出版会社のM&A|業界環境・M&A動向・譲渡事例

本記事では、出版会社の業界情報や外部環境、M&A動向などを解説します。また、実際に行われた出版業界のM&A事例も解説します。

出版業界とは

最初に出版業界を概観します。

業界定義 

出版業界とは、書店に流通している紙媒体を制作している業界です。具体的には、雑誌、書籍、ムックなどが挙げられます。もともとは紙媒体に特化していましたが、Web媒体での制作も行っています。市場の変化に合わせて、業態を拡大しているので定義に当てはまらない部分もあります。今後はより既存の定義には当てはまらない部分が増えてくるでしょう。 

業界特性   

出版業界は歴史のある業界です。そのため、社会の中で強い影響力を持っています。出版業界にはそこで働く会社員だけでなく、ライター、カメラマン、イラストレーター、校閲者などいろいろな人が携わっています。 

業界課題 

出版業界には様々な課題があります。それぞれご紹介していきます。 

紙媒体が減っている 

多くのコンテンツがWebに移行していて、紙媒体自体が減っている時代です。オンラインの方が利便性が高いということだけでなく、環境問題・資源問題が注目されることが増え、その結果紙媒体が減っています。紙媒体での利益は縮小しましたが、その分別の事業に力を注いでいる企業が多いです。 

新型コロナウイルスの影響 

新型コロナウイルスの影響により、サービス業やイベント業が縮小しました。具体的にはチラシやパンフレット等の需要が減少し、出版業界の売上も減少しました。ただしその分オンラインの需要が増加し、出版業界がオンラインでサービスを提供できる機会は増えています。 

オンライン対応や海外展開による格差 

紙媒体の需要が減り、逆にオンラインの需要が増えているおり、オンライン対応を行った企業とそうでない企業の間で格差が広がっています。またサービスがオンライン移行したということは、海外にもサービス展開しやすくなったということです。逆に海外から日本にもサービスが入ってきます。 

結果的に世界的な競争になるので、海外展開への対応力によっても格差が出てきます。

出版会社の外部環境

出版会社を取り巻く環境も大きく変わっています。

市場規模   

出版業界では、紙媒体の需要は減少しているものの、逆にWeb媒体の需要は伸びていることがわかります。 

紙出版市場推移
電子出版市場推移

紙媒体が縮小して電子媒体が伸びているということなので、電子媒体の需要に乗っかることができれば企業にとってはチャンスがあります。出版業界と言っても定義が曖昧なため業界全体での状況を計るのは難しいのですが、紙媒体が縮小して電子媒体が伸びていることは間違いありません。 

いかに市場のニーズに合わせて媒体、サービスを変えていくかが企業の明暗を握っていると言えるでしょう。

競合業態 

出版業界の競合は数多いです。紙媒体が全盛だった時代は市場を独占していたと言っても過言ではありませんが、電子化が進み、結果的に出版物を発行するハードルが圧倒的に下がっています。 

他業界はもちろん、個人でも電子媒体で手軽に出版物を発行できる時代です。その結果、出版業界の競合は増加しています。出版会社を介さずにコンテンツを出す企業や個人が今後増えていくと、競合に勝つためにより良い戦略やサービス内容が求められます。既得権益だけで生き残れる時代ではなくなっているということです。

出版会社のM&A動向

近年、出版業界におけるM&A(合併・買収)の動きが活発化しています。この傾向には、業界の変化に対応し、新たな成長を目指す企業の戦略が垣間見えます。

譲受側

M&Aを通じて、譲受企業は自社にない専門性を獲得し、事業領域を拡大しています。例えば、書籍中心の出版社がファッション雑誌の発行会社を買収することで、新たな読者層へのアプローチが可能になります。また、出版業以外の企業がメディア事業に参入する手段としても、M&Aは効果的な選択肢となっています。特に雑誌コードを持たない企業にとっては、雑誌出版社の買収が大きなメリットをもたらす可能性があります。

譲渡側

中小出版社の多くは、特定のジャンルやテーマに特化した事業展開を行っています。しかし、専門性の高さや独自性だけでは経営の安定を維持することが難しい場合もあります。そのような状況下で、大手企業の傘下に入ることで業績を回復させた事例も少なくありません。

また、M&Aは事業継承の観点からも重要な選択肢となっています。創業オーナーの引退時期が近づく中、従業員や取引先への配慮から、円滑な事業継承を実現する手段としてM&Aが注目されています。特に、借入金の返済や定期的な新刊発行など、資金面での課題を抱える企業にとっては、M&Aが有効な解決策となる可能性があります。

出版会社のM&A事例

具体的な出版会社のM&Aの事例をご紹介していきます。 

インプレスホールディングスがイカロス出版を子会社化 

インプレスホールディングスは、書籍や電子書籍の出版、自治体サイトの制作、イベントやセミナー開催などを行っている企業です。イカロス出版は、航空関連の雑誌を主に制作している企業です。 

インプレスホールディングスはイカロス出版を子会社化することで、事業拡大を狙いました。M&Aが実施されたのは2021年8月です。

メディアドゥが日本文芸社を子会社化 

メディアドゥは電子書籍の仲介業者です。仲介と言っても配信を行っていて、コンテンツ配信数は約8億ファイルにもなります。日本文芸社は雑誌、書籍、Webメディアなどに携わっている出版社です。 

より規模の大きいメディアドゥが日本文芸社を買収して子会社にしました。結果的にシナジー効果が生まれ、メディアドゥの事業に日本文芸社が貢献した形です。日本文芸社は資金を獲得してメディアドゥの後ろ盾が付いたので互いにメリットがあるということです。M&Aが実施されたのは2021年3月です。 

フレーベル館がJULA出版局を子会社化 

フレーベル館は主に子供向けの書籍を出版している企業です。代表作としては、アンパンマンが挙げられます。JULAも同様に子供向けの書籍を出版している企業です。業界の中でも特に類似する企業でのM&A事例になります。 

より事業規模の大きいフレーベル館がJULAを買収し、事業を拡大したということです。M&Aが実施されたのは2019年4月です。 

出版業界のM&Aのまとめ 

出版業界はインターネットやSNSの普及、環境問題への配慮、新型コロナウイルスの蔓延、などの影響から厳しい局面も多々あります。しかし事業転換のチャンスという見方も可能で、実際Web対応や海外展開を積極的に進めている企業は利益を伸ばしています。 環境の変化によって出版業界の既得権益が崩れた面は否めませんが、新たなサービスを打ち出すことで今後利益を伸ばしていく企業も多いでしょう。業界全般というよりは、企業単位の独自の取り組みによって将来への道が拓けます。 

出版業界だけでなく、業界全般の垣根がなくなっている時代です。業界の垣根を越えて、以上に対応していった企業が生き残っていくと考えら、そういった戦略を取っている企業によるM&Aもより活発になっていくことが想定されます。 

著者

西尾崇
西尾崇事業法人第三部長
宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。
監修:みつき税理士法人

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