M&Aにおける財務デューデリジェンスでは、対象企業の収益性を分析することが、譲受企業がその事業の本質的な価値を把握し、適切な意思決定を行うための重要なステップとなります。収益性分析では、一時的な損益や特異な要因を排除し、企業の通常の収益力を正常収益力」として明確にすることが中心となります。 本記事では収益性分析について分かり易くお伝えします。
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財務デューデリジェンスにおける収益性分析の重要性
財務デューデリジェンスにおける収益性分析とは、対象企業の将来計画を精緻化し、その真の事業価値を評価するために、企業の経常的な収益力を深く理解する手続です。この分析を通して、対象企業の隠れたリスクや潜在的な価値を洗い出し、譲受企業が適切な譲受価格を算定し、譲受後の事業戦略を立案するための重要な情報を提供します。
譲受企業にとって、M&Aは単なる通過点ではなく、企業価値向上に向けた新たなスタート地点です。そのため、譲受判断の根拠となる事業計画の妥当性を詳細に検証し、特に収益性の側面から、対象企業の将来性を正確に評価することが不可欠です。
M&Aにおける財務デューデリジェンスの目的
財務デューデリジェンス(DD)は、譲受を検討している対象企業の財務状況を詳細に調査し、その実態を把握することを目的としています。財務DDは、譲受企業が対象企業の潜在的なリスクを特定し、そのリスクを譲受価格や契約条件に適切に反映させるために不可欠です。財務DDの主な目的は、対象企業に存在する財務上のリスクを把握すること、そして対象企業の株式価値を適切に算定するために必要な財務情報を把握することにあります。
譲受企業が対象企業の将来計画を策定する際には、対象企業の深い理解が不可欠です。この理解は、対象企業の事業構造を外的要因と内的要因の両面から分析することで可能となります。財務DDは、この深い理解を支援し、譲受後のシナジー効果の可能性を特定する上でも重要な役割を果たします。
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収益性分析の概要
収益性分析は、財務デューデリジェンスの中でも特に重要な要素です。この分析の目的は、対象企業が将来にわたって生み出すと期待される利益の質と持続性を評価することにあります。
具体的には、対象企業の過去の損益トレンドを詳細に分析し、その「正常収益力」を見極めることで、不確実性の高い将来利益の見積もりの精度を高めます。
財務DDにおいては、譲受の意思決定に必要な情報を提供するだけでなく、譲受後に期待されるシナジー効果を含めた事業計画の策定にも貢献します。収益性分析を通じて、売上高、原価、販売費及び一般管理費(販管費)といった損益計算書の主要項目を深掘りし、対象企業の事業がどのようなメカニズムで収益を生み出しているのかを構造的に理解することが求められます。
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正常収益力とEBITDA(償却前営業利益)の見極め方
正常収益力は、企業の真の稼ぐ力を示す重要な指標であり、M&Aにおける企業価値評価の基礎となります。この概念を理解し、EBITDAを適切に算定することは、財務デューデリジェンス収益性分析の肝と言えます。
正常収益力の概念とM&Aにおける重要性
正常収益力とは、将来の利益を見積もる上で非常に重要となる、対象企業の経常的な収益力を指します。M&Aの意思決定においては、対象企業の過去の損益トレンドを分析し、直近の経常的な収益力を把握することで、不確実性の高い将来利益の見積もりの精度を高めることが可能となります。
譲受企業は、将来にわたる継続的な収益を生み出す対象企業を求めています。そのため、偶発的な要因や一時的な損益に左右されない、本来の事業活動から生み出される収益力を評価することが極めて重要です。この正常収益力の評価は、譲受価格の算定だけでなく、譲受後の事業計画の策定においても中心的な役割を果たします。
EBITDA(償却前営業利益)の算定方法と調整項目
EBITDAは、財務デューデリジェンスにおける収益性分析で特に注目される指標の一つです。EBITDAは、利息・税金・減価償却費・償却費控除前利益を意味し、企業のキャッシュフロー創出能力を評価する上で有用な指標となります。帳簿上のEBITDA(調整前EBITDA)は、対象企業が採用している会計処理や臨時・非経常的な取引の影響を受けている可能性があるため、本来の収益力を示す「調整後EBITDA」を算出するための調整が不可欠です。
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主な調整項目と具体例は以下の通りです。
会計処理上の誤りの修正
決算処理の誤り、損益区分の誤り、期間帰属の誤りなど、営業利益の算出に影響を与える項目を修正します。これにより、財務諸表が示す利益が、実際の事業活動を正確に反映しているかを確認します。
非経常的な損益取引の除外
単発のキャンペーンによる一時的な売上、災害による損失、不動産の売却益など、今後継続して発生する見込みが乏しい取引の影響は、対象企業の経常的な収益力を把握する観点から除外します。これは、将来の収益予測において、再現性のない要因を取り除くためです。
営業外・特別損益の経常的な取引の調整
恒常的に発生しているにもかかわらず、営業外や特別損益に計上されている項目(例:固定資産の除却損、訴訟関連費用など)は、経常的な収益力に含めて評価します。これにより、実態に即した収益力を把握します。
役員報酬や特定の個人に帰属する費用の調整
譲渡企業のオーナー経営者や特定の役員に支払われている報酬が、一般的な水準と比較して過大または過少である場合、適正な水準に調整することがあります。
また、個人的な費用が会社経費として計上されている場合は、それらを除外します。これは、譲渡後の組織体制における費用水準を正確に予測するために行われます。
関連会社取引の調整
譲渡企業のグループ企業間で行われている取引において、独立企業間取引価格(アームズ・レングス・プライス)から乖離している場合は、適正な価格に調整します。
これにより、グループからの離脱後も継続的な収益性を維持できるか評価します。
過去の一時点から発生しなくなった取引の除外
特定のブランドの撤退、店舗の閉鎖、特定の製品ラインの販売終了など、今後損益が発生しないことが確実な場合、過去の実績からその影響を除外します。これにより、現在の事業構造に基づく収益力を評価します。
過去の一時点から新規に発生した取引の調整
新ブランドの立ち上げ、新規出店など、今後継続的に収益に貢献すると見込まれる取引について、期中に発生した影響を年間に引き直して調整します。販売価格や仕入価格の変更により、損益構造に変動が見込まれる場合も、過去の損益を遡及して見積り調整します。
販売価格や仕入価格の変更により、損益構造に変動が見込まれる場合も、過去の損益を遡及して見積り調整します。
これらの調整を通じて、財務デューデリジェンス収益性分析では、対象企業の真の経常的な収益力である正常収益力を算出します。この調整後EBITDAは、譲受価格算定の基礎となるだけでなく、譲受後の事業計画の策定においても重要な指針となります。
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売上高とコスト構造の深掘り分析
財務デューデリジェンス収益性分析においては、売上高だけでなく、それを支えるコスト構造を詳細に分析することが不可欠です。これにより、企業の収益性の源泉と改善余地を明確にします。
売上高の分析:顧客・製品・地域からの視点
売上高は、譲渡企業の事業の規模と成長性を示す最も基本的な指標です。財務デューデリジェンスでは、単なる金額だけでなく、その構成要素を深く分析することで、売上の質と持続性を評価します。
顧客別分析
主要顧客ごとの売上高、取引継続年数、取引条件などを分析します。特定の顧客への依存度が高い場合、その顧客との関係性にリスクがないか、取引条件が悪化する可能性がないかを確認します。得意先の集中度を把握し、売上の安定性を評価します。
製品・サービス別分析
各製品やサービスの売上高、利益率、市場での立ち位置を分析します。成長製品、成熟製品、衰退製品などを特定し、ポートフォリオ全体での収益貢献度を評価します。新製品やサービスの成長トレンド、既存製品のライフサイクルも考慮します。
地域別分析
国内・海外、または特定の地域ごとの売上高と利益率を分析します。地域ごとの市場成長性、競合状況、規制環境の違いが売上に与える影響を評価します。
売上成長トレンドと継続性評価
過去数年間の売上高の推移から成長トレンドを把握し、将来的な継続性を評価します。市場の成長性、競合の動向、譲渡企業の競争優位性、営業パイプラインの積み上げ状況、価格競争のリスクなどを総合的に考慮します。
特に、過去の取引条件が悪化する条項(例えば、一定期間経過後の仕入単価の上昇や回収/支払期間の悪化など)が含まれる契約がないかを確認します。
原価構造・販売費及び一般管理費(販管費)の分析
売上高を分析する一方で、その売上を生み出すためにかかったコストを詳細に分析することは、収益性改善の余地を見つける上で非常に重要です。
原価構造の分析
製造業の場合、原材料費、労務費、製造経費などの構成比を分析し、効率性やコスト競争力を評価します。
サプライチェーンにおけるコスト削減余地、原材料調達の安定性や価格変動リスク、製造プロセスの効率性なども検討します。
販売費及び一般管理費(販管費)の分析
人件費、広告宣伝費、賃借料などの販管費の構成と過去の推移を分析します。特に労働集約型産業では人件費が多額に計上される傾向があるため、就業規則や報酬制度、部門別の人数、賃借料の形態などを詳細に分析します。
固定費と変動費を分解し、将来的な費用変動の要因を特定します。無駄な費用や削減可能な費用がないか、効率化の余地を検討します。
収益性改善余地の検討
これらの分析結果に基づき、譲受後の収益性改善に向けた具体的な施策を検討します。例えば、調達コストの最適化、生産効率の向上、販管費の削減、高利益率製品へのシフトなどが挙げられます。
財務DDにおける収益性分析は、単なる現状把握に留まらず、譲受後のバリューアップ戦略の基礎を築く役割を担っています。
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事業セグメント別・会計方針の評価
対象企業が複数の事業を展開している場合、全体だけでなく、事業セグメントや製品・サービスごとの収益性を詳細に分析することが譲受の意思決定において非常に重要です。また、対象企業が採用している会計方針を理解し、その適切性を評価することも、財務デューデリジェンス収益性分析の重要な側面です。
事業セグメント別・製品サービス別の収益性分析と評価
多くの企業は複数の事業や製品・サービスを展開しています。それぞれの事業が異なる市場環境、競争状況、収益構造を持っているため、全体としての収益性だけでなく、個別のセグメントや製品・サービス単位で収益性を分析することが不可欠です。
セグメント別収益の構成とトレンド
各事業セグメントまたは製品・サービスラインごとの売上高、粗利益、営業利益を分析し、その構成比率と過去のトレンドを把握します。どのセグメントが収益の主要な源泉であるか、また、どのセグメントが成長を牽引しているか、あるいは課題を抱えているかを特定します。
利益率の差異要因分析
セグメント間で利益率に大きな差異がある場合、その原因を深掘りします。価格設定、コスト構造、競合環境、販売チャネルの違いなどが利益率に与える影響を分析し、各セグメントの持つ本来の収益力を評価します。
成長性・継続性の評価
各セグメントの市場成長性、競合優位性、譲渡後のシナジー効果の可能性を考慮し、将来的な収益の継続性を評価します。将来のM&A戦略において、どのセグメントを強化すべきか、あるいは再編の対象とすべきかを判断するための基礎情報となります。
会計方針の確認と他社比較における留意点
対象企業が採用している会計方針は、財務諸表の数値に大きな影響を与えます。財務デューデリジェンスでは、会計方針の適切性を確認し、譲受企業の会計方針との整合性を評価することが重要です。
会計方針の適切性評価
対象企業の会計方針が、適用される会計基準(例:日本会計基準、国際会計基準(IFRS))に準拠しているかを確認します。特に、収益認識、棚卸資産評価、減価償却方法、引当金の計上基準など、利益に大きな影響を与える項目に焦点を当てて検証します。過去の会計処理に誤りがないか、または本来EBITDAの計算に含めるべき項目が適切に処理されているかを確認します。
他社比較における留意点
対象企業の財務情報を同業他社や業界平均と比較することは有効ですが、会計方針の違いが比較可能性に影響を与える可能性がある点に留意が必要です。
例えば、アセアン諸国などでは監査の質にばらつきがあり、監査済財務諸表の信頼性が担保されない場合があるため、二重帳簿やグループ会社間の取引などが存在しないか注意が必要です。
比較対象となる企業の会計方針や、特定の取引(例えば、グループ会社間の融資など)の処理方法を確認し、必要に応じて調整を行うことで、より公平な比較を行います。
チェンジオブコントロール条項の確認
譲渡企業の契約書にチェンジオブコントロール(COC)条項が含まれている場合、譲受に伴う株主の変更が契約の解除事由や相手方の事前承諾事由にならないかを確認します。これにより、譲受後の事業継続性や将来の収益力への影響を評価します。
これらの分析を通じて、財務デューデリジェンス収益性分析は、対象企業の財務状況を多角的に評価し、譲受企業がリスクを最小限に抑えつつ、最大の価値を創造するための意思決定を支援します。
税理士法人グループによる財務デューデリジェンス
M&Aに潜む財務リスク、見逃していませんか?
よくある質問|財務デューデリジェンスと収益性分析(FAQ)
M&Aの財務DDにおける収益性分析について、Q&A形式で疑問に答えます。
Q:会社の本当の儲けはいくらなの?
M&Aにおける財務デューデリジェンス(DD)では、対象企業の「正常収益力」を見極めることで、会社の「本当の儲け」を把握します。これは、一過性の損益や特殊要因を除外し、本来の事業活動から継続的に生み出される利益を指します。
具体的には、過去の決算書上の利益から、臨時的な収益や費用、個人的な経費、グループ会社間の不適正な取引などを調整し、「調整後EBITDA」などの指標を算出することで、将来性のある真の収益力を評価します。
Q:EBITDAってどうやって計算するの?
EBITDAは、利息・税金・減価償却費・償却費控除前の利益を指し、企業のキャッシュフロー創出能力を示す指標です。計算は、損益計算書の「営業利益」を基に、減価償却費と償却費(無形固定資産の償却費など)を足し戻して算出します。
さらに、M&Aの財務デューデリジェンスでは、このEBITDAを「正常収益力」として評価するため、一過性の損益(例えば、工場売却益や災害損失)、過大な役員報酬、関連会社との非市場価格取引などを調整します。これにより、事業の真の稼ぐ力を示す調整後EBITDAが算出されます。
Q:決算書の利益と正常収益力は何が違うの?
決算書の利益は、会計原則に基づいて過去の事業活動の結果を示したもので、一時的な要因や非経常的な取引も含まれます。これに対し、正常収益力は、M&Aにおける将来予測の基礎となる「継続的な事業活動から生み出される利益」を指します。
財務デューデリジェンスでは、決算書の利益から、例えば不動産売却益のような一時的な利益や、個人的な費用計上など、将来は発生しないであろう特殊な損益項目を調整し、事業本来の収益力を明確化します。
この正常収益力は、譲受後の事業計画の基礎となり、譲受価格の算定に大きく影響します。
Q:売上や利益の分析で気をつけることは?
売上や利益の分析では、まず売上高の構成(顧客別、製品別、地域別など)を詳細に分析し、特定の取引先への依存度や製品のライフサイクルを評価します。次に、原価構造や販売費及び一般管理費(販管費)の固定費・変動費の分解を行い、効率化の余地や将来のコスト変動要因を特定します。
特に、過去の異常値や不自然な傾向がないか、また、グループ会社間の取引や特定の契約に注意し、市場価格との乖離や譲受後の契約継続リスクを確認します。 これにより、表面的な数字だけでなく、売上と利益の質と持続性を深く理解することが可能になります。
まとめ
財務デューデリジェンスにおける収益性分析は、M&Aにおいて譲受企業が対象企業の真の事業価値を理解し、適切な譲受判断を行うための基盤です。この分析の中心にあるのは、一過性の損益や非経常的な要因を除外し、事業本来の「正常収益力」を「EBITDA(償却前営業利益)」として算出することです。これにより、売上高の構成要素からコスト構造、さらには事業セグメントごとの収益性までを詳細に検証し、将来的な収益性改善の可能性を評価します。
みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A専門会社として15年以上の業歴があり、中小企業の財務デューデリジェンスに特化した経験実績が豊富な公認会計士・税理士が在籍しております。みつき税理士法人と連携することにより、税務DDを含めた財務調査をワンストップで対応可能ですので、財務DDをご検討の際は、お気軽にお問い合わせください。
著者

- 国内大手証券会社にて顧客のお金や人生に関わる財産運用を助言。相続・事業承継専門の会計事務所を経て、当社では法人顧客の税務対策・申告、M&Aに係る財務・税務のアドバイザリーに従事。税理士
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