海外M&Aにおけるデューデリジェンス(DD)は、国内M&Aとは異なる多くの複雑性を伴います。この記事では、海外M&Aで譲受企業が直面する特有のリスクを詳細に解説し、言語や法制度、文化の違いにどのように対応すべきか、現地専門家の活用方法まで網羅的にご紹介します。
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海外M&Aデューデリジェンスの複雑性と重要性
海外M&Aは、譲受企業にとって新たな成長機会を創出する有効な手段です。しかし、国内M&Aと比較して、デューデリジェンス(DD)のプロセスは格段に複雑になります。対象企業が所在する国の言語、文化、法制度、商習慣の違いが、DDの質と結果に大きく影響を与えるためです。
適切に国際DDを実施することは、潜在的なリスクの特定と、譲渡企業の企業価値の正確な評価、そして譲受後の事業戦略の成功に不可欠です。これらの課題を事前に把握し、対応することで、譲受後の予期せぬ問題や追加コストを回避し、M&Aの成功確率を高めることができます。
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言語・文化・商習慣の違いへの対応
海外M&Aデューデリジェンスを進める上で、言語や文化、商習慣の違いは大きな障壁となり得ます。これらの違いを乗り越えるためには、多角的なアプローチが必要です。
通訳・翻訳と現地専門家の活用
デューデリジェンスの過程では、契約書や財務諸表など、膨大な量の現地語の資料を確認する必要があります。これらの資料を正確に理解するためには、専門知識を持つ通訳者や翻訳者の活用が欠かせません。単なる言語の変換だけでなく、その国の法制度や商習慣を理解した上で、ニュアンスまで正確に伝える能力が求められます。
また、現地の専門家は、その国のビジネス慣行や文化を熟知しているため、表面的な情報だけでは読み取れないリスクや機会を特定する上で不可欠な存在です。彼らの知見は、DDの精度を向上させる上で重要です。
コミュニケーション戦略と交渉スタイルの違い
海外M&Aでは、譲受企業と譲渡企業の間でコミュニケーションスタイルや交渉アプローチが異なることが一般的です。例えば、日本企業は詳細な情報を重視し、慎重な意思決定を行う傾向がある一方、国によってはトップダウンで意思決定が早く、交渉過程で情報開示が限定的であることもあります。
こうした違いを理解し、譲渡企業やそのアドバイザーとの間で、信頼関係を構築するための戦略的なコミュニケーションが求められます。相手の文化や商習慣を尊重しつつ、譲受企業の目的を明確に伝え、透明性の高い対話を心がけることが、円滑なDDと交渉の鍵となります。
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対象国の法制度・会計基準・税制の理解と差異調整
クロスボーダーM&Aにおいては、対象国の法制度、会計基準、税制が日本と異なるため、詳細な理解と日本基準との差異調整が必須です。
法務デューデリジェンスにおける留意点
対象国の法務DDでは、現地の会社法、契約法、労働法、競争法、知的財産法など、多岐にわたる法令を網羅的に調査する必要があります。特に、以下の点に注意が必要です。
登記・許認可の状況
事業に必要な許認可が適切に取得・維持されているか、過去の違反履歴がないかを確認します。
契約上のリスク
特に譲渡企業の重要契約に含まれるチェンジオブコントロール(COC)条項の有無と内容を確認します。
COC条項がある場合、譲受に伴う株主構成の変更によって契約が解除される可能性があります。
労働慣行と労働法規の遵守
未払残業代、不適切な労働契約、ハラスメント問題など、現地の労働慣行や労働法規に違反がないかを確認します。
中小企業では管理体制が不十分なことが多く、問題が顕在化しやすい傾向があります。
知的財産権
譲受企業が特にコンテンツ企業やテクノロジー企業の場合、著作権や特許権、商標権などの知的財産権の帰属、有効性、侵害リスクを詳細に調査します。
特に、共有著作権の場合、譲渡に他の共有者の同意が必要となる点や、権利行使に共有者全員の同意が必要となる点に留意が必要です。
個人情報保護法制
対象企業が保有する個人情報の取得・利用・管理が、現地の個人情報保護法制(例:GDPR、CCPA、中国個人情報保護法)に準拠しているかを確認します。
データ活用を目的としたM&Aが増加する中で、データDDの重要性は高まっています。
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会計基準と税制の理解
対象企業の財務諸表は、現地の会計基準(例:IFRS、米国GAAP、ローカルGAAP)に基づいて作成されているため、日本基準や国際会計基準(IFRS)との差異を理解し、必要に応じて調整を行う必要があります。
実態純資産の把握
簿外債務やオフバランス取引の有無を調査し、実態としての純資産を正確に把握することは、企業価値算定の基礎となります。
収益力とコスト構造の分析
過去の損益トレンドを分析し、対象企業の経常的な収益力、コスト構造、利益の源泉を詳細に評価します。
棚卸資産と返品調整引当金
アパレル業界などのように、大量の在庫を抱える事業の場合、棚卸資産の評価方法や返品調整引当金の計上状況を重点的に確認します。
税務リスク
過去の税務処理に不備がないか、潜在的な税務リスク(例:移転価格税制、連結納税)がないかを確認します。
海外子会社の税務対策や現地法制対策から、実質的な議決権ベースでの支配力が会計上の連結子会社と異なる場合もあるため、注意が必要です。
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カントリーリスクの評価と対応
海外M&Aでは、対象国特有のカントリーリスクがM&Aの成功に大きな影響を与える可能性があります。これらのリスクを事前に評価し、適切な対応策を講じることが重要です。
政治・経済情勢と為替変動
対象国の政治情勢の不安定さや経済成長の鈍化、為替変動は、譲渡企業の将来の事業計画や収益性に直接的な影響を与えます。例えば、急激な為替変動は、外貨建ての売上やコスト、借入金の評価額に影響を及ぼし、譲渡企業の財務状況を大きく変化させる可能性があります。
DDにおいては、現地の政治・経済アナリストや専門家の意見も参考に、これらのマクロ経済リスクを評価し、事業計画の変動要因として織り込む必要があります。
外資規制と紛争・治安
一部の国では、特定の産業や企業形態に対して外資規制を設けており、外国人投資家の出資比率や会社設立形態に制限がある場合があります。また、政府の許認可がM&Aの実行条件となるケースや、撤退時の許認可が必要となるケースもあります。
さらに、紛争や治安の悪化は、事業継続性や従業員の安全に深刻な影響を与える可能性があります。DDでは、これらのリスクを現地法務専門家と連携して詳細に確認し、M&A後の事業運営に支障がないかを評価する必要があります。
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海外子会社のガバナンス・コンプライアンス体制のチェック
海外子会社のガバナンスやコンプライアンス体制は、譲受後のリスクを最小化し、グループ全体としての企業価値を向上させる上で極めて重要です。特に、贈収賄防止法への対応は厳格さが求められます。
贈収賄防止法(FCPA等)への対応
海外での事業展開においては、米国海外腐敗行為防止法(FCPA)など、各国の贈収賄防止法への対応が不可欠です。対象企業やその海外子会社が過去に贈収賄や汚職に関与していないか、また、贈収賄防止のための内部統制が確立されているかを詳細に確認する必要があります。
特に贈収賄リスクが高いと判断される国や地域においては、通常の財務DDや法務DDに加え、不正DDを実施し、潜在的な不正リスクを早期に特定することが推奨されます。不正が発覚した場合、譲受企業は多額の罰金やレピュテーションリスクを負う可能性があるため、M&A実行前後の継続的なモニタリングと内部統制の強化が重要です。
労働慣行とコンプライアンス
海外子会社の労働慣行や雇用条件は、日本とは大きく異なる場合があります。現地の労働法規の遵守状況、労働組合との関係、従業員の給与水準や福利厚生制度、人事異動や解雇の手続などが適切に行われているかを確認します。
また、強制労働や児童労働といった人権問題に関与していないか、サプライチェーン全体での人権DDを実施しているかどうかも、ESGデューデリジェンス(ESG DD)の観点から重要性が増しています。コンプライアンス違反は、レピュテーションリスクや事業の継続性にも影響を及ぼすため、徹底した調査が必要です。
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現地専門家との連携と報告書の様式
海外M&Aデューデリジェンスを成功させるためには、現地専門家の選定と効果的な連携が不可欠です。
現地専門家(法律事務所、会計事務所)の選定
譲受企業は、対象国に精通した現地法律事務所や会計事務所を選定し、DDチームの一員として迎え入れる必要があります。彼らは現地の法制度、商慣習、ビジネス文化に関する深い知識と経験を有しており、DDの質を高める上で不可欠な存在です。
選定にあたっては、単に専門性だけでなく、M&Aデューデリジェンスの経験が豊富であるか、譲受企業のニーズを理解し、効果的なコミュニケーションが取れるか、費用対効果のバランスが取れているかなどを総合的に判断することが重要です。
効果的な連携方法と報告書様式
現地専門家との連携においては、明確なDDスコープの共有と、定期的な情報交換が重要です。譲受企業の担当者やFA(フィナンシャルアドバイザー)は、現地専門家に対して、DDの目的、重視する論点、レポートに求める情報レベルを具体的に指示する必要があります。
報告書については、各国で様式や記載内容が異なる場合がありますが、譲受企業が最終的な意思決定に活用できるよう、主要なリスクと機会、Valuationへの影響、譲受後の対応策などが分かりやすくまとめられていることが重要です。また、M&Aデューデリジェンスは短期間で実施されることが多いため、リアルタイムでの情報共有や、中間報告を活用した柔軟なDDプロセスの調整も重要です。
税理士法人グループによる財務デューデリジェンス
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よくある質問|海外M&Aデューデリジェンス(FAQ)
海外M&Aデューデリジェンスに関するよくある質問とその回答をまとめました。
Q:海外の会社を買うときのDDは国内と違うの?
海外M&Aデューデリジェンスは、国内M&Aと大きく異なります。対象国の言語、文化、法制度、商習慣、カントリーリスクなど、日本とは異なる多くの要素がDDの複雑性を高めます。これらの違いを理解し、現地に即した専門家や戦略的なアプローチが必要になります。予期せぬリスクや追加コストを避けるためにも、これらの違いを事前に把握し、適切に対応することが極めて重要です。
Q:言葉や法律の壁はどうする?
言葉の壁に対しては、専門知識を持つ通訳者や翻訳者の活用が不可欠です。単に翻訳するだけでなく、法的なニュアンスや商習慣まで正確に伝える能力が求められます。法律の壁については、対象国の法制度や会計基準を深く理解し、日本の基準との差異を調整する必要があります。現地の法律事務所や会計事務所の専門家をDDチームに加えることで、これらの課題に対応することが一般的です。
Q:現地の専門家ってどうやって探すの?
現地の専門家は、譲受企業のFA(フィナンシャルアドバイザー)や「みつきコンサルティング」のようなグローバルネットワークを持つM&Aアドバイザリーファームを通じて紹介してもらうのが一般的です。
彼らは信頼できる現地の法律事務所や会計事務所とのネットワークを持っており、M&Aデューデリジェンスの経験が豊富な専門家を選定する手助けをしてくれます。譲受企業自身のM&A経験や、ターゲットの業界特性に合わせて、最適な専門家を選定することが成功の鍵となります。
Q:海外特有のリスクには、どんなものがあるの?
海外M&A特有のリスクには、政治・経済情勢の不安定さ、為替変動リスク、特定の産業に対する外資規制、紛争や治安の悪化といったカントリーリスクがあります。 また、譲渡企業のガバナンスやコンプライアンス体制が不十分であることによる不正リスク(贈収賄防止法違反など)も挙げられます。これらのリスクは、DDを通じて詳細に評価し、譲受価格や契約条件に反映させる必要があります。
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海外M&Aデューデリジェンスのまとめ
海外M&Aデューデリジェンスは、国内M&Aとは異なる多くの特有の複雑性とリスクを伴います。これらの課題を克服するためには、言語や文化、法制度の違いに対応するための戦略的なアプローチと、現地専門家との効果的な連携が不可欠です。カントリーリスクや海外子会社のガバナンス・コンプライアンス体制のチェックも重要であり、これらを網羅的に調査することが欠かせません。適切なDDは、M&Aの成功と企業価値の向上に直結します。
みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A専門会社として15年以上の業歴があり、中小企業の財務デューデリジェンスに特化した経験実績が豊富な公認会計士・税理士が在籍しております。みつき税理士法人と連携することにより、税務DDを含めた財務調査をワンストップで対応可能ですので、財務DDをご検討の際は、お気軽にお問い合わせください。
著者

- 国内大手証券会社にて顧客のお金や人生に関わる財産運用を助言。相続・事業承継専門の会計事務所を経て、当社では法人顧客の税務対策・申告、M&Aに係る財務・税務のアドバイザリーに従事。税理士
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