デューデリジェンス報告書とは|記載項目と売り手が備える対応

デューデリジェンス報告書(DDレポート)は、譲受企業が対象会社の実態をまとめた調査結果の文書です。作成目的と記載項目、財務DD報告書の読み解き方、譲渡価格や表明保証への反映までを整理しました。譲渡オーナーが事前に潰しておける指摘事項と、報告書で不利にならないための備え方も解説します。

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デューデリジェンス報告書とは

M&Aの終盤で「報告書に何を書かれるのか分からない」という不安を口にされるオーナーは、意外と多いものです。デューデリジェンス報告書(DD報告書、DDレポート)は、譲受企業が依頼した専門家が対象会社を調べた結果をまとめた文書を指します。譲渡オーナーが直接受け取ることは基本的にありません。それでも、この文書が譲渡価格と契約条件を動かします。

報告書が作成される目的

DD報告書の目的は、下表の3点に集約されます。M&Aにおけるデューデリジェンスの全体像を押さえたうえで読むと、報告書の位置づけが掴みやすくなります。

目的内容
対象会社の実態把握開示資料が正確か、開示されていないリスクがないかを検証し、会社の姿を客観的な形に落とし込む
譲受価格と条件の根拠づくり検出された事項を金額換算し、価格調整や契約条項の交渉材料とする
譲受後の統合(PMI)への引き継ぎ調査で判明した課題を、統合後の経営計画や改善項目に落とし込む

報告書は誰が作り、誰が読むのか

作成するのは、譲受企業から依頼を受けた会計士・税理士・弁護士などの外部専門家です。読者は譲受企業の経営陣と、案件によっては融資を検討する金融機関。

調査の進め方そのものはDDの進め方と準備の流れで整理していますので、報告書が出てくるまでの工程と併せて確認してください。

譲渡オーナーが報告書を意識すべき理由

報告書は譲渡オーナーの手元には届きません。ところが、そこに書かれた一文が「価格を200万円下げたい」「この点は表明保証に入れてほしい」という具体的な要求になって返ってきます。

つまり、報告書に何が書かれやすいかを知ることは、交渉の準備そのもの。受け身で待つ必要はありません。

デューデリジェンス報告書の種類

ひとくちにDD報告書といっても、詳細度と分野で複数のパターンに分かれます。案件の規模や予算によって、どこまで作り込むかは変わってきます。

概要報告と詳細報告

報告書は調査の段階と依頼者のニーズによって、粒度が変わります。

概要報告(速報)

初期段階や論点を絞った調査で作られる簡易版です。主要な課題の輪郭だけを示し、意思決定を急ぐ場面で使われます。

詳細報告

調査範囲の全体をカバーした正式版。最終契約の条件詰めと、譲受後の統合計画に必要な情報がここに揃います。どこまでの範囲を調べるかは調査範囲の絞り込みの段階で決まるため、報告書の厚みは案件ごとに大きく違います。

分野別報告書

財務、法務、事業、税務、人事、ITなど、分野ごとに別々の報告書が出てくるのが一般的です。中小企業のM&Aでは、財務と法務の2本、あるいは財務1本というケースも珍しくありません。

財務DD報告書

収益性、資産・負債の実態、キャッシュフローを扱う中心的な報告書。財務デューデリジェンスの目的と調査項目を押さえておくと、指摘の出どころが読めます。

法務DD報告書

契約、訴訟、許認可、知的財産のリスクを評価するもの。株主名簿の不備や名義株といった論点も、法務DDの調査項目としてここに現れます。

事業DD報告書

市場環境、競合、事業計画の妥当性を扱います。数字ではなく事業の中身を見る調査で、事業DDの進め方によって深さが変わります。

税務DD報告書

過去の申告内容と、組織再編に伴う課税リスクを検証。役員報酬や生命保険の処理など、中小企業で論点になりやすい項目が並びます。実務の詳細は税務DDの実務と費用で扱っています。

デューデリジェンス報告書の構成と記載項目

報告書の骨格は、分野が違ってもおおむね共通しています。ここでは財務DD報告書を例に、記載項目を追っていきます。

財務デューデリジェンス報告書の表紙イメージ(みつきコンサルティング作成)

財務DD報告書の一般的な構成

依頼内容によって差はあるものの、典型的な構成は次の4部です。

エグゼクティブサマリー

冒頭に置かれる要約。譲受企業の経営陣は、実務上ここしか読まないこともあります。価格調整の候補と、契約に反映すべき事項がここに集約されます。

調査範囲

調査対象とした期間、領域、そして調査から外した範囲を明記する部分です。過去3期から5期分の決算書を対象とした、といった前提条件が書かれます。ここを読めば、報告書の結論がどこまでの情報に基づくかが分かります。

発見事項と分析

調査で判明した事実と問題点を並べるセクション。一時的な損益要因の有無、会計処理の適否、事業計画の前提の妥当性などが扱われます。シナジーや改善余地といった前向きな材料が書かれることも。

リスク評価と推奨事項

発見事項が取引に与える影響を評価し、対応策を提示する部分です。価格の調整、条項の追加、案件そのものの見送り。結論として示される選択肢はこの3つに整理されます。中小企業特有の論点は中小企業M&Aの財務DDで詳しく触れています。

財務DD報告書で必ず見られる論点

報告書の中身は分厚くても、譲受企業が本当に見ているのは限られた項目です。下表は、財務DD報告書の主要な調査ポイントを整理したものです。

調査ポイント報告書で検証される内容
実態純資産貸借対照表の資産・負債を時価や回収可能性で修正し、真の純資産額を算出。簿外負債や滞留在庫の評価減を洗い出す
正常収益力一時的・非経常的な損益を除外し、継続的な事業から生じる本来の利益水準を評価
キャッシュフロー運転資金の変動要因と設備投資の水準から、将来の資金創出力を予測
運転資本売掛債権・棚卸資産・買掛債務の回転期間を分析し、季節変動や必要資金の水準を把握
有利子負債借入金・社債・リース債務の残高と契約条件を確認。役員や関係会社からの借入は個別に扱われる
引当金賞与引当金・退職給付引当金が適切に計上されているかを検証
簿外債務と偶発債務未払残業代、係争、保証債務など、貸借対照表に載っていない負担を特定

報告書に現れるリスクシグナル

報告書の文面には、譲受企業が警戒する典型的なシグナルがあります。金額に換算されたうえで、価格や条項に跳ね返るものばかりです。

リスクシグナル報告書での記載交渉への影響
会計処理の問題売上計上時期の恣意性、簿外債務、過度な節税処理実態純資産の減額。信頼性そのものへの疑問につながる
収益の不安定さ一時的要因に支えられた利益、特定取引先への依存正常収益力が下方修正され、価格の前提が動く
資産の実態滞留在庫、減損の兆候、稼働していない設備資産の評価減として価格調整の対象になる
負債の網羅性未払残業代、係争、第三者への保証債務金額換算のうえ価格から控除、または補償条項の対象
関連当事者取引役員個人や親族会社との不透明な取引条件取引解消を前提とした収益力の再計算が入る

譲受企業がどこに目を光らせているかは、買い手が隠れたリスクを見抜く質問から逆算すると見えてきます。

報告書がM&A交渉に与える影響

報告書が出た後の展開は、ある程度パターン化されています。譲渡オーナーの側から見れば、ここが最も神経を使う局面。

譲渡価格の調整

簿外負債や資産の評価減が検出されると、それを根拠とした減額交渉が入ります。譲受後に発生が見込まれる修繕費や資産除去債務も材料になりやすい項目。

一方で、統合費用やシステム改修費といった譲受企業側の都合による支出は、減額根拠としては通りにくいのが実務感覚です。報告書の内容が評価額にどう跳ね返るかは、DD結果と企業価値評価の関係で整理しています。

表明保証と補償条項への反映

報告書で「確認できなかった」「限定的な調査にとどまった」と書かれた領域は、そのまま表明保証の対象として最終契約に持ち込まれます。調査で潰しきれなかった不確実性を、契約上のリスク分担に置き換えるわけです。

譲渡オーナーにとっては、譲渡後も一定期間責任が残ることを意味します。条項の設計については表明保証条項の活用法を参照してください。

行政が示すDDの位置づけ

中小企業庁は中小M&Aガイドライン(第3版)において、DDをリスク検出のための重要な工程と位置づけつつ、案件の特徴に応じて過剰にならない適切な調査とすべきことを示しています。同ガイドラインには、最終契約におけるリスク事項の説明書サンプルも参考資料として収録されています。

詳細は中小企業庁「中小M&Aガイドライン」で公開されています。年商数億円規模の会社に上場企業並みの調査を求められた場合、この考え方は交渉の拠りどころになります。

報告書の指摘を減らすために売り手ができる備え

報告書は譲受企業のものです。それでも、書かれる内容の相当部分は、譲渡オーナーが事前に手を打てる範囲にあります。

事前に潰しておける論点チェックリスト

支援現場で繰り返し指摘される項目を、譲渡オーナー向けに整理しました。DD開始の3か月から6か月前に着手できれば、報告書の記載はかなり変わります。

確認項目放置した場合に報告書へ記載される内容
労働時間の管理記録タイムカードと給与計算の不一致から、未払残業代の潜在債務として金額換算される
在庫の実地棚卸長期滞留品や不良品が簿価のまま残り、評価減として純資産から控除される
役員・親族との取引役員貸付金、社宅、不透明な外注が関連当事者取引として抽出される
株主名簿と株券の所在名義株や相続未了株式が、株式の帰属に関する重大な指摘として扱われる
契約書の保管状況主要取引先との基本契約書が見当たらず、取引継続の不確実性として記載される
保証・担保の状況第三者への保証や代表者個人の連帯保証が偶発債務として洗い出される
許認可の有効期限更新漏れや名義の不一致が、事業継続リスクとして指摘される

現場でよくある展開

よくある相談として挙がるのが、労務まわりの指摘です。年商10億円台の製造業で、固定残業代を導入していたものの実態の労働時間と乖離していた、というケース。

報告書には潜在的な未払賃金として金額が明記され、その分の減額と、労務に関する表明保証の追加を求められました。もし事前に社会保険労務士を入れて運用を見直していれば、指摘の金額はかなり圧縮できたはずです。

セルサイドDDとプレDDという選択肢

譲渡オーナー側が先に自社を調べておく方法もあります。売り手主導で行う事前調査を実施すれば、譲受企業の報告書に出る前に論点を把握し、説明の準備ができます。

初期段階で範囲を絞って行う簡易的な事前調査も、費用を抑えたい会社には現実的な選択。資料の揃え方は売り手側のDD準備にまとめています。

報告書の指摘は統合後にも引き継がれる

案外見落とされがちなのが、報告書のその後です。指摘事項は譲受後の改善課題としてそのまま引き継がれ、残る従業員が対応することになります。

譲渡オーナーが去った後の職場に負担を残さないという意味でも、事前の整備には価値があります。この流れはDDとPMIのつながりで扱っています。

デューデリジェンス報告書に関するFAQ

DD報告書について、譲渡オーナーからよくいただく質問をまとめました。

Q:売り手はDD報告書を見せてもらえますか

原則として開示されません。買い手が費用を負担して作らせた文書であり、社外秘の判断材料が含まれるためです。ただし、価格の減額を求められた場面では、その根拠となる指摘事項の概要を口頭または資料で説明してもらうのが通例。現場では、根拠の提示なしに減額だけ求められた場合、必ず内訳の説明を求めます。

Q:報告書の指摘に反論はできますか

できます。前提となる資料の読み違いや、一時的な要因を恒常的なものと誤認した記載は実際に起こります。反論には、経緯を説明できる資料が要ります。会計処理の意図や取引の背景を、数字ではなく文書で示せるかどうかが分かれ目です。

Q:報告書で問題が見つかると買収は中止になりますか

ほとんどのケースでは中止になりません。価格の調整、表明保証や補償条項の追加、クロージング前の是正といった手当てで進みます。中止に至るのは、簿価の信頼性そのものが崩れた場合や、事業継続に関わる許認可の欠陥が判明した場合など。重大な問題が発覚したときの対応も併せてご確認ください。

Q:DD報告書の作成費用は売り手も負担しますか

買い手側の調査費用は買い手が負担するのが原則です。売り手が費用を負担するのは、自ら実施するセルサイドDDや事前の簡易調査を行う場合。相場の考え方はDD費用の内訳と負担者で整理しています。

Q:報告書が出るまでどのくらいかかりますか

中小企業のM&Aでは、資料提出から報告書の提出まで3週間から6週間程度が目安になります。調査範囲と資料の揃い具合次第で前後します。資料の提出が遅れると、その分だけ最終契約の締結時期も後ろにずれるため、依頼リストへの対応は早めに動くのが得策です。

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デューデリジェンス報告書のまとめ

DD報告書は譲受企業の意思決定文書であり、そこに書かれた指摘が譲渡価格と契約条件を左右します。譲渡オーナーの手元には届かないものの、記載されやすい論点は事前に把握でき、労務・在庫・株主名簿といった項目は準備次第で指摘を減らせます。何を書かれるか分からない、という不安は、備えによって相当程度は解消できるものです。

みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社として、中小企業の会社売却を数多く支援してまいりました。財務・税務に精通した専門家が、DD対応の準備段階から譲渡オーナーの立場で伴走します。報告書の指摘に備えた事前整備をお考えでしたら、お気軽にご相談ください。

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著者

綿引 征典
綿引 征典
国内大手証券会社にて顧客のお金や人生に関わる財産運用を助言。相続・事業承継専門の会計事務所を経て、当社では法人顧客の税務対策・申告、M&Aに係る財務・税務のアドバイザリーに従事。税理士
監修者 神門 剛 代表取締役 / 公認会計士・税理士

みつきコンサルティングは、中小企業の会社売却・事業承継に特化した譲渡企業様に完全成功報酬制のM&A仲介会社です。売り手と買い手企業の最適なマッチングを、経験豊富なM&Aコンサルタントが初期相談から成約まで一貫してフルサポートします。

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