後継者が見つからず廃業を考える前に。長年の店舗や顧客、屋号を第三者へ引き継ぎ、創業者として資金を手元に残す道があります。手取りを左右する課税の仕組みや、会社化して売る選択肢との違いまで、初めての方にもわかるよう整理しました。
「うちの会社でも売却できるだろうか…」、「何から始めればいいんだろう…」。そのようなオーナー経営者の不安に、中小企業向けM&A仲介会社みつきコンサルティングは、20年間・500件以上の支援実績に基づき、お応えします。本格検討前の情報収集として、まずはお話をお聞かせください。
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個人事業でもM&Aで第三者へ引き継げる
後継者が見つからず、廃業をぼんやり考え始めた個人事業主は少なくありません。けれども、長年育てた店舗や顧客、技術は、第三者へまるごと引き継げます。会社という器がなくても、M&Aは現実的な選択肢になります。
「会社を売る」のではなく「事業を譲る」
個人事業には、売買できる株式がありません。だから設備や在庫、契約をひとつずつ譲り渡す事業譲渡の手続を使います。法人の株式譲渡とは、引き継ぎ方の発想からして違うのです。
近年は小規模な取引が当たり前に
かつてM&Aは大企業のものでした。今は数百万円規模の取引も珍しくありません。マッチングの場が広がり、個人や小さな会社が買い手として動く時代です。背景はスモールM&Aの全体像で整理しています。
廃業を決める前に比べておきたい
廃業には原状回復費や在庫処分の負担がのしかかり、雇用も取引先との縁も失われます。一方、M&Aなら譲渡益を手元に残しつつ、事業そのものは残せる。どちらが得かは廃業とM&Aの比較で具体的に確かめてください。
譲るものと残すものを切り分ける
事業譲渡は、対象を一つずつ選んで渡す取引です。何を譲り、何を手元に置くのか。この線引きが、のちの税金にも価格にも効いてきます。
事業に付くものはまとめて渡せる
店舗設備、在庫、顧客リスト、屋号、Webサイト、そして利益を生む源である営業権。これらは事業に紐づく資産として、譲受側へ移せます。形のない信用やノウハウも、価値として評価される対象です。
取引先との契約は同意を得て引き継ぐ
仕入先や得意先との契約は、相手の同意があれば引き継げます。逆にいえば、黙って移すことはできません。主要な取引先ほど、引き継ぎの説明を丁寧に重ねる必要があります。
私的な資産や借入は引き継がない
自宅、事業に使っていない預貯金、個人で組んだローン。これらは原則として譲渡の対象外です。どこまでが事業用なのか曖昧だと、後でもめる。早い段階で切り分けておきたいところ。
許認可や賃貸借は自動では移らない
飲食店営業や建設業の許認可は、譲受側で取り直しが要ります。店舗の賃貸借契約も、大家の承認がなければ続けられません。落とし穴になりやすいので、事業譲渡での許認可の扱いを早めに確認しておきましょう。
売却価格は純資産と営業権で決まる
「うちのような小さな店でも値が付くのか」。相談の席でよく出る問いです。多くの場合、価格は手元の資産の価値だけでは決まりません。
のれん(営業権)が上乗せの源泉
価格の目安は、時価の純資産に、毎年生み出す利益の数年分を上乗せした水準です。この上乗せ分が営業権、いわゆるのれん。算定の考え方は営業権の評価で詳しく扱っています。
赤字でも価値が認められる場合がある
数字だけ見れば赤字。それでも顧客基盤や立地、独自の技術を評価して引き継ぐ買い手は存在します。利益が出ていないから無理だと決めつけるのは早計でしょう。強みを言葉にできるかが分かれ目になります。
属人性が強い事業ほど評価は割れる
店主の腕や人脈に売上が依存していると、譲受側は離反リスクを警戒します。たとえば地方の美容室で、固定客が店主個人についている場合。仮の数字でいえば、利益の3年分と見込んでいた営業権が、引き継ぎ後の離脱を理由に2年分まで圧縮される。そんな交渉も現場では珍しくありません。
個人事業の事業譲渡にかかる税金
個人事業の譲渡で、手取りを最も左右するのが税金です。やっかいなのは、譲る資産の種類ごとに所得の区分が変わる点。まとめて一律、とはいきません。
資産の種類で課税方法が変わる
所得税では、資産を総合課税の譲渡所得、分離課税の譲渡所得、事業所得などに振り分けます。下表のとおり、区分しだいで税率や計算が異なります。根拠は国税庁のNo.3105 譲渡所得の対象となる資産と課税方法です。
| 譲渡する資産 | 所得の区分 | 課税の方法 |
|---|---|---|
| 営業権(のれん) | 譲渡所得 | 総合課税 |
| 機械・車両・備品 | 譲渡所得 | 総合課税 |
| 土地・建物 | 譲渡所得 | 分離課税 |
| 棚卸資産(在庫) | 事業所得 | 総合課税 |
| 売掛金などの債権 | 対象外 | 額面で承継 |
営業権や設備は総合課税の譲渡所得
営業権や事業用の機械は、給与など他の所得と合算する総合課税です。ただし取得から5年を超えて保有していれば、利益の半分だけが課税対象になります。さらに年50万円の特別控除も使えます。税務の全体像は事業譲渡の税金を参照してください。
在庫は事業所得、土地建物は分離課税
見落とされがちなのが在庫です。棚卸資産の譲渡は譲渡所得ではなく、通常の売上と同じ事業所得として扱われます。一方、事業用の土地や建物は分離課税の譲渡所得。同じ「譲渡」でも入口が分かれるのです。
取得費の取り方で手取りが変わる
意外と効くのが取得費です。自ら育てた営業権は取得費がゼロと扱われ、対価がそのまま課税対象になりやすい。買い取った設備なら、減価償却後の簿価が取得費になります。ここの精度が、最終的な税額を左右するのです。
譲渡益は住民税や国保にも響く
譲渡益が大きい年は、所得税だけでは終わりません。翌年の住民税や国民健康保険料も、所得の増加に連動して跳ね上がります。手取りを見るときは、この波及まで含めて試算するのが現場の作法です。
消費税は何を売るかで変わる
もう一つ忘れてはならないのが消費税です。事業譲渡では、譲る資産の中身によって、課税されるものと、されないものが混在します。
課税されるもの・されないもの
営業権、建物、機械、車両、在庫は課税資産にあたります。反対に、土地や売掛金などの金銭債権は非課税。事業用建物の譲渡が課税対象になる点は、国税庁のNo.3240 個人が事業用建物等を譲渡した場合の消費税に明記されています。
課税事業者かどうかで負担が変わる
消費税を納めるのは、課税事業者である個人事業主です。免税事業者であれば、原則として納税義務は生じません。自分がどちらに当たるか、譲渡を考え始めた時点で確認しておきたいところ。
対価は課税分と非課税分に区分する
契約では、課税資産と非課税資産の対価を合理的に分ける必要があります。土地と建物を一括で売る場合などは、特に区分が問われやすい。区分の考え方は国税庁の営業の譲渡をした場合の対価の額をご覧ください。インボイス登録の有無で買い手の負担感も動くため、交渉前に整理しておきましょう。
法人成りして会社ごと売る道もある
ここで視点を変えます。譲渡の規模が大きいなら、いったん法人化してから会社ごと売る選択肢が浮かびます。税負担の見え方が、根本から変わるからです。
株式譲渡なら税率は一律20.315%
法人の株式を売ると、譲渡益にかかるのは一律20.315%の申告分離課税です。利益が膨らんでも税率は上がりません。累進する個人の総合課税とは対照的。根拠は国税庁のNo.1463 株式等を譲渡したときの課税に示されています。
個人のままと法人化後の違い
同じ事業でも、売り方で税の入口が変わります。下表は、課税の構造を大づかみに並べたもの。実際の有利不利は利益の規模や資産構成で動くため、試算が欠かせません。
| 比較項目 | 個人のまま事業譲渡 | 法人成り後の株式譲渡 |
|---|---|---|
| 主な課税 | 総合課税の譲渡所得ほか | 申告分離課税 |
| 税率の性質 | 累進(所得が増えると上昇) | 一律20.315% |
| 準備期間 | 比較的短い | 法人化から一定期間が必要 |
法人化のタイミングは慎重に
では、すぐ法人成りすべきか。話はそう単純ではありません。設立コストや社会保険料、法人化から売却までに一定の期間が要る点も無視できない。持分を売る形なら合同会社の売却も選べます。会社を売る全体像は会社売却の進め方をご覧ください。
節税ありきの判断が裏目に出ることも
当社の支援現場では、はじめに個人と法人それぞれの手取りを試算し、得られる創業者利益の中身を並べたうえで判断します。「節税のために法人で」という思い込みが、かえって負担を増やす場面もあるからです。順序を逆にしないことが肝心。
個人事業のM&Aを進める手順
進め方の骨格は、規模が小さくても法人のM&Aと大きくは変わりません。流れを知っておくだけで、交渉での主導権の握り方が変わります。
準備から実行までの大きな流れ
はじめに事業の棚卸しと資料の整理を行い、譲受側の候補を探します。秘密保持契約を結んで条件を交渉し、基本合意へ。その後、譲受側による調査を経て、最終契約と引き渡しに進みます。一つずつ確実に積み上げる作業です。
譲受側の調査では何を見られるか
基本合意のあと、譲受側は事業の実態を確かめにきます。売上の根拠、在庫の状態、取引先との関係、表に出ていない負担の有無。ここで資料がそろっていないと、価格の引き下げ材料にされかねません。日頃の記帳の丁寧さが、そのまま交渉力になります。
相談先とマッチングの選択肢
相手探しには、M&A仲介会社やマッチングサイトのほか、公的な窓口も使えます。各都道府県にある引継ぎ支援センターは、無料で基本的な相談に応じてくれる頼れる存在。まず話を聞いてもらう入口として向いています。
早めの準備が手取りを左右する
準備の質が、最終的な手取りを決めます。「もっと早く動けばよかった」という声を、何度聞いたことか。譲渡前に整えておきたい項目を、現場でよく使う形でまとめました。
譲渡前に整えたい確認項目
- 売上や利益の根拠を示せる確定申告書と帳簿の整理
- 事業用と私的な資産・借入の明確な切り分け
- 許認可や賃貸借契約を引き継げるかの事前確認
- 顧客や仕入先との関係を引き継ぐための説明準備
- 課税事業者か免税事業者かと、消費税の見込み
個人事業のM&Aで陥りやすい注意点
準備が整っていても、足をすくわれる論点はあります。現場で繰り返し見てきた、つまずきやすいポイントを挙げておきます。
個人保証や簿外の負担を見落とさない
個人事業でも、借入に経営者の保証が付いていることは多いものです。譲渡後にこの保証が残ったままだと、思わぬ重荷になります。帳簿に載らない負担がないか、契約前に洗い出しておくのが鉄則。
従業員や取引先への伝え方とタイミング
情報が漏れると、従業員の離職や取引先の離反を招きかねません。誰に、いつ、何を伝えるか。順序を誤ると、せっかくの価値が引き渡し前に目減りします。慎重すぎるくらいで、ちょうどいい。
専門家を早く入れる効果
税務の区分や契約条件は、後から直すのが難しい領域です。譲渡の入口で設計を間違えると、手取りに数百万円単位の差が出ることもある。だからこそ、相談は早いほど選択肢が広がります。
引き渡し後の協力と競業避止も決めておく
契約して終わり、とはいきません。顧客の紹介や業務の引き継ぎに、一定期間の協力を求められるのが通例です。あわせて、近くで同じ商売を再開しないという競業避止の約束も交わします。こうした引き渡し後の条件こそ、価格と並ぶ交渉の山場になりがち。
個人事業のM&Aに関するFAQ
相談の現場で、売り手から繰り返し寄せられる疑問をまとめました。
かかりません。20.315%は法人の株式を売ったときの税率です。個人事業の事業譲渡では、営業権や設備が総合課税の譲渡所得、在庫が事業所得となり、他の所得と合算した累進税率で計算します。
一概には言えません。目安は時価純資産に利益の2年から5年分を足した水準ですが、業種や属人性で大きくぶれます。現場ではまず、利益の出方と引き継ぎやすさを確認するところから入ります。
事業の中身しだいです。利益より顧客基盤や技術、立地を評価して引き継ぐ買い手も見られます。債務超過でも、不採算部分を切り離せば値が付く場合がある。数字だけで諦めず、強みを言語化して提示するところから始めましょう。
本人の同意が前提です。事業譲渡では雇用が自動では移らないため、譲受側との再契約が必要になります。待遇の条件をどう引き継ぐかが、交渉の大きな論点になりがち。
譲渡益が出た年は、原則として申告が要ります。資産ごとに所得区分が分かれるぶん、計算は複雑になりやすいもの。総合課税と分離課税が混ざる年は、税額の見通しも立てにくくなります。早めに税務の専門家へ相談しておくと安心でしょう。
まとめ|個人事業のM&Aは税務設計が手取りを決める
個人事業のM&Aは事業譲渡が基本で、譲る資産ごとに所得区分と消費税の扱いが変わります。規模しだいでは法人化して会社ごと売る道もあり、手取りは設計しだいで大きく動く。廃業しかないと諦める前に、引き継ぐ選択肢を一度は検討する価値があります。
当社は税理士法人グループのM&A仲介会社として、中小企業や個人事業の承継を数多く支援してきました。所得区分や消費税まで踏まえた手取りの試算が強みです。引き継ぎを考え始めた段階で、お気軽にご相談ください。特化した実績経験が豊富なM&Aアドバイザー・公認会計士・税理士が多く在籍しております。個人事業の売却をご検討の際は、みつきコンサルティングにご相談ください。
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著者

- 事業法人第二部長/M&A担当ディレクター
-
ヘルスケア分野に関わる経営支援会社を経て、みつきコンサルティングでは事業計画の策定、モニタリング支援事業に従事。運営するファンドでは、投資先の経営戦略の策定、組織改革等をハンズオンにて担当。東南アジアなど海外での業務経験から、クロスボーダー案件に関しても知見を有する。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修者 神門 剛 代表取締役 / 公認会計士・税理士
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