会社売却で結ぶ株式譲渡契約書(SPA)に収入印紙は必要か。結論は原則不要です。1989年4月の改正以降、株式譲渡契約書は印紙税法上の課税文書から外れています。ただし手付金の受取記載があると例外的に課税対象です。本記事ではM&Aクロージング実務の視点で、印紙税の要否、例外条件、譲渡承認・名義書換・登記など必要書類の整備手順をオーナー経営者向けに解説します。
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会社売却のSPAに印紙は原則不要という結論
中小企業M&Aの最終契約として締結される株式譲渡契約書(SPA、Stock Purchase Agreement)には、収入印紙の貼付は要りません。1989年4月の印紙税法改正で、株式譲渡契約書は印紙税法別表第一に掲げる課税文書から除外されたためです。譲渡対価が1億円であっても10億円であっても、契約書本体に印紙は不要という扱いが続いています。
なぜSPA本体は印紙税の課税対象外なのか
印紙税は、印紙税法別表第一に列挙された「課税文書」にのみ課されます。株式の譲渡そのものは、有価証券の権利移転にあたり、不動産売買のような財産権の移転契約とは性質が異なります。1989年の改正で課税対象から外され、現在まで非課税扱いが維持されています。M&A実務では金額の大小に関わらず、SPA単体に印紙は貼りません。
電子契約・クラウドサインで締結する場合
近年は譲渡オーナーと譲受企業の間で電子契約を選ぶ事例も増えてきました。電子契約は印紙税法上の「文書」が物理的に存在しないため、印紙税は当然に発生しません。中小M&Aの現場では紙の契約書を交わすケースが大半ですが、関係者の所在が遠方に分かれる場合などは電子契約も有力な選択肢です。
事業譲渡契約書とは扱いが大きく異なる
同じM&Aでも、事業譲渡契約書は印紙税法上の第1号文書または第7号文書に該当し、契約金額に応じた印紙が必要です。スキームの選択は税務全般に影響しますので、株式譲渡と事業譲渡の違いは早い段階で押さえておきたい論点です。
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例外的に株式譲渡契約書へ印紙が必要となるケース
原則は非課税ですが、契約書の「書き方」次第で印紙税の対象に滑り込むことがあります。実務でよく見るのは、SPAに代金の受領事実を書き込んでしまうケースです。判断のポイントを整理します。
手付金や前払金の受領記載がある場合(第17号文書)
SPAに「譲渡オーナーは譲受企業から手付金〇〇円を受領した」と書くと、その文書は印紙税法上の第17号文書(金銭の受取書)に該当します。すると受領金額に応じた印紙が必要になります。中小M&Aでは手付金の慣行は薄いものの、デポジット型の支払を導入する案件では注意が必要です。受領事実は別途領収書を発行する形に分け、SPA本文には書き込まないのが定石です。
契約書が代金受取書を兼ねる場合
「本契約書の調印をもって譲渡代金の受領を確認する」といった条項を入れると、SPAが受取書としての性質を帯び、第17号文書扱いになる余地があります。クロージング日当日に資金決済とSPA調印を同時に行うとき、こうした書き方をしてしまう失敗が時々見られます。資金移動はSPAと別建てで領収書を出す設計が安全です。
第17号文書に該当する場合の印紙税額
下表に、国税庁の定める受取書(第17号文書)の印紙税額をまとめます。なお、国税庁のタックスアンサーNo.7141でも同じ金額が確認できます。
| 記載された受取金額 | 必要な印紙税額 |
|---|---|
| 5万円未満 | 非課税 |
| 5万円以上100万円以下 | 200円 |
| 100万円超〜200万円以下 | 400円 |
| 200万円超〜300万円以下 | 600円 |
| 300万円超〜500万円以下 | 1,000円 |
| 500万円超〜1,000万円以下 | 2,000円 |
| 1,000万円超〜2,000万円以下 | 4,000円 |
| 2,000万円超〜3,000万円以下 | 6,000円 |
| 3,000万円超〜5,000万円以下 | 1万円 |
| 5,000万円超〜1億円以下 | 2万円 |
| 1億円超〜2億円以下 | 4万円 |
| 2億円超〜3億円以下 | 6万円 |
| 3億円超〜5億円以下 | 10万円 |
| 5億円超〜10億円以下 | 15万円 |
| 10億円超 | 20万円 |
| 受取金額の記載なし | 200円 |
印紙不足は本来税額の3倍の過怠税
もし課税文書に該当するのに印紙を貼り忘れた場合、本来の印紙税に加えて2倍の過怠税が加算され、合計で本来税額の3倍を納付することになります。例えば本来2万円の印紙を貼り忘れたら、合計6万円の負担です。割り印(消印)の押し忘れにも同等のペナルティがあるため、SPAに第17号文書性を持たせない設計のほうが、実務的にも安全です。
M&AクロージングにおけるSPAの位置づけ
会社売却の現場で、SPAは契約書群の中心に位置します。譲渡対価・前提条件・表明保証・補償・誓約事項といった条項が密接に絡み合い、印紙の有無よりはるかに重い論点が並びます。
SPAに盛り込む主な条項
SPAでは、譲渡対象株式の特定、譲渡対価とその支払方法、クロージング日、表明保証、特別補償、誓約事項、競業避止、解除事由などが規定されます。中小企業M&Aでは個人保証の解除や役員退職慰労金の支払を絡める設計も多く、条項間の整合が崩れると後日のトラブルにつながります。
▷関連:株式譲渡契約書(SPA)の注意点|ひな形・作成方法・記載事項
表明保証と補償条項の重要性
SPA本体に印紙はいらないからといって、軽い文書ではありません。譲渡オーナーが事実と異なる表明をした場合、譲渡後数年にわたって損害賠償の対象になり得ます。簿外債務・係争・許認可・労務債務など、譲受企業のデューデリジェンス(DD)で論点になった事項は、表明保証の範囲とその上限・期間まで丁寧に詰めましょう。
クロージング前提条件(CP)の整理
SPA調印からクロージング日までの間に満たすべき条件を、前提条件(CP、Conditions Precedent)として列挙します。譲渡承認決議、許認可移転、主要顧客の同意、個人保証解除の段取り、表明保証の真実性維持などが典型例です。CP未充足のままクロージングを強行すると、後で表明保証違反として補償請求が走るリスクがあります。
株式譲渡の承認と議事録の整備
中小企業の発行株式は、定款で譲渡制限が付されている場合がほとんどです。会社売却の前提として、譲渡承認の手続を会社法に沿って踏む必要があります。
譲渡制限株式の承認機関
譲渡承認の機関は、定款で取締役会または株主総会のいずれかに定められています。取締役会設置会社は取締役会、それ以外は株主総会が原則です。会社売却では、譲渡オーナーが「株式譲渡承認請求書」を会社に提出し、機関決議を経て承認通知が発出されるという順序を踏みます。
▷関連:株式譲渡承認請求書の書き方|雛形・サンプル・流れ・注意点とは
取締役会・株主総会の議事録作成
譲渡承認の議事録は、商業登記の添付書類ではないものの、後日の紛争リスクを抑えるうえで欠かせない書類です。日付・出席者・決議内容・反対意見の有無を残しておけば、譲受企業のDDでもスムーズに受け入れられます。
▷関連:株式譲渡の議事録が必要となる場合|注意点・雛形・承認手続の流れ
株主名簿の事前整備
中小企業の支援現場では、株主名簿が長年更新されていない、または存在しないケースに頻繁に遭遇します。クロージング書類の整備以前に、現行の株主が誰であるかを確定する作業が必要です。創業当初の名義株、相続を経た分散、配偶者・子への贈与の履歴などを整理しないと、譲渡承認決議そのものが揺らいでしまいます。
クロージング後の名義書換と登記の取扱い
SPA調印・代金決済が終わったら、株主としての権利が新オーナー(譲受企業)に移ります。書類面では、株主名簿の書換と、会社側の役員交代の整理が中心です。
株主名簿の書換と記載事項証明書
譲渡オーナーと譲受企業が連署で「株主名簿書換請求書」を会社に提出し、会社が株主名簿を書き換えます。譲受企業は、必要に応じて「株主名簿記載事項証明書」を会社から発行してもらい、自社が新株主であることの裏付け書類として保管します。
株式譲渡では商業登記・定款変更は不要
株式譲渡そのものに伴う商業登記は、原則として発生しません。株主は登記事項ではないからです。同様に、定款変更も不要です。譲受企業が変わっても、定款は会社のものですから、そのまま引き継がれます。
▷関連:株式譲渡による登記申請・定款変更は不要?M&A時の役員変更に注意
役員変更登記が必要になるケース
クロージング日に旧オーナーが代表取締役を退任し、譲受企業から新代表を送り込む——中小M&Aでは典型的なシナリオです。この場合の役員変更登記は、商業登記法に基づき2週間以内の申請が必要です。司法書士への依頼を含め、SPA調印前から準備しておくと当日が円滑に進みます。
支援現場で見るSPA印紙・必要書類の実務
当社が中小企業のM&Aクロージングに同席するなかで、印紙税と必要書類の周辺で繰り返し起きるミスがあります。理屈は単純でも、実務では細部が崩れがちです。
SPAに収入印紙を貼ってしまった場合の処理
原則不要なのに印紙を貼ってしまった、というご相談は意外と多くいただきます。誤って貼った印紙は、所轄の税務署に「印紙税過誤納確認申請書」を提出すれば還付の対象になり得ます。割り印を押した後でも、原則として還付請求は可能です。SPAの原本を持参して相談する流れになります。
受領証・領収書をSPAと分離する設計
譲渡対価の決済タイミングが調印と同日になる場合、「SPAは契約書、領収書は別文書」と明確に分ける設計を当社では推奨しています。領収書には金額に応じた印紙(5万円以上で200円から)が必要ですが、SPAそのものは非課税のままに保てます。
中小M&Aクロージング書類の独自チェックリスト
当社が実際に使っている、譲渡オーナー側のクロージング前チェック項目を、概要として下表にまとめます。
| 確認項目 | 確認内容 |
|---|---|
| 株主名簿 | クロージング日時点で最新化されているか |
| 譲渡承認 | 取締役会または株主総会の議事録が整っているか |
| SPA | 第17号文書性を帯びる文言が混入していないか |
| 領収書 | SPAとは別建てで作成しているか |
| 個人保証 | 金融機関との解除合意・段取りが取れているか |
| 役員変更登記 | 司法書士に2週間以内の申請を依頼済みか |
| 株式譲渡承認請求書 | 会社宛で正式に発出済みか |
株主が分散している場合の委任状
創業者の配偶者・子・古参従業員に株式が分散している会社では、譲渡オーナーが各株主から委任状を取り付け、まとめて譲受企業に売却する設計が一般的です。少数株主との利害調整は、SPA調印の数か月前から始めるのが安全です。買い集めの価格設定によっては、低額譲渡として「みなし贈与」課税の論点が出るため、税務面の事前確認が欠かせません。
会社売却の税金とSPAの全体関係
SPAに印紙が要らないからといって、税金がかからないわけではありません。譲渡オーナー個人に対しては、譲渡所得として申告分離課税の20.315%(所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%)が課されます。手取りをどう最大化するかは、SPAの設計と一体で考える論点です。
▷関連:株式譲渡の税金|非上場株式の事業承継・M&Aでの計算方法と節税
SPA調印前に整えておきたい税務論点
役員退職慰労金の支給を絡めると、譲渡対価のうち一部を退職金として受け取ることで、税負担を抑えられる場合があります。退職金は分離課税で控除も手厚いためです。ただし、損金算入額の妥当性や、株価への影響、譲受企業との支払フローなど、SPAと連動した設計が必要です。クロージング後では遅いため、基本合意の前後で方針を固めるのが定石です。
株式譲渡の手続全体の流れ
印紙税は、株式譲渡のごく一部の論点に過ぎません。会社売却を考え始めたら、まずは全体の流れを把握し、それぞれの段階で必要な書類とリスクを掴むことが先決です。
▷関連:株式譲渡とは|中小企業の目的・メリットとデメリット・従業員の処遇
株式譲渡契約書の印紙税に関するFAQ
会社売却の現場で実際にいただく質問のうち、印紙税まわりで頻度の高いものをまとめます。教科書的な答えだけでなく、現場で当社が判断する際のポイントも添えます。
原則として還付対象です。所轄税務署に「印紙税過誤納確認申請書」を提出し、SPAの原本を呈示する流れです。割り印済みでも還付請求は可能ですが、税務署の確認を要するため数週間かかります。現場ではまず貼らない設計を優先します。
印紙税は物理的な文書に課される税のため、電子契約には印紙税の概念が及びません。代金の受取記載があっても電子契約なら課税は発生しません。ただし契約の有効性・証拠性は別問題で、タイムスタンプ・電子署名の整備が前提になります。
事業譲渡契約書は印紙税法上の第1号文書または第7号文書に該当し、契約金額に応じた印紙が必要です。例えば1億円超〜5億円以下の事業譲渡契約書は6万円の印紙です。同じM&Aでも、株式譲渡と事業譲渡で印紙の扱いは大きく異なります。
覚書の中身次第です。代金受領を確認する文言が入れば第17号文書の論点が再び浮上します。SPAと整合する補足合意であって、新たな金銭授受の確認を含まないものなら、印紙は不要です。条項の起案前に弁護士・税理士に確認するのが安全です。
SPAに書き込むのではなく、別途領収書を発行する形に分けるのが現場での標準対応です。領収書には金額に応じた印紙を貼り、SPA本文には「手付金は別途領収書を発行する」とだけ書きます。これでSPA本体は非課税のまま維持できます。
株式譲渡契約書の印紙税と必要書類のまとめ
会社売却で交わすSPAに収入印紙は原則不要です。1989年4月以降、株式譲渡契約書は印紙税の課税文書から外れています。例外は、契約書が代金の受取書を兼ねるケース。受領記載をSPAに書き込まず、領収書と分けて起案するのが定石です。印紙の論点は些細に見えて、過怠税や税務調査での指摘につながるため、譲渡オーナーが安心してクロージングに臨むには、最初の設計から専門家を関与させたいところです。
当社みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社として、SPA起案からクロージング書類の整備、税務手続まで一貫して支援しています。中小企業M&Aの実績経験が豊富なコンサルタントが、譲渡オーナーの不安にお応えします。会社売却をお考えなら、ぜひ初回相談からお問い合わせください。
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著者

- 事業法人第三部長/M&A担当ディレクター
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宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修:みつき税理士法人
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