保育園の売却は、運営法人が株式会社なら株式譲渡によって認可を保ったまま進められます。事業譲渡や社会福祉法人の合併では認可や所轄庁の手続が伴い、補助金で建てた園舎の扱いも価格を動かす要素に。定員割れや保育士不足に悩むオーナーが知っておきたい手法の選び方、評価される数字、職員と保護者への伝え方を、社会福祉法人の合併事例とともに解説します。

認可保育所を運営する会社を売るとき、価格より先に壁になりやすいのが、自治体との協議と保育士の引き留めです。手法を誤れば認可を取り直すことになり、伝える順番を誤れば退職が相次ぐことも。保育園の会社売却を考えるオーナー経営者に向けて、株式会社と社会福祉法人の違いから、委託費や整備補助を受けた園舎の扱いまで、現場で問われる論点を掘り下げます。
待機児童の再増加と定員割れが併存する保育園の売却環境
都心では入園待ちが再び増え、地方では空き定員が広がっています。保育園のM&Aが動くのも、都市と地方で状況が分かれるこのただ中です。
9年ぶりに増えた待機児童と下がり続ける定員充足率
こども家庭庁「保育所等関連状況取りまとめ」によると、2026年4月1日時点の待機児童は2,435人で、9年ぶりに前年を上回りました。増えたのは東京都などの都市部で、待機児童の96.0%を0〜2歳児が占めます。一方、全国の利用児童数は約265万人と減少が続き、利用定員に対して実際に通う子どもの割合を示す定員充足率は87.7%まで低下。同庁は、充足率の低い過疎地域などで統廃合や規模の縮小、多機能化を計画的に進める方針も示しました。同じ保育園でも、立地によって置かれた状況はまるで違います。
保育園のオーナーが売却に踏み切るきっかけ
オーナーが会社を売りたいと考え始める理由は、後継者の問題だけではありません。人と建物と制度の負担が同じ時期に重なり、単独での運営に区切りをつける決断へつながる例が多く見られます。
園長を兼ねる社長の高齢化と後継者不在
開園から20年、30年と園を率いてきた社長が、園長として現場に立ち続けている例は珍しくありません。保育の経験がない子どもに継がせるのは難しく、園長を任せられる職員がいても、借入金の個人保証まで引き受けてもらうのは現実的ではないもの。親族にも社内にも担い手が見つからなければ、第三者への事業承継が視野に入ります。
保育士の採用難と配置基準の引上げ
職員配置基準は2024年度に、4・5歳児が30対1から25対1へ、3歳児が20対1から15対1へ改められました。2025年度からは、1歳児を5対1で配置する園への加算も始まっています。手厚い配置は保育の質を高める半面、同じ定員でも必要な保育士は増えるのが実情。紹介会社や派遣に頼れば手数料がかさみ、採用力のある大手グループへの合流を考えるきっかけになります。
園舎の老朽化と遊具・設備の更新
開園から年月がたった園舎では、外壁や空調、給排水設備の更新が一度に押し寄せます。園庭の遊具や午睡中の見守り機器、防犯カメラなど、安全のための投資も増える一方です。定員割れで収入が伸びにくいなか、まとまった改修費を自己資金でまかなえるかどうか。ここが経営を続けるか考え直す節目になりがちです。
経営情報の報告や安全計画など制度対応の負担
2025年4月からは子ども・子育て支援法にもとづき、施設ごとの収支や職員の給与を自治体へ報告し、その一部が公表される仕組みが始まりました。2026年度からは、報告を怠った園や安全計画を定めていない園の公定価格(国が定める保育の単価)を減らす措置も加わりました。本部機能を持たない小さな法人ほど、事務の負担は重くのしかかるもの。
保育園を譲り受けたい企業の顔ぶれ
中心となるのは、施設網を広げたい保育の同業です。上場大手に加え、地域で数園から数十園を運営する中堅も、保育士ごと園を迎えられる中小企業のM&Aに関心を寄せます。学童や幼稚園、介護施設を営む法人、社員向けの保育施設を運営してきた異業種の企業、複数の園を束ねる投資ファンドも候補の一角。大手が地域ごとに園を選び直す動きもあり、譲る側と譲り受ける側の顔ぶれは固定されていません。
2026年8月27日には、テノ.ホールディングス(福岡市)が、ピジョンの子会社で保育施設を運営するピジョンハーツ(東京都中央区)の全株式を16億円で取得する契約を結んだと発表しました。株式譲渡の実行は2027年1月の予定。東京都の認可保育施設の運営ノウハウと、大手企業を中心とする事業所内保育の顧客基盤を取り込み、子育て支援サービスの質を高めるねらいがあります。
保育と幼児教育の垣根を越えた組み合わせも、見逃せないところ。当社が支援した関東の案件では、後継者のいない学校法人の幼稚園を、保育園を運営する法人が引き継ぎました。譲受後は、認定こども園への移行に向けて行政との調整を進めています。保育園を譲る側から見ても、幼稚園や学童を営む法人まで視野を広げ、M&A仲介を通じて複数の候補を比べれば、園の理念に合う相手に出会える見込みは高まるはず。
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株式会社と社会福祉法人で異なる保育園の売却手法
保育園は、そもそも売れるのでしょうか。答えは運営する法人の種類で変わります。最初に確かめたいのは、自園の運営主体です。
株式会社が運営する園は株式譲渡で認可を保てる
運営法人が株式会社なら、社長が持つ株式を譲受企業へ売る株式譲渡が基本です。認可を受けた法人そのものは変わらないため、保育所の認可や市町村の確認(給付を受けるための手続)は原則としてそのまま続きます。ただし、代表取締役や役員が替われば自治体への届出が必要で、代表者の変更を事前の届出事項とする自治体もあるほど。役員の変更などは、子ども・子育て支援法にもとづき変更後10日以内に届け出ます。職員の雇用契約や園舎の賃貸借も会社に残るため、日々の保育を止めずに経営だけを引き継げるのが強みです。
事業譲渡では認可と確認を取り直す
園の事業だけを切り出して売る事業譲渡では、運営者そのものが替わります。こども家庭庁が2026年3月に周知した「保育所等の合併・事業譲渡等に関するガイドライン」は、譲る側が保育所の廃止の承認を、譲り受ける側が設置の認可を受け、市町村の確認も改めて得る手順を示しました。賃金改善に充てる処遇改善等加算などの加算も自動では引き継がれず、申請をやり直すことに。職員の雇用は本人の同意を得て移すため、退職者が出れば配置基準を満たせないおそれも。一部の園だけを譲るときなどに選ばれる手法です。
社会福祉法人は合併か事業譲渡、対価にも制約
社会福祉法人には株式がなく、持分という考え方もありません。経営を引き継ぐ方法は、別の社会福祉法人との合併か、園単位の事業譲渡の2つが中心。合併には所轄庁の認可と評議員会の決議が要り、事業譲渡でも定款の変更などで所轄庁の手続が生じます。ガイドラインは、譲渡の対価を理事などが受け取ることはできないと明記。株式会社のオーナーが対価を受け取る売却とは、性格が異なります。なお、社会福祉法人は営利企業の株式を2分の1を超えて持てないため、株式会社の園を引き受ける場合は事業譲渡によるのが一般的です。
株式会社との大きな違いは持分がないこと
株式会社では、譲渡オーナーが株式を売却して対価を受け取ります。社会福祉法人には株式も持分もないため、理事長などが法人を売って対価を得ることはできません。M&Aの目的は、保育を続けることと、法人の資産を守ることです。
経営を引き継ぐ2つの方法
社会福祉法人が保育園を引き継ぐ方法は、主に合併と事業譲渡の2つです。どちらも所轄庁との事前相談が欠かせません。
合併は社会福祉法人同士に限られる
合併できる相手は、他の社会福祉法人だけです。株式会社と合併することはできません。評議員会の決議と所轄庁の認可が必要で、債権者保護手続も行います。
事業譲渡は園単位で引き継げる
事業譲渡では、特定の園の事業と財産を引き継ぎます。定款変更や基本財産の処分承認が必要になる場合があります。補助金を受けた園舎などは、返還の要否も確認します。
対価と資金の使い道には制約がある
事業譲渡で法人が受け取る対価は、法人のものです。理事長などの個人が受け取ることはできません。受け取った資金は、保育などの事業に使うことが前提です。
また、価格が極端に低い譲渡や不合理な支払は、特別の利益の供与や法人外への資金流出と見られるおそれがあります。価格の根拠を説明できるようにしておきましょう。
株式会社が運営する園を引き受ける場合
社会福祉法人が営利企業の株式を過半数持つことには、制限があります。株式会社が運営する園を引き受けるときは、株式ではなく事業譲渡で園の運営を引き継ぐのが一般的です。
引受けの前には、保育所の認可や市町村との調整、職員の承諾、契約の承継方法を確認します。早めに専門家へ相談することをおすすめします。
施設の種類で異なる手続の窓口
認可保育所のほか、小規模保育などの地域型保育事業、企業主導型保育事業、認可外保育施設では、認可や届出の窓口が異なります。下表は、施設の種類ごとに、株式譲渡と事業譲渡で生じる主な手続をまとめた一覧。運用には自治体ごとの差もあるため、最終的には所管の窓口へ相談しておくのが確実です。
| 施設の種類 | 認可・届出の窓口 | 株式譲渡で生じる主な手続 | 事業譲渡で生じる主な手続 |
|---|---|---|---|
| 認可保育所 | 都道府県 (指定都市・中核市は市) | 代表者・役員などの変更の届出 市町村の確認事項の変更届 | 譲る側の廃止の承認と、譲り受ける側の設置の認可 市町村の確認の取り直し |
| 小規模保育などの地域型保育事業 | 市町村 | 代表者・役員などの変更の届出 | 廃止の承認と事業の認可を市町村で取り直す 確認も改めて受ける |
| 企業主導型保育事業 | 公益財団法人児童育成協会 | 設置者は変わらない 協会が定める変更手続の有無を問い合わせる | 助成で整備した施設の譲渡や設置者の変更に、協会とこども家庭庁の事前承認が必要 |
| 認可外保育施設 (認証保育所などを含む) | 都道府県 (指定都市・中核市は市)への届出 | 施設長など届出事項が変われば1か月以内に届出 | 設置者の変更を届け出る 自治体独自の認証や補助の条件も見直す |
認定こども園の場合、幼保連携型を設置できるのは国や自治体、学校法人、社会福祉法人に限られ、株式会社は運営できません。こうした園を営む法人の売却では、譲受企業を法人の種類から絞り込むことになります。
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委託費と定員充足率から読み解く保育園の譲渡価格
黒字でも評価が伸び悩む保育園は少なくありません。差を生むのは、利益の額より、その中身です。
年買法で見る保育園の価格の目安
中小の保育園で最もよく使われるのが年買法(年倍法)です。時価純資産(資産を今の価値に直し、負債を引いた額)にのれん(数年分の利益)を加えて目安を出し、式にすると「時価純資産+のれん」となります。園舎と土地を自社で持つ園は時価純資産が厚くなりやすく、賃借の園では利益の安定度が価格の中心に。DCF法や類似会社比較法は、園数の多い法人で補助的に使う程度です。保育園の利益は委託費(市町村から園へ支払われる運営費)の加算に支えられる部分も大きく、加算が売却後も続くかまで見ておく必要があります。
ゼロ円での譲渡もある
保育園の場合、他業種に比べると、ゼロ円での譲渡が散見されるという特徴があります。
- 平均的な譲渡相場: ゼロ~5,000万円
- 大規模な取引: 数億円から数十億円のケースも存在
譲渡価格に影響する要因
保育園の譲渡価格は、以下のような要因によって変動します。

保育園の規模
認可保育園(定員20人以上)は、定員6〜19人の小規模保育園に比べて譲渡価格が高くなる傾向があります。大規模な施設は収益ポテンシャルが高いため、買い手にとって魅力的です。
運営主体
株式会社が運営している保育園の場合、いわゆる年買法に加えて、企業価値をDCF法(ディスカウント・キャッシュ・フロー法)などで算出し、それを基に交渉が行われることがあります。社会福祉法人やNPO法人の場合、DCF法の適用は難しいことがありますが、財務状況を基に価格が算定されます。
財務状況
売上高や営業利益は、売却価格に直接的な影響を与えます。収益性の高い保育園は、譲受企業にとって魅力的な投資先となるため、高値で取引されることがあります。
立地条件
保育園の立地は非常に重要な要素です。駅近くや人口密度の高い地域の保育園は需要が高く、譲渡価格も高くなります。特に、待機児童の多い地域では、さらに高値がつくことがあります。
運営実績と人材
長期間安定して運営されている保育園や、経験豊富な保育士が在籍している施設、採用が順調で、定着も良い施設は、運営リスクが低く、買い手にとって非常に魅力的です。これは譲渡価格の上昇要因になります。
譲受企業の評価が分かれる園の特徴
譲受企業は、決算書の利益がこの先も続くかを、園の運営データから読み取ろうとします。委託費は在籍児童の数と年齢、加算の取得状況で月々の額が決まるため、裏づけとなる数字は比較的そろえやすいはず。下表は、保育園の評価で見られる主な視点と、評価が上がりやすい園・下がりやすい園の特徴を並べたものです。
| 評価の視点 | 評価が上がりやすい園 | 評価が下がりやすい園 |
|---|---|---|
| 定員充足率と年齢別の在籍 | 1・2歳児まで定員が埋まり、入園の申込みが定員を上回る | 定員割れが数年続き、空きが0〜2歳児にも及ぶ |
| 立地と地域の保育需要 | 待機児童が出ている地域や、宅地開発・転入が続く地域にある | 就学前の子どもが減り、自治体が統廃合や定員の縮小を検討している |
| 保育士の定着と採用 | 平均経験年数が長く、紹介会社に頼らず採用できている | 退職が続き、派遣や紹介の手数料がかさんでいる |
| 加算の取得状況 | 処遇改善等加算の区分1〜3や、配置改善の加算を取得している | 書類の不備で加算を取り逃している、減算を受けた月がある |
| 園舎と土地 | 自社所有で補助金の処分制限の扱いを把握済み、賃借なら長期の契約 | 大規模修繕が近い、賃貸借の残り期間が短い |
| 指導監査と事故の記録 | 文書指摘が少なく、ヒヤリハットの記録と改善が続いている | 指摘事項が改善されていない、事故対応の記録が乏しい |
1歳児配置改善加算の要件に表れる園の体力
2025年度に始まった1歳児配置改善加算の対象は、処遇改善等加算の区分1〜3をすべて取得し、登降園管理などにICTを活用し、職員の平均経験年数が10年以上という3つを満たす園です。人が定着し、事務の仕組みも整った園でなければ届かない加算。取得の有無は、譲受企業が園の人材と管理の水準を測る手がかりになります。
待機児童のいる地域と人口が減る地域で異なる見方
同じ定員60人の園でも、入園待ちが続く都市部と、子どもが減る地域とでは、譲受企業の見方が変わります。前者では定員が埋まる前提で利益を読み、後者では数年先の園児数を織り込んで価格を考えるためです。ただ、人口が減る地域でも、こども誰でも通園制度で空き定員を活用していたり、地域に欠かせない園として自治体と連携していたりすれば、評価を支える材料に。
委託費の使途制限と現預金の見え方
株式会社が運営する認可保育所でも、委託費は保育所の運営に関わる経費にしか使えません。前年度から繰り越した資金を本部や他の園へ回すには自治体との事前協議が要る場合があり、役員報酬を委託費から払うことも認められない仕組み。年度末に残す資金を委託費収入の30%以下に抑えるルールもあります。決算書に現預金が多く並んでいても、すべてを自由に動かせるとは限らないということ。譲受企業は財務デューデリジェンス(財務面の調査)で、この使途の線引きを細かく見ていきます。
当社が保育園の株価を試算する際は、現預金と積立資産を、人件費や施設整備など目的の決まったお金と、法人が自由に使えるお金とに分けて示します。そのうえで、委託費の加算や自治体独自の補助のうち、どれが売却後も続くのかを一覧に。株式譲渡なら原則として続き、事業譲渡なら取り直しが前提という違いが、価格の差にそのまま表れるからです。こうした下準備が、提示額を売却の相場の上側へ寄せる土台になります。
補助金で建てた園舎と保育の記録、譲受側の調査で問われること
数字に表れない約束ごとほど、譲受企業は慎重に見ます。デューデリジェンス(譲受前の調査)では、園舎と記録が細かく調べられます。
補助金で整備した園舎は財産処分の承認が要る
国の交付金などを財源とする整備費補助で建てた園舎や設備は、補助金適正化法にもとづく処分の制限を受けます。ガイドラインは、有償で譲る場合に残りの期間に応じた補助金の返還が必要になるとし、抵当権の設定にも財産処分の手続を求めています。無断で系列の会社へ園舎を移し、数億円規模の補助金の一括返還を求められた例も紹介されているほど。株式譲渡なら所有者は変わりませんが、借入の借り換えで担保を設定し直す場合などに手続が生じないか、早めに確かめておきたいところです。
オーナー建設型の賃貸借と自治体との協定
地主が園舎を建てて法人に貸すオーナー建設型の園では、賃貸借契約の中身が評価に響きます。見られるのは、残りの契約期間、中途解約の条件、そして株主や代表者が替わったときに貸主の承諾を求める条項の有無。事業譲渡なら借主の名義を移すため、貸主の承諾が欠かせません。公有地を借りている園や、自治体の施設を運営する公設民営の園では、協定や貸付の条件に、運営者の変更を制限する定めがないかも点検します。
指導監査の指摘と虐待・事故への備え
お金の数字と並んで、保育の記録も調べられます。自治体の指導監査で受けた文書指摘とその改善、事故報告やヒヤリハットの記録、給食のアレルギー対応、午睡中の見守りの手順まで、範囲は幅広いもの。2025年10月からは改正児童福祉法により、保育所等の職員による虐待を見つけた人に通報の義務が課されました。2026年12月25日にはこども性暴力防止法も施行され、認可保育所などは職員の性犯罪歴の確認が義務に。体制の整い具合は、表明保証(譲渡オーナーが一定の事実を約束する契約条項)の範囲を決める材料にも。
支援現場で見落とされやすいのは、行事の準備や制作物を家に持ち帰る残業と、午睡の時間に取れていない休憩の扱いです。保育士の善意に支えられてきた慣行ほど、調査では未払賃金の可能性として数字に置き換えられがち。当社が支援した介護施設の案件でも、デューデリジェンスで過去の残業代の問題が表面化し、価格の調整に至りました。勤怠の記録と実際の働き方の差を売却前に埋めておくことが、表明保証で負う責任を軽くし、企業価値を守る近道です。
認可を途切れさせない自治体協議と職員・保護者への説明の段取り
契約を結べば売却は終わり、というわけではありません。自治体、職員、保護者。伝える相手と順番を誤れば、保育そのものが揺らぎます。
自治体への事前相談は基本合意の前後から
こども家庭庁が公表した実態調査では、合併や事業譲渡の事前相談を義務づけている市区町村が約半数にのぼり、審査完了までの期間は市区町村で「半年以上1年未満」が最も多い結果でした。ガイドラインも、基本合意書で認可の取得を最終契約の条件とし、認可や確認の見通しが立ってから契約を結ぶ形を示しています。入園の申込みや公定価格は年度単位で動くため、引継ぎの日は年度の切り替わりから逆算するのが現実的。認可保育所の手続に通じた仲介会社と組めば、相談の時期から日程を描けます。
保育士への説明は処遇の約束とセットで
ガイドラインが紹介する失敗例では、事業譲渡を後から知らされた保育士の約8割が退職を申し出て、自治体が設置者の変更の認可を保留し、新しい法人は数か月の休園に追い込まれました。配置基準を満たす人数がそろわなければ、園は開けません。基本合意の段階で、原則として全員の雇用を守り、勤続年数の通算を含めて労働条件をおおむね引き継ぐ方針を固めておくことが、説明の出発点。処遇改善等加算のキャリアパス要件などを譲受後も満たせるかも、あわせて見極めを。
保育園の売却を支えるみつきコンサルティングでは、園長や主任保育士など要となる職員には基本合意のあと秘密保持を約束してもらったうえで伝え、全職員への説明は最終契約の直後に設定する段取りを、譲受企業と一緒に組み立てます。給与や休日、行事の進め方のうち、何が変わり何が変わらないのかを書面で示すと、不安はかなり和らぐもの。看護師や栄養士など少人数の専門職ほど、1人の退職が運営に響くため、個別の面談も欠かせません。説明会の資料づくりや当日の同席にも対応しています。
保護者への告知と重要事項説明書の差し替え
保護者がいちばん気にかけるのは、担任や保育方針、行事、費用が変わるかどうかです。運営会社が替わる事業譲渡では、重要事項説明書を直して説明し直す必要があり、保護者会があれば早めに理解を得ておくと進めやすくなります。株式譲渡でも、園名や制服、連絡アプリを切り替えるなら、時期と理由を丁寧に伝えたいもの。告知は職員への説明のあとに置き、職員と保護者が受け取る情報に食い違いが出ないようにそろえます。
後継者不在の社会福祉法人が売却ではなく合併で保育園を託した事例
株式のない社会福祉法人では、同業の法人との合併が承継の受け皿になります。関西で保育園を営んできた法人の事例です。

65歳までに承継の道筋を決めたかった2代目
A法人は1970年代に設立され、売上は約1.5億円。2代目として運営を担ってきた60代の経営者は、65歳を迎えるまでに承継の方法を決めたいと考えていました。親族にも法人内にも後継者候補はおらず、地域の子どもが安心して通える園と職員の雇用を守る道として、第三者への承継を選びます。
介護と保育を営む同業法人を選んだ決め手
相手は、介護老人福祉施設などと保育園を運営する関西の社会福祉法人で、売上は約30億円。事業エリアの強化を求めていた同法人を、規模と専門性の両面で信頼できる相手と判断しました。みつきコンサルティングの仲介により、2017年6月に合併が成立しています。
合併後に進んだ遊具の更新と設備投資
社風や処遇、運営方針には違いもありましたが、譲受側がひとつずつ丁寧に向き合い、職員も環境の変化に対応できたと振り返っています。遊具の更新など園児の安全に配慮した設備投資も、譲受側の安定した運営と資本力に支えられ、円滑に進みました。
【インタビュー全文】関西の社会福祉法人が、地域の保育園と職員の雇用を守るため同業法人との合併を選んだ経緯を読む
その他の保育園のM&A事例
比較的近年に行われた保育園の譲渡事例について紹介します。昨今は異業種による参入も珍しくありませんが、以下では保育施設同士のM&Aを紹介しています。
ミアヘルサをライフサポートに譲渡
首都圏を中心として認可保育園・介護事業所等を運営するミアヘルサが、東京都内を中心に54カ所の保育施設・サービス付き高齢者向け住宅等を運営するヒノキヤグループ子会社のライフサポートにグループ入りしました。両者の事業所の地理的な重なりが少なく、学童クラブ等の多様な子育て支援ニーズへの対応が可能となることが期待されています。
その後、オペレーションの一元管理による管理機能の強化と経営のさらなる効率化を図ることを目的として、ミアヘルサがライフサポートを吸収合併しています。
キムラタンが保育事業をパワフルケアに譲渡
ベビー服・子供服を中心に扱うアパレルメーカーのキムラタンが運営する企業主導型保育事業「キムラタン保育園」を、病院内総合保育サービスや認可保育所事業を展開するパワフルケアが譲受しました。パワフルケアは保育施設の増加による効率的な保育事業運営・保育の質向上を図ります。
エイルドアミをトゥインクルキッズに譲渡
横浜市と川崎市で保育所を運営するトゥインクルキッズが、世田谷区にある企業主導型保育所を運営し、英語と日本語をハイブリッドしたバイリンガル保育を実施するエイルドアミを子会社化しました。両社の教育方針の親和性が高く、バイリンガル保育に取り組みます。
なないろをソラストに譲渡
東京都を中心に認可保育所等を運営するソラストが、同じく東京都を中心に認可保育所等を19か所運営するなないろを子会社化しました。東京都を中心とした認可保育所等のシェア拡大と保育事業の成長を目的としています。
はぐはぐキッズをソラストに譲渡
ソラストが、東京都を中心に認可保育所等を10か所運営するはぐはぐキッズを子会社化しました。東京都を中心とした認可保育所等のシェア拡大と保育事業の成長を目的としています。
こころケアプランをソラストに譲渡
ソラストが、東京都を中心に認定保育所等を17か所運営するこころケアプランを子会社化しました。東京都を中心とする認可保育所等のシェア拡大を図り、保育事業の成長を目的としています。
日本保育サービスがアメニティライフを吸収合併
全国で297の子育て支援施設を運営する日本保育サービスが、横浜市で5園の保育所を運営するアメニティライフを吸収合併しました。両者はJPホールディングスの子会社です。経営資源の効率改善と子育て支援プログラムの強化・拡充による競争優位性と事業規模拡大を図ります。
ミアヘルサが東昇商事を吸収合併
首都圏に認可保育園・介護事業所等を運営するミアヘルサが、子会社の東昇商事を吸収合併しました。オペレーションの一元管理による管理機能の強化と経営効率化を目的としています。
アンジェリカをWITHホールディングスに譲渡
保育施設の運営や保育事業に関する経営コンサルティングを行うWITHホールディングスが、東京の城南地区を中心に保育施設を運営するアンジェリカを子会社化しました。食育・英語・音楽などのノウハウの共有や、投資元のティーキャピタルパートナーズの持つ経営支援や事業運営のノウハウの提供を目的としています。
SDエンターテイメントがITネクストを吸収合併
保育事業やフィットネスクラブ事業等を展開するSDエンターテイメントが、連結子会社のITネクストを吸収合併しました。業務支援の効率化および管理コストの削減を目的としています。
オフィス・パレットをテノ.ホールディングスに譲渡
認可保育所の運営や保育人材の養成派遣などを展開するテノ.ホールディングスが、愛知県名古屋市を中心に認可保育所3か所、小規模認可保育所5か所を運営するオフィス・パレットを子会社化しました。中部エリアへの進出による展開エリアの拡充を図ります。
完全成功報酬
M&Aが成立した場合のみ、譲渡対価に応じた手数料を頂戴します。
売主様は、ご成約まで費用負担なくスタートできます。
着手金・中間金
0円
月額報酬
0円
成功報酬
成約時のみ
※レーマン方式
保育園のM&A・売却でよくある質問
相談の場で保育園の経営者からよく尋ねられる質問に、実務の目線でお答えします。
株式譲渡なら事業者は同じなので、協定は原則として引き続き有効です。もっとも、連携先が運営会社の交代を機に条件を見直したいと申し出ることもあり、事前に意向を聞いておくと安心。事業譲渡では、新しい事業者が協定を結び直し、連携施設の名称を市町村へ届け出ます。連携先が売り手の系列園で売却の対象から外れる場合は、卒園後の受け皿をどう確保するかを先に詰めておきましょう。
急いで減らす必要はありません。公定価格は定員の規模ごとに単価が決まるため、利用定員を実態に近づけると、子ども1人あたりの単価が上がる場合も。とはいえ定員の変更は、市町村の事業計画との調整や合議制機関(子ども・子育て会議など)の意見聴取を経るもので、すぐには変えられません。譲受企業が定員を保って園児を増やす方針のこともあり、みつきコンサルティングでは相手の考えを聞いてから判断するよう勧めています。
株式譲渡なら借主の法人も補助の申請者も変わらないため、原則として続けられます。気をつけたいのは、宿舎借り上げ支援の補助の要件や上限額を自治体が年度ごとに定めていて、採用からの年数などの条件が国の見直しで変わることもある点。事業譲渡では賃貸借の名義を移すために貸主の承諾が要り、補助も新しい法人で申請し直すのが一般的です。対象の職員と契約を一覧にしておくと、交渉が滑らかに進みます。
株式譲渡なら委託契約は会社に残り、継続するのが基本です。それでも、譲受企業がグループの給食会社への切り替えを望むケースも。3歳未満児の給食は園内で調理するのが原則で、食材や献立の水準を下げれば保護者の信頼を失いかねません。ガイドラインには、食材費を削りすぎて苦情が相次ぎ、認可の取消しに至った例も。食材費の水準やアレルギー対応の体制を最終契約で約束しておけば、後の行き違いを防げます。
まとめ|保育園の売却に精通したM&A仲介会社みつきコンサルティング
保育園の売却は運営法人の種類で手法が分かれ、事業譲渡なら認可と確認、加算の取り直しが伴います。価格を支えるのは、定員充足率や保育士の定着、委託費の使途を踏まえた資金の中身。補助金で整備した園舎の扱いと、職員や保護者への伝え方も成否を分けます。子どもと職員の行き先を思うほど、決断に迷うのは自然なこと。
みつきコンサルティングは、税理士法人グループに属する財務・税務に強いM&A仲介会社で、中小企業のM&A仲介の実績経験が豊富です。M&Aに特化した専門スタッフが、認可や委託費の論点を踏まえ、依頼先選びの段階からご相談に応じます。保育園の会社売却なら、みつきコンサルティングへ。
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著者

- 事業法人第一部長/M&A担当ディレクター
-
みずほ銀行にて大手企業から中小企業まで様々なファイナンスを支援。みつきコンサルティングでは、各種メーカーやアパレル企業等の事業計画立案・実行支援に従事。現在は、IT・テクノロジー・人材業界を中心に経営課題を解決。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修者 神門 剛 代表取締役 / 公認会計士・税理士
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