近年、日本の中小企業においてもM&Aの動きが活発化しております。しかし、友好的な買収だけではなく、中には敵対的買収を仕掛けられることもあります。その場合、敵対的買収から自社を守るために、焦土作戦などの買収防衛策を行使する必要が出てきます。本記事では、M&Aにおける焦土作戦の概要、注意点、買収防衛策の種類、事例などを詳しく解説していきます。
焦土作戦は買収防衛策の1つ
焦土作戦はもともと、戦争の戦術として使われるもので、攻撃側が得られる利益を無くすため、家屋や田畑、森などの利用価値のある資産を破壊・焼却します。これにより、攻撃側が敵地での食料や燃料調達が困難になります。M&Aの分野では、この焦土作戦が買収防衛策の1つとして用いられます。
▷関連:M&Aとは|2024年も増加!目的・メリット・流れ・方法を解説
敵対的買収(同意なき買収)に対する防衛策とは
日本におけるM&Aでは、通常は買収者と譲渡企業の同意が得られる形で進められますが、時には譲渡企業の同意を得ずに議決権の過半数を獲得することで、一方的に買収を進めようとすることがあります。これを敵対的買収と呼びます。そして敵対的買収に対して、買収されないように講じる対応策を買収防衛策といいます。
焦土作戦とは
焦土作戦は、買収防衛策の一つで、譲渡企業が持つ優良資産や収益性の高い資産・事業を売却したり、多額の負債を負ったりすることで、企業価値を意図的に低下させ、敵対的買収者にとって魅力を失わせることを目的としています。
クラウンジュエルとの違い
クラウンジュエルとは、買収対象企業(クラウン=王冠)から資産や事業部門、特許など(ジュエル=宝石)を切り離し、自社の価値を毀損することを指します。M&Aの文脈では焦土作戦と同義で用いられることが多く、どちらも資産の破壊や売却を通じて企業全体の価値を低下させ、買収者の意欲を削ぐことが目的とされています。
企業経営において、これらの買収防衛策は、敵対的買収から自社を守る上で重要です。M&Aが活発化する中、企業経営者や関係者は買収防衛策や焦土作戦について理解し、適切な対応ができるよう準備しておくことが求められます。
▷関連:M&Aの買収防衛策とは|友好的買収と敵対的買収の違いや対応方法、事例について解説
同意なき買収に対する焦土作戦のリスク
焦土作戦を実施する場合には以下のようなリスクがあります。そのため、焦土作戦による防衛を行う際には、株主等の関係者へ目的や必要性を説明し、理解と協力を得ることが重要です。
買収防衛のために重要な資産や事業を失う危険性
資産を適正価格で売却する場合は、対価を得られるため魅力を損なうことはありません。しかし、適正価格以下で処分する場合、企業価値が減少してしまいます。そのため、企業の魅力や競争力を失うだけでなく、既存株主にも大きな損害を与えかねません。
取締役が善管注意義務違反・忠実義務違反を問われる可能性
企業の取締役には、企業の資産を適切に管理し、企業に忠実に行動する義務が課せられています。しかし、焦土作戦によって重要な資産を失うことで、売上や企業価値の低下が発生し、取締役が善管注意義務や忠実義務に違反したと判断されるリスクがあります。特に、株主が焦土作戦に反対していた場合、株主からの訴訟を受ける可能性があります。
▷関連:M&Aの相談先はどこが良い?税理士・銀行・仲介会社等の違いを解説
M&Aにおける焦土作戦の事例
ライブドアによる日本放送の買収
国内での焦土作戦の有名な事例は、ライブドアによるニッポン放送の買収の事例です。ライブドアは、ニッポン放送の買収を通じて同社の子会社であるフジテレビの経営権を握ることが目的でした。これに対してニッポン放送は、保有するフジテレビ等の株式の売却をほのめかしました。
前田建設による前田道路の買収
前田建設の買収の狙いは前田道路の豊富な資金とも言われています。前田道路は、前田建設の買収に対抗するためにクラウンジュエルである現金等の有価物(連結ベース)約850億円のうち60%超に当たる約535億円を特別配当金として社外へ流出すると発表しました。
買収防衛策としての焦土作戦のまとめ
M&Aにおける買収防衛策は、焦土作戦をはじめとして数多く存在しますが、その選択次第では買収を阻止できず、株主や他の関係者に不利益をもたらすこともあります。リスクを最小限に抑えるためにも、専門家の意見や事例を参考にしながら、自社に適した買収防衛策を選択することが重要です。
- M&Aにおける焦土作戦とは、被買収会社の資産・ノウハウ・事業などを売却し、企業価値を意図的に棄損させることで買収意欲を削ぎ落とす買収防衛策
- 資産や事業の喪失、取締役に対する善管注意義務違反等の責任追及のリスクがある
- 買収防衛策の誤選択による防衛失敗、企業価値の低下による株主などの不利益が生じる可能性がある
みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社として15年以上の業歴があり、中小企業M&Aに特化した経験実績が豊富なM&Aアドバイザーが多数在籍しております。みつき税理士法人と連携することにより、税務面や法律面のサポートもワンストップで対応可能ですので、M&Aをご検討の際は、成功するM&A仲介で実績のある、みつきコンサルティングに是非ご相談ください。
著者
-
みずほ銀行にて大手企業から中小企業まで様々なファイナンスを支援。みつきコンサルティングでは、各種メーカーやアパレル企業等の事業計画立案・実行支援に従事。現在は、IT・テクノロジー・人材業界を中心に経営課題を解決。
監修:みつき税理士法人
最近書いた記事
- 2024年9月24日事業承継計画書とは?必要な理由(業務・税制・融資)・雛形の記入例
- 2024年9月19日M&Aの基本的な流れ|中小企業の会社売却のプロセス・進め方とは
- 2024年9月16日M&Aの利点・欠点|事業承継での中小企業の売り手・買い手別に解説
- 2024年9月12日零細企業とは|中小企業との定義の違い・生き残りのためのM&A