。この調査には会計事務所や会計系コンサルティング会社等への専門的な費用がかかるものですが、専門家活用枠ではこのDD費用に対して最大200万円が加算されるため、譲受企業は安心して専門家に調査を依頼できます。
なお、専門家活用枠の第11次公募では、譲受企業が補助金を受けようとすれば、デューデリジェンスを実施することが必須とされました。一方で、DD費用の補助として上限額が最大200万円、上乗せされています。
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事業承継・M&A補助金の申請方法と審査のポイント
事業承継・M&A補助金の申請は、J-Grants(Jグランツ)という電子申請システムを通じて行われます。J-Grantsを利用するには、GビズIDプライムアカウントの取得が必須となりますので、事前に準備しておくことをお勧めします。公募期間や申請締切日などのスケジュールは、中小機構のホームページや事務局のホームページで随時公開されますので、定期的な確認が欠かせません。
審査のポイントは、譲受企業側と譲渡オーナー側でそれぞれ異なります。
譲受側の審査ポイント
譲受企業の審査では、事業計画の適切性、財務の健全性、譲受の目的や必要性、そして経済効果などが重視されます。単に規模を拡大するだけでなく、その譲受がどのようなシナジーを生み出し、地域経済や雇用にどのような良い影響を与えるか、その具体的なビジョンが問われます。
譲渡側の審査ポイント
譲渡オーナーの審査では、事業計画の適切性、譲渡の目的や必要性、経済効果などが主なポイントとなります。なぜ事業を譲渡するのか、その譲渡によってどのような未来を描いているのか、そしてそれが社会全体にどのような価値をもたらすのか、そのストーリーが審査において重要な役割を果たします。
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採択状況と成功の秘訣
2025年7月11日には、中小企業庁から専門家活用枠の第11次公募の採択結果が公表されました。申請件数590件に対し、採択件数は359件と、採択率は60.8%という高い数値でした。これは、5社中3社が採択された計算になり、M&Aを検討している企業にとって非常に狙い目の補助金と言えるでしょう。

採択されるためには、加点要素を意識することも大切です。例えば、「中小企業の会計に関する基本要領」の適用や、「経営力向上計画」「先端設備等導入計画」の認定取得などが加点の対象となります。これらは、企業の経営体制を強化し、持続的な成長を目指す上で役立つ取り組みでもあり、補助金申請と並行して進めることで、より採択の可能性を高めることができるでしょう。
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事業承継・M&A補助金の今後の展望と注意点
事業承継・M&A補助金は、今後も継続的に実施される見込みです。特に、これまでの専門家活用枠と廃業・再チャレンジ枠に加えて、今後は事業承継促進枠とPMI推進枠も利用できるようになる予定です。これにより、M&Aを検討する全ての段階で、より幅広い企業が支援を受けられるようになり、中小企業の事業承継や成長がさらに加速することが期待されます。
公募要領は暫定版として公開されることがあり、今後内容が変更になる可能性も十分にあります。申請を検討する際には、必ず最新の公募要領を確認することが肝要です。また、補助事業期間内に契約・発注を行い、支払った経費のみが対象となるため、契約締結時期にも留意が必要です。補助金の交付は、実績報告書等の提出後に行われるため、交付決定された場合でも支払われないことがある点も理解しておくべきでしょう。
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事業承継・M&A補助金(旧:事業承継・引継ぎ補助金)のまとめ
事業承継・M&A補助金は、中小企業が事業承継やM&Aを通じて、持続的な成長と生産性向上を実現するための強力な後押しとなる制度です。複数の支援枠が設けられており、それぞれの目的に応じた手厚い補助が受けられます。
当社は、みつき税理士法人グループのM&A仲介会社として15年以上の業歴があり、中小企業M&Aに特化した実績経験が豊富なM&Aアドバイザー・公認会計士・税理士が多く在籍しております。M&Aをご検討の際は、みつきコンサルティングにご相談ください。
著者

- 事業法人第三部長/M&A担当ディレクター
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宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修:みつき税理士法人
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