エスクローとは?M&Aの譲渡代金を守る仕組み|流れ・費用・注意点

会社を譲り渡したのに、代金が支払われなかったら。そんな不安を解消する手段がM&Aのエスクローです。中立な第三者が資金を預かり、条件がそろった時点でオーナーへ払い出します。信託型と口座型の違い、分割払いや補償用留保での使い方、手数料の負担、預けた代金の課税時期まで、会社売却の段階ごとに実務の勘所を解説します。

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目次
  1. M&Aのエスクローとは?第三者が代金を預かる決済の仕組み
    1. なぜM&Aでエスクローが使われるのか
    2. 中小M&Aでエスクローが注目される背景
  2. エスクローの仕組みと流れ
    1. 譲渡代金をエスクローで受け取る流れ
    2. 役員退職金をエスクローで受け取る流れ
  3. 会社売却のフェーズ別に見るエスクローの実務
    1. 基本合意・条件交渉の段階
    2. デューデリジェンス後の段階
    3. 最終契約の段階
    4. クロージングとその後の段階
  4. 売り手を守るエスクローと買い手を守るエスクロー
    1. 代金の支払を担保するエスクロー
    2. 補償に備えて代金を留保するエスクロー
  5. M&Aでエスクローを使うメリットとデメリット
    1. エスクローの主なメリット
    2. エスクローの主なデメリット
  6. エスクローの2つの方式と選び方
    1. 信託契約を利用する方法
    2. 銀行口座を利用する方法
    3. 中小M&Aでの方式の選び方
  7. エスクローが活用される主な場面
    1. アーンアウトの支払原資を確保する
    2. 複数店舗を事業譲渡で段階的に引き継ぐ
  8. エスクローだけでは防げないリスクと確認事項
    1. 経営者保証の解除は別の手当てが要る
    2. 対象会社からの資金流出にも備える
    3. エスクローを検討したい取引のチェックリスト
    4. エスクロー契約で確認したい項目
  9. エスクローと税金|預けた代金の課税時期
    1. 預託分も譲渡した年の収入になるのが基本
    2. 納税資金は受け取った分から確保する
    3. アーンアウトや補償の扱いは契約次第
  10. M&Aのエスクローに関するFAQ
  11. M&Aのエスクローで譲渡代金を確実に受け取るために
M&Aの基本や会社売却の進め方を電話相談|0120-169-256・24時間受付

M&Aのエスクローとは?第三者が代金を預かる決済の仕組み

株を渡したのに、代金が振り込まれなかったら。初めて会社売却に臨む経営者なら、一度は頭をよぎる不安です。エスクローとは、取引の当事者の間に中立な第三者が入って代金をいったん預かり、約束した条件がそろった時点で受取人へ渡す決済の仕組みを指します。M&Aの流れのうち、最終契約から代金の受け渡しまでの局面で使われる手段です。

なぜM&Aでエスクローが使われるのか

株式譲渡では、株式の引渡しと代金の支払を同じタイミングで行うのが基本です。とはいえ、譲渡オーナーは入金を確認する前に株式を渡すことに、譲受企業は株式を受け取る前に多額の資金を振り込むことに、それぞれ不安を抱えます。この「どちらが先か」という問題を、銀行や信託銀行などの第三者が資金を預かることで解消するのがエスクローの役割。当日の段取りは、M&Aのクロージングの手順と一体で組み立てます。

中小M&Aでエスクローが注目される背景

海外のM&Aでは一般的な仕組みですが、日本の中小M&Aではエスクローを使わない取引も珍しくありませんでした。風向きが変わったのは2024年です。会社を譲り渡した後に、分割払いの譲渡代金や後払いの役員退職慰労金が支払われない、経営者保証が外れないといったトラブルが相次いで表面化しました。譲受企業の資金力や素性をどこまで確かめるのか、M&A仲介会社の姿勢も問われる事態に。

中小M&Aガイドライン(第3版)が示した支払リスク

一連の仲介トラブルへの対応も盛り込み、中小企業庁は2024年8月に中小M&Aガイドライン(第3版)を公表しました。譲渡対価の分割払いやアーンアウト、退職金の後払いなど、クロージング後に支払が残る取引を、当事者間の争いにつながりやすいリスクとして整理しています。仲介者やFA(譲渡オーナーか譲受企業の一方に助言する専門家)には、こうしたリスクを事前に説明する対応が求められるようになりました。

中小M&Aガイドラインにおける最終契約・クロージング後の支払いや不履行リスクに関する解説図

業界団体による自主規制

業界側も動きました。一般社団法人M&A支援機関協会は、特定事業者の情報共有に関する規約の中で、譲渡代金の分割払いや後払いがある取引では、会員の仲介会社等が当事者双方にエスクローの利用を勧めるよう定めています。特定事業者リストは問題のある譲受側の情報を会員間で共有する仕組みで、2026年2月にはその適切な運用に向けたFAQも公表されました。

M&A支援機関協会の規約第九条(特定事業者の情報共有に関する規約)。代金の分割払いや後払い時のエスクロー活用推奨を規定

エスクローの仕組みと流れ

決済当日、エスクロー口座への入金が確認できずに手続が止まってしまうケースがあります。エスクローを初めて使う取引ほど、こうした段取りの行き違いが起きやすくなります。誰が、いつ、何をするのか。流れを事前に押さえ、関係者で認識をそろえておきましょう。

譲渡代金をエスクローで受け取る流れ

株式譲渡で、譲渡代金をエスクロー経由で受け取る場合の基本形です。

M&Aにおけるエスクローの仕組み

下表の番号は、上の図の番号と対応しています。

手順主な当事者行うこと
①M&A契約譲渡オーナー・譲受企業株式譲渡契約(最終契約)を締結する
②エスクロー契約譲渡オーナー・譲受企業・エスクロー事業者預託額や払出条件を定めた契約を三者で結ぶ
③譲渡代金の預託譲受企業期日までに譲渡代金をエスクロー口座へ入金する
④支払指図譲渡オーナー・譲受企業支払条件がそろったことを確認し、払出しを指示する
⑤預託金の支払エスクロー事業者指図に基づき、預託金を譲渡オーナーへ支払う
⑥株式の引渡し譲渡オーナー譲受企業へ株式を引き渡す

一括払いなら⑤と⑥はクロージング当日にそろえる

番号の上では支払が先ですが、代金を一括で受け取る取引では、⑤の払出しと⑥の株式の引渡しをクロージング当日にそろえて行うのが一般的です。分割払いや後払いの部分は、定めた期日や条件の到来を待って④と⑤を行います。④の支払条件は、最終契約で定めるクロージング条件と表現を合わせておくと、当日の判断で迷いません。

支払指図書は最終契約と並行して準備する

よくあるのが、指図書の書式や署名者、提出方法が決まらないまま当日を迎えるケースです。エスクロー事業者によっては、本人確認や口座開設に日数がかかることも。クロージング日から逆算し、最終契約の交渉と並行して準備を進めておくと安心です。

役員退職金をエスクローで受け取る流れ

M&Aに伴う役員退職金は、譲受企業ではなく対象会社から譲渡オーナーへ支払われます。支払元が違うだけで、エスクローの基本的な流れは譲渡代金とほぼ同じです。注意したいのは、退任後の後払いにした場合。支払を実行するのは、すでに譲受企業の支配下に入った会社です。後払いが避けられないときこそ、資金の預託を検討したいところ。

会社売却のフェーズ別に見るエスクローの実務

エスクローはクロージング当日だけの話、と思われがちです。実際には、基本合意の前後で方向性を決め、最終契約で細部を詰め、クロージング後も払出しまで管理が続きます。各フェーズで譲渡オーナーが確認したい事項を、下表に整理しました。

フェーズ譲渡オーナーが確認すること主に決まる事項
基本合意・条件交渉分割払い・後払い・留保の有無と、その理由エスクロー利用の有無、対象となる金額の大枠
デューデリジェンス後指摘事項を理由に留保や減額を求められていないか補償用に留保する金額と期間の案
最終契約払出条件・期限・費用負担が契約書に明記されているかエスクロー契約の条項、エスクロー事業者の選定
クロージング入金の確認方法と払出しの手順支払指図の実行、株式の引渡し
クロージング後留保分の払出期日と補償請求の有無残額の払出し、または補償への充当

基本合意・条件交渉の段階

分割払いや後払いの提案が出てくるのは、多くがこの段階です。M&Aの条件交渉で支払方法が固まってから「エスクローも使いたい」と切り出すと、相手の警戒を招きかねません。支払方法を話し合う時点で、エスクローの利用を条件の一部として示しておくのが得策です。

デューデリジェンス後の段階

デューデリジェンス(譲受企業による企業調査)で未払残業代などの懸念が見つかると、代金の一部を補償用に留保したいと求められることがあります。こうした申し出に戸惑う譲渡オーナーは珍しくありません。ただ、問題が起きなければ最終的に全額を受け取れる分、減額より留保のほうが受け入れやすい場面もあります。

最終契約の段階

エスクローの条件は、最終契約書と、三者で結ぶエスクロー契約の両方に書き込みます。二つの契約で払出条件の表現がずれていると、いざというときに払出しが止まる原因になりかねません。エスクロー事業者の選定もこの段階で固め、見積りと必要書類を早めに確認します。

クロージングとその後の段階

当日は入金確認、支払指図、株式の引渡しを段取りどおりに進めます。補償用の留保がある場合、管理はクロージング後も払出期日まで続く点に注意が必要です。期日が来たら補償請求の有無を確認し、残額の払出しを指図する流れ。期日の管理は仲介会社任せにせず、譲渡オーナー自身でも押さえておきましょう。

売り手を守るエスクローと買い手を守るエスクロー

そもそもエスクローは、誰を守るための仕組みか。答えは使い方によって変わります。代金の支払を確実にする使い方なら譲渡オーナーの味方ですが、補償に備えて代金を留保する使い方なら、主に守られるのは譲受企業です。この二つを混同したまま交渉に臨むと、気づかないうちに大きな譲歩をしてしまうことも。

代金の支払を担保するエスクロー

分割払いや後払いの譲渡代金、後払いの役員退職金を、あらかじめ第三者に預けてもらう使い方です。預託が済んでいれば、その後に譲受企業の資金繰りが苦しくなっても、資金は払出条件に従って支払われるのが原則。後払いを提案されたとき、譲渡オーナーが真っ先に検討したい手段です。

補償に備えて代金を留保するエスクロー

譲渡代金の一部を一定期間預けたままにし、表明保証(会社の状態について譲渡オーナーが事実だと約束する条項)の違反が見つかった場合の補償に充てる使い方です。ホールドバックとも呼ばれます。譲渡オーナーから見れば、代金の一部を後から受け取る形になります。

留保の金額と期間は交渉できる

最初に提示された留保額や期間が、そのまま決まるわけではありません。デューデリジェンスで見つかった懸念の大きさに見合っているか、補償を請求できる期限と留保期間がそろっているかを確かめ、過大であれば見直しを求めます。表明保証違反の補償の上限額と留保額の関係も、あわせて整理しておきたい論点です。

表明保証保険という選択肢

留保の代わりに表明保証保険を使い、補償リスクを保険でまかなう方法もあります。保険料はかかるものの、代金を早く全額受け取れる点は譲渡オーナーにとって魅力です。ただし取引規模や引受条件によって使えるかどうかが変わるため、早めに可否を確かめておきましょう。

M&Aでエスクローを使うメリットとデメリット

良いことずくめに見えるエスクローにも、費用と手間という代償があります。メリットとデメリットを並べたうえで、取引ごとに使うかどうかを判断しましょう。

エスクローの主なメリット

エスクローの利点は、代金の確実性だけにとどまりません。当事者どうしの認識をそろえる効果も。

代金の未払いを防げる

譲受企業が資金を預けた時点で、支払の原資は確保されます。入金を確認してから株式を引き渡せるので、「株式だけ渡して代金が入らない」事態を防ぎやすくなります。分割払いや後払いの代金も、預託しておけば回収の不安は大きく減るはずです。

支払条件のあいまいさをなくせる

エスクロー事業者は、あらかじめ定められた条件と指図に従って払出しを行います。そのため当事者は、どの書類がそろえば、いつ、いくらを払い出すのかを具体的に言葉にしなければなりません。この作業そのものが、後日の解釈の食い違いを防ぐ効果を持ちます。

初めてのM&Aでも取引を進めやすい

M&Aの経験がない当事者どうしでも、第三者が資金を管理する枠組みがあれば、相手の信用力だけに頼らずに取引を進められます。設立間もない譲受企業や取引実績の乏しい相手と交渉する場面では、合意をまとめる後押しになるはずです。

エスクローの主なデメリット

費用、時間、そして資金の拘束。使う前に、こうした負担を見積もっておく必要があります。

手数料がかかる

エスクローの利用には、エスクロー事業者への手数料がかかります。水準は事業者や預託額、預託期間によって異なり、料率で示される場合もあれば定額の場合もあるため、一律の相場は示しにくいのが実情です。見積りを早めに取り、譲渡オーナーと譲受企業のどちらが負担するか、折半とするかを最終契約で決めておきましょう。

準備と手続に時間がかかる

エスクロー契約の作成や本人確認、口座開設など、通常の決済にはない手続が加わります。関係者が増える分、書類のやり取りや日程調整にも手間がかかりがち。クロージング日を動かせない事情があるなら、この手間を織り込んだ日程を組んでおく必要があります。

代金の一部がしばらく手元に入らない

補償用の留保がある場合、その分は払出期日まで自由に使えません。引退後の生活資金や新しい事業の元手、相続への備えなどに充てる予定があるなら、留保分を除いた金額で資金計画を立てることが大切です。税金との関係にも注意が要ります。

エスクローの2つの方式と選び方

仮に、預け先のエスクロー事業者が期間中に経営破綻したら、預けた代金はどうなるのか。方式選びは、この一点から考えると整理しやすくなります。エスクローには信託契約を使う方式と銀行口座を使う方式があり、主な違いは下表のとおりです。

比較項目信託契約を利用する方式銀行口座を利用する方式
資金の預け先受託者(信託銀行など)が管理する信託財産エスクロー事業者などが管理する預金口座
預け先が破綻した場合受託者が破産しても、信託財産は破産財団から切り離される口座の名義や契約内容によっては保全に不安が残る
手続・準備期間取決めが多く、準備に時間がかかりやすい比較的簡素で、短期間で組成しやすい
向いている取引預託額が大きい取引、留保期間が長い取引短期間で払い出す、同日決済に近い取引

信託契約を利用する方法

譲受企業が代金を信託財産として受託者に預け、条件がそろった時点で受託者から譲渡オーナーへ払い出す方式です。信託法上、受託者が破産しても信託財産は破産財団(債権者への配当に充てる財産)に属しないとされており、預け先の破綻リスクから資金を切り離せる点が最大の強み。譲渡代金に加え、補償用の留保資金も信託で扱えます。

信託契約を用いたエスクローの流れ

信託方式の一般的な流れは次のとおりです。

  1. 譲受企業がエスクロー事業者(受託者)と信託契約を結ぶ
  2. 譲受企業が代金を信託財産として預ける
  3. 取引期間中は、受託者が信託財産を自らの財産と分けて管理する
  4. 条件がそろったら、受託者が預かった資金を譲渡オーナーへ払い出す

銀行口座を利用する方法

エスクロー事業者などが金融機関に専用の口座を設け、そこに代金を入金して管理する方式です。信託に比べて取決めが少なく、短期間で組成しやすいのが利点。ただ、預金は原則として口座の名義人のものとして扱われるため、名義人であるエスクロー事業者が期間中に経営破綻すると、資金の保全に不安が残ります。事業者の信用力や口座の名義、管理の方法は事前に確かめておきましょう。

銀行口座を用いたエスクローの流れ

口座方式では、次の順に手続が進みます。

  1. エスクロー事業者など、契約で定めた名義で金融機関に口座を開設する
  2. 譲受企業が譲渡代金を口座へ入金する
  3. エスクロー事業者が払出条件に従って口座を管理する
  4. 条件がそろったら、譲渡オーナーへ譲渡代金を払い出す

中小M&Aでの方式の選び方

当社の支援現場で判断軸にしているのは、預託額の大きさと預ける期間の長さです。代金の一部を1年程度留保する取引や、金額の大きい後払いがある取引なら、破綻リスクから資金を切り離せる信託方式を優先して検討します。数日で払い出す同日決済に近い取引であれば、口座方式でも足りる場面が多いという判断です。

エスクローが活用される主な場面

エスクローの出番は、代金を一括で払う場面に限りません。支払が時期や条件で分かれる取引ほど、第三者に資金を預ける意味は大きくなります。

アーンアウトの支払原資を確保する

アーンアウトは、譲渡後の業績目標の達成度に応じて追加の代金を支払う取決めです。成長途中の会社で、譲渡オーナーと譲受企業の評価が折り合わないときに使われます。追加分の原資をエスクローに預けておけば、目標を達成したのに払われない事態は防げます。ただし業績の測り方や会計方針の変更の扱いまで、契約で詰めておくことが前提です。

複数店舗を事業譲渡で段階的に引き継ぐ

複数の店舗を事業譲渡で引き継ぐ場合、店舗ごとに家主から賃貸借契約の承継について承諾を得る必要があります。すべての承諾がそろう保証はありません。代金をエスクローに預け、承諾が得られた店舗から順に払い出す形にすれば、一部の交渉が長引いても取引全体を止めずに進められます。

エスクローだけでは防げないリスクと確認事項

エスクローで代金は守れても、個人保証が外れないまま残るおそれはあります。エスクローが守れるのは、あくまで預けた資金の受け渡しに限られるからです。資金以外のリスクは、契約と金融機関との調整で手当てします。

経営者保証の解除は別の手当てが要る

借入のある中小企業では、社長が会社の借入に個人保証を差し入れているのが一般的です。この個人保証の解除は、エスクローでは担保できません。中小企業庁と金融庁がまとめた中小M&A時の経営者保証の取扱いに関する資料でも、M&Aの成立と同時に保証の解除等を行うことが最優先の対応とされています。成立前のできるだけ早い段階で金融機関へ相談し、解除をクロージング条件に組み込むのが基本です。

対象会社からの資金流出にも備える

譲受後に対象会社の預金が譲受側へ吸い上げられ、借入の返済が滞る事態。2024年に表面化したトラブルでは、こうした手口も問題になりました。中小企業庁が2025年に開いた中小M&A市場の改革に向けた検討会の資料では、保証の解除が実行されない場合や対象会社から資金が流出した場合などに、譲渡オーナーが契約を解除して株式を買い戻せる条項を株式譲渡契約書のひな形に設ける方向性が示されています。

エスクローを検討したい取引のチェックリスト

当社が、エスクローの利用か、それに代わる支払の担保を必ず検討する取引は次のとおりです。

  • 譲渡代金の一部に分割払いや後払いが含まれている
  • 役員退職金の支払がクロージング後になる
  • 譲受企業の資金調達がクロージング直前まで確定しない
  • 譲受企業の設立年数や取引実績が浅く、資金力を確かめにくい
  • デューデリジェンスの結果、代金の一部留保を求められている

エスクロー契約で確認したい項目

エスクロー契約書の案を受け取ったら、下表の項目を最終契約と突き合わせてください。

確認項目確認する内容譲渡オーナーの視点
預託額預ける金額と対象(譲渡代金・退職金・留保分)後払い分が漏れなく含まれているか
預託期日譲受企業が入金する期限クロージング日より前に設定されているか
払出条件何がそろえば払い出すか最終契約のクロージング条件と表現が一致しているか
支払指図指図の方法・署名者・提出先譲受企業が指図に応じない場合の扱いが決まっているか
留保期間補償用に留保した分の払出期日補償を請求できる期限とそろっているか
費用負担手数料をどちらが持つか最終契約書にも同じ定めがあるか

払出しが止まったときの定めを置く

払出しに双方の指図が必要な設計だと、譲受企業が署名に応じないだけで資金が動かなくなるおそれがあります。期日までに書面での補償請求がなければ譲渡オーナーへ払い出す、といった定めを置けないか交渉しましょう。支援現場では、この条項の有無を契約確認の段階で必ずチェックしています。

エスクローと税金|預けた代金の課税時期

税金の計算は、実際に受け取った金額ではなく、確定した譲渡代金をもとに行うのが原則。エスクローを使う取引では、預けた分をいつの年分の所得として申告するのかを押さえておきましょう。

預託分も譲渡した年の収入になるのが基本

個人が株式を譲渡した場合、所得の収入時期は原則として株式を引き渡した日(通常はクロージング日)とされ、契約の効力発生日を選ぶこともできます。この扱いは国税局の文書回答事例でも確認できます。金額が確定している譲渡代金であれば、エスクローに預けたままの分も含めて、譲渡した年の収入として申告するのが基本です。

納税資金は受け取った分から確保する

国税庁のタックスアンサーによると、非上場株式などの譲渡益には所得税15%と住民税5%がかかり、別途、復興特別所得税も加わります。留保分の払出しが確定申告の期限より後になっても、税額は譲渡代金の全体で計算されます。クロージング時の受取額で納税資金をまかなえるか、株式譲渡の税金を試算したうえで留保額を交渉すると安心です。

アーンアウトや補償の扱いは契約次第

業績に応じて金額が変わるアーンアウトの追加代金は、条件が確定した年の収入とするのか、譲渡した年にさかのぼるのか、契約の定め方によって判断が分かれることがあります。補償で留保分を譲受企業へ返した場合には、納めすぎた税金の還付を求める更正の請求を検討する場面も。いずれも最終契約の段階で、税理士と課税関係を確認しておきたい論点です。

M&Aのエスクローに関するFAQ

エスクローを検討する経営者から、よく寄せられる質問を取り上げました。

Q:エスクローの手数料は売り手と買い手のどちらが負担しますか?

決まったルールはなく、最終契約で決めます。エスクローを求めた側が負担するか、折半とする形で調整する例がよく見られます。代金の確実性を得たい売り手側から一部負担を申し出ると、交渉が早くまとまることも。見積りを取り、金額を見たうえで判断しましょう。

Q:エスクローを断る買い手は要注意ですか?

断られただけで危ないとは限りません。代金を同じ日に一括で支払う取引なら、使わない判断にも合理性があります。気をつけたいのは、分割払いや後払いを求めながら預託は拒む場合です。現場ではまず理由を聞き、銀行の支払保証や親会社の保証など、別の担保を出せるかを確認します。

Q:仲介会社がエスクローを引き受けることはありますか?

中小M&Aで、仲介会社自身が代金を預かる形は一般的ではありません。中立性を保つため、信託銀行や銀行、弁護士など、利害関係のない第三者に預けるのが通常です。仲介会社の役割は、エスクローの要否の提案や預け先の紹介、条件の調整が中心になります。

Q:小規模な会社売却でもエスクローは必要ですか?

取引の規模より、支払の形で判断します。代金を一括で受け取り、同じ日に株式を引き渡すなら、使わないケースも珍しくありません。反対に、規模が小さくても分割払いや退職金の後払いが入るなら、検討する価値は十分にあります。手数料との釣り合いは、預ける金額と期間で見極めてください。

税理士法人を母体とするM&A仲介会社|みつきコンサルティングが選ばれる理由

M&Aのエスクローで譲渡代金を確実に受け取るために

エスクローは、中立な第三者が代金を預かり、条件がそろった時点で払い出す決済の仕組みです。分割払いや後払い、補償用の留保がある取引ほど役立ちますが、方式や契約条件、税金まで含めた設計が欠かせません。初めての会社売却で代金の受け取り方に不安を覚えるのは、ごく自然なことです。

みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社として、中小企業M&Aの豊富な支援実績と経験を重ねてきました。エスクローの要否や支払条件の設計から、譲渡後の税金の見通しまで一貫してご相談いただけます。代金の受け取り方に不安がある段階でも、お気軽にお問い合わせください。

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著者

西尾 崇
西尾 崇事業法人第三部長/M&A担当ディレクター
宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修者 神門 剛 代表取締役 / 公認会計士・税理士

みつきコンサルティングは、中小企業の会社売却・事業承継に特化した譲渡企業様に完全成功報酬制のM&A仲介会社です。売り手と買い手企業の最適なマッチングを、経験豊富なM&Aコンサルタントが初期相談から成約まで一貫してフルサポートします。

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