現代のM&Aにおいて、デューデリジェンス(DD)は企業の実態を深く把握するために不可欠なプロセスです。本記事では、デューデリジェンスにおいてAI活用が進む背景、AIが各DD分野にもたらす具体的な変化、そのメリットと課題、そして未来の展望について解説します。
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デューデリジェンスにおけるAI活用の動向と背景
M&A市場では、近年、譲受企業と売り手の双方にとって、デューデリジェンス業務の効率化と迅速化が求められています。これは、M&A案件数の増加に加え、グローバル化による複雑性の増大、そして時間と費用を効率的に使うことへの要求が高まっているためです。
特に、デジタル技術の進化に伴い、取り扱うデータの量が飛躍的に増大しており、人間のみでの処理には限界が生じています。このような背景から、デューデリジェンスでのAI活用、すなわちAIやテクノロジーの導入が強く期待されています。
データ量の増大と迅速性の要求
M&A件数は年々増加傾向にあり、2024年には日本企業が関与するM&A件数が過去最多を更新しました。2025年も上半期は昨年を上回る件数です。これに伴い、デューデリジェンスで調査すべき情報量も膨大になっています。限られた時間の中で、多岐にわたる資料を正確に分析し、リスクを特定するためには、従来の人の手による手続だけでは困難な場面が増えています。AIによるDD分析は、このような状況において、迅速かつ網羅的な情報処理を可能にする手助けとなるものです。
コスト削減圧力と効率化の推進
デューデリジェンスは専門家への依頼が一般的であり、それに伴うコストは無視できません。譲受企業は、M&A全体の費用対効果を考慮し、DD業務のコスト削減を求める傾向にあります。AIツールを導入することで、一部の定型業務を自動化し、人件費の削減や手続全体の効率化が可能です。
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AIによる各分野へのデューデリジェンス支援
デューデリジェンスのAI活用は、法務、財務、さらには情報収集といった様々な分野で進化を遂げています。AIが特定のタスクにおいて優れた性能を発揮することで、専門家はより高度な判断に集中できるようになります。
リーガルテックによる契約書レビュー支援
法務デューデリジェンスでは、膨大な契約書を迅速かつ正確にレビューすることが求められます。リーガルテックDDは、AIを用いてこの作業を支援します。AIは、契約書の条項抽出、リスク条項の自動識別、条文の要約、そして契約書間の比較分析において非常に優れた能力を発揮します。また、機械翻訳の技術と組み合わせることで、クロスボーダーM&Aにおける多言語の契約書レビューも効率化できます。
しかし、AIは形式的な確認には長けているものの、契約の背景にある文脈や業界特有の慣行、法的グレーゾーンの判断は困難です。反社会的勢力との関係性といった「調査の深度」に関わる部分は、AIでは対応が難しいとされています。そのため、AIはあくまで専門家を「補助する」ツールであり、最終的な法的判断には弁護士の関与が不可欠です。
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AIによる財務データ分析支援
財務デューデリジェンスにおいては、対象企業の財務状況を正確に把握し、隠れた瑕疵や問題点、簿外債務などを特定することが重要です。AIによるDD分析は、財務データから異常値を検知し、不正会計リスクのスコアリング、将来の業績予測分析、そして重要な財務指標(KPI)のモニタリングに貢献します。AIは大量の財務データを高速で処理し、人間が見落としがちなパターンや相関関係を発見する可能性があります。これにより、より網羅的で詳細な財務リスク評価が可能となり、譲受企業はより精度の高い企業価値算定を行うことができるようになります。
一方で、例えば、以下のような限界も存在します。
- 譲渡企業のオーナー個人や、そのオーナーが所有する別会社との取引など、取引の背景を深く理解しなければ妥当性を評価できない分析は不得手です。
- 固定資産の評価減の要否や、将来発生する可能性のある費用を見積もる各種引当金(貸倒引当金や賞与引当金など)の計上のように、高度な専門的判断が求められる領域の分析も得意ではありません。
- 税務リスクの分析においても、税法上の解釈が複数存在するようなグレーゾーンの論点に対して、AIが適切な判断を下すことは困難です。
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自然言語処理(NLP)技術を活用した情報収集・評判分析
デューデリジェンスでは、対象企業に関する多岐にわたる情報収集が求められます。自然言語処理(NLP)技術は、非構造化データ(テキスト情報)からの情報収集、評判分析、そしてセンチメント分析に活用されます。例えば、企業のニュース記事、SNSの投稿、業界レポートなどから、ポジティブまたはネガティブな感情の傾向を分析し、対象企業のレピュテーションリスクを評価する手助けとなります。
生成AIは、指示文(プロンプト)を与えるだけで、まるで人間のリサーチ担当者のように複数のサイトから情報を収集し、要約文を生成することが可能です。これにより、人間による手動での情報収集と比較して、大幅な時間短縮と網羅性の向上が期待できます。しかし、AIが生成する情報には「ハルシネーション(幻覚)」と呼ばれる重大な誤りが含まれる可能性があり、情報の真偽を判断するためには専門家による検証が不可欠です。
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AI活用のメリットと課題
デューデリジェンスにおけるAI活用は、業務の変革をもたらす大きな可能性を秘めていますが、同時に導入・運用における様々な課題も存在します。これらのメリットと課題を理解することが、適切なAIツール導入への第一歩となります。
AI活用の主なメリット
AIをデューデリジェンスに活用することのメリットは多岐にわたります。
- 効率化と迅速化: AIは大量のデータを人間よりもはるかに速く処理できます。これにより、DDの期間を短縮し、M&Aの意思決定プロセス全体のスピードアップにつながります。
- 網羅性の向上: AIは、人間が見落としがちな細かな情報やパターンを検出する能力に優れています。これにより、リスクの見逃しを減らし、DDの網羅性を向上させることが可能です。
- ヒューマンエラーの削減: 定型的なデータ入力や比較分析など、人間が手動で行う作業ではミスが発生しやすいですが、AIを導入することでこれらのヒューマンエラーを大幅に削減できます。
- 新たな洞察の発見: AIは、過去のデータから複雑な相関関係や隠れたトレンドを発見し、人間にはない新たな視点や洞察を提供できる可能性があります。これにより、より深いリスク評価やシナジー効果の検討が可能になります。
AI活用の主な課題
AI活用のメリットは大きい一方で、以下のような課題も存在します。
- 精度の限界とハルシネーション: AIの判断精度は学習データに依存し、常に完璧ではありません。特に生成AIは、あたかも事実であるかのように誤った情報を生成する「ハルシネーション」のリスクがあります。
- 倫理・法的問題: 個人情報保護、著作権侵害、そしてAI生成物の法的責任の所在など、AI利用に伴う倫理的・法的な課題はまだ発展途上です。例えば、生成AIサービス提供者の利用規約には、特定の利用が禁止されている場合や、サービスが突然終了する可能性がある旨が明記されていることがあります。
- 導入コストと運用負荷: 高度なM&A向けAIツールやリーガルテック用DDツールの導入には初期投資が必要です。また、AIの運用には専門的な知識が必要となり、システム維持やデータの管理にコストがかかることもあります。。
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今後のデューデリジェンスとAIの展望
デューデリジェンスにおけるAI活用は、M&Aのプロセスを大きく変革する可能性を秘めています。今後、AIと人間の協調がより一層進むことで、デューデリジェンスはより効率的かつ多角的なものへと進化していくでしょう。
デューデリジェンス業務の変革
AIの導入により、デューデリジェンス手続は以下のように変革されると考えられます。
- データ収集・整理の自動化: 契約書や財務諸表など、M&Aの初期段階で必要な膨大な資料の収集と整理は、AIが担うことが増えるでしょう。
- 定型分析のAI化: 契約書の条項チェックや財務データの異常検知など、ルールベースで処理できる分析はAIが自動で実行します。これにより、専門家は分析結果の検証と深い洞察に集中できます。
- 多角的なリスク評価: AIは、従来の財務や法務だけでなく、ESG(環境・社会・ガバナンス)やブランド価値、知的財産権といった多様な側面からのリスク評価にも貢献します。例えば、ESGデューデリジェンスでは、AIが関連情報を収集し、リスク評価を支援することが考えられます。
- 継続的なモニタリング: PMI(ポストマージャーインテグレーション、M&A後の組織統合)においても、AIは対象企業のパフォーマンスやリスク要因を継続的にモニタリングし、早期の問題発見を支援します。
求められるスキルセット
AIの進化に伴い、デューデリジェンス専門家に求められるスキルセットも変化します。単に情報を収集・分析するだけでなく、AIを「使いこなす」能力が重要になります。
- AIツールの活用能力: M&A向けAIツールやリーガルテックによるDDツールを効果的に操作し、最大限に活用する能力が求められます。
- クリティカルシンキングと判断力: AIが生成した情報の真偽を判断し、文脈を踏まえた上で、M&Aの意思決定に繋がる最終的なリスク評価を行う能力は、引き続き人間固有のものです。
- コミュニケーション能力: AIの分析結果を譲受企業の経営陣や関係者に分かりやすく伝え、議論をリードするコミュニケーション能力がより重要になります。
- 戦略的思考: AIによる効率化で生まれた時間を活用し、M&Aの目的達成に向けた戦略立案やPMI手続の最適化など、より高次元の業務に貢献する能力が求められます。
中小企業での導入可能性
中小企業においても、デューデリジェンスでのAI活用は十分に可能です。中小企業では法務や財務のリソースが限られていることが多く、AIツールによる効率化やコスト削減のメリットは大きいです。しかし、AIツールに過度に依存し、「安さ・速さ」を追求した結果、かえって大きな法的トラブルや損害賠償につながるリスクがあります。
そのため、中小企業がDDでAI活用を進める際には、信頼できる専門家(弁護士、公認会計士、コンサルティング会社など)と連携し、AIの導入から運用、そして最終的な判断に至るまで、適切なサポートを受けることが成功の鍵となります。専門家は、AIでは見抜けない実務的なリスクを評価し、中小企業の状況に応じた最適なDDプランを提案することが可能です。
税理士法人グループによる財務デューデリジェンス
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よくある質問|デューデリジェンスへのAI活用(FAQ)
デューデリジェンスでのAI活用に関して、想定される疑問とその回答をまとめました。
Q:デューデリジェンスはAIで自動化できるの?
DD手続の一部はAIによって自動化できますが、完全に自動化することはできません。AIは契約書の条項抽出や財務データの異常検知といった定型作業やデータ分析に優れていますが、M&Aにおける取引背景や文脈を含めたリスク判断、業界特有の商習慣への理解、そして最終的な法的責任の所在といった部分は、人間の専門家による判断が不可欠です。AIはあくまで専門家の業務を「補助する」ツールとして機能します。
Q:AIを使うと何が良くなるの?
AIをデューデリジェンスに活用することで、主に効率化、迅速化、網羅性の向上、そしてヒューマンエラーの削減が期待できます。AIは膨大なデータを短時間で処理し、人間が見落としがちな細かな情報やパターンを検出する能力があります。これにより、DD手続の期間を短縮し、より多くの情報を基にした高精度なリスク評価が可能になります。結果として、M&Aの意思決定の質を高めることができます。
Q:契約書レビューがAIで早くなる?
リーガルテックDDは、AIを活用して契約書レビュー手続を大幅に効率化できます。AIは契約書の中から特定の条項を抽出し、リスクの高い箇所を識別したり、複数の契約書間の比較分析を高速で行ったりすることが可能です。これにより、弁護士が手作業で行っていた時間のかかる定型作業が削減され、レビューのスピードアップと網羅性の向上が実現します。弁護士はAIの分析結果を基に、より複雑な法的判断や交渉戦略に集中できるようになります。
Q:デューデリジェンスにおけるAIツールってどんなものがあるの?
DD分野でのAIツールは、DDの各分野に特化したものが開発されています。例えば、法務分野では契約書レビュー支援に特化したリーガルテックDDツールがあり、条項抽出やリスク分析を自動で行います。財務分野では、財務データの異常検知や予測分析を行うツールが存在します。また、自然言語処理(NLP)を活用して、企業に関するニュース記事やSNS情報から評判分析を行うツールもあります。これらのAIツールは、特定の業務を効率化するために活用されています。
デューデリジェンスでのAI活用のまとめ
デューデリジェンスでのAI活用は、M&Aにおけるデータ量の増加や、迅速な対応・コスト削減といったニーズに応えるために、進化を続けています。AIは契約書レビューや財務データ分析、情報収集において大きな効率化をもたらしますが、精度や倫理、専門家の役割変化といった課題も存在します。
みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A専門会社として15年以上の業歴があり、中小企業の財務デューデリジェンスに特化した経験実績が豊富な公認会計士・税理士が在籍しています。みつき税理士法人と連携することにより、税務DDを含めた財務調査をワンストップで対応可能ですので、財務DDをご検討の際は、お気軽にお問い合わせください。
著者

- 国内大手証券会社にて顧客のお金や人生に関わる財産運用を助言。相続・事業承継専門の会計事務所を経て、当社では法人顧客の税務対策・申告、M&Aに係る財務・税務のアドバイザリーに従事。税理士
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