廃業で従業員はどうなる?解雇予告と退職金・年末調整の実務

会社の廃業では、従業員への解雇予告を30日前までに行い、退職金や年末調整、離職票の交付まで漏れなく進める必要があります。本記事では廃業時の従業員対応を手続の順序で整理し、失業保険や未払賃金立替払制度の扱いも解説。雇用を残す選択肢として、M&Aによる第三者承継との違いも比較します。

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廃業が決まったとき従業員の身に起きること

廃業の相談で最初に行き詰まるのは、数字ではありません。「社員をどうするか」。ここで手が止まる経営者は珍しくありません。収入が途切れるだけでなく、健康保険も年金も同じ日に切り替わります。従業員側に何が起きるかを把握しておくと、説明の順序が組み立てやすくなります。

給与と賞与が途切れる

解雇された時点から、毎月の給与も賞与も入らなくなります。住宅ローンや教育費を抱える世代にとっては、翌月の生活が直撃されるということ。会社としていつまで給与を支払えるのかを早い段階で確定させないと、社内の不安は一気に広がります。

失業保険は会社都合として扱われる

廃業に伴う解雇は、雇用保険上「特定受給資格者」に該当します。自己都合退職に付く給付制限がなく、7日間の待期期間を過ぎれば受給が始まる点が大きな違いです。

給付日数と給付額の目安

所定給付日数は離職時の年齢と被保険者であった期間で決まり、90日から330日の範囲で設定されます。基本手当日額は賃金日額のおよそ50〜80%(60歳以上65歳未満は45〜80%)で、賃金水準が低い人ほど率が高くなる仕組みです(ハローワークインターネットサービス)。

離職票が届かないと受給が始まらない

受給手続の起点は離職票です。会社側の交付が遅れれば、その分だけ従業員の入金も後ろにずれます。廃業間際は社内の事務体制が薄くなりがちなので、担当者を最後まで残す前提でスケジュールを組んでおきたいところ。

健康保険と年金の切り替えが必要になる

退職日をもって、本人と扶養家族の健康保険は使えなくなります。切り替えないまま受診すると医療費は全額自己負担です。選択肢は健康保険の任意継続、国民健康保険への加入、家族の扶養に入る、の3つ。任意継続は退職日の翌日から20日以内という短い申請期限があります。

会社側の資格喪失手続には期限がある

健康保険・厚生年金保険の被保険者資格喪失届は、資格喪失日から5日以内に年金事務所または健康保険組合へ提出します(日本年金機構)。雇用保険の資格喪失届と離職証明書は、資格喪失日の翌日から10日以内にハローワークへ。この届出が済まないと、従業員は国民健康保険の加入手続に進めません。

家族の生活にも波及する

影響を受けるのは本人だけではありません。通院中の家族がいれば、保険の切り替えが一日遅れるだけで負担が跳ね上がります。国民年金への切り替えによって、将来の受給額が目減りする可能性もあるでしょう。従業員が守りたいのは自分の職ではなく、家族の生活だという前提で向き合う必要があります。

廃業時に会社が行う従業員対応の実務

廃業を決めた会社は、通常の営業活動を止め、雇用契約を終了させる側に回ります。法律で定められた手順を踏み外すと、廃業そのものが止まりかねません。順序立てて確認します。

解雇予告は30日前までに行う

労働基準法20条は、解雇にあたって30日以上前の予告か、30日分以上の平均賃金の支払いを事業主に求めています(e-Gov法令検索)。予告した当日は日数に算入されません。3月31日付で解雇するなら、遅くとも3月1日には予告が必要という計算になります。

解雇予告手当の計算方法

予告日数が30日に満たないときは、不足日数分の平均賃金を解雇予告手当として支払えば、その分だけ予告期間を短縮できます。20日前の予告なら10日分。平均賃金は、直前の賃金締切日から遡った3か月間の賃金総額を、その期間の暦日数で割って算出します。

通知は書面で残す

口頭の予告でも法律上は成立します。ただし、後日「聞いていない」と争われれば立証は困難。解雇予告通知書を作成し、予告日・解雇日・手当の有無を明記して交付するのが実務の標準です。

整理解雇としての説明を尽くす

廃業に伴う解雇は、会社都合の整理解雇に当たります。廃業に至った理由、今後のスケジュール、再就職支援の有無。この3点を、噂が回り始める前に経営者自身の言葉で伝えてください。順序を誤ると、退職日までの数か月が想像以上に荒れます。

退職金の支払義務は規程次第

就業規則や退職金規程、労働条件通知書に支給の定めがあれば、支払義務が生じます。定めがなければ法律上の義務はありません。もっとも、長年にわたり全員に支給してきた実態があるなら、労働契約の内容と評価される余地が残ります。規程が存在しない会社ほど、過去の支給実績を確認しておくべきです。

未消化の年次有給休暇をどう扱うか

退職日を過ぎれば、年次有給休暇の権利は消滅します。廃業日までに消化させるのが原則で、業務が回らないなら退職日を後ろにずらす調整が現実的でしょう。年休の買上げは原則として認められていませんが、退職時に消化しきれない残日数を金銭で精算することは違法とされていません。

年末調整と源泉徴収票の交付

12月の給与支払日より前に廃業していれば、会社側で年末調整を行う必要はありません。廃業日までの給与について源泉徴収票を交付する義務は残ります。交付は退職後1か月以内が原則。従業員はこれを再就職先に提出するか、自分で確定申告することになります。

廃業時に必要な従業員関係の手続一覧

期限が短いものが並ぶため、下表で提出先とタイミングを整理しておきます。廃業日を起点に逆算して、担当者と分担を決めておくと漏れが減ります。

書類・手続提出先期限
解雇予告通知書従業員本人解雇日の30日前まで
健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届年金事務所(健康保険組合)資格喪失日から5日以内
雇用保険被保険者資格喪失届・離職証明書ハローワーク資格喪失日の翌日から10日以内
源泉徴収票従業員本人退職後1か月以内
給与支払事務所等の廃止届出書所轄税務署廃止の事実があった日から1か月以内

従業員側が廃業時に確認しておきたいこと

従業員の多くにとって、勤務先の廃業は一生に一度の経験です。情報が不足すれば、噂が事実として社内を回り始めます。従業員が押さえるべき論点を会社側が先回りして示すことが、混乱を抑える近道になります。

退職条件は経営陣から直接聞く

同僚同士の会話で得た情報は、たいてい歪んでいます。解雇予告手当の支払時期と方法、退職金の有無、再就職先の紹介の可否。この3点は、上司や経営者から直接、できれば書面で確認しておきたい項目です。

未払賃金があるときの立替払制度

経営者の引退による廃業であれば、支払能力が残っているため未払いは通常発生しません。事業が停止して再開の見込みがなく、資金も尽きた状態となると話は変わります。そうした場合に備えて用意されているのが、未払賃金立替払制度です。

立替払の上限と対象外になるもの

立替払される額は未払賃金総額の80%です。退職日の年齢に応じた限度額があり、30歳未満は110万円、30歳以上45歳未満は220万円、45歳以上は370万円。それぞれの80%が実際の支給上限となります(厚生労働省)。賞与は対象外で、未払賃金総額が2万円未満のときも利用できません。

解雇予告手当は立替払の対象にならない

見落とされやすい論点です。解雇予告手当は賃金そのものではないため、立替払制度では救済されません。破産手続のなかで優先的破産債権として扱われるにとどまります。資金が尽きる前に解雇予告手当の原資を確保しておく。これが実務上の鉄則です。

廃業を選んだ会社側に残るリスク

解雇される側の負担ばかりが語られますが、廃業する会社にも相応のダメージが残ります。手続を終えれば終わり、とはいきません。

ノウハウと人材が同時に失われる

数十年かけて積み上げた技術や取引ノウハウは、従業員の頭の中にあります。解雇によって人が散れば、その資産は競合他社へ流れていく。会社を畳んだ後で「あの技術だけでも残せなかったか」と振り返る経営者は少なくありません。

未払残業代などの請求リスク

雇用関係が切れた瞬間、従業員と会社の力関係は変わります。残業代の未払いが常態化していた会社では、退職後に請求が届くケースが目立ちます。ライセンス管理が甘いソフトウェアの使用実態が外部に伝わることも。廃業時の対応が不誠実であれば、経営者が地域で次の一歩を踏み出す際にも影響します。

経営者個人の手取りは想像より小さい

設備の処分費、賃借物件の原状回復費、専門家報酬、解散・清算の登記費用。廃業には出ていくお金が積み上がります。資産を売り切って負債を返すと、手元に残る金額は事前の想定を下回りがちです。廃業費用と会社売却の手取りを並べて比べてみると、差の大きさに驚く経営者もいます。

清算配当には税負担が伴う

解散して残余財産を分配する場合、その一部はみなし配当として総合課税の対象になります。株式の譲渡なら分離課税で完結する。同じ「会社をたたむ」でも、残余財産分配と譲渡対価では手取りの計算構造がまったく異なります。解散と売却の比較は、税負担まで含めて検討する論点です。

廃業ではなくM&Aを選んだ場合の従業員の扱い

東京商工リサーチによれば、2025年に休廃業・解散した企業は6万7,210件で、3年連続の過去最多となりました。代表者の60代以上が90.6%を占め、80代以上も初めて3割を超えています。一方、帝国データバンクの調査では2025年の後継者不在率は50.1%と改善が続いており、中小企業でも第三者への引継ぎが現実的な選択肢になりつつあります。

株式譲渡なら雇用契約はそのまま続く

株主が入れ替わるだけなので、会社と従業員の雇用契約は影響を受けません。解雇も退職金の精算も発生しない。就業規則や勤続年数もそのまま引き継がれます。中小企業のM&Aで株式譲渡が選ばれる理由は、この手続の軽さにあります。

事業譲渡は個別の同意が要る

事業譲渡では雇用契約が自動的に移りません。従業員一人ひとりの同意を得て転籍させる形になります。同意しない従業員が出れば、譲渡オーナー側に残る。事業譲渡での社員の転籍は、労働条件の設計から丁寧に進める必要があります。

廃業・株式譲渡・事業譲渡の従業員への影響

従業員の目線でどう違うのか。下表に主要な論点を並べました。会社に残るものと失われるものの差が、判断材料になります。

比較項目廃業・解散株式譲渡によるM&A事業譲渡によるM&A
雇用の継続全員を解雇そのまま継続転籍への同意が必要
解雇予告手当予告が30日未満なら必要不要原則不要
勤続年数の扱いそこで終了通算される契約条件により変動
退職金の精算規程があれば支給精算不要個別に取扱いを決定
取引先との関係契約を順次解除継続契約ごとに再締結
オーナーの手取り残余財産の分配株式の譲渡対価会社が受け取る対価

従業員に伝えるタイミング

M&Aの検討段階で社内に漏れると、動揺が退職につながります。人材が抜けた会社は評価も下がる。原則は最終契約の締結後、譲受企業と足並みをそろえて公表する形です。社員説明のタイミングを誤らなければ、混乱はかなり抑えられます。譲渡後の待遇についても、M&A後の従業員の処遇を踏まえて説明を準備しておくと安心です。

廃業を決める前に確認したい5項目

当社に寄せられる相談で多いのが、廃業の見積りを取った後になって「売れる可能性があると知らなかった」というものです。判断を固める前に、以下のチェックリストで自社の状況を点検してみてください。

  • 直近3期の決算書で、営業利益が黒字の期が1期でもあるか
  • 特定の取引先や許認可、有資格者など、他社が欲しがる資源を持っているか
  • 従業員に定着があり、経営者が抜けても現場が回る体制か
  • 個人保証付きの借入について、金融機関と解除の相談ができているか
  • 廃業した場合の手取り額を、税負担まで含めて試算しているか

3つ以上に当てはまるなら、第三者承継の余地は十分にあります。廃業を決める前のM&A検討を挟むだけで、結論が変わることも珍しくありません。

黒字なのに畳んでしまう会社が多い

現場で見る論点として挙げたいのが、決算書の見え方です。役員報酬や生命保険料、経営者一族の車両費などを実態ベースに引き直すと、利益が出ている会社は相当数あります。この調整をしないまま「うちは儲かっていないから売れない」と判断してしまう。後継者不足による黒字廃業が減らない背景には、こうした自己評価の低さがあります。

相談先は複数の選択肢を持つ

中小企業庁は、親族内承継・従業員承継・M&Aの3類型ごとに支援策を整理しています(中小企業庁)。全国に設置された事業承継・引継ぎ支援センターも窓口のひとつ。3つの承継先の違いを押さえたうえで、廃業とM&A売却の損得を並べて検討する順序をおすすめします。

廃業と従業員に関するFAQ

廃業を検討する経営者から実際に多い質問を、4つに絞ってまとめました。

Q:廃業の直前に解雇を伝えても法律上は問題ありませんか?

30日分以上の平均賃金を解雇予告手当として同時に支払えば、即日解雇も適法です。ただ現場では、資金繰りが苦しい局面ほどこの手当が重くのしかかります。予告で済ませられるなら、そのほうが支出を抑えられます。

Q:パートやアルバイトにも解雇予告は必要ですか?

原則として必要です。日々雇い入れる者や2か月以内の期間を定めて使用する者などは適用除外ですが、実態として継続雇用されていれば対象になります。契約書の形式ではなく、勤務の実態で判断されると考えてください。

Q:社員に伝える前に、売り手として相談だけしても大丈夫ですか?

問題ありません。秘密保持契約を締結したうえで水面下で進めるのが通常の流れです。社名を伏せた資料で買い手候補を探し、公表は最終契約の後。相談したことが社内に伝わる心配は基本的にありません。

Q:買い手が見つからないまま時間切れになりませんか?

打診開始から成約までは6か月から1年が一般的な目安です。資金繰りに期限があるなら、そこから逆算して着手時期を決める必要があります。廃業手続にも数か月かかるため、両にらみで準備を進める会社もあります。

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廃業時の従業員対応とM&Aという選択肢のまとめ

廃業に伴う解雇は30日前までの予告が必要で、予告を欠けば平均賃金の30日分以上を支払う義務が生じます。退職金や年末調整、離職票の交付、社会保険の資格喪失まで、期限の短い手続が続きます。長く働いてくれた社員をどう送り出すか。悩まれるのは当然のことです。

みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社として、中小企業のM&Aを数多く支援してきました。雇用を残しながら創業者利益を確保する道が本当にないのか、廃業の結論を出す前にご相談ください。手取り額の試算から譲受企業の探索まで、一貫してお手伝いします。

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著者

野口 慎矢
野口 慎矢事業法人第四部長/M&A担当ディレクター
国内証券会社(現SMBC日興証券)にてクライアントの資産運用を支援。みつきコンサルティングでは、消費財・小売業界の企業に対してアドバイザリーを提供。事業承継案件のみならず、Tech系スタートアップへの支援も行う。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修者 神門 剛 代表取締役 / 公認会計士・税理士

みつきコンサルティングは、中小企業の会社売却・事業承継に特化した譲渡企業様に完全成功報酬制のM&A仲介会社です。売り手と買い手企業の最適なマッチングを、経験豊富なM&Aコンサルタントが初期相談から成約まで一貫してフルサポートします。

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