ライザップによるM&Aの戦略とは|M&Aの事例、赤字に陥った理由も解説

ライザップは、パーソナルトレーニングジム「RIZAP」を展開しており、テレビや雑誌などで知っている人も多いでしょう。積極的なM&A戦略によって急成長を遂げたライザップですが、その後、大幅な赤字を出したことで、注目を集めました。この赤字は、さまざまな企業へのM&Aにより経営が圧迫されたことが要因の1つです。

この記事では、ライザップによるM&Aの戦略について解説します。M&Aの事例や赤字に陥った理由も解説しているため、参考にしてください。

ライザップ(RIZAP)とは

ライザップ(RIZAP)とは、パーソナルトレーニングジム「RIZAP」として多くの人に知られており、RIZAPグループ株式会社が正式名称です。ライザップの前身は、健康食品の通信販売会社で、健康・美容関連、アパレル、出版など、さまざまな企業をM&Aにより子会社化し、急成長しました。

ライザップのM&A戦略とは

ライザップは、一体どのようなM&A戦略を行っていたのでしょうか。ここでは、ライザップのM&A戦略について解説します。

PMI(統合プロセス)に注力する

ライザップのM&Aは、経営不振の企業などを譲受することによって立て直し、業績向上を目指す戦略が特徴です。M&A後の統合戦略を実施する責任者を明確にし、M&Aをする前から十分な準備を行うなど、M&A後の経営統合作業であるPMI(統合プロセス)に注力しました。

マーケティング力を活用する

ライザップは、マーケティング力を活用して、譲受企業の商品やサービスを周知させる戦略を得意としています。前身の通信販売事業でのノウハウや、譲受したメディア関連企業を活用し、売上向上を目指しました。特に、テレビCMや折込チラシなど、大規模な広告宣伝の実施により、多くの顧客にアピールしたのが特徴です。

ライザップのM&Aの事例10選

ライザップのM&Aは、多くの企業を子会社化(事業承継)したのが特徴です。ここからは、ライザップのM&Aの事例を紹介します。

株式会社ジャパンギャルズ

ライザップの前身である「健康コーポレーション株式会社」によって、2007年1月に株式取得により子会社化された「株式会社ジャパンギャルズ」の事例です。「株式会社ジャパンギャルズ」の主な事業内容は、美容機器、化粧品の製造、OEMの製造販売となっており、豊富な実績と多くの特許を取得しています。また、ライザップの子会社「BRUNO株式会社」によって、2023年7月に子会社化されました。

※参照|当社子会社(BRUNO株式会社)の株式会社ジャパンギャルズの株式取得(子会社化)による美容家電分野への本格参入に関するお知らせ

株式会社エンジェリーベ

「健康コーポレーション株式会社」と連結子会社であった「株式会社エンジェリーベ」が、株式取得により2013年5月に子会社化されました。「株式会社エンジェリーベ」は、マタニティ関連用品の店舗・通信販売会社であり、2018年3月には、類似ジャンルを扱う「マルコ株式会社」に譲渡されています。

※参照|連結子会社株式の追加取得による完全子会社化に関するお知らせ

イデアインターナショナル(現・BRUNO株式会社)

2013年9月に第三者割当増資の引受けにより、子会社化されたのが「イデアインターナショナル」です。「イデアインターナショナル」は、インテリア・キッチン雑貨、化粧品などを取り扱っており、2021年10月に「BRUNO株式会社」に社名変更しています。

※参照|株式会社イデアインターナショナルの第三者割当増資の引受け及びそれに伴う子会社の異動の完了に関するお知らせ

夢展望株式会社

2015年3月に「イデアインターナショナル」と同様に、第三者割当増資の引受けにより、子会社化したのが「夢展望株式会社」です。「夢展望株式会社」は、若い世代向けのアパレル小売企業で、女性をターゲットとした衣料品販売がコア事業となっています。

※参照|夢展望株式会社の第三者割当増資の引受け及びそれに伴うによる子会社の異動の完了に関するお知らせ

マルコ株式会社(現・MRKホールディングス株式会社)

2016年7月に、「イデアインターナショナル」と同様に第三者割当増資の引受けにより、子会社化したのが「マルコ株式会社」です。「マルコ株式会社」は、体型補正下着の販売を行っており、2018年10月には「MRKホールディングス株式会社」に社名変更しています。

※参照|マルコ株式会社の第三者割当増資の引受け及びそれに伴う子会社の異動の完了に関するお知らせ

株式会社ジーンズメイト(現・REXT株式会社)

「株式会社ジーンズメイト」は、2017年2月に株式の公開買付けによって子会社化されました。2022年6月に「REXT株式会社」に社名変更しており、M&A後に黒字化している点が大きな特徴です。

※参照|株式会社ジーンズメイト株式(証券コード 7448)に対する公開買付けの結果 及び連結子会社の異動に関するお知らせ

株式会社ぱど

2017年3月に、第三者割当増資の引受けにより子会社化した「株式会社ぱど」です。フリーペーパー発行が、コア事業のジャスダック上場子会社である「株式会社ぱど」は、2019年11月に個人投資家に譲渡されました。

※参照|株式会社ぱどとの広告出稿業務委託契約に関するお知らせ

堀田丸正株式会社

和装品などの卸売会社「堀田丸正株式会社」は「株式会社ぱど」に引き続き、2017年6月に第三者割当増資の引受けにより子会社化されました。

※参照|堀田丸正株式会社の第三者割当増資の引受け及びそれに伴う子会社の異動の完了に関するお知らせ

株式会社サンケイリビング新聞社

2018年3月に株式取得により、連結子会社化した「株式会社サンケイリビング新聞社」です。「株式会社サンケイリビング新聞社」は、日本全国の都市圏でフリーペーパーを発行する会社であり、同じくライザップの子会社「株式会社ぱど」との事業統合が進められています。

※参照|株式会社サンケイリビング新聞社の子会社化及び今後の方針のお知らせ

株式会社湘南ベルマーレ

2018年4月に出資により経営権を取得し、子会社化したのが「株式会社湘南ベルマーレ」です。「株式会社湘南ベルマーレ」の子会社化は、美容・健康関連事業の成長戦略の一環として行われました。日本プロサッカーリーグ加盟クラブ「湘南ベルマーレ」もライザップ傘下であり、傘下に入ったことによって消滅の危機を脱したのが特徴です。

※参照|湘南ベルマーレの経営権取得と今後の方針のお知らせ~RIZAP グループ サッカーJ1リーグに参入~

ライザップが進めたM&A戦略の結果

ライザップが進めたM&A戦略は、PMI(統合プロセス)の徹底による短期間での業績改善と大規模な広告戦略です。戦略によって、ライザップの子会社は最大で85社にまで達し、短期間で傘下を増やすことによって急成長を果たしたのが特徴です。しかし、譲受した企業の立て直しがスムーズに進まず、2019年3月期には193億円の赤字を出す結果となりました。

※参照|2019年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)

ライザップがM&Aに失敗した原因とは

ライザップは、M&A戦略によって短期間での急成長を実現したものの、大きな赤字を出す結果となりました。ここからは、ライザップがM&Aに失敗した原因について解説します。

「負ののれん」を利益計上していたため

M&Aに失敗した原因は、「負ののれん」を利益計上していたためです。のれんとは、譲受価格から時価純資産額を引いたものを指します。のれんがマイナスの場合、「負ののれん」として特別利益に計上できることもポイントです。しかし、「負ののれん」を利益計上することで、利益のかさ増し状態だったことが失敗の原因となっています。

譲受企業の立て直しができなかったため

譲受企業の立て直しができなかったことも、M&Aに失敗した原因の1つです。元々赤字だった企業を譲受して、立て直しを図ったため、M&A後に赤字の改善や利益の拡大に多くの時間を要しました。しかし、M&Aに着手した企業数が多かったため、立て直す時間が不足し、短期間での利益向上に失敗しました。

異業種の企業のM&Aを進めたため

M&Aの失敗の大きな原因としても考えられるのが、異業種企業へのM&Aです。M&Aは、類似ジャンルの企業を買収することによって、シナジー(相乗効果)を期待する戦略が一般的です。しかし、ライザップは異業種の企業のM&Aを進めた結果、シナジー(相乗効果)を得ることができずに、失敗に終わりました。

現在ライザップが進めている事業戦略

ライザップの主なグループ企業は、2023年9月現在で26社となっています。主に、美容・ヘルスケア事業、ライフスタイル事業を柱とした事業を取り扱っているのが特徴です。

会社概要 | RIZAP GROUP[ライザップグループ]

美容・ヘルスケア事業

ライザップグループでは、パーソナルトレーニングジム「RIZAP」、コンビニジム「chocoZAP」の運営がメイン事業です。また、体型補正下着、美容関連用品、健康食品などの美容・ヘルスケアに関する商品を取り扱っています。

ライフスタイル事業

メイン事業に加えて、エンターテインメント商品、インテリア雑貨、アパレル、スポーツ用品などの事業にも注力しており、リユース事業の店舗運営や住宅・リフォーム事業も手がけています。これらの事業は、「REXT株式会社」「夢展望株式会社」「株式会社アンティローザ」などの子会社を活用することで、事業の安定化を図っているのが特徴です。

インベストメント事業

グループ会社間でのシナジー(相乗効果)を支える機能会社への注力も、ライザップの事業戦略の特徴です。シナジー(相乗効果)を最大限に発揮することで、収益の安定化を目指すことを目的としています。ライザップの子会社では、「株式会社サンケイリビング新聞社」「堀田丸正株式会社」「株式会社湘南ベルマーレ」などが該当します。

まとめ

ライザップは、さまざまな企業にM&Aを行ったことによって、短期間での急成長を実現しました。しかし、M&A後の立て直しや異業種の企業へのM&Aなどが原因で、失敗したことで知られています。M&Aは、類似ジャンルの企業を取り込むことでシナジー(相乗効果)を発揮し、事業の立て直しや収益の安定化を目指す戦略です。

また、M&Aを実施する際は、買収先の選択や買収後のPMI(統合プロセス)が重要となります。M&Aの失敗を防ぐためには、専門家によるサポートを受けることもおすすめです。M&Aについてのご相談は、税理士法人グループのみつきコンサルティングにお任せください。 みつきコンサルティングでは、経営コンサルティング経験者も多く在籍しており、対象企業の詳細な事業分析を実施したうえで、シナジー創出が見込める候補先を紹介しております。

著者

西尾崇
西尾崇事業法人第三部長
宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。
監修:みつき税理士法人

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