ITソフトウエア開発のM&A事例 【関東】

パッケージソフトの販売会社株式の譲渡を助言|S社さま

譲渡企業 S社さま
業種 ITソフトウエア開発
事業内容 工場向けソフトウェア開発
売上 約2億円
地域 関東
設立 1980年代
経営者の年齢
譲渡理由 企業成長加速
譲受企業 P社さま
業種 金融
事業内容 自動車向け保証サービスの提供など
売上 約90億円(連結)
地域 関東
設立 2000年代
上場の有無 上場
譲受目的 商品ラインナップの拡充

S社様、本日はお時間をいただきありがとうございます。まずは、S社の設立から現在に至るまでの経緯について教えていただけますか?

はい、ありがとうございます。当社は私が大学を卒業した2009年に設立しました。当時23歳で、大学を卒業したばかりでしたが、学生時代から起業を考えていたので、得意とするプログラミングを活用して始めました。最初は小規模なウェブ制作から始めましたが、徐々にソフトウェア・アプリ開発にシフトしていきました。創業時は従業員1名でしたが、10年で20名まで成長しました。

- 若くして起業されたわけですね。その決断に至った背景を教えていただけますか?

大学時代からプログラミングに没頭していて、自分のアイデアを形にする喜びを知りました。就職も考えましたが、自分のビジョンを実現するには起業しかないと思ったためです。もちろん、不安もありましたが、若さゆえの勢いもあったと思います。今では絶対にできないですね()

- 起業後、どのような苦労がありましたか?

最初の3年は本当に大変でした。資金繰りに苦労し、時には家賃の支払いも厳しい状況でした。しかし、徐々に顧客基盤を築き、口コミで評判が広がっていきました。特に、モバイルアプリ開発の需要が高まった2013年頃から急成長しました。

- そのような成長の中で、M&Aを検討されたきっかけは何だったのでしょうか?

主に3つの理由があります。まず、業界の急速な変化です。AIIoTなどの新技術が台頭し、単独での対応に限界を感じていました。次に、東京マーケットへの本格進出です。地方拠点では大型案件の獲得に限界がありました。最後に、人材確保の課題です。優秀なエンジニアの採用が年々難しくなっていました。

- なるほど。業界動向についてもう少し詳しくお聞かせいただけますか?

はい。私たちのような中小規模のソフトウェア会社にとって、技術革新のスピードについていくのが非常に難しくなっています。特に、AIやブロックチェーンなどの先端技術は、大規模な人的投資と専門知識が必要です。また、クラウドサービスの普及により、従来型のソフトウェア開発の需要が減少傾向にあります。このまま同じことを続けていたら5年後、10年後の会社の存続が危ぶまれると感じていました。

- そういった状況下で、M&Aによる成長戦略を選択されたわけですね。M&Aの過程において、最初にどのような希望をお持ちでしたか?

はい、まず株式の価値として100%譲渡の場合において10億円を下限として考えていました。これは、当社の実績や将来性、そして私自身がこれまで投じてきた時間と労力を考慮した金額でした。また、買収後も当社の独自性を一定程度保ちたいと考えていました。やはりソフトウェア開発はいわれたことをやっているだけでは良い製品を生み出すことはなかなかできません。なので、株式の100%売却にはこだわらずに、相手によって柔軟に交渉しようと考えていました 

- 株価については、どのような交渉がありましたか?

買収会社側には下限10億円で交渉を開始していただきましたが、最終的に、株式の80%譲渡で6.1億円での提示をいただきました。(注記:100%譲渡に換算すると、約7.6億円)正直、最初は迷いました。しかし、みつきコンサルティングの担当者から、直近のいくつかの事例や、買収企業が考えているシナジー効果について詳しく説明を受け、冷静に判断することができました。

- その判断に至るまでの心境の変化を教えていただけますか?

最初は自尊心が傷つけられたような気分でした。10億円でも下限価格と考えていましたし、根拠となる事業計画も間違いなく達成できる自信がありました。しかし、冷静になって考えると、金額だけでなく、会社の将来性や従業員の幸せも考慮する必要があるのではと考えるようになりました。買収会社のリソースを活用すれば、10億円では得られない価値を生み出せる可能性がありますし、従業員にとっても、より大きな舞台で活躍できるチャンスになると考えました。

- 交渉の過程で特に苦労された点はありましたか?

はい、いくつかありました。まず、進行が当初の予定から1か月半ほど後倒しになったことです。M&Aありきではなく、独自路線での成長戦略も検討していたため、意思決定ができない期間が長引いたことにストレスを感じました。また、想定していたキーマンの退職可能性が判明したときは、破談の危機を感じました。

- 進行の後倒しについては、どのように対処されましたか?

みつきコンサルティングの担当者が、買収会社側と密にコミュニケーションを取ってくれたことが大きかったですね。案件担当者だけでなく、決定権のある執行役員を含めた関係者と密に連絡を取り、方向性と期限を明確にしたスケジュールを聞き出し、再提示してくれました。また、なぜ進行が遅れているのか、その間に何を行わなければならないのかについても明確に説明してくれたので、不安ではあったものの、なんとか乗り越えることができました。

- キーマンの退職可能性については、どのように対応されましたか?

これは大変でした。そのキーマンは当社のエンジニアの中心人物で、彼の退職は会社の価値に大きなインパクトがありました。みつきコンサルティングのアドバイスに従い、まずはキーマンと率直な対話を行いました。彼の不安や希望を聞き、買収後のキャリアパスについて一緒に考えました。同時に、買収会社側にも状況を説明し、キーマンとの直接面談の機会を設けました。その場で買収会社の執行役員から将来の青写真やキーマンに担ってもらいたい業務をお話しいただきました。包み隠さず透明性を持って対応したことで、最終的にはキーマンも前言を撤回し、今でも当社の中心メンバーとして活躍してくれています。

- 労務面での対応も大変だったと伺っています

おっしゃる通りです。決済条件として、(法定通りの)雇用契約書の締結・三六協定届、未払残業代の清算などが挙げられました。勢いでやっていたベンチャー企業特有の課題かもしれませんが、人事労務面がおざなりになっていたのは否めませんでしたから、このタイミングでの体制整備が必要でした。正直なところ、自分一人で経営していたころは、大した問題だと思っていませんでしたが、実際の課題として直面し、改めて経営者としての責任の重さを感じました。

- 労務面での対応において、具体的にどのようなことをなさったのでしょうか?

みつきコンサルティングのサポートを受けながら、法務デューデリジェンスで抽出された論点について早々に対処していきました。具体的には、社会保険労務士に相談しながら、買収企業のレベルに合わせた必要書類の整備や、延滞金も含めた未払残業代の精算などを進めました。従業員との個別面談も行い、大手企業にジョインすることになる彼らの不安を払拭するよう努めました。これらの対応を1カ月程度で行うことで、決済への障害を取り除くことができました。正直、これらの作業は大変でしたが、会社としての基盤を強化する良い機会にもなりました。

- 従業員以外のステークホルダーとの関係はどのような調整をされたのでしょうか?

まず、デューデリジェンス実施前に、買収会社側とみつきコンサルティングの担当者から顧問税理士とのミーティングの打診がありました。目的としては、デューデリジェンスに協力いただくことだったのですが、併せて、買収後も引き続き顧問としてお願いすることを買収企業の執行役員から約束していただき、先生も気持ちよく協力していただきました。また、メインバンクにも事前に連絡し、引き続きサポートいただける約束をいただきました。

このようなステークホルダーとの関係維持が、スムーズな進行と譲渡後の会社の成長に非常に重要なんだなと実感しています。

- みつきコンサルティングのサポートで特に印象に残っている点はありますか?

はい、いくつかあります。まず、株価の交渉では、買収会社の提示額の正当性を説明いただいたうえで、落としどころについてアドバイスいただきました。詳しくは話せないのですが、譲渡対価以外の条件を有利にすることでバランスを取り公平性を担保してくれました。また、少し感情的になりがちな私に対して、損して得取れの方向性を示してくれ、冷静にさせてくれました。

スケジュールの遅延時には、常に最新の情報を提供し、不安を軽減してくれましたし、労務面での課題に対しても、私が知らなかった制度をしっかり説明し、具体的な対応策を提案してくれたことが非常に助かりました。彼らの経験と知識に基づく的確なアドバイスがなければ、このディールは成立しなかったかもしれません。

M&Aの過程を通じて、どのような発見がありましたか?

多くの発見がありました。まず、M&Aを行うには様々な理由があり、年齢や業界にとらわれずに可能性を探るべきだと思います。昨今、中小企業のM&Aが活発に行われていると聞いていますが、多くは事業承継を目的としていると思います。また、多くのベンチャー企業はIPOを目的としています。一方で、ベンチャー企業の経営者である私自身、若くしてM&Aを選択しましたが、これが正解だったと確信しています。IPOでも事業承継でもないエグジットの方法としてM&Aは多用されるべきだと思います。

また、相手先との相乗効果を考えた場合、柔軟な姿勢が重要だということも実感しました。

自分一人の視野では気づけないシナジーもたくさんあり、いろんな会社のお話を聞いてみて本当に良かったと思っています。

これは反省に近いのですが、人材の重要性や労務管理の必要性についても認識を改めましたね(苦笑)。経営者として、会社の価値は財務諸表だけでなく、人材や組織文化にも大きく依存することを改めて実感しました。

- 今回のM&Aを経て、今後の事業展開についてどのようなビジョンをお持ちですか?

買収会社のリソースを活用し、より大きなマーケットに挑戦していきたいと考えています。特に、東京での事業展開を加速させ、新たな顧客層の開拓を目指します。具体的には、大手企業向けの大規模プロジェクトにも参画できるよう、組織体制を強化していきます。また、技術面でのシナジーを生かし、買収会社から専門のエンジニアを派遣してもらい、今まで当社が挑戦していなかったAIIoTを活用したより革新的なソリューションの開発にも取り組んでいきたいと思います。買収会社の持つビッグデータ解析技術と、当社のモバイルアプリ開発技術を組み合わせることで、新たな価値を作り出します。

これらの事業展開により、5年以内に売上を5倍、営業利益を10倍以上にする計画です。

M&A後の新たな役割や生活について、どのようにお考えですか?

買収後も引き続き当社の代表取締役として経営に携わりますが、より戦略的な役割にシフトする予定です。具体的には、新規事業の立案・調整や大型案件の獲得に注力します。また、買収会社のボードメンバーとして、グループ全体の戦略策定にも参画する予定です。

個人的には、これまで以上に勉強の必要性を感じています。経営戦略やファイナンスについてもより深い知識を身につける必要があります。

生活面では、東京と地元を行き来する機会が増えそうです。家族との時間のバランスを取るのが課題になりそうですが、新しい挑戦を楽しみにしています。

- 最後に、M&Aを検討している他の経営者の方々へアドバイスがあればお聞かせください。

まず、M&Aの目的を明確にすることが最も重要です。特にベンチャー企業は、単なる売却ではなく、事業の成長や新たな可能性を見出す機会として捉えることをお勧めします。

信頼できるアドバイザーを選ぶことが成功の鍵だと思います。経験豊富な専門家のサポートは必須だと感じましたし、彼らがいなければ本件は成就していないと思います。

そして、柔軟性と忍耐力を持つことも大切です。担当者に事前に言われていたのですが、「うまくいっていても、絶対斜め上からボールが飛んでくることがあるので覚悟しておいてください」と。実際、キーマンの退職など予期せぬ課題が発生しましたが、それらをクリアするためには柔軟性は必須ですね。

最後に、従業員のことは忘れてほしくはないです。やはり、事業は一人ではできません。いかに彼らの不安を取り除き、新しい環境でも活躍できるよう支援することが大切か痛感しましたし、経営者としての責任だと思います。

- 本日は大変興味深いお話をありがとうございました。今後のさらなる発展を楽しみにしております。

こちらこそ、ありがとうございました。これからも社員一丸となって、新しい挑戦を続けていきたいと思います。

 

           

この案件・類似案件の担当者

▷ 西尾 崇 事業法人第三部長


宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。

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