中小企業のM&A件数は2025年に過去最高を更新し、公的窓口の第三者承継成約も最多となりました。後継者不在や人手不足を背景に、会社売却は身売りではなく選択肢の1つへ。件数推移、活発な業種、制度改正、2035年までの見通しを整理し、譲渡オーナーが自社の売り時を見極める材料をまとめます。
中小企業M&Aの動向|2026年に見える市場の姿
かつて「M&Aは大企業の話」と受け止められていた時期がありました。ところが直近の数字を追うと、動いているのはむしろ中小企業です。公表ベースの件数は年間5,000件台に定着し、公的機関を通じた第三者承継も最多を更新しました。まずは市場の輪郭を、数字で押さえておきます。
公表件数は年間5,000件台に定着
レコフデータの集計では、2025年の日本企業のM&A件数は5,115件となり、前年の4,700件から8.8%増えました。2年連続の最高更新。内訳では国内企業同士のIN-INが4,086件と全体の約8割を占めており、過去10年の件数推移をたどっても、増加基調が一過性でないことが読み取れます。
公的窓口の第三者承継も過去最多
中小機構がまとめた令和7年度の事業承継・引継ぎ支援センター実績によると、新規相談者数は24,030者で開設以来はじめて2万4,000者を超えました。うち第三者承継に関する相談は16,322者。成約件数は2,265件と過去最多です。公的窓口が「M&Aの相談窓口」として機能し始めた、という言い方が実態に近いところ。
民間の支援機関を通じた譲渡は年間5,000件規模
民間側の数字も見ておきましょう。M&A支援機関登録制度の集計では、2024年度に登録支援機関が関与して最終契約に至った中小M&Aは、譲渡側ベースで4,940件でした。2022年度の4,036件から2年で約900件の増加。登録支援機関の制度に参加していない事業者の案件は含まれないため、実数はさらに多いとみられます。
潜在市場は13兆円規模との試算
矢野経済研究所が実施した国内中小企業M&Aのポテンシャル市場調査では、売上高1億円超の中小企業を対象とした潜在市場規模が約13兆5,000億円と試算されました。対象は約20万社。そのうち社長年齢60歳以上の事業承継型が9万社超を占めます。M&A市場の規模という観点では、成約している会社はまだ氷山の一角にすぎません。
中小企業のM&Aが増え続ける背景
件数が伸びている理由を「後継者不足だから」の一言で片づけると、判断を誤ります。実際には複数の圧力が同時にかかっている状態。ここでは4つに分けて整理します。
経営者の高齢化と後継者不在
最も大きな要因が、経営者側の時間切れです。数字で見ると、その切迫感がよく分かります。
社長の平均年齢は60.8歳
帝国データバンクの全国「社長年齢」分析調査では、2025年末時点の社長平均年齢は60.8歳で、統計を遡れる1990年から毎年上昇が続いています。社長交代率は3.84%と低水準。つまり、引退適齢期に入っても交代できていない会社が積み上がっている構図です。
後継者不在率は改善しても中小は5割超
同社の後継者不在率動向調査によると、2025年の全国不在率は50.1%で7年連続の低下でした。ただし内訳を見ると中小企業は51.2%、小規模企業は57.3%と平均を上回ります。規模が小さいほど後継者が決まらない状態が続いている、というのが実態に近いところ。
人手不足とコスト上昇への対応
採用が効かない、という声は業種を問わず聞こえてきます。ドライバーや施工管理技士、エンジニアのように資格や経験が必要な職種ほど深刻。仕入価格や人件費の上昇も重なり、単独経営の限界を感じてM&Aで人材を確保する判断に踏み切る会社が増えました。譲渡オーナー側からすると、雇用と待遇を守る手段でもあります。
国の支援制度が使える段階に入った
制度面の整備も無視できません。47都道府県48か所の事業承継・引継ぎ支援センター、専門家費用を補助する事業承継・M&A補助金、経営資源集約化税制。かつては「制度はあるが使いにくい」状態でしたが、現在は仲介手数料やデューデリジェンス費用まで補助対象に含まれ、実務で組み込める水準になっています。
「身売り」という受け止め方が薄れた
意識の変化も件数を押し上げています。以前は会社売却という言葉に強い抵抗を示す経営者が多数派でした。いまは「潰すより、大手と組んで社員を残したい」と最初の面談で話される方が珍しくありません。M&Aが増えた理由を突き詰めると、この心理的ハードルの低下が下地になっています。
業種・地域から見る中小企業M&Aの最新動向
市場全体が伸びていても、譲受企業の関心は均等に配分されていません。業種と地域で濃淡がはっきり出ます。
譲受ニーズが強い5つの業種
下表は、当社に持ち込まれる案件で譲受ニーズが特に厚い業種と、その背景を整理したものです。共通するのは業界再編と人手不足の圧力。
| 業種 | 譲受ニーズが強い理由 | 譲渡オーナーへの影響 |
|---|---|---|
| 調剤薬局 | 薬価改定と報酬制度の厳格化で小規模店舗の採算が悪化し、大手による集約が進行 | 複数店舗を持つ会社は評価が付きやすい |
| IT・ソフトウェア | エンジニア不足とDX需要の拡大で、開発体制を時間ごと確保する動きが継続 | 技術者の定着率が価格に直結しやすい |
| 建設・物流 | 労働時間規制への対応と有資格者の確保が急務 | 許認可と資格者名簿の整備が交渉材料になる |
| 医療・介護 | 経営者の高齢化と採用難が重なり、地域の受け皿づくりが進む | 地域シェアが高いほど引き合いが強い |
| 製造業 | 技術を持ちながら後継者がいない会社を、技術獲得目的で譲り受ける動きが定着 | 設備の更新状況が評価を左右する |
M&Aニーズの高い業種や業界別の承継動向は、自社の立ち位置を測る参考になります。
地方企業に都市部の譲受企業が向かう
地域別に見ると、首都圏の企業が地方の優良企業を譲り受ける流れが太くなっています。地方側には資本と販路が入る利点があり、譲受企業側には競合の少ない商圏を確保できる利点がある。一方で地方同士の組み合わせは母数が限られ、相手探しに時間がかかる傾向も。オンライン面談の定着で距離の壁はかなり下がりました。
業種の追い風は永久には続かない
ここは誤解されやすい点です。再編が進む業種では、譲受企業の「持ち駒」が埋まった時点で引き合いが細ります。調剤薬局のように集約が先行した分野では、条件面の選別がすでに始まっている印象。動向が良いうちに検討を始めた会社と、様子を見続けた会社とで、数年後の選択肢の幅は変わってきます。
市場ルールの変化|譲渡オーナーが知っておく制度改正
件数の拡大と並行して、一部の不適切な仲介をめぐるトラブルも表面化しました。国はここ数年、市場の健全化に向けた制度整備を進めています。
中小M&Aガイドライン第3版と支援機関登録制度
中小企業庁は2024年8月に中小M&Aガイドライン第3版を策定し、手数料の説明義務、利益相反への対応、不適切な譲り受け側に関する情報共有の仕組みなどを整理しました。ガイドラインの遵守宣言は登録支援機関の要件であり、業者選びの最初のふるいとして使えます。
中小M&A資格試験の創設
2026年3月の中小企業庁資料では、中小M&A資格試験の概要が公表され、委託先の選定も済んでいます。財務や法務の知識に加え、倫理と行動規範が独立した科目として置かれた点が特徴的。アドバイザーの質のばらつきという長年の課題に、公的な物差しが入る動きと見てよいでしょう。
補助金に小規模の売り手向け類型が加わった
2026年5月に公開された事業承継・M&A補助金の第15次公募では、専門家活用枠に「小規模売り手支援類型」が新設されました。従来は費用面で二の足を踏んでいた小規模事業者にも、仲介報酬やデューデリジェンス費用の補助が届く設計です。ただし登録支援機関に支払った費用でなければ対象外という点は要注意。
今後の見通し|スモールM&Aとグループ化
ここからは先の話。市場の形そのものが変わりつつあり、譲渡オーナーの選択肢も広がっています。
スモールM&Aの一般化
年商数千万円から1億円規模の小規模なM&Aは、もはや例外的な取引ではありません。「1店舗だけ譲渡する」「特定のサービスだけ切り出す」といった軽い取引が日常化しています。マッチングサイトの活用が広がった影響が大きく、従来なら相手が見つからなかった案件にも道ができました。
グループ化による連邦経営
同業の中小企業を続けて譲り受け、緩やかな企業グループを形成する動きも加速しています。子会社として傘下に入る形をとりつつ、屋号や現経営陣を残し、経理や仕入だけ共通化する。会社名を残せるため、譲渡オーナーの心理的な抵抗が小さい手法として選ばれやすくなっています。
2035年頃まで続く増加トレンド
民間調査では、事業承継型のM&Aは2035年頃にピークを迎えると予測されています。経営者の高齢化の波はあと10年以上続くため、需要そのものは底堅い。ただし今後のM&Aトレンドを踏まえると、譲受企業の選別眼は年々厳しくなり、「選ばれる会社しか売れない」局面に移りつつあります。
動向を踏まえた会社売却の判断
市場データを眺めるだけでは、自社の判断材料になりません。統計と自社の事情をどうつなぐか。ここが最後の論点です。
市場が良いことと自社が売れることは別
相談の場でよくあるすれ違いが、これ。「件数が過去最高なら、うちも売れるはずだ」という前提で来られる方は少なくありません。ところが譲受企業が見るのは市場統計ではなく、直近3期の営業利益と、社長がいなくても回る仕組みがあるかどうか。企業価値の算定は自社の数字から始まります。
譲渡の時期を決める4つの材料
下表は、譲渡のタイミングを検討する際に当社が最初に確認する4項目です。先送りしたときに何が起きるかまで見ておくと、判断が具体的になります。
| 判断材料 | 確認するポイント | 先送りした場合の影響 |
|---|---|---|
| 業績の方向感 | 直近3期の営業利益が上向きか横ばいか | 下降局面に入ると評価が下がりやすい |
| オーナーの年齢と健康 | 引継期間として2〜3年を見込めるか | 体調悪化後は交渉の主導権を失いやすい |
| 株主構成 | 少数株主や名義株、相続で分散した株式の有無 | 整理に半年以上かかり成約時期がずれる |
| 借入と個人保証 | 金融機関が保証解除に応じる条件 | 条件交渉が長引き、譲受企業の熱が冷める |
譲渡前に整えておく準備チェックリスト
相手探しを始める前に片づけておくと、交渉がぶれにくくなる項目を挙げます。全部を完璧にする必要はなく、着手済みかどうかが分かれば十分。
数字まわりの準備
- 直近3期の決算書と勘定科目内訳明細書を揃える
- 役員報酬、生命保険、社長個人の経費を区分して正常収益力を把握する
- 在庫と売掛金のうち、実質的に価値のないものを洗い出す
- 不動産や有価証券の含み損益を確認する
株式と契約まわりの準備
- 株主名簿と実際の株主が一致しているか照合する
- 譲渡制限の有無と、承認機関がどこかを定款で確認する
- 主要取引先との契約にチェンジオブコントロール条項がないか点検する
- 許認可の承継可否を所管官庁の要件で確認する
人と組織まわりの準備
- 社長が担っている業務を書き出し、代替可能な範囲を整理する
- キーマンの年齢と後任の目処を確認する
- 未払残業や社会保険の加入漏れがないか点検する
- 従業員の待遇について譲れない条件を先に決めておく
現場でよくある2つの相談パターン
当社に寄せられる相談を類型化すると、大きく2つに分かれます。動向データがどう自社の判断に落ちるのか、具体像で示します。
後継者不在型の相談
年商8億円前後、従業員45名ほどの金属加工業で、社長は60代後半。子はいるが別業界に就職済み。当初は廃業も検討されていましたが、設備の処分費用と従業員の再就職を試算した段階で方針が変わりました。廃業と会社売却の比較は、この層で最初に行う整理です。
成長戦略型の相談
年商15億円前後、従業員80名程度の物流会社で、社長は50代後半。後継者はいるものの、規制対応と人件費上昇に単独では追いつかない、という悩み。首都圏の同業グループ入りを選び、社名と経営陣を残す形で決着するケースが目立ちます。事業承継型のM&Aとは別の設計思想で進みます。
中小企業M&Aの動向に関するFAQ
市場動向にまつわる質問のうち、面談で繰り返し聞かれるものをまとめました。
条件次第で可能です。買い手は直近の利益だけでなく、技術、人材、許認可、顧客基盤といった将来価値を評価します。現場ではまず赤字の原因を分解し、一過性か構造的かを切り分けます。買い手のノウハウで改善できると判断されれば、成約に至る例は珍しくありません。
半年から1年が目安です。小規模でマッチングサイトを使う場合は3か月程度で終わることもあります。ただし株主の整理や許認可の確認に時間を要すると、そこで数か月止まることも。余裕を見たスケジュールを組んでおくほうが交渉で不利になりません。
件数と価格は連動しません。件数を押し上げているのは案件数の増加であり、1件あたりの評価は自社の収益力と業種の需給で決まります。現場ではまず正常収益力を試算し、そのうえで同業の成約水準と突き合わせて説明しています。
自社と同規模・同業種の実績があるかを最初に見ます。加えて、M&A支援機関登録制度の登録有無と、手数料の内訳が書面で示されるかどうか。相談先の比較を先に行い、2社程度に絞ってから面談するのが現実的な進め方です。
まとめ|中小企業M&Aの動向と会社売却の判断軸
中小企業のM&Aは2025年に件数が過去最高を更新し、公的窓口の第三者承継も最多となりました。経営者の高齢化と人手不足を背景に、会社売却は廃業回避の手段から成長戦略の選択肢へと位置づけが変わっています。とはいえ市場が良いことと自社が選ばれることは別で、その差に不安を感じるのは自然なことです。
みつきコンサルティングは、みつき税理士法人グループのM&A仲介会社として、中小企業の会社売却と事業承継を数多く支援してきました。M&Aアドバイザーに加え公認会計士・税理士が在籍し、譲渡価額と手取りの両面から検討できる体制を整えています。自社の売り時を見極めたい段階でも、お気軽にご相談ください。
完全成功報酬のM&A仲介会社なら、みつきコンサルティングへ >
著者

- 事業法人第二部長/M&A担当ディレクター
-
ヘルスケア分野に関わる経営支援会社を経て、みつきコンサルティングでは事業計画の策定、モニタリング支援事業に従事。運営するファンドでは、投資先の経営戦略の策定、組織改革等をハンズオンにて担当。東南アジアなど海外での業務経験から、クロスボーダー案件に関しても知見を有する。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修者 神門 剛 代表取締役 / 公認会計士・税理士
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