――本日はお忙しい中、インタビューにご協力いただき、ありがとうございます。まずは、今回M&Aを決断された背景について教えてください
当社は学校給食向けの栄養管理システムを提供している会社ですが、自社単体では、成長に限界を感じていました。国内での取引基盤はそれなりに持っていましたが、少子高齢化の進展により今後は市場が縮小していくと考えられ、別の市場への参入が課題でした。考えられるのは、介護施設や病院等でのシェア拡大や、東南アジアを中心とした海外展開でした。ただ、介護や病院はすでに別のプレイヤーがいて、海外展開についてはノウハウがなく、なかなか中小企業単体では難しい課題です。そのようななか、みつきコンサルティングさんと出会い、まさに自社の成長につながる相手を提案してくれ、M&Aを決断することにしました。
――買い手選定の基準はどのような点に置かれましたか
具体的な事業シナジーを重要視しました。最終的な買い手となったC社との面談では、栄養管理システムの介護施設や企業への導入支援について具体的なビジョンを提示して頂きました。また、当社が考えている海外の市場獲得と、食育の普及という観点でも考えが一致し、お話を進めることを決めました。
――交渉過程で特に印象に残っているエピソードは?
最終契約直前に、C社の競合企業からシステム開発の要請がありました。みつきコンサルティングさん経由でC社に相談したところ、システムの発注者(競合企業)にC社とのM&Aについてご了解いただいたうえでないと、後々トラブルになるので、M&Aの契約を締結できないとのことでした。そこで、私が発注者に直接説明に赴き、C社のグループになることについて事前に説明したうえで、システムの開発を受託し、その後M&Aをクロージングすることができました。
――バリュエーション交渉で苦労された点はありましたか?
苦労はなかったですね。C社から提示された金額に対して、税理士から当社の事業であればもっと金額が出るのではと言われ、その旨をみつきコンサルティングさんに伝えたところ、金額の根拠について資料を踏まえて説明してくれ、十分高い評価をしてくれていると納得をすることができました。また、金額を提示される前に何度もC社の役員と会い、今後の事業戦略等も話合うなかで、信頼関係が生まれていたことも、すんなり納得できた要因かもしれません。
――経営陣の意思決定プロセスで重要な転機は?
トップ面談におけるC社役員の「栄養士の社会地位向上」への熱意が大きかったかもしれません。単なる事業拡大ではなく、管理栄養士のキャリアパス構築という当社の企業使命と共鳴する部分が明確になり、経営陣全員の合意形成が急速に進みました。
――クロージング後の統合プロセスで注力された点は?
企業文化の融合と顧客サービスの維持です。給食管理ソフトのサポート体制については既存チームの運営を堅持しつつ、C社の介護施設ネットワークを活用した新たな機能開発を並行して進めました。特に当社の栄養管理システムの介護への応用において、両社の技術を融合させた開発プロジェクトが早期に立ち上がったことは大きな成果でした。
――M&Aを通じて得られた最も大きな成果は?
栄養士の活躍領域が飛躍的に拡大した点です。従来の学校に加え、C社グループの病院、介護施設や出版媒体を通じた新たな活動の場が創出されました。特に食育教材の全国展開と連動した栄養士派遣事業の拡大は、単独では実現困難だったシナジー効果を生んでいます。
――買い手企業との文化の違いで苦労した点は?
スピード感のある意思決定とリスク許容度の違いに当初戸惑いがありました。当社が長年かけて築いた栄養士コミュニティとの信頼関係を維持しつつ、C社グループが求める成長速度に適応するため、部門別の調整役を配置するなどの対策を取りました。特に人材派遣事業の拡大ペースに関する議論では、品質管理とスケーラビリティのバランス取りが難題でした。
――主要取引先からの反応はいかがでしたか
自治体や教育委員会からはサービス継続性への安心感が寄せられ、逆に食品企業からは新規コラボレーションの提案が増加しました。特に給食管理ソフトと食育教材のパッケージ化について、複数の自治体から具体的な相談を受けるなど、グループ化による信頼性向上を実感しています。
――今後の成長戦略で注力される分野は?
海外展開に力を入れます。東南アジアにおける栄養管理需要に対応すべく、C社の海外ネットワークを活用した現地適応型ソフトの開発を進めています。ベトナム現地法人を拠点に、東南アジア向け栄養管理プラットフォームの開発を加速中です。当社の学校給食管理ノウハウとC社の大量調理システムを融合させ、2026年度中にタイ・マレーシアでの実証実験を計画しています。現地の食文化を考慮したレシピデータベース構築が現在の課題です。
――従業員のモチベーション維持策で効果的だった取り組みは?
部門別にアイデア提案制度を導入しました。例えばシステム開発部門の若手社員が提案した介護施設向け食事記録アプリの開発案件が、C社の営業ネットワークを通じて全国50施設に採用されるなど、具体的な成果が可視化されたことが励みになりました。
――譲渡後に感じられたメリットはありましたか?
より多様なキャリアの形成が可能となったことが挙げられます。当社の栄養士がC社の介護施設で現場経験を積んだり、C社の調理師が当社の食育教材開発チームに参加する事例等があります。異業種交流が新たなサービス開発の触媒となっています。
――企業文化の融合で成功した具体策は?
月次報告会を「食」をテーマにした懇親会形式で実施しました。C社の調理師が開発した介護食と当社の栄養士が考案した学校給食メニューの試食会を兼ねることで、現場レベルの交流が促進されました。
――M&Aを通じて得られた最大の学びは?
まずは、色んな買い手候補の話を聞いてみるということです。私の場合、C社を含めて4社とお会いしました。実際にお会いして話をすると、良くも悪くもイメージと異なる点が多々あります。また、色んな企業のトップと事業戦略について話をすると、様々な気づきがあります。これは、今後の成長戦略を描くうえで、大きなプラスとなると思います。
――最後に、これからM&Aを検討する経営者へのメッセージをお願いします
M&Aは、会社が成長するための大きなチャンスです。単に金額等の条件で検討をするのではなく、社員がより活き活きと働けるか、社員のキャリアパスが広がるか、会社の成長に繋がるかなど、M&A後の姿を想像した時に、ポジティブな絵を描ける相手と一緒になることが重要です。
また、クロージングまでには交渉するべきことが非常に多岐に亘ります。専門性の高い、信頼できるコンサルタントへ依頼することが、M&Aを成功に導く秘訣だと思います。