廃業の費用は登記や公告だけで済まず、在庫処分や原状回復、専門家報酬まで含めると100万円超に及ぶケースが少なくありません。手取りを目減りさせず引退するなら、会社売却という別の選択肢があります。本記事では廃業費用の内訳と会社売却の収支を並べて比較し、オーナー経営者が取るべき判断軸を解説します。
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廃業を考える前に知っておきたい「費用と手取り」の現実
会社をたたむと決めたとき、多くのオーナー経営者が最初に直面するのが「費用」の問題です。登記や公告だけで終わると考えていたものの、見積りを取り始めて初めて、想定外の支出が積み上がる事実に気づきます。
廃業は「ゼロで終わる手続」ではない
事業を畳めば現金が戻ってくる、と感じている方も少なくありません。実際は逆です。資産を換金しきれず、退職金や原状回復で持ち出しが発生し、結果として手取りがマイナスに振れることもあります。廃業とM&A売却の比較|利点と欠点・税金面・後継者難倒産が増加で論点全体を整理していますが、本記事はその中の「費用」に焦点を絞ります。
同じ「事業を終わらせる」でも選択肢は二つ
事業を継続しない、という結論が同じでも、選ぶ手段は廃業(解散・清算)と会社売却(M&A)の二つです。前者は資産を処分し、会社そのものを消滅させます。後者は譲受企業に株式または事業を引き継ぎ、オーナーは譲渡対価を受け取って引退します。両者では支出額も手取りも、税負担も大きく違います。
廃業にかかる費用の総額イメージ
まず、廃業の費用感を押さえます。中小企業庁の「中小企業白書」では、廃業した中小企業の36%超が総額100万円以上を負担しています。1,000万円以上を要した会社も一定数あり、規模と業種で振れ幅は大きいといえます。

中小企業庁が発表した「2019年版中小企業白書」によれば、廃業費用の総額が100万円以上だったと回答した会社は36.2%となっており、中には1,000万円以上かかったという回答もあったようです。
支出の主な内訳
廃業に伴う費用は、おおむね下表の項目に分かれます。「払えば終わり」の固定費と、規模次第で大きく膨らむ変動費の双方が含まれている点が、見積りを難しくします。
下表は、株式会社が廃業する際に発生しがちな主な費用項目です。最左列は支出区分、右列に金額目安と内容を整理しました。
| 費用区分 | 金額目安 | 主な内容 |
|---|---|---|
| 登記関連 | 合計4.1万円 | 解散登記3万円、清算人選任登記0.9万円、清算結了登記0.2万円 |
| 官報公告 | 3〜4万円 | 解散公告(債権者保護のため2か月以上掲載) |
| 専門家報酬 | 30〜80万円 | 司法書士、税理士、必要に応じて弁護士への手続代行報酬 |
| 在庫・設備処分 | 数十万〜数百万円 | 買取で現金化できない物品の廃棄費、トラック単位の運搬料 |
| 原状回復 | 数十万〜1千万円超 | 事務所・工場・店舗の賃貸契約に基づく回復義務 |
| 退職金・解雇予告手当 | 従業員規模に応じ大幅変動 | 従業員への退職金支給、30日前未満の解雇では予告手当 |
「最低限の支出」だけで完結する会社は少ない
登記と公告のみであれば10万円弱で済む計算です。実際には原状回復や在庫処分、従業員への退職金が重くのしかかります。当社の支援現場では、年商10億円・従業員30名規模の製造業で、賃貸工場の原状回復だけで600万円超の見積りが出た事例がありました。退職金規程に基づく支給と合わせると、廃業の総コストが2,000万円を超え、オーナー個人の貯蓄から補填する展開になっています。
登記と公告にかかる費用の中身
金額は固定的ですが、期限を逃すと過料の対象になる項目です。中身を順に押さえます。
解散登記
株主総会で解散の決議が得られた日から2週間以内に申請します。登録免許税は3万円です。期限を過ぎても登記自体は可能ですが、代表清算人に対し過料が科される可能性があります。
清算人選任登記
解散と同時に清算人を選任し、登記します。登録免許税は9,000円です。多くの中小企業では旧代表取締役がそのまま清算人になります。利害関係が複雑な会社では弁護士を清算人に選任する例もあります。
清算結了登記
清算事務がすべて終わった後、株主総会で決算報告を承認したうえで申請します。登録免許税は2,000円です。解散から最低2か月の公告期間を経て、残余財産の分配まで終えた段階で登記する流れです。
官報公告
会社法499条により、解散後遅滞なく「債権者に対し2か月以上の期間で債権申出の催告」を官報で公告することが義務付けられています。会社法(e-Gov法令検索)で条文を確認できます。公告料は1行3,000円台で、10行前後の文章が標準のため、3〜4万円が相場です。
変動が大きい費用|在庫・設備・原状回復
定型の手続費用以上に、オーナーの手取りを削るのが処分・回復関連の支出です。「いくらで済むか」は見積りを取るまで読めません。
在庫処分
清算時点で残った在庫は、原則として処分します。買取業者やセールで現金化できれば最善ですが、在庫の性質によっては引取り価格がゼロ、もしくは逆に処分料を支払う展開もあり得ます。確定申告で在庫を費用計上すれば翌期以降の申告負担を軽減できるため、清算事業年度内に処分を完了させるのが一般的です。
設備処分
中古市場が成立している設備(汎用工作機械、フォークリフト、汎用什器)は買取が成立しやすい一方、特注機械や旧型機は処分費だけがかかります。当社の支援現場で見るのは、トラック1台あたり数万円の運搬費に加え、撤去工事費が10万円単位で積み上がる構図です。
賃貸物件の原状回復
賃貸借契約上、原状回復義務はほぼ例外なく定められています。敷金・保証金で相殺される範囲を超えると追加支出になります。製造業や飲食業の店舗・工場では、給排水・電気・床補修などの専門工事が入り、数百万〜1千万円超に達するケースも珍しくありません。賃貸契約書の原状回復条項は、廃業を検討し始めた時点で必ず読み返す必要があります。
有限会社・個人事業主の廃業費用
会社形態によって、費用構成は多少変わります。要点だけ整理しておきます。
有限会社の場合
有限会社は特例有限会社として存続しているため、廃業手続は実質的に株式会社と同じです。登記費用・公告費用も同額です。一般に事業規模が小さく、専門家報酬や処分費用は株式会社より低く収まる傾向にあります。とはいえ年商数十億円規模の有限会社も実在しており、規模を理由に費用が下がるとは限りません。詳細は有限会社を廃業するには?解散手続の流れ・費用・株式会社との違いで扱っています。
個人事業主の場合
個人事業主の廃業は登記が不要で、税務署と都道府県税事務所への届出のみで成立します。専門家報酬も小さく、自宅兼事業所のケースなら原状回復費用も発生しません。一方で、屋号での借入や個人保証付き融資が残っている場合、金融機関との交渉が別途必要になります。個人事業主の廃業届の提出時期|書き方・手続・注意点・休業とM&Aで書式と注意点を解説しています。
会社売却(M&A)の費用と手取りはどう違うか
ここからが本題です。同じ「事業から離れる」結論でも、会社売却を選んだ場合、費用構造と手取りは大きく変わります。
会社売却の主な費用
譲渡オーナー側で発生する費用は、仲介会社への報酬と、税務・法務デューデリジェンスへの対応コストです。完全成功報酬制の仲介会社を選べば、成約までの着手金は無料、譲渡対価から手数料が引かれる形になります。手数料率は譲渡対価の規模に応じて段階的に変動するレーマン方式が一般的です。
譲渡対価という「プラスの収入」
廃業との最大の違いは、譲渡対価が入ってくる点です。営業利益が出ている会社では、純資産に「のれん」(営業権)を上乗せして評価されます。たとえば純資産2億円、営業利益5,000万円の会社では、純資産+営業利益3〜5年分=3.5億〜4.5億円の譲渡対価が成立し得ます。
譲渡益への税金
株式譲渡で受け取る譲渡対価には、譲渡所得として20.315%(所得税15%・住民税5%・復興特別所得税0.315%)の税率が課されます。国税庁タックスアンサーNo.1463で詳細が確認できます。役員退職金との組み合わせで全体の税負担を圧縮する設計も実務では多用されます。詳しくはM&Aでの役員退職金の活用方法|会社売却の節税スキームとは?を参照ください。
廃業と会社売却の手取りを並べて比較する
抽象論では判断しづらいため、現場で頻出する規模感に置き換えて試算します。下表は、年商10億円・営業利益5,000万円・純資産2億円・従業員30名の中小企業を想定した、廃業ケースと会社売却ケースの手取り比較です。最左列は項目、中央が廃業、右が会社売却(株式譲渡)のケースになります。
| 項目 | 廃業のケース | 会社売却のケース |
|---|---|---|
| 受取総額(処分・対価) | 純資産2億円-換価ロス4,000万円 =1.6億円 | 譲渡対価3.5億円 (純資産+利益3年分) |
| 主な支出 | 登記・公告・処分・原状回復・専門家報酬 =▲1,500万円 | 仲介手数料(レーマン方式) =▲約1,700万円 |
| 従業員退職金 | 規程に基づく支給 =▲3,000万円 | 譲受企業が雇用継続のため 支給なし |
| 税金 | 清算配当への所得税等 (条件により変動) | 譲渡所得税20.315% =▲約7,100万円 |
| オーナーの最終手取り | 約1.1億円 | 約2.6億円 |
同じ純資産2億円の会社でも、会社売却の手取りが廃業の2倍超になる構図が見えます。営業利益が安定し、譲受企業が見つかる会社であれば、廃業は経済合理性の面で不利な選択肢になりやすいのです。
赤字・債務超過の会社はどうか
営業赤字が継続し、純資産がマイナスの会社では、会社売却が成立しにくくなります。それでも事業譲渡や民事再生スポンサー型M&Aで承継できる例があり、廃業や破産より手取り・社会的影響の両面で優位になることがあります。自己破産とM&A売却を比較|法的整理前の事業譲渡で会社を守る方法で具体的な判断軸を扱っています。
廃業より会社売却が有利になりやすい理由
金額面以外にも、会社売却を選ぶ実務上のメリットがあります。中小オーナーが特に重視する論点を整理します。
従業員の雇用が継続する
廃業では従業員を解雇する必要があり、解雇予告手当や退職金、再就職支援に費用と時間がかかります。一方、会社売却では譲受企業が雇用を引き継ぐ前提で取引が組まれるため、退職金支給を回避できる場合が多いといえます。「長年支えてくれた社員に行き先を用意したい」というオーナーの想いとも整合します。
取引先との関係を承継できる
廃業すれば、長年の取引先に対し供給責任や納入責任を一方的に途絶させる結果になります。会社売却なら譲受企業が取引を引き継ぐため、取引先への影響を最小化できます。
個人保証の解除につながる
廃業では金融機関への借入返済が必要となり、個人保証が残るケースがあります。会社売却では譲受企業が借入と個人保証を引き継ぐ、または借入を一括返済する形が一般的で、譲渡オーナーの個人保証は外れます。個人保証とM&A|経営者保証の解除に向けた売却スキームと注意点で詳しく扱っています。
創業者利益を得て引退できる
会社売却なら、譲渡対価という形で「創業者利益」が確定し、引退後の生活資金や次世代への資産移転原資として活用できます。廃業では同等の利益を得ることはほぼ不可能です。
廃業費用を回避する別の選択肢|休眠
すぐ廃業せず、休眠を挟む選択もあり得ます。譲受候補との交渉に時間が必要な場合や、後継者の判断を待つ場合の「時間稼ぎ」として使えます。
休眠会社の費用感
休眠は、税務署・自治体への異動届の提出で完了します。登記や公告は不要で、廃業に比べてイニシャルコストはほぼゼロです。ただし、年に1回の確定申告と、12年経過時の役員重任登記は必要となり、ランニングコストはゼロにはなりません。
休眠の落とし穴
休眠中も会社で所有する不動産の固定資産税や、リース・賃貸の固定費は発生します。長期間休眠した会社は、後でM&Aの対象として評価される際、買い手がデューデリジェンスを進めにくく、譲渡対価が下振れする傾向があります。詳細は会社の休業(休眠)とは?廃業との違い・メリットとデメリットを確認ください。
会社売却を選ぶときに最初に確認すべき4点
「廃業より会社売却の方が良さそう」と考え始めたオーナーが、現場で最初に直面する論点を、独自チェックリストとして示します。
1. 営業利益と純資産の水準
直近3期の営業利益が黒字で、純資産がプラスであれば、譲受企業が現れる確度は高いと判断できます。赤字でも、技術・許認可・顧客基盤など無形資産で評価される事業は存在します。
2. 個人保証付き借入の残高
借入残高と個人保証の有無を一覧化します。譲受企業が借入を引き継げる規模か、一括返済が必要な水準かで、ディール設計が変わります。
3. 賃貸契約の原状回復義務
本社・工場・店舗の賃貸契約書を取り出し、原状回復条項を確認します。廃業時の負担が大きい契約ほど、会社売却で承継した方が手取りが残ります。
4. 役員退職金規程と株式構成
退職金規程の有無、役員退職慰労金の支給可否は、譲渡対価の節税スキーム設計に直結します。少数株主が散在している場合は、譲渡前の株式集約も検討課題になります。
会社売却を進める際の費用の目安
会社売却を実行する際の費用は、廃業のように細々したものではなく、シンプルです。主にM&A仲介会社への手数料に集約されます。完全成功報酬制の仲介会社では、初期相談から基本合意までは無料で、譲渡契約成立時に手数料が確定する形が一般的です。
譲渡対価3億円の案件であれば、レーマン方式の標準的な料率で手数料は1,500万〜2,000万円程度になります。これは廃業の処分費用・退職金支給の総額と同水準か、それ以下に収まることが多く、加えて譲渡対価という大きな収入を伴う点で、廃業とは経済性が逆転します。
事業承継・引継ぎ補助金(中小企業庁所管)の対象になれば、M&A仲介手数料の一部が補助される可能性もあります。年度ごとの公募要領は中小企業庁の最新情報で確認するのが確実です。
廃業費用と会社売却の比較に関するFAQ
当社の支援現場で繰り返し受ける質問を、要点だけ整理して載せます。
条件次第です。直近赤字でも、技術・許認可・顧客基盤・人材で評価される事業は譲受候補が現れます。現場ではまず、過去3〜5年の損益推移と、純資産の中身、簿外負債の有無を確認します。再生型M&Aや事業譲渡で受け皿が見つかることもあります。
可能なケースが多いです。譲受企業が借入を承継するパターンと、譲渡対価で一括返済するパターンに分かれます。金融機関との事前協議が成立すれば、譲渡オーナーの個人保証は外れる方向で進みます。契約条項と金融機関の条件次第です。
解散登記前であれば切替は可能です。解散後でも、清算結了登記前なら事業譲渡の形で承継できる余地が残ります。決算書類と契約関係が整理されている分、譲受候補にとってデューデリジェンスがしやすいというメリットもあります。
株式譲渡なら、譲渡対価は契約クロージング日に着金します。譲渡所得は翌年3月15日までに確定申告し、20.315%を納付します。当社の現場では、譲渡実行直後に税理士と確定申告のスケジュールを共有するのが標準的な進め方です。
できます。むしろ並行検討を推奨します。譲受候補の探索に6か月〜1年かけ、その間に廃業時の見積りも取っておくと、最終局面で両者の手取りを比較して意思決定できます。
廃業にかかる費用のまとめ
廃業の費用は登記・公告だけで終わらず、原状回復、在庫処分、退職金、専門家報酬が積み上がります。中小企業白書では36%超が100万円以上を負担しており、オーナー個人の貯蓄から補填する事例も少なくありません。営業利益が出ている会社であれば、会社売却(M&A)の方が手取りで上回るケースが多いといえます。長年支えてくれた従業員や取引先への責任感を抱えて決断する場面で、選択肢を狭めないでください。
みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社として、中小企業の事業承継・会社売却に20年以上携わってきました。廃業の見積りと会社売却の手取りを並べて比較するご相談に、税務・法務の専門家と一体でお応えします。完全成功報酬制で初期相談は無料です。無料相談はこちらからご連絡ください。
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著者

- 名古屋法人部長/M&A担当ディレクター
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人材支援会社にて、海外人材の採用・紹介事業のチームを率いて新規開拓・人材開発に従事。みつきコンサルティングでは、強みを生かし人材会社・日本語学校等の案件を中心に工事業・広告・IT業など多種に渡る案件支援を行う。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修:みつき税理士法人
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