会社を売るとき、手元にいくら残るかは税金で決まります。M&Aの税金は「株式譲渡か事業譲渡か」「売り手が個人か法人か」で大きく変わります。本記事では課税の仕組みと節税策を、譲渡オーナーの手取りを増やす視点で整理しました。相談前の判断材料としてお役立てください。
「うちの会社でも売却できるだろうか…」、「何から始めればいいんだろう…」。そのようなオーナー経営者の不安に、中小企業向けM&A仲介会社みつきコンサルティングは、20年間・500件以上の支援実績に基づき、お応えします。本格検討前の情報収集として、まずはお話をお聞かせください。
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M&Aの税金は「手法」と「立場」で決まる
「売却額のうち、いくら税金で持っていかれるのか」。会社売却の相談で最初に聞かれる質問です。答えは一律ではありません。選んだ手法と、株主が個人か法人かで、かかる税目も税率も変わります。
M&Aの税金を理解する入口は、会社売却の全体像を押さえたうえで、株式譲渡と事業譲渡という2つの代表手法を分けて考えることです。実際にいくらで売れるかは売却相場と株価の決まり方で変わりますが、税金はその「売れた金額」に対してかかってきます。

まずは全体像を下表で確認します。株式譲渡と事業譲渡で、誰にどんな税金がかかるかを対比しました。
| 比較項目 | 株式譲渡 | 事業譲渡 |
|---|---|---|
| 課税される人 | 株主(個人または法人) | 会社(法人) |
| 売り手の主な税金 | 個人は所得税・住民税等/法人は法人税等 | 法人税等 |
| 売り手の実質税率 | 個人20.315%/法人約31% | 約31% |
| 買い手の税負担 | 原則なし | 消費税・不動産取得税等 |
| のれんの扱い | 償却できない | 5年で損金算入できる |
この一覧が、以降の解説の地図になります。個人と法人で課税の考え方がそもそも違う点から、順に見ていきましょう。
個人と法人では課税のルールが違う
個人の所得は10種類に分かれ、種類ごとに総合課税か申告分離課税かが決まります。オーナー経営者が自社株を売って得る利益は「株式譲渡所得」となり、申告分離課税の対象です。
一方、法人には所得の区分がありません。株式の売却益も事業の譲渡益も、本業の利益と合算した全体の所得に課税されます。個人でいう総合課税に近い扱いだと考えると分かりやすいはずです。会社売却で創業者が受け取る利益の全体像は、創業者利益とEXIT時の税金で整理しています。
株式譲渡でかかる税金
中小企業M&Aの約9割は株式譲渡です。会社そのものを株式ごと譲る手法で、株式譲渡の仕組みを押さえると税金の話も腹落ちします。立場ごとに見ていきます。
売り手・個人株主にかかる税金
個人株主が株式を売ると、譲渡価格から取得費と譲渡費用を引いた譲渡所得に課税されます。税率は所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%を合わせた20.315%。給与や事業所得と切り離す申告分離課税のため、譲渡益が数億円でも累進課税は適用されません。
この点は個人オーナーにとって最大の利点です。仮に総合課税なら最高55%に届く水準が、約20%で済む。取得費や仲介手数料などの譲渡費用を差し引ける点も見落とせません。詳しい根拠は、国税庁タックスアンサーNo.1463 株式等を譲渡したときの課税で確認できます。
売り手・法人株主にかかる税金
親会社が子会社株式を売る場合は、譲渡益が本業の損益と通算されたうえで法人税・住民税・事業税がかかります。実効税率はおおむね31%前後。本業で大きな損失が出た年なら、譲渡益と相殺されて税負担がゼロになることもあります。個人株主とは損益の考え方が根本から異なる、という理解が出発点です。
買い手にかかる税金
株式を買う側には、原則として税金は生じません。消費税も非課税です。ただし例外があります。
譲渡価格が時価より著しく低いと、買い手が個人なら贈与税、法人なら受贈益として法人税等がかかる場合があります。適正な時価との差額に対し、贈与税は10~55%の累進、法人税は他の利益と合算のうえ実効税率30~35%程度が適用されます。身内間の株式移動などで起きやすい論点です。
事業譲渡でかかる税金
会社を丸ごとではなく、特定の事業や資産だけを選んで売るのが事業譲渡です。事業譲渡の手続と特徴を踏まえると、税金のかかり方も株式譲渡とは別物だと分かります。
売り手・法人税等
事業を売った代金は、株主個人ではなく会社に入ります。事業譲渡金額から譲渡する純資産の簿価を引いた事業売却益が、本業の利益と合算されて法人税等の対象になります。
ここで一つ落とし穴があります。会社に入った資金を配当や役員報酬でオーナー個人へ移すと、そこで再び所得税がかかる。いわゆる二重課税です。個人の手取りを最大化したいなら、株式譲渡に劣る場面が多くなります。
買い手・消費税と流通税
事業譲渡は「モノの売買」とみなされます。譲渡対象に有形固定資産や営業権が含まれると、買い手は10%の消費税を上乗せして支払う必要があります。土地は非課税です。
不動産が含まれる場合は、不動産取得税と登録免許税も買い手に生じます。不動産取得税は固定資産評価額に税率を掛けて計算し、土地・住宅用家屋は3%(令和9年3月31日までの特例)、非住宅家屋は4%。土地の所有権移転登記にかかる登録免許税は、固定資産評価額の1,000分の15(令和8年3月31日までの特例。通常は1,000分の20)です。

のれんは買い手にとって節税になる
時価純資産を上回って支払った差額は「のれん」となります。事業譲渡では、こののれんを5年(60か月)で均等償却し、毎期の損金に算入できます。つまり買い手の法人税を減らす効果を持つわけです。のれんの償却と会計税務は、買い手が事業譲渡を選ぶ動機の一つになります。
組織再編でかかる税金
会社分割や株式交換、合併といった組織再編では、その再編が税務上の「適格」に当たるかどうかで税金の有無が分かれます。ここが判断の分水嶺です。
適格要件を満たせば、資産・負債を帳簿価格で引き継ぐため売却損益が発生せず、課税もありません。要件を満たさない非適格の場合は時価で引き継ぐことになり、売却損益が生じて課税されます。不要資産の切り出しに使う会社分割の税制適格要件は、実務で頻繁に検討する論点です。
M&Aにおける代表的な節税・税務対策
同じ売却でも、スキームの組み方一つで手取りは数千万円単位で動きます。支援現場でよく使う対策を紹介します。
役員退職金を組み合わせる
株式の売却代金をすべて譲渡所得にするのではなく、一部を役員退職金として会社から受け取る方法があります。退職所得は退職所得控除が大きく、課税対象が2分の1になる優遇があるため、20.315%の株式譲渡税よりさらに税負担を下げられる場合が多い。
使い方の要点はM&Aでの役員退職金の活用に、退職金そのものの税額計算は退職金の税金の計算方法と5年ルールにまとめています。譲渡価額とのバランスを取る設計が肝心です。
株式譲渡を選ぶ
手法選びそのものが最大の節税になることもあります。個人株主の株式譲渡は20.315%、事業譲渡の法人税率は約31%。この差は大きい。中小企業なら経営者個人の資金も会社の資金も事業に回せるため、株式譲渡のほうが使える資金が多く残ります。
ただし株式譲渡では経営権を失う一方、事業譲渡なら会社は手元に残る。税負担だけでなく、売却後に何を残すかまで含めて決めるべき論点です。消費税の観点でも株式譲渡が非課税となる理由は押さえておきたいところ。
会社分割で不要資産を切り離す
買い手が要らないと感じる資産、たとえばオーナー個人色の強い不動産や車両が社内にある。そうしたケースでは、あらかじめ会社分割で必要な事業だけを綺麗に切り出してから株式譲渡する手が有効です。
無駄な資産評価を省いて売却価格を適正化でき、余計な課税も防げます。適格要件を満たせば、分割時の資産移転に対する課税も繰り延べできる。手順の設計次第で結果が変わる、実務家の腕の見せどころです。
買い手が使える支援措置
買い手側にも税負担を軽くする制度が用意されています。利用できる場面は限られますが、検討する価値はあります。主なものを下表に整理しました。
| 支援措置 | 主な内容 | 対象 |
|---|---|---|
| 中小企業経営強化税制 | 設備の即時償却か取得価額の税額控除 | 経営資源集約化に資する設備等 |
| 中小企業事業再編投資損失準備金 | 取得価額の最大70%を損金算入 | 認定計画に基づく株式取得 |
| 不動産取得税の特例 | 課税標準から価格の6分の1を控除 | 認定計画に基づく事業譲渡 |
要件や控除率は改正で変わります。M&Aで使える減税の全体像は経営資源集約化税制の要件で確認してください。

M&Aの税金で注意すべき点
税率の話だけでは足りません。手取りに直結する細かな注意点を、立場別に押さえておきます。
個人株主の株式譲渡
取得費が不明なら、譲渡収入の5%を概算取得費として計上できます。相続で取得した株式なら、相続開始から3年10か月以内に売ると取得費加算の特例が使える。譲渡企業の資産の70%以上が土地や借地権だと、不動産の短期譲渡所得として税率が変わる可能性もあります。細かいようで、手取りに響く論点です。手取りを増やす計算の全体像は会社売却の手取り額の計算で整理できます。
法人株主の株式譲渡
法人株主の譲渡益は、他の利益と通算されたのちに法人税等の実効税率がかかります。配当を受け取る場合や、完全子会社からの現物配当については、一定額が非課税になる仕組みがある。株式のまま売るか配当で受けるかで税負担が変わるため、事前の設計が欠かせません。
消費税の資金繰り
事業譲渡の消費税は買い手が負担します。譲渡資産額が大きいほど消費税額も膨らむため、買い手は消費税分まで含めた資金繰りを前もって組んでおく必要があります。クロージング直前で慌てないよう、初期段階から見込んでおきたい項目です。


みつきコンサルティングが支援したM&Aの税務事例
税務が譲渡スキームの決め手になった事例を、規模と業種が伝わる範囲で匿名化して紹介します。いずれも公認会計士・税理士を含むチームが関与した案件です。
父から承継した地場企業を同地域の有力企業へ
売上約2億円のクリーニング会社。父から継いで20年以上経営したオーナーが、後継者不在と早期引退を理由に第三者承継を決断しました。株式譲渡で、同じ東北の売上10数億円規模の有力企業へ譲渡。地方特有の距離的な課題を越え、譲渡益への課税を抑える設計で手取りを確保した事例です。
4年半をかけてIT企業とデジタル融合を実現
売上約7億円の専門出版社が、紙からデジタルへの業界変化を背景に2017年から検討を開始。複数社との交渉と社内調整を重ね、約4年半後に売上約60億円のネットメディア企業へ株式譲渡しました。時間をかけて相手を見極めた分、条件面でも納得のいく着地となった案件です。
父から承継した地場企業を同地域の有力企業へ

譲渡企業:クリーニング(売上約2億円)
譲受企業:クリーニング(売上約10数億円)
スキーム:株式譲渡
父から承継し20年以上経営するクリーニング会社が、後継者不在と早期引退希望から第三者承継を決断。地方企業特有の距離的課題を経て、同じ東北の有数企業に譲渡。
4年半越しの期間を経てIT企業とデジタル融合を実現

譲渡企業:専門出版社(売上約7億円)
譲受企業:ネットメディア(売上約60億円)
スキーム:株式譲渡
紙媒体からデジタルへの業界変化を背景に2017年からM&A検討を開始。複数企業との交渉や社内調整を経て、約4年半後にIT・Webマーケ企業への譲渡を実現。
さまざまな業種・規模の成約事例はM&A成約実績の一覧で紹介しています。
M&Aの税金に関するFAQ
相談現場で実際によく受ける質問を、答え方そのままにまとめました。
株式譲渡なら譲渡所得に対して20.315%です。所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%の合計。給与などと合算しない申告分離課税なので、譲渡益が高額でも累進課税にはなりません。
個人オーナーの手取りで見れば、株式譲渡が有利な場面が大半です。事業譲渡は会社に法人税がかかり、個人に資金を移す際に再課税されます。ただし残したい事業や資産があるかで結論は変わります。
株式譲渡なら原則かかりません。事業譲渡では消費税が発生し、不動産が含まれれば不動産取得税や登録免許税も生じます。まずここを確認します。
個人株主は売却した年の翌年、2月16日から3月15日の確定申告で納めます。法人は該当事業年度の決算日の翌日から2か月以内が期限です。立場によって時期が違う点に注意してください。
M&Aの税金と節税のまとめ
M&Aの税金は、株式譲渡か事業譲渡か、売り手が個人か法人かで大きく変わります。個人の株式譲渡なら20.315%、事業譲渡は買い手に消費税が生じる。役員退職金や会社分割の組み合わせで手取りは動きます。何を残し何を手放すかは、オーナーごとに答えが違って当然です。
みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社として中小企業M&Aに特化し、経験豊富なアドバイザーが多数在籍しています。みつき税理士法人と連携し、税務面のサポートまでワンストップで対応できます。会社売却の税金でお悩みなら、基本合意の前の段階からお気軽にご相談ください。
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著者

- 事業法人第三部長/M&A担当ディレクター
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宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修者 神門 剛 代表取締役 / 公認会計士・税理士
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