株式譲渡で必要な会計処理は、譲渡オーナーと譲受企業で大きく異なります。会社売却を控えた経営者ほど、譲渡損益の認識タイミングや勘定科目、M&Aにかかる費用の扱いで迷いがちです。本記事では売主・買主双方の仕訳例と税務の要点を、支援現場の判断軸とともに整理し、手取りを左右する論点まで平易に解説します。
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株式譲渡の仕訳をM&Aの視点で押さえる
「会社を売ったら、自社の帳簿はどう動くのか」。会社売却を検討し始めたオーナー経営者から、意外と早い段階で出てくる疑問です。株式譲渡の仕訳は、立場によって動く帳簿がまるで違います。まずは全体像を、M&Aの当事者ごとに整理します。
処理が分かれる3つの当事者
株式譲渡では、登場人物が3者います。株式を手放す側、株式を取得する側、そして売買される会社そのものです。それぞれで会計処理の有無と内容が変わります。
| 当事者 | 会計処理の要否 | 主な論点 |
|---|---|---|
| 譲渡オーナー(売主) | 個人は仕訳なし/法人は必要 | 譲渡損益の認識・税金 |
| 譲受企業(買主) | 必要 | 勘定科目・取得原価 |
| 対象会社 | 不要 | 株主が替わるだけ |
会社売却で仕訳が問題になる場面
中小企業のM&Aは、その約9割が株式譲渡です。オーナー個人が直接株式を持つケースが大半ですが、持株会社(法人)が株式を保有している場合は、売る側にも仕訳が発生します。仕組みの前提として、株式譲渡の基本的な仕組みと、株式譲渡で生じる税金の全体像を押さえておくと、以降の仕訳の意味がつかみやすくなります。
売り手の仕訳と譲渡損益の認識
売る側の処理は、譲渡オーナーが個人か法人かで分かれます。ここを混同すると、税金の話まで噛み合わなくなります。
個人オーナーが売る場合は仕訳が発生しない
オーナー個人が自社株を売却するときは、会社の帳簿に仕訳は立ちません。個人には複式簿記の決算書がないためです。代わりに発生するのが、譲渡所得への課税です。譲渡価額から取得費と手数料を差し引いた譲渡益に、20.315%(所得税15%・復興特別所得税0.315%・住民税5%)が課されます。出典は国税庁「No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」です。
この譲渡益の正体は、株式の値上がり分です。考え方は株式のキャピタルゲインと同じで、申告分離課税の対象になります。利益が出たら、譲渡益が出たときの確定申告を忘れないでください。
法人株主が売る場合の仕訳
持株会社など、法人が保有株式を売却する場合は仕訳が立ちます。帳簿に計上していた「子会社株式」「関係会社株式」「投資有価証券」などの取得原価を落とし、譲渡対価との差額を損益に振り替えます。グループ内で子会社株式を売却する場面では、この処理が中心になります。
譲渡益が出た場合の仕訳例
帳簿価額300の子会社株式を、500で売却し現金を受け取ったケースの仕訳が下表です。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 現金預金 | 500 | 子会社株式 | 300 |
| 子会社株式売却益 | 200 |
差額200が利益です。損が出たときは、貸借が逆になり「子会社株式売却損」を借方に立てます。勘定科目は「関係会社株式売却益」など、会社の科目体系に合わせて構いません。
認識のタイミングは引渡日が基準
仕訳をいつ切るか。これは契約日ではなく、株式の引渡し(決済)が完了した日が原則です。M&Aでは契約調印から決済まで時間が空くことがあり、決算期をまたぐと計上年度がずれます。期末直前のクロージングは、年度判定で揉めやすい論点です。
買い手の仕訳|支配権で変わる勘定科目
買う側の処理は、取得後にどれだけ会社を握れるかで勘定科目が変わります。判断軸は議決権の保有割合です。
支配権と影響力の考え方
過半数の議決権を握れば、その会社は支配下に入ります。一般にM&Aによる子会社化と呼ばれる状態です。50%以下でも実質的に意思決定を動かせれば支配権ありと判断されます。子会社・関連会社・関係会社の線引きが曖昧なときは、グループ会社や関連会社の区分を確認しておくと整理が早いです。
子会社株式として計上する場合
支配権を取得したときは、取得した株式を「子会社株式」で資産計上します。下表のとおりです。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 子会社株式 | 500 | 現金預金 | 500 |
「関係会社株式」としても問題ありません。
関連会社株式として計上する場合
支配までは至らないものの影響力が大きいとき(おおむね議決権20%以上50%以下)は、「関連会社株式」で計上します。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 関連会社株式 | 300 | 現金預金 | 300 |
投資有価証券として計上する場合
影響力もない少数取得(議決権20%未満が目安)なら、「投資有価証券」で処理します。上場株式の場合は、決算ごとに時価評価の仕訳が必要になる点が、非上場株式との違いです。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 投資有価証券 | 100 | 現金預金 | 100 |
のれんは個別の帳簿には出てこない
「高く買ったらのれんが立つのでは」と聞かれることがあります。ところが個別の決算書では、株式の取得は取得原価で計上するだけで、のれんは発生しません。のれんが姿を現すのは連結決算の手続のなかです。引き受けた資産・負債を時価評価し、取得原価がそれを上回った差額がのれんとして認識されます。中身はM&Aで生じるのれんで詳しく整理しています。プラスののれんは最長20年以内の定額法などで償却します。
負ののれんが出るケース
逆に、時価純資産より安く取得できると、負ののれんが生じます。これは特別利益として一括計上され、貸借対照表には残りません。処理の流れは負ののれんの会計処理にまとめています。種類別の扱いを横断で見たいなら、M&A会計と仕訳の全体像もあわせてどうぞ。
対象会社の仕訳が不要な理由
売買される会社自身は、何も仕訳を切りません。株主の名前が入れ替わるだけで、会社の資産も負債も増減しないからです。社長が交代しても、会社の帳簿はそのまま引き継がれます。ここを誤解して「売却益を会社で計上するのか」と考えてしまう経営者は、現場でも少なくありません。利益が乗るのは、あくまで株を手放したオーナー側です。
M&Aにかかる費用の会計処理
仲介手数料やデューデリジェンス費用など、M&Aには付随費用がつきものです。この扱いが、個別決算と連結決算で割れます。見落とすと、買い手の利益計画が狂います。
連結と個別で処理が分かれる
連結決算では、取得に関連した費用は発生年度の費用として落とします(企業結合会計基準)。一方、個別決算では、株式の取得に直接ひもづく付随費用は「子会社株式」の取得原価に含めるのが原則です(金融商品会計基準)。仲介手数料などは、株式取得に直接対応するものか、調査一般にかかるものかで取得原価算入か費用処理かが分かれます。判断に迷う費目が出やすいため、顧問税理士と区分を詰めておくのが安全です。
費用処理する場合の仕訳例
取得に直接ひもづかない費用を、現金で支払った場合の仕訳が下表です。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 支払手数料 | 20 | 現金預金 | 20 |
株式譲渡の税務処理
会計の次は税務です。誰に、どの税金がかかるのか。立場で結論が変わります。
譲渡オーナーの税務
個人オーナーは譲渡益に20.315%の申告分離課税。法人株主なら、譲渡益が他の所得と合算され、法人税の課税対象になります。注意したいのは低額譲渡です。時価を大きく下回る価額で売ると、差額が贈与とみなされる場合があります。親族や役員への譲渡では、価額設定が税務リスクに直結します。
譲受企業の税務
株式という有価証券の譲渡は、消費税が非課税です。買い手が消費税を負担することはありません。根拠は国税庁「No.6201 非課税となる取引」に明記されています。詳細は株式譲渡の消費税の扱いで補足しています。なお連結でのれんを償却した場合、税務上の取扱いは会計と一致しないことがあり、調整が要ります。
会社売却の手取りを左右する仕訳・税務の論点
仕訳そのものより、その先の手取りを気にする経営者がほとんどです。支援現場で実際に確認している項目を、チェックリストにまとめました。
クロージング前に確認したいチェックリスト
- 個人保有か法人(持株会社)保有か。手取り計算の出発点が変わります
- 決済日が決算期をまたがないか。計上年度がずれると資金繰りに影響します
- 取得費の根拠資料が揃っているか。不明なら概算取得費(譲渡価額の5%)しか使えません
- 役員退職金との組み合わせを検討したか。退職所得は税負担が軽くなりやすい設計です
- 低額譲渡に該当しないか。価額が時価から離れていないかを事前に確認します
現場でよくある誤解
「売却益は会社の口座に入るから、会社の税金が増える」という思い込みは、相談初期に何度も見かけます。中小企業の株式譲渡では、対価を受け取るのはオーナー個人であり、課税されるのも個人です。会社の帳簿は動きません。この一点を最初に共有するだけで、その後の試算の精度が上がります。承継のスキーム比較を進めたい場合は、みなし配当が生じるケースや株式譲渡の手続の流れもあわせて確認しておくと判断がぶれません。
株式譲渡の仕訳に関するFAQ
会社売却の相談現場で、仕訳と税務について実際に多い質問をまとめました。
不要です。個人オーナーが自社株を売るときは、会社側の仕訳は立ちません。発生するのは個人の譲渡所得への課税です。現場では、まず保有名義が個人か法人かを確認します。
議決権の保有割合次第です。過半数取得なら子会社株式、20%以上50%以下なら関連会社株式、それ未満なら投資有価証券が目安になります。実質的な支配の有無も判断材料です。
費目の性質と連結・個別の別で変わります。株式取得に直接ひもづく費用は個別決算で取得原価に含めるのが原則で、連結では費用処理です。区分が割れやすいので、税理士と確認するのが確実です。
なる場合があります。時価を大きく下回る価額だと、差額が贈与とみなされることがあります。親族間や役員への譲渡では、価額の妥当性を事前に検証しておくべきです。
個別決算では出ません。連結決算の手続のなかで、取得原価が時価純資産を上回った差額として認識されます。中小企業で連結を組まないなら、のれんの仕訳は基本的に登場しません。
株式譲渡の仕訳とM&A会計のまとめ
株式譲渡の仕訳は、譲渡オーナー・譲受企業・対象会社で扱いが分かれ、支配権の有無で勘定科目が、個人か法人かで税負担が変わります。のれんや付随費用の判断には専門的な見極めが要り、はじめての会社売却で迷うのは自然なことです。
みつき コンサルティングは、税理士法人グループに属するM&A仲介会社です。中小企業の事業承継・会社売却で培った実務経験をもとに、会計処理から手取りの設計まで一貫して支援します。仕訳や税務でつまずく前に、まずは情報収集の段階からご相談ください。
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著者

- 事業法人第三部長/M&A担当ディレクター
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宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修:みつき税理士法人
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