会社売却で株式譲渡損が出た場合の税務を、非上場株式と上場株式の違いから整理します。個人・法人それぞれの損益通算ルール、低額譲渡や少数株主整理での扱い、退職金との組合せまで、譲渡オーナーの手取りを守る実務判断を解説します。
「うちの会社でも売却できるだろうか…」、「何から始めればいいんだろう…」。そのようなオーナー経営者の不安に、中小企業向けM&A仲介会社みつきコンサルティングは、20年間・500件以上の支援実績に基づき、お応えします。本格検討前の情報収集として、まずはお話をお聞かせください。
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会社売却の株式譲渡損とは|非上場株式特有の論点
会社売却の局面で株式譲渡損が問題になるのは、実は「上場株式の投資損失」とは別の文脈です。中小企業のオーナー経営者の場合、自社株の譲渡や少数株主からの買取りで損失計上の余地が生じます。最初に押さえたいのは、非上場株式と上場株式では税務上のルールが根本的に異なるという点です。
本記事の前提として、より広い枠組みは株式譲渡の基礎と中小企業の実務で、税金全体の計算は非上場株式の譲渡税金と節税で整理しています。
株式譲渡で損失が発生する代表的な3パターン
支援現場で譲渡損が話題に上るのは、次のような場面です。整理すると分かりやすくなります。
| 発生パターン | 典型ケース | 税務上の主な論点 |
|---|---|---|
| M&A実行時の譲渡損 | 取得時より低い株価で会社売却 | 取得費の証明、申告分離課税 |
| 少数株主整理での譲渡損 | 分散株式の集約で個人から法人へ売却 | 低額譲渡判定、みなし贈与 |
| 親族間・関係会社間の譲渡損 | 持株会社化や資本政策での移転 | 適正株価、寄附金課税 |
会社売却の本体取引で損失が出るケースは多くありません。当社が関与した案件でも、譲渡損が論点化したのは、むしろ売却前の少数株主整理や持株会社設立の場面でした。
申告分離課税というルールの意味
個人が株式譲渡で得た譲渡益は、原則として「申告分離課税」に該当します。所得税15%・住民税5%・復興特別所得税0.315%の合計20.315%が課税され、給与所得や事業所得とは別枠で計算されます。国税庁タックスアンサーNo.1463「株式等を譲渡したときの課税」に明記されています。
この分離課税の枠組みが、損失処理を理解するうえでの出発点です。給与所得や不動産所得との通算が認められないのも、ここに理由があります。
個人オーナーの株式譲渡の損失|上場と非上場で異なる救済
個人の株式譲渡損の扱いは、上場株式か非上場株式かで救済の幅が大きく違います。「同じ株式だから同じ扱い」と思い込むと、後から痛い思いをします。意外と多い誤解です。
非上場株式の譲渡損失|年内の内部通算のみ可能
非上場株式の譲渡損失は、同じ年内の他の非上場株式の譲渡益とのみ相殺できます。上場株式の譲渡益・配当との通算は不可、翌年以降への繰越控除も不可です。国税庁タックスアンサーNo.1465で明確に区別されています。
下表は、譲渡損が出た場合に「何と」相殺できるかをまとめたものです。
| 損失の発生源 | 同種譲渡益との通算 | 異種譲渡益との通算 | 繰越控除 |
|---|---|---|---|
| 非上場株式の譲渡損失 | 非上場株式の譲渡益と可 | 上場株式とは不可 | 不可 |
| 上場株式の譲渡損失 | 上場株式の譲渡益と可 | 非上場株式とは不可 | 3年間可(要申告継続) |
| NISA口座の譲渡損失 | なかったもの扱い | 不可 | 不可 |
会社売却で非上場株式の譲渡損が出ても、役員報酬や不動産所得との相殺はできません。「会社の譲渡損を退職後の所得から引けるはず」という相談を受けることがありますが、これは個人ではかないません。
上場株式の譲渡損失|損益通算と3年繰越控除
上場株式の譲渡損は、同年中の上場株式譲渡益や上場株式配当・利子と通算できます。残った損失は翌年以降3年間繰り越せます。国税庁タックスアンサーNo.1474で要件が定められています。
繰越のイメージは下表の通りです。譲渡損失を翌年以降の「税金の前払い」のように活用できます。
| 年度 | 譲渡損益 | 税務処理 | 税負担 |
|---|---|---|---|
| 1年目 | ▲500万円 | 確定申告で損失を申告し繰越 | なし |
| 2年目 | +400万円 | 前年損失と相殺、残り▲100万円を繰越 | ゼロ |
| 3年目 | 取引なし | 損失維持のため申告継続 | なし |
| 4年目 | +300万円 | 残存損失と相殺、200万円に課税 | 軽減 |
繰越期間中は、取引がない年でも連続して確定申告を続ける必要があります。申告を一度でも飛ばすと繰越権が消滅します。ここは現場でも忘れがちな落とし穴です。
NISA口座の損失は救済対象外
NISA(少額投資非課税制度)口座で生じた譲渡損失は、税務上「なかったもの」として扱われます。他の課税口座の利益との通算も、翌年以降への繰越も認められません。「利益が出れば非課税」というメリットの裏返しです。
法人保有株式の譲渡損|売却前の組織再編で生きる
個人と法人で大きく違うのが、損益通算の自由度です。資産管理会社や持株会社が保有している株式を譲渡して損失が出た場合、税務上の取り扱いは個人と一線を画します。
法人税の課税所得と全面通算が可能
法人が株式譲渡で損失を出した場合、その損失は会社の他の事業所得や受取配当などと合算され、課税所得を圧縮できます。個人のような申告分離はなく、合計損益で計算されます。
引ききれなかった部分は、青色申告法人であれば原則10年間繰り越せます(2018年4月1日以後開始事業年度)。事業承継スキームで持株会社を組成している場合、株式譲渡損を本業の利益と相殺できる点は大きな魅力です。
持株会社化と譲渡損を活用する判断
譲渡オーナーが持株会社経由で売却する場合、譲渡損の活用余地が広がる一方で、組織再編税制の適用要件を厳格に検討する必要があります。当社の支援現場では、次のチェックリストで初期判断します。
| 確認項目 | 具体的な論点 |
|---|---|
| 持株会社の事業実態 | 純粋持株会社か事業持株会社か、欠損金引継の制限の有無 |
| 含み損のある株式の保有期間 | 5年超か、適格判定の要件を満たすか |
| 連結納税・グループ通算制度 | 適用法人の有無、損益通算の範囲 |
持株会社化は便利な道具ですが、税務メリットだけで決めると後から動きが取れなくなります。M&Aが予定される場合には、買収企業からの希望スキーム(株式譲渡か事業譲渡か)との整合まで含めた判断が必要です。
低額譲渡・少数株主整理での譲渡損
会社売却の前段階で発生しやすいのが、少数株主や親族から株式を集約する取引です。創業時の名義株や、相続で分散した株式を整理する場面ですね。ここで譲渡損が出ることはありますが、税務リスクとセットで考える必要があります。
取得費の確定が損失計算の出発点
譲渡損は「譲渡対価-取得費-譲渡費用」で計算します。中小企業の場合、創業時の払込金額や相続取得時の評価額が取得費となります。古い資料が見つからないケースも多く、譲渡対価の5%を概算取得費とする方法が選ばれます。詳細は株式譲渡の取得費と概算取得費の使い方で整理しています。
概算取得費を使うと取得費が低めに計算されるため、通常は譲渡損が出なくなります。逆に言えば、真の取得費を立証できる資料を揃えておくことが、損失を正しく認識する前提です。
低額譲渡のみなし贈与・寄附金課税
個人間で適正株価より著しく低い価額で株式を譲渡すると、買い手側に「みなし贈与」として贈与税が課されます(相続税法7条)。一方、個人から法人への低額譲渡では、譲渡側に「みなし譲渡」として時価課税が、譲受側に受贈益課税が及びます。
「赤字会社だから1株1円で売れる」と早合点する相談がありますが、税務署の見方は別です。具体例は株式の無償譲渡と低額譲渡の税務を参照してください。
少数株主からの買取価格と譲渡損
少数株主からの株式集約では、買取価格をいくらに設定するかで税務インパクトが変わります。中堅製造業の事例(年商15億円・株主8名)では、配当還元方式で算定した1株3,000円でオーナー社長が買取りを実施しました。少数株主側に譲渡損が出るケースもありますが、買取後の集約効果でM&A対価が大幅に上がり、譲渡オーナー本体の手取りが増えました。
買取主体(オーナー個人か法人か)の選択と、適正株価の算定根拠の整備が肝です。
会社売却前の税務最適化|損失計上と退職金スキーム
譲渡損だけで節税を組み立てる発想は、中小企業オーナーにはあまり馴染みません。むしろ譲渡益が出る前提で、いかに手取りを増やすかが現実的なテーマです。譲渡損は「手取り最大化」の一部品として位置づけるのが実態に合います。
役員退職金との組合せ
会社売却時に役員退職金を支給すると、その分だけ会社の純資産が減り、株価が下がります。退職金には退職所得控除と1/2課税の優遇があり、譲渡対価の20.315%より低い実効税率で受け取れる場合すらあります。詳細な節税効果の検証はM&Aでの役員退職金活用と節税スキームでご確認ください。
退職金を厚めに取って株式譲渡対価を抑える結果、譲渡益が大きく圧縮されるケースもあります。譲渡損の活用場面は限定的でも、退職金との組合せでオーナー手取りは伸ばせます。
譲渡損失を活用する場合の事前準備
譲渡損失を意識的に活用する場合は、売却年に他の譲渡益を集めるのが基本線です。複数の関係会社株式を保有しているなら、同年内に売却タイミングを揃える。資産管理会社経由なら、本業の利益と通算する。判断軸はシンプルです。
会社売却の手取り全体を試算する場合は、会社売却の手取り計算と税金を参考に、譲渡損の効果込みでシミュレーションしてください。
確定申告の実務|書類準備と注意点
譲渡損失の処理は、申告書を一枚出すか出さないかで結果が大きく変わります。年に1度の手続ですが、漏れると取り返しがつきません。
申告に必要な書類
会社売却に伴う株式譲渡損失の場合、用意する書類は次の通りです。
| 書類名 | 入手先 | 用途 |
|---|---|---|
| 株式譲渡契約書の写し | 当事者間で締結 | 譲渡対価・譲渡日の証明 |
| 取得時の証憑 | 払込証明・相続税申告書等 | 取得費の証明 |
| 譲渡所得計算明細書 | 国税庁HPまたはe-Tax | 譲渡損の計算 |
| 確定申告書(第一表・第二表・第三表) | 国税庁HPまたはe-Tax | 分離課税申告 |
| 申告書付表(繰越控除用) | 上場株式の場合のみ | 翌年以降への繰越 |
申告期限は原則として翌年2月16日から3月15日まで。還付申告のみなら1月から受け付けてもらえます。e-Taxを使うとマイナンバーカード連携で計算ミスを減らせるため、税理士に依頼しない場合でも電子申告が推奨です。書き方の詳細は株式譲渡益の確定申告書の書き方もあわせて参照ください。
配偶者控除・社会保険料への跳ね返り
譲渡損失を申告するために確定申告を行うと、所得の表面化に伴い思わぬ副作用が生じます。下表は特に注意したい影響です。
| 影響先 | 具体的なリスク |
|---|---|
| 配偶者控除・扶養控除 | 合計所得金額に算入され、家族の控除が受けられない |
| 国民健康保険料 | 総所得金額等に算入され、翌年の保険料が上限近くまで上がる |
| 後期高齢者医療保険料 | 同上 |
| 介護保険料 | 同上 |
「数万円の還付のために申告したら、世帯の負担が十数万円増えた」という事態は避けたいところ。住民税の申告不要制度を併用すれば一部回避できますが、制度は複雑で自治体差もあります。試算は税理士に依頼するのが安全です。
申告不要な場合の判断
譲渡損失のみで他の譲渡益がなく、活用予定もない場合は、確定申告自体が任意です。義務ではないため、放置してもペナルティはありません。判断の整理は株式譲渡の損益で確定申告が不要な場合に整理しています。
株式譲渡の損失に関するFAQ
会社売却の現場で実際に受ける質問を整理しました。判断に迷ったときの目安にしてください。
できません。個人の場合、非上場株式の譲渡損失は申告分離課税のため、給与・事業・不動産所得との通算は認められません。資産管理会社が保有する株式の譲渡損であれば、法人の事業所得と全面通算が可能です。スキーム設計次第で結果が変わります。
適正株価で取引していれば問題ありません。配当還元方式や類似業種比準方式など、合理的な算定根拠を整えておくことが必要です。著しく不相当な価額で買い取った場合には、既存株主側で株主間贈与(いわゆるみなし贈与)の論点が生じる可能性があります。
上場株式の譲渡損失は、確定申告を継続することで翌年以降3年間繰り越せます。非上場株式の譲渡損失は繰越控除が認められず、同年内に他の非上場株式の譲渡益と内部通算するのみです。
持株会社が子会社株式を譲渡して損失を出した場合、原則として本業の利益と通算できます。ただし組織再編税制の適格要件や、繰越欠損金の引継制限などに該当しないかの確認が必要です。当社の支援現場では、設計段階で税務専門家と連携して論点整理を行います。
まとめ|株式譲渡損と会社売却の手取り最適化
個人の非上場株式の譲渡損失は申告分離課税で繰越控除が使えず、活用範囲は同年内の内部通算に限られます。一方、法人保有なら本業利益と通算でき、退職金や持株会社を組み合わせると手取りを大きく変えられます。譲渡損の論点は単独で完結せず、売却スキーム全体の設計に組み込んで判断すべきものです。
当社は税理士法人グループのM&A仲介会社として、譲渡損失の処理から退職金スキーム、低額譲渡の適正株価まで、中小企業M&Aの実績経験を活かしてサポートします。会社売却に伴う税務にお悩みの譲渡オーナーは、ぜひ一度ご相談ください。
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著者

- 事業法人第二部長/M&A担当ディレクター
-
ヘルスケア分野に関わる経営支援会社を経て、みつきコンサルティングでは事業計画の策定、モニタリング支援事業に従事。運営するファンドでは、投資先の経営戦略の策定、組織改革等をハンズオンにて担当。東南アジアなど海外での業務経験から、クロスボーダー案件に関しても知見を有する。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修:みつき税理士法人
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