譲渡制限株式とは|公開会社との違いやメリット、中小企業の注意点などをわかりやすく解説

企業の株式譲渡は原則として自由ですが、例外として譲渡制限を株式に付与できます。上場しない中小企業にとって、譲渡制限をかけることは多くのメリットがあります。この記事では、譲渡制限株式の基本について解説します。公開会社との違いやメリット・デメリットも解説するため、参考にしてください。

1.株主による株式の譲渡は原則自由

会社法127条において、所有する株は自由に譲渡できるのが基本であると定められています。しかし、会社は株の譲渡に制限を設けることができる旨も記されているため、保有する株式に制限があるか否かに注意が必要です。

参考:会社法127条

2.株式譲渡制限会社と公開会社

株式譲渡制限会社と公開会社には、それぞれ特徴があります。譲渡制限株式は、会社法2条17号において「株式会社がその発行する全部又は一部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要する旨の定めを設けている場合における当該株式をいう」と定められています。

引用:会社法2条

株式譲渡制限会社とは

株式譲渡制限会社とは、発行する全ての株式に譲渡制限をつけている会社を指します。非公開会社ということもあるため、事前の確認が必要です。株式の譲渡にあたっては、取締役会や株主総会の承認が必要であり、中小企業の多くが株式譲渡制限会社に該当します。

株式譲渡の制限を設けていない会社が「公開会社」

公開会社とは、発行する全ての株式または、一部の株式に譲渡制限を設けていない会社を指し、主に上場企業が該当します。会社法2条5号において「その発行する全部又は一部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について株式会社の承認を要する旨の定款の定めを設けていない株式会社をいう」と定義されています。

引用:会社法2条

3.報酬制度として注目されている譲渡制限付株式(RS)

近年、譲渡制限付株式を交付するインセンティブ報酬制度が注目されています。継続勤務を条件に、譲渡制限が解除される点が特徴です。中小企業の譲渡制限は、乗っ取り防止を目的としています。一方で、上場企業の場合は、一般的に役員や従業員への報酬として活用されるのが一般的です。

4.譲渡制限株式は定款に定める

株式に譲渡制限を設ける場合は、定款に明記する必要があります。ここでは、定款に記載する内容などについて解説します。

定款に記載する内容

定款とは、会社設立の際に発起人全員が同意した上で定められる書類で、企業の根本原則が明記されています。定款に記載する内容は、以下のとおりです。

・株式の譲渡には承認が必要であること

・株式の譲渡の可否を決定する承認期間は取締役会や株主総会であること

・登記が必要であること

実際の定款には、以下のように記載します。

(株式の譲渡制限) 第◯条 当会社の株式を譲渡により取得するには、取締役会の承認を受けなければならない。

相続対策のための規定

相続対策のための規定として、相続人などに対する株式の売渡請求の規定を設けるか否かの検討も必要です。規定を設ける場合、株主に相続が発生した際に、相続人から会社が株式を買い取ることができます。ただし、筆頭株主である社長が急死した場合には、売渡請求権により乗っ取られるリスクがあります。

5.譲渡制限株式のメリット

ここでは、株式に譲渡制限を設ける際のメリットについて解説します。

不本意な譲渡を避けられる

譲渡制限により、株式の不本意な譲渡を避けられます。50%を超える株式を買い占めた場合、特殊な権限が付与されるため、意図しない株主の変更や乗っ取りの防止につながります。また、株主総会について第三者が関与するリスクを排除することで、経営の自由度を高められる点もメリットです。

監査役や取締役会の設置が不要

公開会社の場合、監査役1名以上、取締役3名以上が必要です。しかし、株式譲渡制限会社であれば、取締役会や監査役などが必ずしも必要ではないため、余計な役員報酬や取締役会の運用費用が発生しません。

役員の任期延長が可能

通常、役員の任期は取締役2年、監査役4年ですが、株式譲渡制限会社であれば、定款の定めによって最大10年まで任期延長が可能です。役員の条件を定款によって株主限定と定めておくことで、家族経営にも有効に働きます。

株主総会の手続きを簡略化できる

株主総会を開催する際の通知は、1週間前に書面通知もしくは口頭で招集と定められています。公開会社の場合は、2週間前までに書面またはメールで通知しなければならないため、株式譲渡制限会社よりも手間がかかります。

6.譲渡制限株式のデメリット

譲渡制限を設けることで多くのメリットがある一方、デメリットも存在します。ここでは、譲渡制限株式のデメリットについて解説します。

売渡請求権のリスクがある

株式を相続した後継者に対して、売渡請求権が行使された場合、経営権を失ってしまう点に注意が必要です。ただし、株主が経営者のみである、もしくは信頼ある関係者のみで構成されている場合は心配ありません。

株式買取請求権のリスクがある

譲渡の承認が得られなかった場合、株主は会社に対して、買取請求を行うことが可能です。公正な価格で買い取る必要がありますが、株主が経営者のみであれば、大きな問題にはならないケースが一般的です。

7.譲渡制限株式の譲渡の流れ

譲渡制限株式を譲渡する際の流れは、以下のとおりです。

1、譲渡する株式の譲渡制限について確認をする。

2、譲渡先の企業に対し承認請求を行う。

3、株主総会もしくは、取締役会で承認するか否かを決定する。

ここまでの流れは、譲渡の承認・否決に関わらず同じです。以下で、譲渡の承認・否決のパターン別に解説します。

譲渡を承認する場合

譲渡を承認する場合の流れは、以下のとおりです。

1、承認可決の通知

2、株式譲渡契約の締結

3、株主名簿の書換請求

4、株主名簿記載事項証明書の交付請求

株主名簿記載事項証明書には、譲受側の個人情報や株式の保有数などが記載されており、代表取締役の署名または記名押印が必要です。

譲渡を否決する場合

譲渡を否決する場合の流れは、以下のとおりです。

1、承認否決の通知

2、株式買取先の決定

3、特別決議(会社が買い取る場合)

4、買取相当額の供託

5、株主の株券供託

6、株式譲渡価格についての協議・申し立て

7、裁判所による買取価格の決定

否決する場合、会社で株式を買い取るか、会社が買取人を指定する必要があります。承認する場合に比べて手続きが困難であるため、専門家のサポートが推奨されます。

8.発行株式数の目安

発行可能株式総数は、定款への記載が義務付けられています。ここでは、発行株式数の目安について解説します。

1株の発行価格に決まりはない

1株あたりの発行価格は、企業側が自由に決められます。資本金の額=1株の発行価格×株式数で求められ、1株あたりの金額は、1万円か5万円に設定するのが一般的です。発行数や発行価格の目安は、3分の2以上の議決権を確保できるように決定しましょう。

9.株式の注意点

株式を保有している場合、いくつかの注意点があります。

持ち株比率で権限が変わる

株式は、持ち株比率によってさまざまな権限が付与されます。

比率が3分の1超株主総会の特別決議を単独で否決する権限
比率が2分の1超株主総会の普通決議を単独で可決する権限【会社法309条1項】
比率が3分の2超株主総会の特別決議を単独で可決する権限【会社法309条2項】

中小企業において、発行株式総数の多くを個人や他企業が買い占められる金額に設定している場合、譲渡制限がないと、会社の経営などを自由に決められなくなる可能性があります。ただし、株主総会を開催し、定款変更に関する承認を得られれば、株式譲渡制限会社に変更可能です。

10.まとめ

株式に譲渡制限を設けることで、不本意な譲渡の回避や経営の自由度の向上など、さまざまなメリットが得られます。ただし、売渡請求権や株式買取請求権の行使によって、不利益が発生する可能性もあり、注意が必要です。

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譲渡制限のある株式を譲渡する場合は、さまざまな手続きが必要であり、豊富な知識を持つ専門家のサポートが欠かせません。譲渡制限株式や株式の譲渡に関するお悩みは、みつきコンサルティングにお任せください。

著者

西尾崇
西尾崇事業法人第三部長
宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。
監修:みつき税理士法人