IRR(内部収益率)はM&A等の投資プロジェクトの判断指標として用いられるもので、NPV(正味現在価値)がゼロとなるような割引率を指します。本記事では、IRRの計算式やM&Aでの利用方法、NPVとの違いについて解説します。
IRR(内部収益率)とは
IRRとは、Internal Rate of Returnの略であり、「内部収益率」と言われます。投資の意思決定を行う際の重要な判断基準のひとつであり、投資によって得ることができる将来キャッシュフローの現在価値と、投資額の現在価値とが釣り合うような割引率を指します。
お金の価値は時間の経過とともに変動します。今日のお金は1年後のお金よりも価値が高いとされています。何故なら、現在手元にあるお金は再投資によって収益を増やすことができるからです。
具体的なイメージ
例えば、「現在の100万円」と「5年後に得られる100万円」では、お金の価値が異なります。「現在の100万円」を年率3%で運用すると、5年後には約116万円になります。そのため、「現在の100万円」=「5年後の約116万円」という価値になるわけです。
では、「5年後に得られる100万円」は現在のお金でいくらになるでしょうか。これは「5年後に得られる100万円」を年率3%で割り引くことで求めることができ、約86万円になります。つまり仮に5年後に確実に100万円が貰える権利が売っていたとすれば、約86万円以下であれば購入してもよいと言えます。
IRRのメリット・デメリット
このセクションでは、IRRを評価基準として活用する際のメリットとデメリットについて、より詳しく説明していきます。
メリット
IRRを投資判断基準の指標として用いる際のメリットとしては、投資期間全体を通じた収益性を現在価値の基準で算定できることが挙げられます。また、投資期間全体の収益性を現在価値に換算するため、投資期間が異なる複数の投資対象の比較検討が可能です。
デメリット
一方で、IRRのデメリットとしては投資規模の違いを反映しないことが挙げられます。IRRの数値のみで判断した場合、収益額が低い投資案件を選定してしまう可能性がでてくるのです。例えば、「投資額50億円、IRR5%」の案件Aと、「投資額1億円、IRR10%」の案件Bがあった場合、IRRのみで判断すると、案件Bの方が優先的な選定候補となってしまう可能性があります。したがって、IRRを使用して投資判断を行う場合には、リターン規模はどの程度の差があるのか、また投資リスクに違いはあるかなども考慮することが重要です。
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IRR(内部収益率)の計算方法
先ず、将来価値と現在価値は以下の計算式で表せます。
現在価値 × (1 + r)^n = 将来価値
r:年率 n:年数 ^:累乗
現在価値 = 将来価値 / (1 + r)^n
r:割引率 n:年数 ^:累乗
「^」は累乗を表します。年率を用いて複利計算を行うため、「1.03^5」は1.03を5回かけることになります(1.03 × 1.03 × 1.03× 1.03 × 1.03= 1.16)。
IRRは、「投資によって得られる将来キャッシュフロー」と「現在の投資額」から求められます。以下がその計算式で、r=IRRとなります。
C₀+C₁/ (1 + r)+C₂/ (1 + r) ^2+C₃/ (1 + r) ^3+・・・+Cn/ (1 + r) ^ⁿ=0
C0:初期投資額 Ct:本投資が生み出す各期のキャッシュフロー(t=1,2,3,…,n) r:IRR
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Excel(エクセル)での計算
IRRは、エクセルのIRR関数を使用して簡単に計算できます。エクセルシート上で「=IRR(範囲)」と入力するだけで求められます。初期投資額はマイナスになるので、「-」を数値の前につけておきましょう。
以下は計算例です。
年 収益
0 -800百万円
1 250百万円
2 500百万円
3 200百万円
4 250百万円
5 300百万円
IRR 26.4%
この例では、IRRが26.4%になります。エクセルやGoogleスプレッドシートには標準でIRR関数が提供されているため、これを活用すれば簡単に算出することができます。
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M&AにおけるIRRの役割
M&AにおけるIRR(内部収益率)の利用場面を紹介します。
投資判断の指標として
IRRは、M&A案件の収益性を評価する重要な指標の一つです。IRRは時間価値を考慮するため、単純な回収期間法よりも精緻な分析が可能です。
複数案件の比較
- 異なる規模や業種のM&A案件を、統一された基準で比較できる。
- 例えば、A社買収案件のIRRが25%、B社買収案件のIRRが18%の場合、A社の方が収益性が高いと判断できる。
投資基準の設定
- 多くのファンドと一部の譲受企業は、最低限必要なIRRを投資基準として設定している。
- 一般的に、ベンチャー投資では30-40%、バイアウト投資では20-25%程度のIRRが目安とされる。
早期回収の重要性
- 同じ総リターンでも、早期に回収できる案件の方がIRRは高くなる。
- これにより、短期的な収益性と長期的な成長性のバランスを評価できる。
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買収価格の妥当性評価
IRRは、M&Aにおける買収価格が適切かどうかを判断する際に重要な役割を果たします。
価格交渉のツール
- 買収側は、目標IRRを達成できる最大買収価格を算出し、交渉の上限として活用する。
- 譲渡側は、自社の将来キャッシュフロー予測に基づいて、適正なIRRを示す価格を提示できる。
シナリオ分析
- 楽観的、中立的、悲観的な複数のシナリオでIRRを計算し、リスク評価を行う。
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イグジット戦略の検討
PE(プライベートエクイティ)ファンド等がM&A後の出口戦略を検討する際に、IRRは重要な指標となります。
最適な売却タイミング
- 保有期間とイグジット時の想定企業価値を変えてIRRをシミュレーションし、最適な売却タイミングを探る。
複数のエグジットオプションの比較
- IPO、戦略的売却、セカンダリーバイアウトなど、異なるエグジットオプションのIRRを比較評価する。
ファンドレイジングの指標
PEファンドやベンチャーキャピタルにとって、IRRは重要な営業ツールとなります。
投資家への説明
- 過去の投資実績のIRRを示し、新規ファンドの期待リターンを説明する。
- 例えば、「過去5年間の平均IRRは30%であり、新ファンドでも同等のリターンを目指す」など。
ファンド間比較
- 投資家は異なるファンドのIRRを比較し、投資先を選定する。
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事後評価
M&A実行後の実績評価にもIRRは活用されます。
計画と実績の比較
- 買収時に想定したIRRと実際のIRRを比較し、パフォーマンスを評価する。
経営陣の評価指標
- IRRを経営陣の業績評価やインセンティブ設計に組み込む企業もある。
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IRR活用の留意点
IRRは有用な指標ですが、以下の点に注意が必要です。これらの限界を踏まえ、NPV(正味現在価値)やマルチプル(投資倍率)など、他の指標と併用することが推奨されます。
- 規模の考慮: IRRは相対的な収益率を示すため、投資規模の絶対額は反映されない。
- 再投資の仮定: IRRは中間キャッシュフローが同じIRRで再投資されると仮定しているが、現実的でない場合がある。
- 複数の解: 特定の条件下では、IRRが複数存在したり、存在しない場合がある。
- 長期プロジェクトの評価: 非常に長期のプロジェクトでは、IRRの信頼性が低下する。
M&AにおけるIRRの活用は、財務的な側面だけでなく、戦略的な意思決定プロセス全体に影響を与える重要な要素です。適切に理解し活用することで、より洗練されたM&A戦略の立案と実行が可能となります。
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IRRとNPVの違い
IRRと似た概念であるNPV(正味現在価値)について解説します。
NPV(正味現在価値)とは
NPV(Net Present Value)は、「エヌピーブイ」と読み、正味現在価値と訳されます。投資する事業が生み出すフリーキャッシュフローの現在価値(DCF)の総和で、投資を決定するための評価指標のひとつになります。一般的に、NPV>0以上であれば、投資を実行する判断をくだすことが多いです。
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NPVの計算方法
NPVは、投資する事業がプロジェクト期間において、生み出すキャッシュフローの現在価値の総和として算出され、以下の計算式を用いて求めます。
NPV = C₀+C₁/ (1 + r)+C₂/ (1 + r) ^2+C₃/ (1 + r) ^3+・・・+Cn/ (1 + r) ^ⁿ
C0:初期投資額 Ct:本投資が生み出す各期のキャッシュフロー(t=1,2,3,…,n) r:割引率
NPVの定義式でNPV=0となる割引率rの値が、IRR(内部収益率)になりますので、基本的な数式構造は同じになります。NPVは、その事業、プロジェクトから生み出されるフリー・キャッシュフロー(FCF)の現在価値の総和を求めるもので、この式で算出されるNPVが大きいほど生み出す価値が大きくなります。また会計方針や資金調達方法などの違いに影響を受けず比較することができます。 NPV算出のためには、各年度のFCFとプロジェクト期間、そして割引率を決定する必要があります。割引率には、一般的にWACC(加重平均資本コスト)を採用します。WACCを採用ことでリスクを反映することができますので、定量的な評価が可能となります。
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IRRとNPVの違い
IRRとNPVの主な違いは以下の通りです。
定義と計算方法
IRRとNPVは、投資プロジェクトの評価に用いられる重要な財務指標ですが、その定義と計算方法に大きな違いがあります。
IRR (内部収益率)
- 投資によって得られる将来キャッシュフローの現在価値と投資額が等しくなる割引率
- NPV=0となる割引率を求める
NPV (正味現在価値)
- 投資によって得られる将来キャッシュフローの現在価値から初期投資額を引いた値
- 一定の割引率を用いて計算する
評価基準
IRRとNPVは、投資プロジェクトの採否を判断する際に異なる基準を用います。
IRR
算出されたIRRがハードルレート(要求収益率)を上回れば投資価値ありと判断
NPV
NPVがプラスであれば投資価値ありと判断
特徴
IRRとNPVはそれぞれ異なる特徴を持っており、これらの特徴が両指標の長所と短所につながっています。
IRR
- 収益率で表されるため、異なる規模の投資案件を比較しやすい
- 投資規模の違いを反映しないため、収益額の大小を判断できない
NPV
- 金額で表されるため、投資による価値創造の絶対額を把握できる
- 異なる規模の投資案件を比較する際に注意が必要
使用場面
IRRとNPVは、それぞれ異なる状況下で利用されます。
IRR
- 複数の投資案件の収益性を比較する際に有用
- 資本制約がある場合の投資判断に適している
NPV
- 企業価値最大化の観点から投資判断を行う際に適している
- 資本制約がない場合の投資判断に適している
留意点
両指標にはそれぞれ長所・短所があるため、投資判断の際には両方を考慮し、状況に応じて適切に使い分けることが重要です。また、他の定性的な要因も含めて総合的に判断することが望ましいでしょう。
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M&AにおけるIRRと計算方法のまとめ
本記事では、IRRの概要や計算方法、メリット・デメリット、NPVとの違いについて詳しく解説しました。IRRは、収益性の高い投資を見つけるうえで有益なツールです。デメリットや注意点を考慮しながら、効果的に活用していきましょう。これにより、M&A等の投資判断の精度が向上することでしょう。
みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社として15年以上の業歴があり、中小企業M&Aに特化した経験実績が豊富なM&Aアドバイザーが多数在籍しております。みつき税理士法人と連携することにより、税務面や法律面のサポートもワンストップで対応可能ですので、M&Aをご検討の際は、成功するM&A仲介で実績のある、みつきコンサルティングに是非ご相談ください。
著者
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ヘルスケア分野に関わる経営支援会社を経て、みつきコンサルティングでは事業計画の策定、モニタリング支援事業に従事。運営するファンドでは、投資先の経営戦略の策定、組織改革等をハンズオンにて担当。東南アジアなど海外での業務経験から、クロスボーダー案件に関しても知見を有する。
監修:みつき税理士法人
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