M&Aの失敗事例|大企業・中小企業の事例・失敗を避ける戦略と実務

M&Aの失敗はなぜ起こるのか?本記事では、現在の市場環境を背景に、大企業から中小企業までの具体的な失敗事例を分析します。失敗の定義や根本原因を明らかにし、成功確率を高めるための戦略的なM&A実務、そして具体的なチェックリストまで解説します。

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中小企業M&Aの失敗事例

M&A失敗事例の全体像

M&Aは企業の成長や事業承継を実現する強力な手段ですが、その裏には数多くの失敗事例が存在します。成功事例が華々しく語られる一方で、その何倍ものM&Aが期待された成果を出せずに終わっているのが現実です。

この記事では、M&Aの「失敗」とは具体的に何を指すのかを定義し、なぜ失敗が起こるのかを市場背景から紐解きます。そして、大企業や中小企業の具体的な事例を通じて、失敗を避けるための戦略と実務的なポイントを明らかにしていきます。

なぜ今、M&Aの失敗が起こりやすいのか?

近年の市場環境の変化は、皮肉にもM&Aの失敗が生まれやすい土壌を形成しています。ここでは、その背景にある4つの大きな変化について解説します。

買い手が多い「売り手市場」という現実

現在、成長戦略のために会社を譲り受けたいと考える企業は非常に多く、市場は「売り手市場」の様相を呈しています。買い手が多いということは、競争が激化するということです。この競争の激しさが、冷静な判断を曇らせ、高値掴みや性急な意思決定といった失敗の引き金になることがあります。

入札形式の増加と投資ファンドの存在

良い譲渡案件には複数の買い手が名乗りを上げ、入札形式で譲受企業が決まるケースが増えました。ここには、事業会社だけでなく、M&Aのプロである投資ファンド(PEファンド)も強力なライバルとして参加します。彼らとの競争に勝つために、無理な投資回収計画を立ててしまうことが、後の失敗につながるのです。

事業転換を目指す異業種によるM&A

デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進など、既存事業の構造転換は多くの企業にとって喫緊の課題です。その解決策として、IT企業など、全く異なる業種の会社をM&Aによって譲り受ける動きが活発化しています。しかし、異業種間のM&Aは、事業理解の難しさや企業文化の違いから、失敗に終わるリスクも高いといえます。

成長戦略型M&Aの増加

かつてのM&Aは後継者不在の解消手段としての「事業承継型M&A」一辺倒でしたが、それに加えて近年では大手企業の傘下に入ることで更なる成長を目指す「成長戦略型M&A」という考え方が普及しました。また、30代~50代の若い経営者が事業を譲渡する「アーリーリタイア」も珍しくありません。これにより市場の流動性は高まりましたが、選択肢の多さが逆に戦略の欠如を招くこともあるのです。

誰にとっての失敗か?それぞれの立場から見たM&A

M&Aの「失敗」は、売り手と買い手で、その意味合いが大きく異なります。それぞれの立場から、どのような状況が失敗とみなされるのかを具体的に見ていきましょう。

譲渡オーナーにとっての失敗とは

譲渡企業のオーナー経営者は、譲渡価格を含めて条件に納得した上で譲渡を実行した訳ですから、譲渡したその瞬間までは、すべてのM&Aが「成功」です。そのため、会社を手放した後に「こんなはずではなかった」と感じる事態が「失敗」ということになります。

噂や情報漏洩で交渉が頓挫する

M&Aは極秘裏に進めるのが鉄則です。しかし、情報管理が甘く、交渉の事実が従業員や取引先に漏れてしまうと、組織に動揺が走ります。取引先が離れたり、従業員が不安になったりすることで、会社の価値が下がり、交渉が破談になる。これは致命的な失敗です。

従業員の不安が離職を招く

M&A後も会社を支えてくれるはずだった従業員が、将来への不安から大量に離職してしまうケースです。特に、従業員への説明が後手に回ると、不信感が募り、優秀な人材ほど早く見切りをつけてしまいます。残された事業の価値が大きく損なわれる、痛恨の事態です。

決断の遅れで最高の相手を逃す

「もっと良い条件の相手がいるかもしれない」と決断を先延ばしにしているうちに、最適なお相手候補が他社とのM&Aを決めてしまうことがあります。M&Aはタイミングと縁が全て。好機を逃した結果、希望の条件からかけ離れた相手としか交渉できなくなることも少なくありません。

引継ぎ不足で事業がストップする

経営者個人の能力に依存していた業務の引継ぎ計画が不十分なまま退任し、現場が混乱、最悪の場合は事業が止まってしまう失敗です。これは、譲り受けた企業に多大な迷惑をかけるだけでなく、自分が育てた会社の価値を自ら毀損してしまう悲しい結末です。

譲受企業にとっての失敗とは

譲受企業にとっての失敗は、投じた資金を回収できず、期待した効果が得られない、まさに投資の失敗です。

高値で譲り受け、後の負担に苦しむ

競争の激化に煽られ、対象企業の価値を過大評価し、相場よりもはるかに高い価格で譲り受けてしまう「高値掴み」。その結果、会計上の「のれん」が過大に計上され、後の減損処理によって自社の財務体質を悪化させるという重荷を背負うことになります。買い手のとっての失敗は、究極的にはここに集約されます。

M&Aが目的化し、シナジーが生まれない

M&Aをすること自体が目的となってしまい、譲受後にどのようなシナジー(相乗効果)を生み出すのかという肝心な戦略が曖昧なケースです。1+1が2にも満たない結果となり、何のためにM&Aを行ったのか分からなくなってしまいます。これは、航海の目的を見失った船のようなものです。

統合が進まず、社風の違いが壁になる

M&A後の統合プロセス(PMI)が計画通りに進まず、組織が融合しない失敗です。特に、意思決定のスピードや仕事の進め方といった企業文化(社風)の違いが大きな壁となり、従業員間の対立を生んでしまいます。結果、期待したシナジーが生まれるどころか、社内の雰囲気が悪化するのです。

隠れたリスク(粉飾・許認可)の発覚

買収前の調査(デューデリジェンス)で見抜けなかった粉飾決算や簿外債務が、M&A後に発覚するケースです。また、事業に必要な許認可が整備されておらず、事業継続そのものが困難になることもあります。これは、譲受企業にとってまさに悪夢といえるシナリオです。

大企業のM&A失敗事例

日本を代表する大企業ですら、M&Aで手痛い失敗を経験しています。

公表事例から学ぶ教訓

ここでは象徴的な事例を見ていきましょう。

セブン&アイ / そごう・西武

「総合小売業」を目指し約2000億円で譲受しましたが、シナジーは生まれず業績は低迷。最終的に、従業員のストライキなど大きな混乱の末、わずか8500万円という価格で売却されました。M&A戦略の前提が崩れた典型例です。

第一三共 / ランバクシー

新興国市場への進出を狙い約4,900億円でインドの製薬会社を譲り受けましたが、直後に品質問題が発覚。巨額の損失を計上し、事実上の事業撤退を余儀なくされました。デューデリジェンスの重要性を物語る、あまりにも有名な事例です。

キリンHD / スキンカリオール

ブラジル市場の成長を見込み約2,000億円で譲受しましたが、現地の競争激化などで業績は伸び悩み。1,100億円もの減損損失を計上した後、わずか6年で770億円での売却を決定。市場環境の分析の甘さが指摘されました。

丸紅 / ガビロン

米国の穀物大手を譲受しましたが、穀物価格の下落といった市場環境の悪化を読み違えました。シナジー効果の実現が遅れ、投資回収に苦戦。事前のリスクシナリオの重要性を示す事例となりました。

日本郵政 / トール

世界的な物流網構築を目指し巨額で譲受しましたが、豪州経済の減速や人件費の高騰を軽視していました。過大評価が原因で莫大なのれん代の減損を計上し、成長戦略に大きな影を落としました。

NTTコミュニケーションズ / ベリオ

米国でのシェア拡大を狙いましたが、文化やサービスモデルの違いが大きな壁となりました。期待したシナジーは生まれず、事業統合も難航。投資の回収が長期化する懸念が高まりました。

LIXIL / グローエ

グローバル展開の加速を期待しましたが、経営管理体制の違いや組織再編の混乱が統合の妨げに。デューデリジェンスの段階で把握しきれなかった問題が、譲受後に表面化した可能性も指摘されています。

資生堂 / ベアエッセンシャル

北米市場の顧客層拡大を狙いましたが、化粧品トレンドの急速な変化に対応できず、売上は失速。需要予測の誤りが、譲受コストに見合う成長を得られない結果につながりました。

中小企業M&Aでよくある失敗の現場

中小企業のM&Aでは、経営者の個人的な資質や、組織の体力不足に起因する、より現場に近い失敗が頻発します。

タイミング不一致で不成立に終わる

譲受企業から良い提案があっても「まだ引退は早い」と見送っているうちに、相手のニーズが消滅してしまうケースです。特にニッチな事業領域の場合、買い手候補は限られます。絶好のタイミングを逃すことは、中小企業にとって大きな機会損失です。

情報開示不足や粉飾発覚で破談となる

財務状況など、自社の情報を正確に開示できない、あるいは意図的に隠していたことが発覚し、信頼を失って破談になるケースです。これはデューデリジェンスの段階で大抵は明らかになります。不誠実な態度は交渉のテーブルを失うだけです。

交渉中の業績悪化で条件が崩れる

数ヶ月に及ぶ交渉期間中に、主要な取引先を失うなどして業績が悪化し、譲渡価格の大幅な引き下げや交渉撤回に至る場合があります。交渉期間中といえども、企業価値を維持する経営努力は不可欠です。

噂拡散・情報漏洩で相手が離れる

秘密保持の甘さからM&Aの噂が広まり、取引先や従業員に動揺が走るケースです。こうした内部統制の脆弱さは、譲受企業に「リスクの高い会社だ」という印象を与え、交渉から手を引く原因となります。

従業員ケア不足で士気低下と離職が進む

M&Aの成立後、譲受側のルールを一方的に押し付けたり、従業員の不安に寄り添う姿勢を見せなかったりした結果、従業員のモチベーションが低下。優秀な人材から次々と辞めていき、組織が崩壊に向かう失敗です。

許認可や属人ノウハウの引継ぎ失敗

事業に必要な許認可の更新が漏れていたり、特定の従業員しか知らない技術やノウハウの引継ぎがなされなかったりして、M&A後に事業運営に支障をきたすケースです。目に見えにくい資産の承継がいかに重要かを示しています。

M&Aの失敗を引き起こす「根本的な原因」

個々の失敗事例の背後には、いくつかの共通した根本的な原因が存在します。これらを理解することが、失敗を避ける第一歩です。

  • 投資回収率の低下と過剰な債務:「高値掴み」の根本原因は、投資に対するリターン(ROI)の意識の欠如です。熱気に浮かされて過大な価格で譲り受けると、その後の投資回収は極めて困難になります。また、M&Aのために過剰な借入を行えば、財務状況が悪化し、経営の自由度を失います。
  • 内部統制の脆弱さと情報管理の甘さ:情報漏洩や許認可の未整備といった問題は、企業の内部統制が脆弱であることの現れです。日頃から適切な情報管理やコンプライアンス体制が構築できていない会社は、M&Aという非日常の局面で必ず綻びが生じます。
  • 経営陣の不一致と現場の反発:M&A後のPMIが失敗する最大の原因は「人」の問題です。譲受側と譲渡側の経営陣の間でビジョンが共有できず対立したり、一方的な押し付けによって現場の従業員が反発したりすれば、組織は一体化しません。文化の衝突は、事業の停滞を招きます。
  • のれん減損とコンプライアンス違反の発覚:のれんの減損や粉飾決算の発覚は、M&Aの失敗が財務諸表という形で表面化した結果です。これらは、譲受前のデューデリジェンスの甘さや、シナジー計画の非現実性が根本的な原因となっています。コンプライアンス違反は、企業の信頼を根底から揺るがす重大な問題です。

失敗を避けるためのM&A戦略と実務|買い手の視点

M&Aの失敗確率を下げるためには、戦略的な思考と丁寧な実務が両輪となって必要です。

M&Aの失敗確率と向き合う

M&Aが常に成功するとは限らない、という事実を冷静に受け止めることが重要です。

M&Aには一定の失敗リスクが伴う

様々な調査データが存在しますが、一般的にM&Aが当初の期待通りの成果を生まないケースは決して少なくありません。成功を夢見るあまり、このリスクから目を背けてしまうことが、かえって失敗を呼び込みます。M&Aには一定の確率で失敗が伴うことを、まず認識すべきです。

自社にとっての「成功」を定義する

失敗を避けるためには、まず自社にとっての「M&Aの成功とは何か」を具体的に定義しておくことが不可欠です。売上規模の拡大なのか、新技術の獲得なのか、目的が明確であれば、交渉の軸もブレません。成功のゴールを事前に定めることで、初めてそこに至るまでの道のりを描くことができるのです。

M&A交渉前の準備段階で重要なこと

成功は準備で決まります。交渉のテーブルに着く前に、やるべきことは山積みです。

譲受価格の考え方と入札への対応

自社の財務状況や期待するシナジーから、買収価格の上限を冷静に定めておくことが「高値掴み」を防ぎます。入札競争が過熱しても、その上限を超えるべきではありません。また、価格の妥当性を評価するため、複数の手法を用いたバリュエーション(企業価値評価)を行うことが不可欠です。

デューデリジェンスの体制と品質

財務や法務の専門家だけでなく、事業や人事、ITなど、多角的な視点から対象企業を調査する体制を組むことが重要です。特に、見えにくい内部統制の状況や企業文化まで踏み込んで確認する品質の高さが、後々のリスクを回避することにつながります。

徹底した情報管理の方針

M&Aを進めている事実を、誰に、いつ、どの範囲まで開示するのか、厳格なルールを定めておく必要があります。秘密保持契約の徹底はもちろん、社内でも関与するメンバーを最小限に絞るなど、情報漏洩を防ぐための具体的な運用方針が求められます。

M&A成立後の統合段階(PMI)で重要なこと

譲受企業にとって、M&Aは契約締結がゴールではありません。本当の勝負はそこから始まります。

PMIの早期着手と「100日計画」

PMIは、M&Aの交渉段階から計画を始めるべきです。そして、契約締結後の最初の100日間で何をすべきかを具体的に定めた「100日計画」を設計することが、統合をスムーズに進める鍵となります。初動の速さがPMIの成否を分けます。

組織再編とコミュニケーション設計

重複する部署の整理や役職の決定といった組織再編は、従業員の不安を煽りやすいテーマです。だからこそ、誰が何を決定するのか、どのようなスケジュールで進めるのかを明確にし、従業員に対して丁寧で一貫性のあるコミュニケーションを続ける設計が不可欠です。

モチベーション維持とキーマンの引き留め

新しい体制の下で従業員が安心して働けるよう、処遇や評価制度を早期に明示することがモチベーション維持につながります。特に、譲渡企業の事業の中核を担う「キーマン」が離職しないよう、個別の面談を通じてキャリアプランを共に考えるなどの手厚いケアが求められます。

M&Aを成功させ続けるための視点

一度の成功に満足せず、M&Aを企業の成長エンジンとし続ける「M&A巧者」になるためには、シナジー創出の設計思想が重要です。それぞれのM&Aが、自社のどの事業とどう連携し、将来どのような価値を生み出すのか。常に全体戦略の中に個別のM&Aを位置づける視点が求められます。

【総まとめ】失敗を避けるためのチェックリスト

最後に、これまでの内容を踏まえ、M&Aを検討する際に最低限確認すべき事項をチェックリストとしてまとめます。

譲渡オーナー(売り手)のための確認事項

  • 譲れない条件(価格、従業員の雇用など)は明確になっているか
  • 自社の強みと弱みを客観的に説明できる資料は準備できているか
  • 秘密情報を管理する体制は整っているか
  • 信頼できるM&Aアドバイザーを選んでいるか
  • 引継ぎが必要な業務やノウハウはリストアップできているか

譲受企業(買い手)のための確認事項

  • 譲渡企業の企業文化を尊重する姿勢があるか
  • M&Aの目的と期待するシナジーは明確か
  • 譲受価格の上限は、客観的な根拠に基づいて設定されているか
  • あらゆるリスクを想定したデューデリジェンスの計画は万全か
  • PMIの責任者と計画は、交渉段階から準備されているか

M&A成約事例|お客様の声

みつきコンサルティングがM&A仲介(一部はFA)により会社売却や企業買収に繋げたオーナー経営者様のインタビューを以下のページで紹介しています。成功例の紹介になりますが、ご参考ください。

M&Aの成約事例のインタビュー

M&Aの失敗事例のまとめ

M&Aの失敗事例は、市場環境の変化、戦略の欠如、実務の不備など、様々な要因が複雑に絡み合って発生します。それぞれの事例から学び、自社の状況に合わせた周到な準備と戦略、そして丁寧な実行を心掛けることで、M&Aの成功確率は格段に高まります。

当社は、みつき税理士法人グループのM&A仲介会社として15年以上の業歴があり、中小企業M&Aに特化した実績経験が豊富なM&Aアドバイザー・公認会計士・税理士が多く在籍しております。M&Aをご検討の際は、みつきコンサルティングにご相談ください。

著者

潟野 和徳
潟野 和徳名古屋法人部長/M&A担当ディレクター
人材支援会社にて、海外人材の採用・紹介事業のチームを率いて新規開拓・人材開発に従事。みつきコンサルティングでは、強みを生かし人材会社・日本語学校等の案件を中心に工事業・広告・IT業など多種に渡る案件支援を行う。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修:みつき税理士法人

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