介護事業を売却するには|指定の引継ぎ方と人員基準、M&A事例

介護事業の売却は、株式譲渡なら事業所指定を保ったまま、利用者と職員の暮らしを止めずに進められます。評価を分けるのは、入居率や稼働の推移、処遇改善加算の区分、運営指導への備え。後継者不在やヘルパー不足、有料老人ホームの登録制の創設に悩むオーナーに向けて、手法の選び方と評価の勘所を、岩手の認知症グループホームの成約事例とともに解説します。

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目次
  1. 倒産176件とヘルパー不足、介護事業者が直面する経営の壁
    1. 2025年の介護事業者の倒産は過去最多、グループホームも増加
    2. 夜勤体制から登録制まで、売却を後押しする介護ならではの事情
  2. 事業所指定を残すか取り直すか、介護事業の売却手法の選び方
    1. 株式譲渡なら事業所指定も職員の雇用もそのまま
    2. 事業所単位で切り出す事業譲渡と指定の取り直し
    3. 会社分割・合併の扱いとサービス付き高齢者向け住宅の登録
  3. 入居率と処遇改善加算の区分、介護事業の買い手評価を動かす数字
    1. 年買法で考える介護事業の値付けと資産の持ち方
    2. 居住系・通所系・訪問系で異なる、評価の物差し
    3. 紹介元のケアマネジャーや病院とのつながりを保つ備え
  4. 遠方の介護グループや医療法人が手を挙げる理由、介護事業の譲受企業の類型
    1. 施設網を広げたい同業の介護グループと総量規制
    2. 退院後の受け皿を求める医療法人と訪問看護・調剤薬局
    3. サ高住の不動産会社から保険会社まで、介護に参入する異業種
  5. 運営指導の記録と加算の算定根拠、介護事業のデューデリジェンス
    1. 人員基準と加算の記録、返還につながる不備の点検
    2. 処遇改善加算の実績報告とBCP未策定減算
    3. 夜勤の仮眠時間と訪問介護の移動時間に潜む未払い
  6. 人口減少と後継者不在に向き合った、岩手の認知症グループホームの売却事例
    1. 親族にも現場にも託せる人がいなかった
    2. 会社の将来像を具体的に語った譲受側の社長
    3. 引継ぎ期間も現場に立ち続けて
  7. 人材定着と稼働率の壁に向き合い介護施設運営事業を売却した建築会社の事例
    1. 地主への土地活用提案から始まった介護事業の重荷
    2. 地域づくりへの共感が同県の介護事業者との再交渉を後押し
    3. 入居者・従業員との契約を巻き直し建築と不動産へ経営資源を集中
  8. 消防設備の確認を越えて道内同業へ託した障害者グループホームの事例
    1. 代表者の高齢化と一度白紙に戻った後継者探し
    2. 利用者本位の方針と雇用維持で一致した相手
    3. 顧問として説明に加わった売却後
  9. 介護事業の会社売却に関するFAQ
  10. 介護事業の指定承継と売却相談先選び
    1. 介護事業の会社売却の関連コラム
M&Aの基本や会社売却の進め方を電話相談|0120-169-256・24時間受付

夜勤を担える職員が1人辞めれば、グループホームのシフトはたちまち組めなくなります。介護事業の会社売却では、こうした人員基準との綱渡りに加え、事業所指定の承継や処遇改善加算の要件、入居一時金の返還債務といった、介護の制度ならではの論点が交渉の行方を左右するもの。訪問介護などの事業所や介護施設を運営するオーナー経営者に向けて、実務で問われる点と備え方を掘り下げます。

倒産176件とヘルパー不足、介護事業者が直面する経営の壁

要介護者は増え続けているのに、市場から退く事業者も後を絶ちません。単独での運営に区切りをつける手段として、M&Aに目を向ける経営者が増えています。

2025年の介護事業者の倒産は過去最多、グループホームも増加

東京商工リサーチの調査(2026年1月公表)によると、2025年の老人福祉・介護事業の倒産は176件で、2年連続で過去最多を更新しました。内訳は訪問介護が91件で3年連続の最多、通所・短期入所が45件、有料老人ホームが16件。前年に2件だった認知症グループホームも9件に増えています。人手不足による倒産も29件と過去最多に。8割は従業員10人未満の小規模な事業者で、再建を目指さない消滅型が大半を占めます。需要があっても人を集められなければ事業は続かない、という実情がにじむ数字です。

夜勤体制から登録制まで、売却を後押しする介護ならではの事情

譲渡の相談で、理由が後継者不在だけというケースは多くありません。親族や社内に継ぎ手がいないところへ介護特有の事情が重なり、第三者への事業承継を考え始める例が目立ちます。

訪問介護のヘルパー高齢化と基本報酬の引下げ

訪問介護は、利用者の自宅を1人で訪ねるヘルパーに支えられています。担い手の高齢化が進むなか若い世代の応募は少なく、ヘルパーが辞めれば受けられる訪問の枠もそのまま減る構図です。2024年度の介護報酬改定では基本報酬が引き下げられ、移動距離の長い地方の事業所ほど採算は厳しくなりました。採用や研修を本部が担う大手グループの傘下に入る道が、有力な選択肢に。

夜勤体制を支える職員とグループホームの人員基準

認知症グループホームには、ユニットごとに夜勤の職員を置く基準があります。地方では人口減少で採用がいっそう難しく、派遣に頼れば人件費はかさむばかり。厚生労働省は、2026年度に約240万人の介護職員が必要になると推計しました。2022年度の215万人から約25万人の上積みです。1人の退職が基準割れに直結する施設ほど、人材を融通し合えるグループへの合流が現実味を帯びます。

処遇改善加算の上位区分に求められる生産性向上と協働化

2026年6月施行の報酬改定で、処遇改善加算は介護従事者全体に月1.0万円の賃上げを見込む形に広がりました。生産性向上や協働化に取り組む事業者の介護職員には、月0.7万円の上乗せも。上乗せの加算Ⅰロ・Ⅱロは当面、ケアプランデータ連携システムへの加入、生産性向上推進体制加算の取得、社会福祉連携推進法人への所属のいずれかが要件です。ICT投資と事務を自前でまかなえるか。小規模な法人ほど重い問いです。

有料老人ホームの登録制と条例基準への備え

2026年6月に公布された社会福祉法等の改正法により、中重度の要介護者などを受け入れる有料老人ホームは、届出制から都道府県への登録制へ移ります。登録は5年ごとの更新制で、設備や運営には都道府県の条例で定める基準への適合が条件に。施行は公布から2年以内で、既存のホームには経過措置も設けられました。体制を整え直す負担が重いと感じるなら、施行前に運営を託せる相手を探すのも1つの道です。

▷関連:教育・福祉業界のM&A|少子化と介護報酬改定下の譲渡価格と事例

事業所指定を残すか取り直すか、介護事業の売却手法の選び方

介護の指定は、会社を売ったあとも使えるのでしょうか。答えは手法しだい。選び方を誤ると、報酬の請求が止まる空白が生まれかねません。

株式譲渡なら事業所指定も職員の雇用もそのまま

介護保険の事業所指定は、事業所ごとに運営する法人へ与えられるものです。株式譲渡なら法人そのものは変わらないため、指定も加算の届出も、職員や利用者との契約も続きます。代表者や管理者が替われば、変更から10日以内に指定権者へ届け出るのが基本。有料老人ホームの設置届も、代表者などの変更を届け出れば足ります。2026年公布の改正法による登録制では、設置法人が合併で消滅すると登録が効力を失う定めも置かれました。会社を残して経営者だけが交代する株式譲渡の利点は、今後いっそう大きくなるはずです。

事業所単位で切り出す事業譲渡と指定の取り直し

訪問介護だけ、グループホームだけを売り渡すなら、事業所や施設の単位で譲る事業譲渡が向いています。ただし指定は譲り渡せないため、譲渡側は廃止の1か月前までに廃止届を出し、譲受側が新たに指定を受けるのが原則。千葉県のように、申請を原則として毎月1日から15日に受け付け、翌月1日を指定日とする自治体もあります。グループホームや地域密着型通所介護は市町村が指定するため、公募で選ばれた経緯があれば事前の相談が欠かせません。職員の雇用や入居者の契約も、1人ずつ同意を得て結び直します。

2026年3月に当社が仲介した関東の案件では、建築業と兼営していた会社が、介護事業だけを同じ県内の介護事業者へ事業譲渡しました。建築・不動産は子どもたちが継ぐ一方、介護事業を継ぐのは難しいと判断した選択と集中です。職員や入居者との契約を個別に結び直す過程では、受け止め方に食い違いが生じる場面も。譲渡側の専務と譲受側の現場責任者が密に連絡を取り合い、運営を止めずに引き継ぎました。みつきコンサルティングでは、指定日から逆算して説明と再契約の日程を組み、請求の空白を作らない段取りを重視しています。

会社分割・合併の扱いとサービス付き高齢者向け住宅の登録

合併で指定を受けた法人が消える場合や、会社分割で事業所を別の法人へ移す場合も、指定を取り直す点は事業譲渡と変わりません。旧法人の廃止届と新法人の新規指定申請を一体で受け付けるなど、手続を簡素にした自治体もありますが、構図は同じです。一方、サービス付き高齢者向け住宅の登録は、登録事業の譲渡や合併・分割でも、地位を承継した旨を届け出る仕組み。社会福祉法人には株式がなく、合併か事業譲渡が中心になります。住宅と介護サービスで手続が分かれる点を、早めに見極めておきたいところです。

下表は、手法ごとに介護事業で生じる主な手続を比べたものです。細かな扱いは指定権者ごとに異なるため、所管の窓口への事前相談を前提にしてください。

手続の対象株式譲渡事業譲渡会社分割・合併
介護保険の事業所指定指定は続く
代表者・管理者などの変更は10日以内に届出
譲渡側は廃止の1か月前までに廃止届
譲受側が新規指定を受ける
法人が替わるため、旧法人の廃止届と新法人の新規指定申請
有料老人ホームの設置届・登録代表者などの変更を届け出る譲受側が設置者として届け出る
登録制の施行後は登録を受ける
登録制の施行後は、合併で設置法人が消滅すると登録が効力を失う
サービス付き高齢者向け住宅の登録登録事項に変更があれば届け出る地位の承継を届け出る地位の承継を届け出る
職員・利用者との契約会社に残り、そのまま続く1人ずつ同意を得て結び直す合併は包括的に承継
会社分割は分割契約に沿い、職員は労働契約承継法の手続を踏む

▷関連:サービス業のM&A|人手不足と許認可承継で変わる譲渡事例と相場

入居率と処遇改善加算の区分、介護事業の買い手評価を動かす数字

介護報酬は国が決める公定価格だから、どの事業所も値段は似たようなもの。そう考えるのは早計です。差がつくのは、報酬をどれだけ安定して得ているか。

年買法で考える介護事業の値付けと資産の持ち方

中小の介護事業で最もよく使われるのが年買法(年倍法)です。算式は時価純資産+のれんで、のれんには数年分の利益を充てるのが一般的。DCF法などは補助的に使われます。施設の土地と建物を自社で持つ介護付有料老人ホームなら、純資産が厚くなりがちです。建物を借りて営む訪問介護やデイサービスでは、利益の続きやすさがのれんの中身を占めます。同じ利益額でも、資産の持ち方しだいで価格の組み立てはまるで違ってくるもの。

居住系・通所系・訪問系で異なる、評価の物差し

施設を構える居住系や通所系は固定費が重く、稼働率の上下が利益を大きく動かします。訪問系は固定費が軽い半面、ヘルパーの人数がそのまま売上の天井に。収入の多くを介護報酬が占める点は共通でも、譲受企業が最初に確かめる数字はサービスの種類で変わってきます。下表は、主な4類型で見られる数字と、評価が上がりやすい状態・割り引かれやすい状態の例です。

サービス類型譲受企業がまず見る数字評価が上がりやすい状態割り引かれやすい状態
訪問介護ヘルパーの人数と年齢構成
月間の訪問回数
特定事業所加算の有無
常勤のサービス提供責任者が複数いて、登録ヘルパーも定着している社長や特定のヘルパーに訪問が集中し、併設住宅の入居者への訪問に偏る
通所介護(デイサービス)定員に対する1日平均利用者数
利用者1人あたりの単価
送迎の範囲
稼働が安定し、入浴介助や個別機能訓練の加算を算定している曜日ごとに空きが目立ち、紹介元の居宅介護支援事業所が限られる
認知症グループホーム入居率と待機者数
平均要介護度
夜勤体制と管理者の研修修了
待機者がいて、医療連携や看取りの体制が整っている夜勤を派遣に頼り、管理者や計画作成担当者の後任が見込めない
有料老人ホーム(介護付・住宅型)入居率と退去の理由
月額利用料の水準
建物の所有か賃借か
介護付は特定施設の指定を持ち、住宅型は登録制への備えが進んでいる空室が長引き、修繕の計画や賃料改定の見通しが立っていない

処遇改善加算の区分は職員定着の通信簿

加算の区分は、キャリアパスの仕組みや職場環境の整備がどこまで進んでいるかを映す指標です。上位区分を続けて取れている事業所は、職員を手放さずに済む体制があると受け止められます。2026年6月に新設された加算Ⅰロ・Ⅱロの算定状況も、今後は比べられる材料に。人件費率は、加算による賃金改善の分を切り分けて示すと実態が伝わりやすくなります。

収支差率と稼働の推移は3年分を月次で示す

厚生労働省の介護事業経営実態調査では、利益率の代わりに収支差率という数字が使われます。収入から支出を引いた差が収入に占める割合のことで、譲受側も事業所ごとにこの値を見比べるのが通例です。入居率や1日平均利用者数を3年分、月次で並べておけば、季節の波や一時的な空室を説明しやすくなります。単月の試算表だけでは、のれんを控えめに見積もられ、会社売却の相場より低い提示になりがちです。

同じ建物の入居者への訪問が多い事業所の見られ方

住宅型有料老人ホームやサ高住に訪問介護を併設する形は、効率よく訪問できる半面、同じ建物の利用者が多い事業所には報酬の減算が設けられています。入居者に併設の事業所ばかりを使わせる囲い込みにも、行政の目は厳しくなる一方。譲受側は、外部の利用者をどれだけ抱えているか、ケアプランが入居者の状態に沿っているかを調べ、住宅への依存度を値付けに織り込みます。

紹介元のケアマネジャーや病院とのつながりを保つ備え

訪問介護やデイサービスの利用者は、多くが居宅介護支援事業所のケアマネジャーからの紹介で集まります。有料老人ホームやグループホームでは、退院先を探す病院の地域連携室や医療ソーシャルワーカーとのつながりが入居率を支えるもの。経営者が替わると聞いた紹介元が紹介を控えれば、稼働はたちまち落ちかねません。紹介の実績を紹介元ごとに数字で示せる会社ほど、譲受企業はその流れが続くと見込み、のれんに反映しやすくなります。

支援現場では、売却の公表前後に、主な居宅介護支援事業所や病院の地域連携室へ誰がいつ説明するかを、譲受企業と決めておきます。最初の説明は、顔なじみの管理者や相談員と譲渡オーナーがそろって出向くのが基本。運営推進会議を開くグループホームなら、家族や地域の代表への伝え方も同じ日程表に載せます。紹介を途切れさせない段取りまで示せれば、譲受企業も安心して条件を提示できるはずです。

遠方の介護グループや医療法人が手を挙げる理由、介護事業の譲受企業の類型

最初に名乗り出たのは、遠く離れた県の介護グループ。介護の案件では、そうした展開も珍しくありません。

施設網を広げたい同業の介護グループと総量規制

譲受企業の中心は、拠点を増やしたい同業の介護グループです。介護は地域ごとに利用者と職員を集める事業で、新しい地域で施設を建て、職員を採り、指定を受けるには年単位の時間がかかります。総量規制で新設が絞られる介護付有料老人ホームやグループホームなら、なおのこと。自治体の介護保険事業計画で整備数が決まり、公募を待つしかない地域も少なくありません。地域で信頼を得た施設を職員ごと迎えられる中小企業のM&Aは、その時間を大きく縮める手段です。

下表は、2026年に上場企業が公表した介護施設の譲受2例です。株式譲渡と事業譲渡という手法の違いも見て取れます。

項目シダーによる株式取得リビングプラットフォームケアによる事業譲受
公表日2026年3月5日2026年8月17日
譲受企業シダー(北九州市、東証スタンダード上場)リビングプラットフォームケア(札幌市、東証グロース上場のリビングプラットフォームの子会社)
譲渡側と対象代表者ら個人株主3名
名古屋市のダブルエイチオー(介護付有料老人ホーム2施設と訪問看護)
HITOWA(東京都港区、全国で約150の介護施設を運営)
埼玉県の認知症グループホーム2施設(定員計36名)
手法と実行日全株式の株式譲渡
2026年4月1日に子会社化
事業譲渡
2027年1月1日に効力発生予定
ねらい運営ノウハウを生かした収益力とサービスの質の向上、東海エリアの事業基盤の強化埼玉県内でのドミナント戦略の強化と、シェア拡大の基盤づくり

シダーの対象会社は直近3期とも営業赤字でしたが、取得価額は9億1,800万円で、2025年9月期の純資産9億4,700万円に近い水準でした。リビングプラットフォームケアの例は契約から効力発生まで4か月半を置いており、指定の取り直しを見込んだ日程と読めます。

地元の同業だけが相手とは限りません。大阪市の老人ホーム(41室)を当社が仲介した2022年の案件では、札幌市に本社を置く介護グループが、関西での拠点拡大をねらって株式を譲り受けました。一方で、近隣の同業には知られたくないという声も根強いもの。2026年に事業譲渡を仲介した関東の案件では、約50社のロングリストから近隣企業を外して打診先を絞り込んでいます。遠方の企業まで候補を広げつつ、情報が地域に漏れない順番で当たるのが、介護の売却で当社が心がける組み立てです。

退院後の受け皿を求める医療法人と訪問看護・調剤薬局

医療と介護の境目にいる事業者も、有力な候補です。退院した患者の受け皿を地域に持ちたい医療法人、利用者宅への訪問で接点を持つ訪問看護や調剤薬局。グループホームや有料老人ホームを迎えれば、医療から介護までを一体で担え、紹介の流れも太くなります。ただし医療法人や社会福祉法人は、法人の種類によって営める事業や取得の方法に制約があります。相手が決まってから手法を選び直す場面も。

サ高住の不動産会社から保険会社まで、介護に参入する異業種

介護は、異業種からの参入も続く分野です。サ高住を手がける不動産・住宅会社に、見守りの技術を持つ警備会社や保険会社。2024年には日本生命保険がニチイホールディングスを傘下に収め、介護事業に本格的に乗り出しました。複数の事業者を束ねて規模を高める投資ファンドも候補の一角。顔ぶれが広いぶん、介護に通じたM&A仲介を通じて相手を探すほうが、条件を並べて比べやすくなります。

運営指導の記録と加算の算定根拠、介護事業のデューデリジェンス

加算の要件は満たしているつもりでも、記録が残っていなければ算定の根拠にはなりません。譲受前の調査で、よくつまずく点です。

人員基準と加算の記録、返還につながる不備の点検

介護のデューデリジェンス(譲受前の調査)で時間をかけて見られるのが、介護報酬を正しく請求してきたかどうかです。加算の要件を満たした記録、勤務表と資格証の写し、人員基準を割り込んだ月の有無。自治体の運営指導(かつての実地指導)で受けた指摘と、その改善報告も確かめられます。記録が欠けていれば、過去の請求を取り下げて報酬を返す過誤調整や返還につながるおそれも。株式譲渡ではこの負担も会社ごと引き継がれるため、譲受側は表明保証(開示した内容が正しいと約束する条項)や補償で手当てを求めます。

処遇改善加算の実績報告とBCP未策定減算

処遇改善加算は、受け取った加算額に見合う賃金改善を職員に行うのが前提。毎年度の計画書と実績報告書の提出も求められます。配分が足りなければ返還を求められることもあり、譲受側は実績報告と賃金台帳を突き合わせます。2024年度の改定で設けられた業務継続計画(BCP)未策定の減算も、2025年3月末で経過措置が終了。高齢者虐待防止の措置や身体拘束の適正化も、委員会の開催記録や研修の実施状況まで点検されます。

夜勤の仮眠時間と訪問介護の移動時間に潜む未払い

見落とされがちなのが、賃金の払い方です。グループホームや有料老人ホームの夜勤で、仮眠中も呼び出しに応じる決まりがあれば、その時間は労働時間に当たる可能性があります。訪問介護なら、利用者宅から次の利用者宅への移動時間を賃金の対象に含めているかどうか。決算書に表れない未払いの賃金は、譲渡価格の減額や補償の対象として交渉の場に持ち出されます。介護特有の調査に慣れた仲介会社なら、資料の準備も前倒しで進められるという利点も。

みつきコンサルティングでは、介護事業の売却準備の段階で、運営指導の結果通知と過去3年分の加算の算定根拠を一覧にし、指摘を受けた事項の改善状況まで添えて開示します。指摘がゼロである必要はありません。指摘と改善を自ら示せる会社ほど、表明保証の範囲を絞りやすく、補償の上限を巡る交渉も落ち着きます。処遇改善加算の実績報告と決算書の人件費の整合も、財務デューデリジェンスの前に税理士法人グループの目で点検しておくのが当社のやり方です。

人口減少と後継者不在に向き合った、岩手の認知症グループホームの売却事例

当社が2025年7月に仲介した、岩手県の認知症グループホームの売却事例です。

認知症グループホームを営む介護企業のM&A成約をイメージしたビジネスパーソンの握手

親族にも現場にも託せる人がいなかった

2012年設立のK社は、岩手県で認知症グループホームを運営し、売上は約1億5,000万円。70歳の代表には親族の後継者がおらず、若い職員の少ない現場に経営を任せられる人もいませんでした。地方特有の人口減少や労働環境の課題も重なり、M&Aを唯一の選択肢と考えたといいます。

会社の将来像を具体的に語った譲受側の社長

相手は、東京でグループホームや訪問介護を営む売上約20億円のJ社。事業の拡大と人材の確保をねらう企業です。若く精力的な社長が将来像や取り組みたいことを具体的に語る姿に、代表は「この方に任せれば間違いないなと感じました」と振り返ります。みつきコンサルティングの担当者は電話一本で東京から駆けつけるなど迅速に動き、代表が交渉中に足を怪我した時期を挟みながらも、話は順調にまとまりました。

引継ぎ期間も現場に立ち続けて

成約後も代表は引継ぎ期間として、当面は従来どおり業務に携わる日々。検討に迷うオーナーには、時機を逃さないよう早めの相談を勧めています。

【インタビュー全文】人口減少が進む岩手で、認知症グループホームの代表が東京の介護事業者への売却を決めた理由を読む

人材定着と稼働率の壁に向き合い介護施設運営事業を売却した建築会社の事例

建築・不動産を本業とする関東の企業が、介護施設運営を同県内の介護事業者へ事業譲渡した事例です。

建築・不動産・介護事業を営む企業の事業譲渡(M&A)成約事例・インタビュー画像

地主への土地活用提案から始まった介護事業の重荷

土地活用の提案から施設の建築と運営を受託したものの、介護ノウハウの構築は別物でした。職員の定着に苦しみ、介護報酬の枠内での人員配置や稼働率の維持にも課題が残る状況。建築・不動産を継ぐ子どもたちに介護事業まで背負わせられないと考え、選択と集中のため売却を選んでいます。

地域づくりへの共感が同県の介護事業者との再交渉を後押し

みつきコンサルティングは約50社のロングリストから、近隣企業を避けたいという意向に沿って相手を探しました。最初の候補は別案件を優先し、交渉は見送りに。その後、初期に価格目線が合わず見送りとなった同県の介護事業者へ改めて打診し、地域づくりの理念が自社の街づくりと重なったことで、相手先の譲歩も得て譲渡を決断しました。

入居者・従業員との契約を巻き直し建築と不動産へ経営資源を集中

事業譲渡のため従業員や入居者との契約は個別に結び直しが必要でした。専務と譲受企業の現場責任者が綿密に連携し、予定どおり運営を移行。今後は建築と不動産に経営資源を集中させ、譲受企業とも地域に貢献する企業同士で協力したいと話しています。

【インタビュー全文】建築・不動産会社が介護施設運営事業を同県の介護事業者へ売却した経緯を読む

消防設備の確認を越えて道内同業へ託した障害者グループホームの事例

介護事業と運営形態が近い障害福祉サービス業の、2025年12月成約の売却事例です。

介護・医療業界のM&A事例について相談・検討するビジネスパーソンの様子

代表者の高齢化と一度白紙に戻った後継者探し

北海道で1970年代から障害者グループホームを運営するY社は、売上約4億円。68歳の代表者に後継者はおらず、施設運営を任せられる人材の確保も難しくなっていました。複数の候補先と交渉したものの条件面で折り合わず、一度白紙に。

利用者本位の方針と雇用維持で一致した相手

縁がつながったのは、近隣でグループホームの譲受実績を持つ道内の同業M社です。トップ面談で利用者本位の運営方針と職員の雇用維持への考えが一致し、M社の人材育成体制を生かしてサービス品質を高めるビジョンも共有できたことが、株式譲渡の決め手でした。

顧問として説明に加わった売却後

独占交渉後、一部施設で消防法上の設備更新状況の確認に時間を要しました。みつきコンサルティングが専門家と連携して論点を整理し、運営体制を保ったままM社側で計画的に対応する方針で合意。譲渡後も代表者が一定期間顧問として残り、M社と協力して利用者やご家族、職員へ説明を行っています。

【インタビュー全文】北海道の障害者グループホームが同業への株式譲渡を選んだ経緯を読む

M&Aが成立した場合のみ、譲渡対価に応じた手数料を頂戴します。
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介護事業の会社売却に関するFAQ

外国人職員や入居一時金、施設の賃貸借など、介護事業ならではの質問を集めました。

Q:特定技能の外国人職員がいます。売却後も同じ施設で働けますか?

手法によります。株式譲渡なら雇用主の会社は変わらず、在留資格を変更する許可は要りません。事業譲渡や会社分割で雇用主が替わる場合、特定技能の職員は届出ではなく在留資格変更許可申請が必要と、出入国在留管理庁は案内しています。現場では、効力発生日までに許可が下りるよう、譲受企業と申請の時期をそろえます。登録支援機関との委託契約の扱いも、あわせて確かめておきたいところ。

Q:入居一時金の保全措置や償却の状況は、価格にどう響きますか?

入居一時金のうち償却が済んでいない部分は、退去や死亡の際に返す可能性のある債務として見られます。株式譲渡ならこの債務は会社に残るため、価格の計算で差し引くのが通例。保全措置の有無も問われ、2006年3月以前に届け出たホームも、2021年4月以降の新規入居者から保全の義務の対象になりました。入居者ごとの償却表と保全の契約書をそろえておくと、話が早く進むはずです。

Q:事業譲渡にした場合、譲渡した月の介護報酬はどちらが受け取りますか?

譲渡日の前日までに提供したサービスは、譲渡側が自らの事業所番号で国民健康保険団体連合会へ請求し、入金も譲渡側が受けます。譲受側は新たな指定日以降の分を請求しますが、入金はサービスを提供した月の翌々月。その間の給与や家賃をまかなう運転資金を譲受企業が用意できるかは、現場で必ず確かめるところです。譲渡日は指定日にそろえるのが一般的です。

Q:施設の建物を地主から長期で借りています。売却に貸主の承諾は要りますか?

株式譲渡なら借主の会社は変わらず、原則として承諾は要りません。ただ、株主の交代を解約事由とする条項の有無は確かめたいところ。事業譲渡では賃借権を移すのに貸主の承諾が欠かせません。社長個人が連帯保証人なら、譲受企業への差し替えも論点に。介護用に建てた建物は転用しにくく、運営の継続を望む貸主が多いもの。介護事業の売却を支援するみつきコンサルティングでは、説明の時期を譲受企業と決めてから貸主を訪ねます。

税理士法人を母体とするM&A仲介会社|みつきコンサルティングが選ばれる理由

介護事業の指定承継と売却相談先選び

介護事業の売却は、株式譲渡なら事業所指定と職員・利用者の契約を保ったまま進められます。価格を支えるのは入居率や利用者数の推移、処遇改善加算の区分、紹介元とのつながり。加算の算定根拠や夜勤の賃金も調査で問われます。入居者や家族、夜勤を支えてきた職員を思えば、決めきれないのも無理はありません。

みつきコンサルティングは、税理士法人グループに属する財務・税務に強いM&A仲介会社で、中小企業のM&A仲介の実績経験が豊富です。M&Aに特化した専門スタッフが、介護保険制度の論点を踏まえて相談先の比較の段階からお話を伺います。介護事業の会社売却なら、みつきコンサルティングへ。

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介護事業の会社売却の関連コラム

著者

田原 聖治
田原 聖治事業法人第一部長/M&A担当ディレクター
みずほ銀行にて大手企業から中小企業まで様々なファイナンスを支援。みつきコンサルティングでは、各種メーカーやアパレル企業等の事業計画立案・実行支援に従事。現在は、IT・テクノロジー・人材業界を中心に経営課題を解決。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修者 神門 剛 代表取締役 / 公認会計士・税理士

みつきコンサルティングは、中小企業の会社売却・事業承継に特化した譲渡企業様に完全成功報酬制のM&A仲介会社です。売り手と買い手企業の最適なマッチングを、経験豊富なM&Aコンサルタントが初期相談から成約まで一貫してフルサポートします。

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