アライアンスとは、「連携」や「提携」を意味する広い概念です。このうち株式の移動を伴う「資本提携」がM&Aになります。本記事では、アライアンスとM&Aの違い、それぞれのメリットとデメリット、注意すべきポイントについて解説します。
アライアンスとM&Aの違い
アライアンスは広義の意味でM&Aに含まれることもありますが、厳密に言えばアライアンスとM&Aは異なるものです。しかし、両者の違いは意外と知られていません。それでは、アライアンスとM&Aの違いを解説していきます。
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アライアンスとは
アライアンスは「同盟」や「連携」等と訳され、複数の企業が契約に基づき、利益獲得のために協力して取り組むことを指します。これは戦略的提携とも呼ばれ、経営権の移転を伴わず、両社が独立性を維持する点でM&Aと大きく異なります。アライアンスは契約に基づく協力関係であるため、M&Aに比べて双方の企業の結びつきはやや弱いと言われています。また、アライアンスはいずれ契約関係が解消され、提携後に両社がライバル関係に戻る可能性もあります。そのため、双方の企業は協力しながらも相手の技術やノウハウを吸収しようと努力します。つまり、アライアンス中は協力と競争が同時に行われるわけです。
アライアンスには主に「業務提携」「技術提携」「資本提携」などがあります。業務提携は特定の事業分野に限定した提携であり、生産や技術、販売などの分野で協力します。技術提携は、企業が持つ技術や特許等を他社に提供するライセンス契約と、互いの技術を生かして開発を行う共同開発契約があります。ライセンス契約は技術提供を受ける側の企業がライセンス料を支払い、他社の技術や特許を活用して研究開発や製品開発を行います。共同開発契約は大学等の研究機関も参加し、共同で研究開発を行うケースがあります。
資本提携は両社が互いに出資して株式を持ち合い、あるいは片方の企業が提携先企業の株式を一部取得する形で行われる提携です。単純な業務提携と比べると資本が入る分、協力関係が強固です。片方の企業が資本を持つ場合は一定の主従関係は発生しますが、経営権が移転しない数%程度にとどまるケースが多いです。
以上のように、アライアンスとM&Aはそれぞれ独自の特徴やスキームを持っています。これらの違いを理解し、自社のビジネス戦略に適した提携手段を選択することが重要です。
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M&Aとは
M&Aは「Mergers(合併)and Acquisitions(買収)」の略語であり、複数の企業や事業が合併したり、企業が買収されたりする行為を指します。譲受側のM&Aの主な目的は、新規事業への進出や事業規模の拡大です。譲渡側は、事業承継や創業者利潤の獲得、主力事業への経営資源の集中等を目的とすることが多いです。特に日本では、「事業承継問題」が深刻になっており、その課題解決策の一つとしてM&Aのニーズが高まっています。このように、大企業だけでなく、中小企業にとってもM&Aは積極的に活用されている戦略の一つとなっています。
M&Aはさまざまなスキームが存在しますが、大別して「買収」、「分割」、「合併」の3つに分けられます。買収は譲渡企業の株式の全部あるいは一部を買い取り、経営権を取得します。新規事業への進出や事業規模の拡大を目的に実施されます。会社分割は事業の一部あるいは全てを切り出して、別の会社へ移転する方法です。既存の会社に事業を移転する「吸収分割」と、新たに設立した会社に移転する「新設分割」とがあります。合併は複数の会社を一つに統合する手法で、「吸収合併」と「新設合併」が有ります。吸収合併は消滅する(吸収される)企業の権利や義務が、存続する(吸収する)企業に承継され、新設合併は新しく会社を設立し、消滅するそれぞれの会社の権利・義務を吸収させます。
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アライアンスとM&Aのメリット・デメリット
M&Aを実施することで、譲受企業は経営権や事業そのものを手に入れるため、M&A後の経営において、譲受企業自身が直接コントロールできる範囲が広がります。これにより、既存事業とのシナジー効果の追求や、新たなビジネスチャンスの創出が可能となります。
ただし、対象企業に簿外債務等の大きなリスクが潜んでいる場合、譲受企業はその負債を引き継ぐことになります。そのため、M&Aを行う前にデューデリジェンス(買収監査)が重要なプロセスとなります。
M&Aのメリット
譲受企業のメリット
- 新規事業の立ち上げに比べて、事業拡大に対する時間やコストが短縮されることがある
- 譲受企業の既存事業とのシナジー効果により、両者が協力してより大きな利益を生むことができる
- 経営権を獲得することで、相手企業に対して自由度の高い経営戦略が実行できる
譲渡企業のメリット
- 後継者がいない場合でも、M&Aによって経営をスムーズに引き継ぐことができる
- 将来の利益を見込んで、買収金額として一括で受け取ることが可能
M&Aのデメリット
譲受企業のデメリット
- 簿外債務等のリスクを引き継いでしまうと、投資額以上の損失が発生することがある
- 経営を引き継いだ後に事業計画が順調に進まず、シナジー効果が期待通りに発揮されないことがある
譲渡企業のデメリット
- 市場価格よりも低い金額で株式を売却してしまうリスクがある
- M&A後も旧株主に責任が残る場合、契約違反などで損害賠償請求を受けることがある
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アライアンスのメリット
- M&Aよりも投資金額を抑えることが可能
- 各企業の独立性を保ちながら経営を継続できる
- 簿外債務を引き継ぐリスクがない
- 異なるスキルを持つ社員との交流や、異なる事業の機会に触れることにより、人材の育成につながる
アライアンスのデメリット
- 双方の意欲が低い場合、アライアンスの効果が限定的になる
- 技術やノウハウが提携先に流出する恐れがある
- 資本的な関係が薄いほど技術の開示範囲が狭まり、これが業務提携の実効性を低下させる原因となることがある
- 資本関係がない場合、双方が対等な立場で協力関係を築くため、容易にアライアンスが解消されることがある
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アライアンス契約書の主要な記載事項
アライアンスを結ぶ際には、契約書の内容が極めて重要です。以下に、アライアンス契約書に記載すべき主要な項目を示します。
- 契約の目的: アライアンスの狙いを明確にし、双方が協力する内容を示す
- 提携範囲: 提携する業務内容や分野を具体的に示し、両者の役割分担を明確にする
- 情報管理: 業務提携において共有される情報の取扱いや保護に関するルールを設定する。特に、機密情報や知的財産権の管理については、詳細に記述することが重要である
- 費用負担: アライアンスに関わる費用の負担割合や支払い方法を明示する。事前に全ての費用を見積もって割合をきめるのが難しい場合もあり、その場合は、各自で進める業務については、各自の判断で支出・負担する場合もある
- 収益分配: アライアンスによって得た収益の分配割合や分配方法を明示する。分配の割合は、提携した事業における寄与度を反映させるのが一般的である
- 契約期間: 契約の期間や、更新・解約手続きに関する規定を記載する。独立性を保った提携のため、M&Aと違って永続的ではなく、期限を区切ったものとなる
- 解約条件: 契約を解約する条件や、その手続き、責任の所在を定める
- 紛争解決: 提携に関する紛争が生じた場合の解決手段や管轄裁判所を記述する
- その他の条項: 両者が合意したその他の必要事項を追加する。例えば、競業禁止や人材移動に関する規定が含まれることがある
アライアンス契約書は、企業間の協力関係を明確にし、トラブルを防ぐための重要な文書となります。契約書の作成では専門知識が必要となるため、弁護士や専門家と相談しつつ適切な内容を盛り込むことが求められます。
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アライアンス契約締結時の留意点
アライアンス契約締結時の注意点
アライアンス契約は、企業間の協力関係を築くために重要なものですが、契約締結時にはいくつかの留意点が存在します。以下に、主な留意点を詳しく述べています。
- 目的と期待値の認識合わせ:アライアンスを締結する前には、双方の目的や期待値を明確にし、共有することが肝心です。目的と期待値の認識合わせにより、契約内容の漏れや認識の不一致を防止することができます。
- 事業計画の策定:アライアンス契約締結に先立ち、双方が協力する事業計画を策定し、合意をしておくことが望まれます。事業計画には、提携範囲や目標、役割分担、費用負担などが含まれています。
- 提携方法の選択:アライアンス契約には業務提携、資本提携、資本業務提携など、多種多様な形態が存在します。自社の事業戦略や提携先との関係性に応じて、適切な提携方法、契約形態を選択することが重要となります。
- 情報管理と知的財産権の保護:アライアンスによって共有される情報や技術の管理や保護は非常に重要です。機密情報や知的財産権の取り扱いについては、契約書に詳細に記載し、双方で共有することが望ましいです。
- アライアンス先とのコミュニケーション:アライアンス契約締結後も、定期的なコミュニケーションを行い、互いの状況や課題を共有し、問題が発生した場合は速やかに対処することが大切です。
- リスク管理:提携に伴うリスクを事前に把握し、リスク管理計画を策定することが望ましいです。また、契約書には、リスク発生時の責任所在や解決方法を明記することが重要です。
- 競業禁止に関する取り決め:アライアンス契約締結時には、提携先との間で競業禁止に関する取り決めを行うことが望ましいです。競業禁止条項は、提携先が自社と競合する事業を行わないように規定するもので、これにより、提携先が自社の情報や技術を利用して競合事業を展開することを防ぐことができます。
- 人材の移動に関する取り決め:アライアンス契約では、双方の人材の移動に関する取り決めも重要です。特に、共同事業を行う際には、双方の社員が協力して業務を進めるために、人材交流が必要となります。人材の移動に関する取り決めでは、出向や人材交流の期間、業務範囲、評価方法などを明確にすることが望ましいです。
これらの留意点を踏まえて、アライアンス契約を適切に締結することが、双方にとって有益な提携関係を築くための重要な要素となります。また、契約書の作成や交渉過程においては、専門家の意見を求めることも有益です。
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アライアンスを成功させるための注意点
アライアンスはM&Aと比べて簡単に締結できますが、トラブルを防ぐためにいくつかの注意点が存在します。具体的な注意点を以下に解説します。
自社の強みと弱みを理解し、目的を明確にする
アライアンスを成功させるためには、自社の強みと弱みを把握し、明確な目的を設定する必要があります。アライアンスは、自社に欠けている要素を他社との提携を通じて補うものです。しかしながら、自社の商品力、販売力、技術力を分析し、強みと弱みを理解できなければ、適切なアライアンスを結ぶことは難しいでしょう。
目的が明確であれば、パートナー企業の選定基準も強固なものになり、適切なアライアンスを結びやすくなります。
提携先企業の分析を行う
提携先企業の選定は、アライアンスの成否を大きく左右する要素です。
提携先を選定する際には、以下の観点から分析し、自社の欠点を補完できるかどうかを検討することが重要です。
- 自社の企業理念やビジョンと矛盾しないか
- 十分な経営資源の投入が期待できるか
- 財政状況の制約による影響がないか
- 期待する提携がスムーズに進むかどうか
- 相互間のコミュニケーションが適切に取れるか
- パートナー企業との競合の可能性がないか
- 情報取り扱いが適切かどうか
提携先が自社に求めるメリットを本当に提供できるかどうか、慎重に見極めることがアライアンスで成果を出すためには欠かせません。
契約の詳細を決定する
アライアンスの提携先が見つかり、双方において契約締結の意思がある場合、基本合意書を締結し、契約の詳細を決定します。対等な契約を結ぶため、提供する経営資源や相手に要求するものを明確にし、相互に利益を生み出すよう配慮する必要があります。
特に、個人情報やノウハウの流出は双方の企業にとって重大な問題です。トラブルを防止するために、契約で問題になりうる点を明確にし、対策を定めておくことが重要です。
トラブル予防策として、業務提携契約書に以下の内容を記載することが推奨されます。
- 業務提携終了後の情報取り扱いについて明記する
- 秘密保持条項を規定する
これらの秘密保持契約を実施し、双方が合意できる契約を結ぶことで、トラブルが予防されます。
アライアンスとM&Aの違いのまとめ
本記事では、アライアンスとM&Aの違いについて解説しました。アライアンスはM&Aに比べて手軽に実行でき、成功すれば高いシナジー効果を得ることができます。アライアンスのメリット・デメリットを理解し、事業の成長に効果的に活用していきましょう。
みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社として15年以上の業歴があり、中小企業M&Aに特化した経験実績が豊富なM&Aアドバイザーが多数在籍しております。
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著者
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みずほ銀行にて大手企業から中小企業まで様々なファイナンスを支援。みつきコンサルティングでは、各種メーカーやアパレル企業等の事業計画立案・実行支援に従事。現在は、IT・テクノロジー・人材業界を中心に経営課題を解決。
監修:みつき税理士法人
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