- 本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございます。まず、御社の歴史と、経営者としてのこれまでの経験についてお聞かせください。
はい、ありがとうございます。当社は私の父が1960年代に創業したタクシー会社です。また、タクシー事業の他にレストラン事業を行っています。私自身は大学卒業後すぐに家業に入り、約40年間この会社の経営に携わってきました。タクシー業界は規制が多く、また景気の影響を受けやすい業界です。バブル期には好調でしたが、その後の長期不況や規制緩和により、経営環境は厳しさを増してきました。
- 長年経営されてきた中で、特に印象に残っている出来事はありますか?
そうですね、やはり2000年代初頭の規制緩和が大きな転換点でした。それまで新規参入が難しかった業界に、突然多くの新規事業者が参入してきました。当初は混乱もありましたが、結果的にサービス向上につながった面もあります。また、東日本大震災も忘れられません。一時的に需要が大きく落ち込みましたが、その後の復興需要で業績がある程度回復したことは今でも印象に残っています。
- なるほど。そのような経験を経て、今回タクシー事業の事業譲渡を決断されるに至った経緯をお聞かせください。
はい。実は当社は以前から、タクシー事業の不振が原因で赤字体質が続いており、メイン行を中心に金融機関とみつきコンサルティングさんとともに経営改善に取り組んでいましたが、一進一退といった感じでなかなか好転しませんでした。そんな中、詳細はお話しできないのですが、年金機構から社会保険料に係る未納を指摘され、1億円以上の追徴を求められてしまい資金繰りが急激に悪化しました。
結果的にこの追徴は年金機構との交渉を経てある程度減額されたのですが、元々、金融機関への返済は約定通りにはお返しはできていなかったところに降ってわいたような話でしたので、正直、夜も眠れないほど悩みました。そこで、グループ会社であるN社に資金援助を求めたところ、N社の副会長から直接タクシー事業の事業譲渡のご提案をいただきました。
- その時の心境はいかがでしたか?
複雑でした。長年守ってきた事業を手放すことへの抵抗感は大きかったですね。従業員の雇用や取引先との関係など、様々な不安がありました。特に、従業員たちへの申し訳なさは言葉では言い表せません。彼らは私の父の代から一緒に会社を支えてくれた仲間です。ただ、このままでは全員の雇用を守れなくなる。そう考えると、苦渋の決断ではありましたが、タクシー事業の事業譲渡を検討せざるを得ませんでした。
- N社からの提案内容について、どのように評価されましたか?
詳細については申し上げられないのですが、N社からは、タクシー営業権について1台あたりいくら、不動産がいくらという試算をしていただきました。正直なところ、タクシー営業権の評価額が非常に高額で驚きました。業界の相場からすると大変いい条件だと感じました。また、N社とは日頃からお付き合いのある会社ですので、信頼関係もあり、前向きに検討することにしました。
- その時点で、みつきコンサルティングとはどのようなお付き合いだったのでしょうか?
みつきコンサルティングとは、経営改善のための事業計画の作成と四半期に一度の金融機関報告のためのモニタリング、報告のための資料作成をお願いしていました。月額いくらのコンサルフィーでのお付き合いです。実は、2年ほど前からN社からタクシー事業の事業譲渡の打診を受けていたのですが、みつきコンサルティングさんとも相談の上、私自身が承諾せずにいました。今思えば、もう少し早く決断していれば、より良い条件で進められたかもしれません。これは大きな反省点です。
- みつきコンサルティングに相談された際、どのようなアドバイスをいただきましたか?
社会保険料の追徴により資金繰りが厳しくなったことはみつきコンサルティングとも共有していました、その上で、主に2点のアドバイスをいただきました。1つ目は、手元資金をできるだけ多く残すべきだということです。タクシー事業を売却したとしてもレストラン事業は残ります。今後、今以上に新規借入が難しくなる可能性があるため、レストラン事業の継続を担保するにあたり、潤沢な手元資金の確保が重要だと指摘されました。2つ目は、N社とのさらなる条件交渉の可能性についてです。特に車両の営業権について、より好条件を引き出せる可能性があるのではないかと提案されました。
- その提案を受けて、どのように対応されましたか?
正直なところ、N社との関係を考えると、これ以上の条件交渉には躊躇がありました。特に、実務を担当している常務(私の息子です)は、これ以上の交渉に懐疑的でした。彼は「社長、これ以上欲張ると話がこじれるかもしれない」と心配していました。しかし、みつきコンサルティングの提案には一理あると感じ、とりあえず交渉を任せてみることにしました。
- N社との交渉は、どのように進められましたか?
みつきコンサルティングが間に入って交渉を進めてくださいました。ただ、N社の内部でもすでにかなり条件が固まっていたようで、大きな変更は難しい状況でした。結果的に、当初の条件からの大幅な改善には至りませんでした。しかし、この過程で、N社の真剣さと誠意を感じることができました。彼らが本当に当社の従業員や事業を大切にしてくれるという確信が持てたのは、大きな収穫でした。
- 金融機関との調整はスムーズに進みましたか?
金融機関との調整は、予想以上に難航しました。特にメインバンクとの交渉が大変でした。当初は総論賛成の姿勢でしたが、具体的な金額を提示した際に全ての借入を返済しきれないことが分かり、様々な要求が出てきました。例えば、多額の手元資金の確保について再考を求められたり、後継者である常務に追加の個人保証を求められたりしました。正直、「ここまでか」と絶望的な気分になりました。
- その難しい状況をどのように乗り越えられたのでしょうか?
ここでもみつきコンサルティングの力を借りました。彼らは金融庁のガイドラインを示唆しながら、追加保証人や手元資金の減額は受け入れられないと強く主張してくれました。また、本件が金融機関の了承事項ではないことも重ねて示唆してくれました。結果的に、メインバンクも我々の提案をほぼ受け入れてくれることになりました。この時、みつきコンサルティングの交渉力に本当に感謝しました。
- 他の金融機関との調整はいかがでしたか?
他の金融機関については、メインバンクの了承を得た後は比較的スムーズに進みました。「メインバンクが受け入れるなら」という形で、ほぼ同様の条件で了承を得ることができました。ここで学んだのは、メインバンクの重要性です。メインバンクを味方につければ、他の金融機関も追随してくれるんですね。
- 契約書の作成や調印の過程で、何か課題はありましたか?
契約書の作成はN社側が行ったため、当初は我々にとって不利な内容が散見されました。しかし、みつきコンサルティングが細かくチェックし、修正案を提示してくれました。当社のアドバイザーとして少しでも我々に有利になるような修正です。ただ、私としては大幅な条件交渉は避けたかったので、大きな論点はみつきコンサルティングの指摘通りにお願いし、細かい部分ではN社の意向を受け入れる形になりました。
- 決済に向けての準備や当日の状況はいかがでしたか?
予想以上に大変でした。
実は、決済1カ月前に社会保険料の追徴金の一部を支払う必要があり、つなぎ資金を確保しなければなりませんでした。まずはメインバンクに相談したところ、そういったつなぎ資金の融資は行っていないとの理由で断られてしまい途方に暮れていました。そんな中みつきコンサルティングの担当者から、事例は多くないもののM&Aにおいて前金をいただくことはあり得るとのお話を伺い交渉したところ、最終的にはN社から譲渡対価の一部を前金として調達することで乗り切りました。決済当日は、銀行の決済システムの問題や、宅建業者による不動産売買に係る必要書類の不備など、いくつかのハプニングがありましたが、何とか無事に完了することができました。この日は、喜びと寂しさが入り混じる複雑な心境でした。
- タクシー事業の事業譲渡を経験されて、どのような感想をお持ちですか?
正直、想像以上に大変でした。特に金融機関との調整や契約書の細かい条項の確認など、専門的な知識が必要な場面が多くありました。みつきコンサルティングのサポートがなければ、ここまでスムーズに進められなかったと思います。彼らの専門知識と交渉力には本当に助けられました。また、譲渡交渉の過程を通じて、経営者として新たな学びも多くありました。
- どういった点で特に印象に残っている出来事や学びはありましたか?
金融機関との交渉で手元資金の確保と借入利息の引き下げを実現できたことは大きな成果だったと思います。結果的に、どんなにレストラン事業が不調であったとしても少なくとも10年程度はキャッシュが枯渇しない現預金を確保でき、借入利息も平均1%以上引き下げることができました。これは、残されたレストラン事業の継続にとって非常に重要なことです。
また、事業譲渡のプロセスを通じて交渉の醍醐味を学んだと思っています。状況により、敢えてハイボールを投げたり先方の意向を丸のみしたりということを使い分け、トータルで自社の利益を最大化していったのは傍から見ていて非常に参考になりました。
- タクシー業界の現状と今後の展望について、どのようにお考えですか?
タクシー業界は今、大きな転換期にあると感じています。少子高齢化や人口減少、そして最近では新型コロナウイルスの影響もあり、従来のビジネスモデルでは立ち行かなくなっています。一方で、配車アプリの普及やライドシェアの広がりなど、新たな可能性も生まれています。今後は、こうしたテクノロジーを活用しながら、高齢者や障がい者の方々の移動支援など、より社会的な役割を担っていくと思います。N社は業界大手として率先してこうした変化に対応していくのだろうと信じています。
- 本件事業譲渡によるN社のメリットはどのようなものになるのでしょうか
まず、スケールメリットを活かした経費削減が期待できます。例えば、燃料や車両の一括購入によるコスト削減、保険料の見直しなどです。また、N社の持つ先進的な配車システムやAIを活用した需要予測技術を導入することで、稼働率の向上も見込めます。さらに、N社のブランド力を活かした新規顧客の獲得も可能かもしれません。
当社単独ではできなかったサービスを提供することで赤字体質であった当社タクシー事業を速やかに黒字化できると思います。
- タクシー事業の事業譲渡後の心境や新たな生活について、お聞かせください。
正直なところ、複雑な心境です。長年経営してきた会社の主要事業を手放すことは、想像以上に寂しいものでした。特に、従業員たちとの別れは辛かったですね。ただ、彼らの雇用が守られ、より大きな会社の一員として新たなステージに立つことができ、従業員たちにも新しい可能性が開けたと思うと、ある種の安堵感もあります。
私自身は、レストラン事業の経営に専念することになりました。これまでタクシー事業にかまけて時間を取られがちだったので、今後はレストラン事業の拡大や新メニューの開発など、新たな挑戦ができることを楽しみにしています。
一方で、経営者としての責任の重さも感じています。残された従業員たちの生活を守り、事業を成長させていく使命があります。タクシー事業の事業譲渡を通じて得た資金といままでの知見を活かし、お客様にとってより良いお店にしていこうと考えています。
個人的には、これまで忙しさにかまけて疎かにしていた家族との時間も大切にしていきたいですね。孫たちとの時間を過ごすのが、最近の楽しみになっています。
- 最後に、M&Aを検討している他の経営者へのアドバイスがあればお聞かせください。
はい、いくつかお伝えしたいことがあります。
まず、早め早めの対応が重要だと感じました。私の場合は、資金繰りが逼迫してからの決断だったため、選択肢が限られてしまいました。もう少し早く決断していれば、より良い条件で進められたかもしれません。経営状況が悪化する前に、M&Aを含めた様々な選択肢を検討することをお勧めします。
次に、専門家のサポートを得ることの重要性です。M&Aは非常に複雑で専門的な知識が必要です。私たちの場合、みつきコンサルティングのサポートがなければ、ここまでスムーズに進められなかったと思います。信頼できるアドバイザーを見つけることが、成功の鍵だと思います。
また、感情的にならず、冷静に判断することも大切です。長年経営してきた会社を手放すのは辛いものですが、従業員の雇用や会社の存続を第一に考えることが重要だと今では思っています。私も最初は抵抗がありましたが、結果的にはこの決断が正しかったと感じています。
最後に、従業員とのコミュニケーションを大切にしてください。M&Aは従業員にとっても初めての経験で、不安に思う方もたくさんいらっしゃいます。私たちは、しっかり説明できるようになった段階で従業員に全ての状況を説明し、彼らの質問がなくなるまで答えました。結果として、多くの従業員が新体制での勤務を選択してくれました。
M&Aは確かに大変ですが、適切に進めれば会社と従業員の未来を切り開く素晴らしい選択肢になり得ます。私の経験が、少しでも皆さんのお役に立てれば幸いです。