―本日はご多用のなか、改めてお時間をいただきありがとうございます。まずは社長として、これまで経営に携わられてきたご経験や思い出をお聞かせいただけますか?
私が調剤薬局を創業したのは15年以上前です。小さな店舗からのスタートでしたが、地域の皆様に支えられながら、常に「患者様第一」の気持ちを持ち続けてきました。地元の医師や看護師、スタッフと共に、一人ひとりの健康を見守る役割を果たすことにやりがいを感じてきました。家族経営の温かさを大切にしながら、従業員が安心して働ける職場づくりを心がけてきたのも、自分の中で誇りに思う点です。
―そんな想いのある薬局経営をされる中で、業界の変化や将来の展望についてどのようにご覧になっていましたか?
調剤薬局業界はここ数年、本当に大きく変わりました。高齢化に伴う医療ニーズの拡大や、診療報酬・薬価改定による収益構造の変動、IT化の波、そして大手チェーンの出店攻勢と、目まぐるしい環境の変化があります。今後も、生き残るには単なる薬の「受け渡し」に留まらず、地域医療に密着した提案型の運営や在宅医療・健康相談、オンライン指導などへの対応が不可欠だと思います。経営者としては、今まで通りのやり方だけでなく新しい価値を生み出す勇気と柔軟さがより求められる時代ですね。
―では、M&Aに踏み切った背景にはどのような事情や課題があったのでしょうか?
個人的な事情では家族の転居予定がありましたが、業界再編の流れや後継者不在、規制強化の不透明感など、経営者としての責任の重さも大きかったです。従業員や患者様の将来を守るためにも、私一人の判断だけでなく、より大きな組織と協業し「安心して働ける・利用できる薬局」を持続させたいと考えるようになったのです。特に最近は、事業承継のタイミングや意思決定の難しさを日々痛感していました。
―譲渡を検討し始めた当初、不安や悩みはどこにありましたか?
まず、我々の規模で本当に買い手が見つかるのか、そして従業員の雇用や患者様の利便性が維持できるのかが最大の不安でした。また、業界のM&A経験がないため情報も少なく、どこから何を準備すべきか分からないこと自体が大きな悩みでした。資産価値や適正な譲渡価格、手続きの流れや契約条件など、ひとつひとつ手探り状態からのスタートだったと思います。
―みつきコンサルティングにご相談されたきっかけはどのようなものでしたか?
自分でも情報収集を進めていた矢先に、DMを受け取ったことが最初でした。その後、電話で問い合わせをした際、担当者が非常に丁寧で親身になって話を聞いてくれたのが印象的でした。私自身、多くの疑問や不安を抱えていましたが、一つ一つ誠実に向き合い、根拠や選択肢を明確に説明してくれたため、大切な会社の未来を託したいと感じました。
―相談当初に印象深かった出来事や、心に残るアドバイスがあれば教えてください。
初回の電話の段階から、株価算定や条件に関する質問をかなり投げかけました。にもかかわらず、「お金ありき」ではなく、会社の本当の価値や、地域に根ざしてきた歴史をくみ取ろうとしてくれた姿勢がとても信頼できました。私たちが納得するまで、何度も説明や資料のやり取りがあったのも心強かったです。
―M&Aプロセスが本格化したのはどのような時期だったのでしょうか?
2020年4月末に最初のご連絡、5月末までに秘密保持契約、8月にIM(会社の情報記載書)作成、8月にFA契約と段階を追って進みました。いきなり交渉に入るのではなく、プロセスを一つずつ整理し、準備段階から十分な意見交換を重ねられたことが安心につながりました。
―IM作成ではどのような課題や工夫がありましたか?
自社の強みや特徴を第三者目線で整理してもらう作業は想像以上に大変でした。3度のリテイクを経て言葉選びや実績の伝え方、お客様や地域社会への貢献度など、伝えるべきポイントの再発見がいくつもありました。担当者の編集サポートとフィードバックがなければ妥協して終わっていたかもしれません。
―いよいよ買い手候補への打診から意向表明まで、心の動きに変化はありましたか?
未知の企業との出会いはワクワクと不安が入り交じるものでした。ありがたいことに複数の企業が関心を示してくださり、各社の経営理念や将来展望を知ることで、自分なりに今後の薬局運営や業界の未来について深く考えるようになりました。相性や価値観を重視し、条件だけでなく対話の内容や雰囲気も選定のポイントでした。
―最終的に買収企業を「O社様」に決めた決め手についてお聞かせください。
O社様は業界内でも店舗展開に注力されており、何より地域医療への貢献姿勢、従業員雇用の継続など想いに共鳴していただけた点が大きかったです。丁寧な事前面談や現場スタッフとの交流も重ね、私たちの譲れない部分も十分に受け止めていただけたと思っています。担当者が条件交渉で双方の希望や事情を調整してくれたのも安心材料でした。
―譲渡価格や諸条件についての交渉で大変だった点、工夫したことを教えてください。
一括でなく、業務委託契約も盛り込んだ分割型の取り決めになったのは、買主様・私双方にとって納得感のある案だったと思います。私自身も引き続き一定期間業務に携わることができ、知見の伝承や従業員のサポート継続が図れました。条件の妥協点やそのメリット・デメリットについても、包み隠さずご説明いただけたので、駆け引きにならず誠実な合意形成ができました。
―意向表明書からトップ面談、クロージングまでの具体的なエピソードがあればぜひ。
トップ面談は正直、かなり緊張感のある場でした。ですが、率直な課題共有と本音での意見交換を重ねることで徐々に安心感が生まれ、最終的には双方納得のいく形でまとまりました。その後の処方元挨拶時には、「良い方に引き継げる」とお医者様にも安心していただき、責任の重さと同時にホッとした記憶があります。
―M&Aプロセス全体を振り返って、最も困難だったポイントは何でしょう?
細かな条件のすり合わせや意思伝達ミスがないよう、常に緊張感を持って進めていました。特に従業員・患者様への説明タイミングや契約内容の理解、日取り調整などタスクが多く、忙しさとプレッシャーの中でも「一つずつ確実に」と自分に言い聞かせていました。担当者からの具体的かつ冷静なアドバイスがなければ、乗り越えられなかったです。
―買い手(O社様)やみつきコンサルティングのご担当者について、人物像や印象的なやりとりはありますか?
O社様は現場を見る姿勢があり、現実的かつ誠実にリスクや課題を共有してくださいました。みつきコンサルティングの担当者も、決して押しつけがましくない中立な姿勢で、私たちの疑問や要望をきめ細やかに拾い上げ、満足感のあるプロセスを創出してくれたと思います。
―他の候補企業と比較した際に重視したポイントや感じたこともぜひ。
数字や譲渡価格など表面的な条件だけでなく、カルチャーや企業理念、将来像が近いかをじっくり見極めました。譲受側が地域や従業員への理解と熱意を持っているかは大切なポイントで、何度も面談を繰り返したのはそのためです。
―M&A後の協業やシナジーについて、どのような展望や期待をお持ちですか?
譲受側のO社様は既に規模・ノウハウともに秀でており、医薬品調達やオンラインシステム導入・労務管理等、さまざまな面で協力体制が築けると感じています。私の担当後も、地域密着の店舗運営や、在宅医療・服薬指導などサービス拡充のノウハウを共有していただくことで、地域医療の質向上や、新しいサービスに挑戦できる期待感があります。
―譲渡後、従業員や患者様、そしてご自身の生活にどのような変化がありましたか?
当初は「変わってしまうのでは」との不安もありましたが、従業員の雇用や患者様との関係は大きく変わることなく、むしろサポート体制が一層充実したことで安心感が増しました。会社のオーナーでなくなったことで、私自身は業務負荷が少し減り、家族や自身の時間にゆとりが持てるようになりました。
―経営者としてM&Aを振り返ると、最大の学びや心に残った出来事はありますか?
協議や交渉も含め、一人でできないことの多さ、信頼できる“伴走者”の存在の大きさを痛感しました。自社の価値観や想いを貫きながら新しい道を切り拓く過程は、大きな挑戦でもあり経験として財産になりました。人と人とが本気で向き合うことでしか生まれない結果があるのだと実感しています。
―M&Aを考える他の経営者に伝えたいこと、印象的なアドバイスがあればお願いします。
“悩むこと自体に価値がある”ということ。時には専門家や第三者の知恵を借りながら、なるべく早い段階で未来を考え始めることで後悔のない選択ができると思います。何より大切なのは、会社や周囲の人々への誠実さを忘れないことではないでしょうか。
―最後に、これからのご自身のライフスタイルや新たに挑戦したいことがあればぜひお聞かせください。
薬局経営は一区切りとなりましたが、しばらくは業務委託として現場に関わりつつ、自分自身の時間も大切にする生活にシフトしています。家族との時間、新しい土地での知人づくりや趣味、将来は業界の発展や若手育成に貢献するような活動にも携わっていければと思っています。