運送業2024年問題への対応策|M&Aによる変化と未来・注意点

ドライバー不足が深刻な運送業界を「2024年問題」が直撃しています。本記事では、その現状や対応策を説明します。また、活発化するM&Aの現状についても紹介します。

運送業界の2024年問題とは? 

働き方改革関連法により2019年から残業時間に上限が設定されました。運転手、医師、建設業は一時的に適用を延期されましたが、2024年4月からこの規制が開始されています。ドライバーについては年間960時間までという制限が適用されます。

トラック運転手の労働時間は全産業平均と比べて2割も長く、年間2500時間を超えていました。新しい規制により、東京から九州といった長距離輸送を1人の運転手が担当することが困難になります。この影響で物流業界の輸送能力が低下し、荷物の運搬に支障が出る可能性が「2024年問題」として注目されています。

ドライバー不足が深刻な運送業界 

全日本トラック協会によると、トラックドライバーの年間所得額は全産業と比較して、大型トラック運転者で約5%、中小型トラック運転者で約12%低いという統計が発表されています。この統計から見ると、Amazon社などによる流通量の急増が常態化する前からの状況です。インターネットを通したECなどの発送料は高まっているため、取扱発送量は減少していないと考えられます。可能性が高いのは発送コストの抑制と、流通における間接コストの増加です。 

トラック運転手の年間労働時間の推移
トラック運転者の年間労働時間の推移

出典:厚生労働省 

このような状況が常態化するにともない、慢性的なドライバー不足問題が発生しています。比例して離職も多くなっていくでしょう。以下の統計は、トラック運転者の有効求人倍率です。 

トラック運転者の有効求人倍率の推移
トラック運転者の有効求人倍率

出典:厚生労働省(作成は国土交通省) 

もともと平均とあまり差の無かったトラック運転者の有効求人倍率は、平成22年前後から全業種の平均を上回りはじめ、令和に入るころには全職種平均より約2倍程度失業率が高いという差が生じます。当然ながら就業希望者がすぐに戦力になるものではありません。大型免許の取得もあれば、運転のノウハウ取得も一定の時間がかかるでしょう。トラックドライバーの就業環境悪化は、業界内だけでなく社会に様々な悪影響を及ぼします。 

就業中の事故の多発 

就業中の事故はトラックだけではなく、一般車両を巻き込む危険性があります。また事故により横転したトラックは高速道路などの通行止めを長引かせるため、経済活動に支障が出ます。 

輸送時間の長時間化 

輸送の担い手が不足することで、輸送時間の長期化が懸念されます。ECやネットスーパーなどのサービスを利用する際の発送作業に時間がかかると、直接お店に行った方が早いとユーザーが判断し、そもそものサービス価値が棄損します。また、万が一輸送中に事故が発生すると輸送が滞るばかりか、輸送業者ではなく発送元が事故を起こした、と報じられることもあるようです。これらのブランドイメージから輸送業者を自社専門にするなどの策を講じているところもありますが、なかなか全体には広がりません。 

そんななか抜本的な改善策として期待されているのが、2024年に施行される働き方改革関連法の運送業界への適用です。主に年間における自動車運転業の時間外労働時間が960時間に制限されます。運送業界の環境改善が大きく期待される一方で、大きな問題が生じることが懸念されています。いわゆる運送業界の2024年問題です。

2024年問題による影響

この2024年問題によって、いくつかの影響が考えられます。 

ドライバーや運送業者の収入減少・サービスの低下 

現状と比較してドライバーの労働時間が制限されることによる収入減少です。制限された労働時間のなかで他の収益獲得策も考えられないため、ドライバー自身の収入はもとより、運送会社にとっても著しい収益減少が懸念されています。利用者にとっても時間指定が断られたり、再配達や転送が利用しづらくなるといった懸念点が指摘されています。 

荷主が支払う運賃の上昇 

ECなどの増加で増え続ける依頼数に応えるため、運送会社が値上げを決断する可能性もあります。その影響は甚大で、運送会社の利用を前提としてビジネスモデルを組んでいる事業者の収益悪化を招くケースも多くあるでしょう。距離の長い輸送や離島輸送となると、輸送量だけで2倍以上となる可能性もあり、地元経済への悪影響も懸念されます。業者によってはこれまでサービスとして行われてきた職場や家庭などの引き取りサービスにも影響が出るかもしれません。 

時間指定対応や再配達への対応鈍化 

前述の通り現状ドライバーには月の労働時間制限は設けられません。ただ各事業者では労働時間制限を自発的に任せた結果、お歳暮やクリスマス商戦の繁忙期でもある12月に皺寄せするリスクがあります。それよりも月次や一定期間内での管理が強化され、ドライバーによっては時間指定対応や再配達への依頼が難しくなる事情も発生するでしょう。また、これらの管理コストが増大することにより、より事業者における間接コストが増し、荷主の依頼に影響するという循環も想定されます。 

2024年問題への対応策

運送業界における2024年問題への主な対応策として、以下のようなものが挙げられます。

ドライバーの待遇改善と業務効率化

給与体系の見直しや週休2日制の導入、年次有給休暇の取得促進などにより、労働環境を改善し、ドライバーの確保と定着を図ることが考えられます。

トラック運転手の確保が難しい現状で、従来の物流網を維持するには新たな工夫が必要です。特に注目すべきは積載率です。現在の国内平均は約4割と低く、この数値を上げることが重要な課題です。解決策として、複数の企業による共同輸送やトラックの大型化で輸送効率を向上させる方法が有効とされます。

  • 予約システムの導入や出荷・受入れ体制の見直しにより、荷待ち時間を削減する
  • パレット化による手荷役作業の削減
  • 情報の共有化、DXによる業務効率化
  • 長距離輸送は中1日を空け、満載での効率的な輸送を行う
  • 航空便の活用など、トラック以外の輸送手段も検討する
  • AIを活用した配送ルート最適化システムの導入
  • ラストワンマイルの詳細なナビゲーションシステムの活用
  • クラウド型車両管理システムの導入による運行管理の効率化

荷主との協力

2024年問題の解消には、運送会社の自助努力だけでは限界があり、荷主の理解と協力も欠かせないと考えられます。

  • リードタイムの延長を交渉する
  • 荷主に対して、物流にとって負担となる「荷待ち時間の発生」「不可抗力な遅延への罰則」「無理な依頼」をしないよう理解を求める

消費者の理解促進

我々、運送サービスの受益者も、「置き配」の促進など、再配達を減らす取り組みへの協力が大事で、その呼びかけが必要でしょう。

運送業界におけるM&A

運送業界では、年々M&Aが活発化しています。その背景や今後について見ていきます。

M&Aが運送業界にもたらした変化

M&Aを通じて、運送業界は大きな変化を遂げています。譲受企業は、M&Aにより企業規模を拡大し、業界における競争力の強化を図っています。また、経営資源の共有や運営ノウハウの融合により、新たなサービスが生まれ、業界全体の効率化が促されることも期待されています。さらに、労働力不足が業界課題となっている運送業界において、M&Aを通じた人材確保や効率的な人材配置により、労働環境の改善に繋がることが期待できます。

効果的な経営資源の活用

運送業界におけるM&Aでは、経営資源の効果的な活用が求められます。M&Aを通じて、譲渡側・譲受側両者の既存の経営資源を上手に活用することで新規事業の展開や、自社が抱える課題解決が期待できます。また、資本・技術の活用で、効率的な運営や業務改善が実現できれば、自社の企業価値の向上が期待できるでしょう。さらに、経営の安定化、事業運営リスクの軽減などの効果も見込めます。

人材や技術の獲得

運送業界におけるM&Aの目的のひとつが、人材や技術の獲得です。ドライバーや運航管理者などの貴重な人材を確保し、長期的な事業拡大を図ることができます。また、先端技術を持つ企業との経営統合は、運営システムの改善や業務の効率化に繋がります。これらの要素を上手く組み合わせることで、運送業界全体が発展し、業界での競争力を高めることが期待されています。

M&Aがもたらす運送業の未来

運送業界における、M&Aによる異業種間の連携や規模の拡大は、サービスの質や業務効率の向上、物流網の拡充・国内の新たな市場開拓などが促進され、さらなる成長が期待されています。また、M&Aが後継者不在や人材不足などの課題解決策として、運送業界全体の安定につながることが期待されます。これらにより運送業界の継続的な発展と将来的な業界構造の変化へも柔軟に対応できる環境を整えることができるでしょう。

環境や労働改善へ取り組み

運送業界におけるM&Aは、環境対策や労働改善への取り組みを促進するチャンスでもあります。M&Aによる連携によって、燃費の良い車両の導入、運行管理システムの改善など、環境負荷の低減を図ることが可能です。さらに、労働改善に関しては、働き方改革や長時間労働の見直し、ドライバーや運行管理者の待遇改善など、運送業界の労働環境全体の向上が期待できます。このような改善により、運送業界の持続的な成長を促進し、社会的な信頼性をより高めることができるでしょう。

IT技術を活用した運送サービスの拡大

近年のIT技術の進化は、運送業界にも大きな影響を与えています。具体的には、効率的な運送ルートの構築や適切な人材配置が可能となり、サービスの拡充と品質の向上を実現しています。

例えば、自動車やトラックにGPSやセンサーを取り付けることで、車両の位置情報や運行状況をリアルタイムで把握することが可能となり、急な取引先の要望にも対応が可能となると共に、車両の運行管理もできることでドライバーの負担軽減にも繋がっています。また、倉庫内での在庫管理もIT技術の導入で、効率化が進み、無駄な時間を削減できるようになってきました。

グローバル化に対応した運送業の変容

グローバル化が進む世界で、運送業界も国内外への対応が求められるようになりました。各運送会社は、運送ニーズの多様化に伴い、自社の事業構造を再構築し、グローバル市場への対応に力を入れる企業も増えております。

グローバル化に対応するため、海外における拠点や人材確保を目的としたM&Aも実施されております。日本国内から国外への輸送サービスのみならず、輸送国における国内の運送サービスにも対応するため、体制構築を進める企業も増えております。加えて人口が減少傾向にある日本において、運送市場が縮小傾向に陥った際のリスクヘッジとして、新たな市場開拓を目的として海外進出を進める企業も出てきており、動向が注目されています。

運送会社がM&Aする際の注意点

運送業界におけるM&Aは、企業規模の拡大や事業拡大を実現する手段として注目されています。ただし、M&Aを成功させるためには、事前に注意すべきポイントがいくつかあります。

まず、運送業界のM&Aでは、設備や不動産など保有資産の評価が重要です。譲渡対象企業が保有する、車両や倉庫設備の状況を把握し、車両置き場や倉庫など所有する不動産の適切な価格を算定することが求められます。また、長時間労働など労働環境やサービス残業の有無など従業員の待遇についてもチェックすることが重要です。

さらに、M&A実行の際に、運送業界における法的な論点も確認してください。事業譲渡や株式譲渡など、選択したM&Aスキームにより、譲受する権利や義務が異なるため、M&A検討段階から法務の視点を重視した検討も忘れずに行うようにしましょう。

最後に、自社のM&A戦略を明確にし、自社のM&A戦略を実現するべく、M&A後のPMI(統合プロセス)を円滑に実行できるよう準備を整えることも大切です。

事業承継のタイミングと交渉

他業界と同じく運送業界においても、事業承継のタイミングは経営者にとって重要な課題です。事業承継のタイミングを見極める際には、自社の経営状況や業界動向、日本の経済状況などを鑑みる必要があります。

社内に後継者がいない場合、M&Aを活用し第三者に譲渡することにより、後継者不在課題を解決することも一つの選択肢です。M&Aを活用する際は、自社の業績が良い時期に検討する方が、譲受候補先の選定やM&Aの条件や取引金額の交渉を有利に進めることができます。事業承継をご検討になられる際には、自社の経営状況を把握している顧問税理士やM&Aの専門家であるM&A仲介会社に相談することをお勧めします。

後継者や労働条件の確認

M&Aにおいては、次期後継者の能力や現在の労働条件の確認が重要なポイントとなります。まず、次期後継者については、方針やビジョンが譲受側の経営方針と一致しているか、従業員と円滑にコミュニケーションが取れるかなどを確認することが不可欠です。また、労働条件については、現在の従業員を継続して雇用することができる状況か、新たな労働条件や給与体系が適切かどうかを検討し、運送業界で働くドライバーや運航管理者などから不満が出ないような対応をすることが重要です。

M&A後の経営戦略立案

M&A完了後に向けた新たな経営戦略の立案が不可欠です。経営戦略策定の際は、従来の運送事業に加えて、物流や倉庫管理など付加価値サービス提供を検討することが望ましいでしょう。これにより、取引先へのサービス拡充が可能となり、業界における競争力向上が期待できます。また、IT技術や自動化技術の活用は、業務の効率化や労働環境負荷の低減を図り、自社の経営基盤強化・労働環境の改善などが期待できます。

運送業界のM&A事例

運送業界のM&A事例として、運送会社Aが運送会社Bを譲受し、共同で経営資源を活用した結果、業務改善がみられました。また、運送会社Cが倉庫管理会社Dを譲受し、顧客の物流コスト削減に繋がるサービス展開に成功しています。

これらの事例は、運送業界におけるM&Aが、新たな価値創造や競争力向上に寄与していることを示しています。また、他企業の実績や事例を参考に、最適な経営戦略及びM&A戦略を選定することをお勧めします。

物流会社のM&A件数の推移(2000年~2018年)
物流会社のM&A件数の推移(2000年~2018年)

出典:M&Aでみる日本の産業新地図 第171回物流業界(MARR Online)

成功事例から学ぶポイント

運送業界におけるM&Aの成功事例は数多くあります。成功事例の背景には、適切なサービス提供や効率的な物流管理、そして柔軟な対応力などが存在しており、これらの事例から学ぶことは、M&Aを活用した経営戦略の策定や事業拡大方針の検討に役立てることができます。

また、運送業界において、異業種による協業や連携によりM&Aを成功させた事例は数多くあります。このような協業は業務効率を向上させるだけでなく、新たな価値を創出することも期待できます。

さらに、中・小規模の運送会社同士のM&Aは、それぞれの企業が持つ強みと弱みを補完しあうことができ、効率的な事業運営により、大手運送会社との競争力を維持することも可能となります。

その他、M&A実施後の適切な組織体制や業務フローの構築、顧客ニーズへの的確な対応方法などを参考にしながら自社の経営戦略・M&A戦略を検討することをお勧めします。

JAL物流と東日本旅客鉄道の協業

JAL物流と東日本旅客鉄道は、それぞれが保有する物流ノウハウやインフラを融合することで、業界をリードする協業を実現しました。この協業により、貨物輸送の効率化や環境負荷の低減をはじめとする多くのメリットが生まれています。

具体的には、JAL物流が持つ航空輸送の強みであるスピードと範囲、東日本旅客鉄道が有する鉄道によるきめ細かい仕向け地の設定など、双方の強みを組み合わせることで、顧客からの物流ニーズに幅広く対応することが可能となりました。また、両社が保有する輸送ネットワークの統合は、運送コストの削減、さらなる物流効率の向上に寄与しています。

この成功事例から学べることは、異なる業界や分野間での連携が新たな価値創出のチャンスにつながるという点です。異業種も含め様々な業界との連携は、新しいビジネスモデルやサービスを展開することが可能となり、業界内での競争力を高めることが期待できます。

中・小規模運送企業の連携による運送効率の向上

中・小規模運送企業が相互に連携を図ることは、物流効率の向上や経営力の強化につながります。それぞれの企業が持つノウハウやリソースを共有し、相互に協力しながら業務を遂行することで、コスト削減やサービス品質の向上が期待できます。

実際に、倉庫や運行管理システムを共同で運営することで、効率的な物流管理や人材配置が可能となり、それぞれが得意とするエリアでの競争力を高めることで、地域密着型のサービスを展開することができます。また、中・小規模企業同士の連携は、お互いの強み・弱みを補完することができ、大手企業との競争力向上にもつながります。

この事例を参考に、自社との相性が良さそうな相手先を見つけ、連携を検討してみることをお勧めします。共同で課題解決に取り組み、継続的な成長を目指すことで事業の拡大・サービス向上等を実現への道が開かれるのではと考えます。

運送業のM&Aのまとめ

運送業界においては、M&Aが益々活発化すると予想されております。これは、業界再編や企業規模の拡大、事業領域の拡充、人材確保等を図るための有効な手段として、多くの企業がM&Aを活用していることが要因となっています。運送業界のM&A事例を見ると、大手企業による中小企業の譲受が多く実施されており、大手企業は業務範囲の拡大や地域密着型サービスの強化を実現しています。一方で譲渡する中・小規模企業は、後継者問題の解決や人材不足解消・労働環境の改善が実現し、譲渡側・譲受側お互いにメリットを享受することができています。

運送業界のM&Aをご検討の際は、「みつきコンサルティング」にお任せください。運送業界における豊富なM&A支援で培ってきた業界知識を活用し、全力でお手伝いさせて頂きます。また、税理士法人グループを母体とした会計系M&A仲介会社ですので、M&A後の相続対策などもワンストップで対応させて頂きます。

著者

潟野和徳
潟野和徳名古屋法人部長
人材支援会社にて、海外人材の採用・紹介事業のチームを率いて新規開拓・人材開発に従事。みつきコンサルティングでは、強みを生かし人材会社・日本語学校等の案件を中心に工事業・広告・IT業など多種に渡る案件支援を行う。
監修:みつき税理士法人

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